↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/120

第91話 暴かれる不眠

 王の不眠は、噂ではなく議題になった。


 次の朝議には、貴族院、神殿、花冠院暫定評議会、候補者本人代表が呼ばれた。候補者本人代表という新しい席には、セレスティア様が座っている。


 王妃候補が、家門ではなく本人代表として出席する。


 その姿だけで、貴族院の顔は苦い。


 議題は三つ。


 王の睡眠障害。

 王家罪状公表。

 王妃選定の継続条件。


 どれも、これまでなら密室で処理されたはずのものだ。


 アシュレイ陛下は王座にいた。


 前日より顔色は戻っている。けれど完全ではない。契約花は私の前の小卓に置かれ、リディア様の保留糸が準備されている。


 隠さない。


 それは、見せ物にすることとは違う。


 だから手順を作る。


 貴族院議長が立った。


「陛下の御身に不安があるなら、摂政または王妃による補佐体制を急ぐべきです」


 言葉は丁寧だ。


 中身は、王の弱さを政治的に押さえ込む提案だった。


 アシュレイ陛下は静かに答える。


「補佐は必要だ。だが、王妃を隠し布にする案は退ける」


「隠し布とは」


「私の眠りを公に扱わず、王妃の存在で安定して見せることだ」


 議長は黙った。


 神殿代表が言う。


「眠りの問題は、王家の罪に由来するのであれば、贖罪儀式が必要です。王妃はその儀式において」


 フィオナが候補者席から立った。


 大司祭の姪である彼女が。


「神殿候補者として発言します」


 神殿代表の顔が変わる。


「フィオナ」


「罪は、清める前に記録されるべきです。王妃を贖罪儀式の器にすることには反対します」


 彼女の祈願百合が、灰色の斑点を抱えたまま白く揺れた。


 疑いを含む祈り。


 それは強かった。


 次にアリアナが立つ。


「北方侯爵家候補として。王の弱さを隠す王妃より、弱さを前提に制度を作れる王の方が、冬の領地には信用できます」


 メイベルが続く。


「商都伯家候補として。隠れた危険は取引不能です。公開された危険は条件交渉できます」


 候補者たちが、王の不眠を政争の材料ではなく、制度設計の前提として語り始めた。


 貴族院の空気が変わる。


 アシュレイ陛下は彼女たちを見ていた。


 王妃候補ではなく、政治的発言者として。


 その姿に、私は胸が熱くなる。


 議長は最後に私を見た。


「では、ミラ・リース。あなたは王の眠りを補助する立場として、自らが王へ特別な影響を持つことを認めますか」


 来ると思っていた。


 私を狙えば、王の言葉も候補者たちの宣言も揺らせる。


 私は立った。


「認めます」


 ざわめき。


「だからこそ、補助手順を個人依存にしない形へ移行します。契約花、保留糸、記録官、複数修復師による立ち会い。私だけが王の眠りを扱える状態は危険です」


 議長は眉をひそめる。


「では、あなたの仮婚約は」


 その問いは鋭かった。


 私も、陛下も、避けていた場所。


 アシュレイ陛下が口を開く前に、私は答えた。


「見直しが必要です」


 王座の上で、陛下が息を止めた。


 胸が痛い。


 でも言わなければならない。


 仮婚約は私を守った。

 でも今は、私の立場を曖昧にし、王の眠り補助を私情と結びつける材料にもなっている。


 議長が勝ち誇りかけた瞬間、アシュレイ陛下が言った。


「その通りだ」


 声は静かだった。


「仮婚約は見直す。だが、それは彼女を切り捨てるためではない。彼女が選べる形を作るためだ」


 議場が静まる。


 不眠は暴かれた。


 だが暴かれたことで、隠し布としての王妃も、檻としての仮婚約も、同じ場に置かれた。


 もう戻れない。


 私は白い契約花を見た。


 花は静かに開きかけていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。