危険を背負って
シルヴィは、倒れ込んだソフィアさんを抱えあげると、ひょいっと自分の背中に背負った
「シルヴィ…?」
ソフィアさんを、連れていくつもり…?
ソフィアさんは、人間達を殺そうとしてるのに。
そんなドラゴンを背中に乗せて、怖くないんだろうか。
ソフィアさんは今はまだ気を失っているけれど、いつ目を覚ますかはわからない。
もし背中から襲われでもしたら…。
流石のシルヴィでもひとたまりもないだろう。
僕の心配そうな声を聞いて、シルヴィはにっこりと笑った。
「大丈夫よ。ソフィアさんは、気が立っていただけで悪いドラゴンじゃないと思うの。ここに放置してたらあのバケモノたちに襲われちゃうかもしれないでしょ?」
そうだけど…でも、シルヴィをあまり危険な目に合わせたくない。
まぁ、こんな所にいる時点で、そんなのは無理な話なんだけど…。
「シルヴィ、僕がソフィアさんを運ぶよ」
僕の言葉に、シルヴィは驚いたように目を見開く。
「…置いていけとは言わないのね」
「シルヴィが連れていきたいと思うなら、連れていけばいいんじゃないかな…」
シルヴィは、僕の顔を見て可笑しそうに笑う。
そして、
「ありがとう」
と僕に言いながら、ソフィアさんの体を僕に預けた。
僕はそれを背負い、そしてエリンさんとヴィッタさんのほうに視線を向ける。
「じゃあ、行きましょうか…」
そういった時、ヴィッタさんがいつもとは違う、少し険しい顔をしていることに気がついた。
「ヴィッタさん…?」
「……その選択が、自分の首を絞めることにならないといいけどね」
ヴィッタさんは僕の視線に気づき、いつもと同じような緊張感のあまり無い、にこやかな笑顔でそう言い放った。
相変わらず、表情と発言があっていない人だ…。
そんな風に反対されるだろうということはシルヴィもわかっていたみたいで、少し複雑そうな表情をしている。
「…」
確かに、ソフィアさんを…実質敵であるドラゴンを連れて歩くのは、リスクが高い。
おまけに今自分たちはこの不慣れな場所に置かれている。
確実に自分で自分の首を締めることになるだろう。
…だけど……。
「楽をして後悔するよりは、少しくらい首を絞めて、緊張感を持っていた方が危険も少なくなると思いませんか…?」
僕の周りにいたみんなは、呆気を取られたように僕を見つめた。
…そんなにおかしなこと言ったかな…?
あ…というか、そうか…。
僕はそんな偉そうな事言っていい立場じゃないよね…。
それで皆驚いてるのか…。
その時、ヴィッタさんがいつもの何を考えているかわからないような笑顔ではなく、心の底からの笑顔を僕に向けた。
「まぁ、ちょっと無茶苦茶な言い分だけど、自分で首を絞める覚悟があるならいいんじゃないかな。私もちょっとくらいなら協力してあげられるだろうし」
「確かに、ジルくんの言う通りかもですね。ソフィアさんをここに置き去りにして殺されてしまったり、神様に操られてしまったりしたら後悔しそうです」
「あぁ、あのゲス野郎の事だから、いい人形が転がってると思って即行で操ろうとするだろうね」
「え…あ…あれ…?」
二人も、一瞬の間があったから反対なのかと思えば、ソフィアさんを連れていくのに結構賛成派のようだ。
「なんで言った本人が驚いているんだい?」
「あ、いや。二人共反応に間があったんで、僕みたいなゴミクズナメクジが偉そうなこと言ったから怒ってるのかと思って…」
「ゴミクズ…?」
「ナメクジ…?」
二人して目を点にして僕を見てくるのをやめて欲しい。
しかも復唱されると虚しさが増す。
誰が好き好んでゴミクズナメクジなんて呼ばれたいものか…。
「ジル、最近卑屈さが凄いわよ…」
「ご…ごめん…」
シルヴィにもそんなふうに言われる始末だ。
例え力を取り戻したところで、この性格はなかなか変わるものではないのだ。
出来ることなら僕だって自信を持ちたいよ…。
「とりあえず、お二人がソフィアさんを連れていくことに賛同してくれるのなら、早めにエリシアと合流した方が良さそうですね」
シルヴィはそう顎に手を当てながらいう。
確かに、神に操られてしまう可能性があるのなら、エリシアがそばに居てくれた方がいい。
気絶している生物は、神にとっては格好の獲物だろうしね。
ヴィッタさんは皆の意見が一致したのを確認すると、ちょいちょいとほかの三人に向かって手招きをした。
「この通路はとりあえず置いておいて、エリシアちゃんのいるはずの通路に飛ぶよ。私のそばから離れないように」
ヴィッタさんのその声で、エリンさんとシルヴィと僕は、ヴィッタさんの側による。
すると、僕達の目の前が一瞬真っ暗になった。
そして次の瞬間目の前に飛び込んできた景色は、なぎ倒された大量のバケモノたちの姿と、その中央に立っている赤い鱗に覆われた金色の目のドラゴンだった。
「ついたよ〜」
と、間の抜けたヴィッタさんの声がすぐ横から聞こえる。
圧倒的な力を持った竜王の姿。
そんな言葉が似合うと思ってしまうほどに、エリシアの姿はたくましかった。
エリシアの美しい金色の瞳が、僕の方を向く。
すると、エリシアは一瞬で人間の姿になると、心底嬉しそうな表情で
「ジル!!」
と声を上げて両手をひろげ、僕に迫ってきた。
「ちょ…ちょっとエリシア…待って…!」
そんな僕の必死の訴えが聞こえていたのかいないのか、エリシアは僕に思い切り抱きついてきた。
そして、倒れそうになる僕をぐいっと引っ張っていつもよりも強く抱きしめてくる。
「ちょ…ちょっと…エリシア…し……死ぬ…」
酸欠でソフィアさんを支えている腕から力が抜けてくる。
ソフィアさんの体から僕が手を離してしまった瞬間に、いつの間にか僕の背後に来ていたマアヤさんがソフィアさんの体をきっちりと受け止めてくれた。
そしてマアヤさんはソフィアさんを抱えた状態で僕から離れると、続きをどうぞとでも言うようにぺこりと頭を下げて僕を見捨てていってしまう。
「ほ…ほんとに死ぬ…って……」
息ができなさすぎてぐったりしてきた頃、エリシアはやっと僕のことを離してくれた。
「はぁ…スッキリ!」
…僕はストレス発散の道具かなにかかな…?
「すっごくジルに会いたかったんだよー!! エリシアこのお化けたちを倒すのすっごく頑張ってたんだから!」
エリシアは至近距離でそんなふうにいう。
うん…頑張ってたのはちゃんと伝わってきてるんだけど…。
それと僕が窒息死しそうになるくらいになるまで抱きしめるのとなんの関係が…?
ドラゴンの姿での立ち姿は相当凛々しく、格好よかったのに、人間の姿になればいつもの幼い顔の少女だった。
「ジルくん、二股は良くないな」
「…なんかヴィッタさん、ノリがランディットさんみたいになってません…?」
「あの変態と一緒にしないでほしいな」
「……」
仮にも氷竜一族の族長のことを躊躇もなく変態呼ばわりっていうのもどうなのかと思ってしまう。
流石はヴィッタさんだ。
「んで、どうしてジルとシルヴィがここに居るの〜? もしかして、二つともはずれ?」
エリシアはやっと僕の体から手を離して、首をかしげた。
僕に抱きつく前に疑問に思うことだと思うんだけど…順番が色々間違ってる…。
エリシアの疑問には、シルヴィがすぐに答えた。
「ジルとヴィッタさんが進んで行ってた道ははずれだったみたい。私が進んでいった道は途中で引き返してきたからわからないんだけど…」
「なんで引き返してきちゃったの?」
エリシアは不思議そうに首を傾げる。
そして、マアヤさんが抱えているソフィアさんのことを見て、一瞬エリシアの眼光の鋭さが増した。
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