第77話 罪人としての修復師
王都へ戻った私たちを待っていたのは、歓迎ではなかった。
花冠院の正門前に、告示板が立っていた。
王命特任修復師ミラ・リース。
禁域である竜眠りの森へ無許可侵入。
王家機密への不正接触。
誓約花への非公式技術使用。
以上により、資格停止および審問対象とする。
私の名前が、罪人のように書かれている。
馬車の中が静まり返った。
アシュレイ陛下の顔から表情が消える。
「誰の署名だ」
ノア様が告示板を確認する。
「オルド院長。貴族院花冠監査部の連名です」
「取り消す」
陛下がすぐ言った。
私は首を振った。
「待ってください」
「待てない」
「ここで陛下が命令で消すと、私が王の寵愛で罪を免れたように見えます」
言いながら、胸が冷える。
怖い。
名前を告示板に貼られるのは怖い。
でも、フロレアで学んだ。
制度が人を傷つける時、ただ上から命じて消すだけでは、別の形で戻る。
「審問を受けます」
ノア様が目を見開く。
「危険です」
「証拠があります。森の記録、フロレアの証言、旧記録庫から救出した箱。それに」
私は道具箱を抱える。
「母の花弁」
アシュレイ陛下は私を見ていた。
止めたい顔。
でも、私の仕事を奪いたくない顔。
「条件を」
彼は低く言った。
「公開審問。記録官を入れる。セレスティア、リディア、フロレア代表の証言を認める。私も出る」
「陛下が出たら」
「王としてではなく、当事者として出る」
それはもっと大きなことだった。
眠りの呪いを、人前で語る可能性がある。
私は息をのんだ。
「よろしいのですか」
「隠した結果がこれだ」
陛下の声は静かだった。
「もう、隠すために君を差し出さない」
花冠院の中庭では、職員たちが私たちを避けるように見ていた。
第三修復室へ戻ると、机の上に花が置かれていた。
小さな保留箱が三つ。
若手修復師たちが作ったものだ。
パウル、ニナ、そして王都に残った仲間たち。
箱の上には紙がある。
戻る場所を保留しています。
それを読んだ瞬間、胸が詰まった。
私は罪人として告示された。
でも、戻る場所を保留してくれた人たちがいる。
セレスティア様は夕方、第三修復室へ来た。
髪に煙の匂いが残っている。指先には包帯。胸元の蕾は閉じたままだが、緑の筋は強く光っていた。
「遅かったわね」
第一声はそれだった。
「申し訳ありません」
「責めているのではありません。少しだけ」
彼女らしい言い方に、私は笑いそうになる。
セレスティア様は告示板の写しを机に置いた。
「父も関わっています。公開審問にすれば、こちらも証言します」
「危険です」
「知っています」
彼女は自分の蕾に触れた。
「咲かない蕾にも、証言くらいできます」
私は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「お礼は、旅守りを返してからにして」
私は慌てて、森まで持っていた緑の紐を差し出した。
セレスティア様はそれを受け取り、少しだけ表情を緩めた。
「無事だったのね」
「はい」
「あなたも?」
私は少し迷い、頷いた。
「完全ではありません。でも、戻りました」
「ならいいわ」
外では、審問の鐘が鳴る準備が進んでいた。
罪人として呼ばれる。
でも、私は一人で行かない。
壊れた花を、公開の場で読む。
それが、この王都での次の修復だった。




