第91話 暴かれる不眠
王の不眠は、噂ではなく議題になった。
次の朝議には、貴族院、神殿、花冠院暫定評議会、候補者本人代表が呼ばれた。候補者本人代表という新しい席には、セレスティア様が座っている。
王妃候補が、家門ではなく本人代表として出席する。
その姿だけで、貴族院の顔は苦い。
議題は三つ。
王の睡眠障害。
王家罪状公表。
王妃選定の継続条件。
どれも、これまでなら密室で処理されたはずのものだ。
アシュレイ陛下は王座にいた。
前日より顔色は戻っている。けれど完全ではない。契約花は私の前の小卓に置かれ、リディア様の保留糸が準備されている。
隠さない。
それは、見せ物にすることとは違う。
だから手順を作る。
貴族院議長が立った。
「陛下の御身に不安があるなら、摂政または王妃による補佐体制を急ぐべきです」
言葉は丁寧だ。
中身は、王の弱さを政治的に押さえ込む提案だった。
アシュレイ陛下は静かに答える。
「補佐は必要だ。だが、王妃を隠し布にする案は退ける」
「隠し布とは」
「私の眠りを公に扱わず、王妃の存在で安定して見せることだ」
議長は黙った。
神殿代表が言う。
「眠りの問題は、王家の罪に由来するのであれば、贖罪儀式が必要です。王妃はその儀式において」
フィオナが候補者席から立った。
大司祭の姪である彼女が。
「神殿候補者として発言します」
神殿代表の顔が変わる。
「フィオナ」
「罪は、清める前に記録されるべきです。王妃を贖罪儀式の器にすることには反対します」
彼女の祈願百合が、灰色の斑点を抱えたまま白く揺れた。
疑いを含む祈り。
それは強かった。
次にアリアナが立つ。
「北方侯爵家候補として。王の弱さを隠す王妃より、弱さを前提に制度を作れる王の方が、冬の領地には信用できます」
メイベルが続く。
「商都伯家候補として。隠れた危険は取引不能です。公開された危険は条件交渉できます」
候補者たちが、王の不眠を政争の材料ではなく、制度設計の前提として語り始めた。
貴族院の空気が変わる。
アシュレイ陛下は彼女たちを見ていた。
王妃候補ではなく、政治的発言者として。
その姿に、私は胸が熱くなる。
議長は最後に私を見た。
「では、ミラ・リース。あなたは王の眠りを補助する立場として、自らが王へ特別な影響を持つことを認めますか」
来ると思っていた。
私を狙えば、王の言葉も候補者たちの宣言も揺らせる。
私は立った。
「認めます」
ざわめき。
「だからこそ、補助手順を個人依存にしない形へ移行します。契約花、保留糸、記録官、複数修復師による立ち会い。私だけが王の眠りを扱える状態は危険です」
議長は眉をひそめる。
「では、あなたの仮婚約は」
その問いは鋭かった。
私も、陛下も、避けていた場所。
アシュレイ陛下が口を開く前に、私は答えた。
「見直しが必要です」
王座の上で、陛下が息を止めた。
胸が痛い。
でも言わなければならない。
仮婚約は私を守った。
でも今は、私の立場を曖昧にし、王の眠り補助を私情と結びつける材料にもなっている。
議長が勝ち誇りかけた瞬間、アシュレイ陛下が言った。
「その通りだ」
声は静かだった。
「仮婚約は見直す。だが、それは彼女を切り捨てるためではない。彼女が選べる形を作るためだ」
議場が静まる。
不眠は暴かれた。
だが暴かれたことで、隠し布としての王妃も、檻としての仮婚約も、同じ場に置かれた。
もう戻れない。
私は白い契約花を見た。
花は静かに開きかけていた。




