ど派手な登場
エリンさんは、いつもは見えない綺麗な切れ長な瞳を、前髪をあげることで露出させている。
そして、二本の短剣を構えながら、静かな声で、少し威圧的に言った。
「どういうことです…? ソフィアさん」
そんなエリンさんの問いかけに、ソフィアさんは何も答えない。
そして、一瞬のあと、ソフィアさんの体は光に包まれて、ドラゴンの姿へと変わった。
神々しいほど美しく金色に光る鱗に覆われた光竜の族長は、大きな咆哮をあげる。
ビリビリと肌を刺すようなその方向に、私とエリンさんは後ずさる。
…本気で、私たちを殺すつもりなの…?
ソフィアさん…!
こちらに牙を向くソフィアさんのことを見ても、操られているようには見えない。
冷静な瞳で、こちらを見据えている。
けど、大きな身体中からほとばしる殺気の強さは変わらない。
「…シルヴィちゃん。何が何だか分からないですが、やるですよ…!!」
そんなエリンさんの声に、私はこくりと頷いた。
多くを語らない美しいドラゴンは、こちらに向かって飛びかかってきた。
エリンさんと私はそれを飛び退いてかわすと、エリンさんは前へ飛び出し、私は一歩後ろへさがった
近距離戦闘が得意なエリンさんが前に出て、遠距離からの援護が得意な私が後ろに下がる。
それは定石みたいなところがあるけど、ずっとこのままの二人で攻め続けてもあのソフィアさんには勝てない気がする。
それは、今まで何匹ものドラゴンを見てきた私の勘だった。
エリンさんは両手に短剣を構えて、ソフィアさんの足を狙っていった。
こちらとしては、ソフィアさんを殺すつもりはなくて、ただ大人しくなってもらえればいいのだけど…。
それは単に殺そうとするよりきっと遥かに難しいことだわ…。
相手がこっちを殺そうと向かってきているのに、こっちは急所をつくのも控えなきゃならない。
私はエリンさんを雷魔法で援護しながら、何か打開策はないかを考えた。
殺してはダメ…私たちを殺そうとしている理由も聞きたいし、何よりソフィアさんはドラゴンの一族、光竜の族長だ。
…もし私たちがソフィアさんを殺してしまったら、今度こそドラゴンたちを完全に敵に回して取り返しがつかないことになるかもしれない。
どうしたら…。
その時、防戦一方だったソフィアさんが前足を肩幅に開いてブレスを吐く準備をした。
「エリンさん! 下がって!!」
私のその呼びかけよりも早く、エリンさんはソフィアさんのそばから飛び退いた。
私も射程から外れようと駆け出すが、思っていた以上にソフィアさんのブレスが始まるタイミングは速かった。
ジルやエリシアのように、炎を吐き出したのではない。
ソフィアさんが吐き出したのは、光だった。
吐き出された光は、光線のようになって一直線に飛んでいく。
それを私は間一髪で横に転がって避けた。
次に視線をあげた時、私が一瞬前までいたその場所の地面は一直線にえぐられていた。
あの光に、ここまでの威力が…!?
「シルヴィちゃん、大丈夫です!?」
そんな声とともに、エリンさんがこちらに向かって駆けてくる。
それに私は頷いて、
「大丈夫です!」
と言葉を返した。
なにか手を考えないと、エリンさんも私も、やられるのは時間の問題だわ…。
今ここにエリシアが居てくれたら…止められるかもしれないのに…!
無い物ねだりをしても無意味だということはわかってる。
けど、この状況では誰だってしたくなるというものだ。
私が無事なのがわかると、再びエリンさんはソフィアさんに向かって駆け出した。
エリンさんは、ソフィアさんの右の前足と後ろ足を攻撃してバランスを崩そうとしているみたいで、もう少しで鱗を破ることができそうだった。
けれど次の瞬間、ソフィアさんが頭を上に上げた。
ソフィアさんの体は金色の光に包まれ、エリンさんが苦労してつけた傷がみるみるうちに癒えていった。
光竜には、治癒の能力があるのね…。
「なっ…」
「これじゃキリがないわ…」
私は一旦後ろに下がってきたエリンさんと困り果てて顔を見合わせる。
そんな私たちに、ソフィアさんは大きな図体には似合わず軽やかに、素早く迫ってきたかと思うと、太く長い尻尾を叩きつけてきた。
エリンさんと私は逆の方向に飛び退いてその一撃を避ける。
だが、避けた時に地面に亀裂が走り、私は一瞬足を取られてしまった。
ぐらりと横に傾いてしまった体を立て直した次の瞬間、ソフィアさんの大きな前足が私の目の前に迫っていた。
…!
殴られる…!
でも、ただでやられてなるもんですか…!
私は杖を大きく振り、ソフィアさんに向けて雷の魔法を放つ。
私の雷魔法とソフィアさんの前足が交わる瞬間、その場の空間がぐらりとゆがんだ。
「…え…?」
『……!?』
私の雷魔法はソフィアさんには当たらず、ソフィアさんの前足は私には当たらず、空間の歪みから出てきた何かが全ての攻撃を受けてすっ飛んでいった。
壁に打ち付けられたその何かに目を凝らしてみると、それは人の姿をしていた。
しかも、見覚えがある白髪だ…。
「ま…まさか…」
よろよろと顔をあげて、頭を押さえながらも立ち上がったその人物は、ジルだった。
「ちょ…っと……ヴィッタさん…タイミング…」
「いや、ごめんごめん。あそこまで盛大に飛ぶとは思ってなくて」
「予想くらいできるでしょ…」
そこまで言って、ジルはぱたりとその場に倒れてしまう。
この予想外の乱入の仕方には、私もエリンさんも、そしてソフィアさんも目が点になっていた。
「じ…ジル…! 大丈夫…?」
私はジルに駆け寄っていくと、治癒の魔法をかけた。
倒れていたジルは、視線だけ私に向けると、
「あ…ありがとう…」
と、掠れた声で言った。
「でも、ジルとヴィッタさんはどうしてここに…?」
「…僕たちが進んで行っていた道は、途中で行き止まりだったんだ…。だから、ヴィッタさんの空間魔法で別の通路に居る皆の手助けをしようと動いてたんだけど…。途中でヴィッタさんが僕のことを放り出して…」
「放り出された先が、私の魔法とソフィアさんの前足の間だったってこと…?」
私の言葉に、ジルは力なく頷いた。
「君なら、この子と光竜の一撃を食らっても問題なく動けるだろうと思ってたんだけどなぁ」
「ヴィッタさんは僕のことなんだと思ってるんですか…?」
ジルはそう言いながらもう一度起き上がる。
その目はすでに、ソフィアさんの方に向けられていて、集中しているように見えた。
「まぁまぁ許してよ。愛しのシルヴィちゃんを助けられたんだからいいだろう?」
「そうですね……」
…い…愛し…って……。
ジルはその単語を否定もしない。
いつもなら真っ赤になってこれでもかというくらいに首を横に振って否定するのに…!
どうしたのかしら、頭打った…?
あぁ、打ってたわね…今さっき…。
それで頭おかしくなっちゃったのかしら…。
私がそう思っている間にも、ジルはソフィアさんに向かって走り始めた。
そして大きく腕を振ると、その腕の前方に尖った氷がいくつも姿を現す。
ジルはそれを投げ飛ばし、エリンさんがやっていたようにソフィアさんの前足と後ろ足に的確に当てた。
あっと言う間にソフィアさんはその場にバランスを崩して倒れそうになる。
それにジルは追い打ちをかけるかのように地面に手を叩きつけ、ソフィアさんの足下から何本もの氷の柱をはやしてソフィアさんの動きを封じた。
そこまでは本当に一瞬の出来事で、私もエリンさんも、口を開けてジルを見つめていた。
けれどそこで、ジルの動きが一瞬止まった。
そして振り返ったかと思うと、結構離れた位置に居るヴィッタさんに、
「い…愛しとかわけわからない単語付けないでください…!!」
と大声で言った。
そのジルの顔真っ赤だった。
「ジル君、時間差が酷いよ」
…なんだか、思い切り否定されたのがちょっと残念って思うよりも、いつも通りのジルで安心したわ…。
下らないことでこちらを振り返っているジルの背後で、ソフィアさんがジルの氷を砕いて動き出す。
ソフィアさんの大きな咆哮が、部屋に響き渡った。
人間の姿の時はあそこまで寡黙だったソフィアさんが、こんなに大きな声を出しているなんて…。
それにこの声は、怒りもあるけど、悲しみも含まれているような感じがする…。
「…ソフィアさん…どうして、シルヴィたちを裏切ったんですか…?」
ジルのその問いかけに、ソフィアさんは目を細めた。
そして小さく言葉を発した。
『私は…人間を絶滅させたいだけ…。そのためのこの地位。そのために、私はここに、存在している。あの子の敵を討つまでは、私は止まらない』
と。
読んで下さりありがとうございます!
ブックマークなど、よろしくお願い致します!




