第78話 入職誓約花の証言
公開審問の場には、花冠院の大講堂が選ばれた。
高い天井。
白い柱。
中央に置かれた審問卓。
かつて私は、ここを遠くから見るだけの下級修復師だった。今日はその中央に立っている。罪を問われる者として。
席には花冠院の職員、貴族院の監査官、王宮の記録官、王都の近衛、王妃候補たちの代理人が並んでいた。
セレスティア様もいる。
父であるヴァーン公爵の隣ではなく、候補者席に一人で。
アシュレイ陛下は王座ではなく、証言者席に立った。
その姿だけで、講堂がざわつく。
オルド院長は審問卓の向こうで冷静な顔をしていた。
「ミラ・リース。あなたは花冠院の許可なく禁域へ入り、非公式技術で王家誓約花へ干渉した。認めますか」
「森へ入り、非公式技術を用いたことは認めます」
ざわめきが大きくなる。
院長の口元がわずかに上がった。
「では」
「ただし、禁域指定と技術制限そのものが、不正な記録隠蔽の上に成立している可能性を示します」
リディア様が進み出た。
彼女は救出した旧記録庫の箱、森の写し、フロレアの証言を順に提出する。
院長は表情を崩さない。
「偽造の可能性があります」
「では、花に証言させましょう」
私が言うと、講堂が静まった。
用意していたのは、入職誓約花だった。
花冠院に入るすべての修復師が、最初に触れる白い花。職務への忠実、記録の保全、誓約花を私益に用いないことを誓う花。
普段は院長室の奥に保管されている。
それを持ち出したのは、パウルとニナだった。
二人は緊張で顔を青くしながら、花鉢を中央へ置いた。
入職誓約花は、白いはずだった。
だが今、その根元には黒い筋が走っている。
リディア様が言う。
「この花は、職員全員の入職誓約を束ねるものです。記録隠蔽、証拠焼却、誓約花の不正利用が院内で行われた場合、反応が残る」
院長の声が冷える。
「職員の不安が反映されただけです」
「読めば分かります」
私は花の前に立った。
アシュレイ陛下がこちらを見る。
無理はするな。
声に出さなくても分かる。
私は小さく頷いた。
一人で深く潜らない。
リディア様が補助糸を持ち、イオが記録し、王宮記録官が立ち会う。
私は入職誓約花に触れた。
流れ込んできたのは、たくさんの手。
若い修復師たちの希望。
上級職員の誇り。
見ないふりをした迷い。
命令に従った恐れ。
その奥に、黒い結び。
オルド院長の声。
旧記録庫三番棚を閉じよ。
王妃記録を不完全資料として扱え。
祝福花偽装の式を外部研究として処理せよ。
ミラ・リースの資格を停止し、王の証言前に信用を落とせ。
花が震える。
私は深く入りすぎないよう、リディア様の糸を合図に戻った。
「入職誓約花は、院長命令による記録隠蔽を記憶しています」
講堂が騒然となった。
院長が立ち上がる。
「下級修復師の読み取りなど」
「私も確認します」
リディア様が花に触れる。
彼女の顔が険しくなる。
「同じ反応です」
次に、王宮記録官が補助器具で花の色変化を確認した。
「黒筋反応、院長権限誓約に一致」
言葉が講堂に落ちる。
オルド院長の顔色が初めて変わった。
アシュレイ陛下が証言者席から立つ。
「次は私が証言する」
講堂がさらにざわついた。
陛下は王座へ行かない。
証言者席のまま、眠らない目で全員を見た。
「私の眠りについて。そして王家が隠してきた罪について」
その瞬間、花冠院の白い講堂で、誰も息をしなかった。
隠されてきた眠りが、初めて人前に置かれようとしていた。




