第108話 自発的な祝福花
新しい花冠を編むために、王宮は祝福花を募った。
ただし、命令ではない。
税の優遇も、身分の加点も、忠誠の証明もない。
出したい者だけが出す。
出さない者は、出さないままでよい。
その条件を掲げると、貴族院の一部は鼻で笑った。
「誰がそんな無利益な花を出すものか」
最初に届いたのは、フロレアからだった。
大きな箱に、布花、帰願草、税印花の乾いた花弁、空の鉢を描いた紙片が入っていた。
添えられた手紙には、子どもの字でこう書かれていた。
王様が少し眠れるように。
トマだった。
アシュレイ陛下は手紙を長く見ていた。
次に届いたのは、老夫婦の不揃いな婚姻花の花弁。
形が悪いまま五十年続いた花。
王都からは、十五番の保留箱に入っていた婚約花の押し花も届いた。
エミリア・ヴァーンの名で添えられた手紙には、短くこうあった。
壊れた花を捨てない国になるなら、この花も使ってください。
最初に私が守ろうとした小さな花が、ここへ戻ってきた。
その次は、リナの商業奉公花から分けた青い小花。
追加条件を外し、自分の労働で宿を支えると決めた花。
商都からはメイベルの金貨草ではなく、取引相手たちが自発的に出した小さな契約花が届いた。
北方からは、泣けない子どもたちが雪解け水で育てた薄い氷晶花。
神殿からは、清めではなく記録の祈りに使われた百合の花弁。
無花者たちからは、空白の布片。
花ではない。
でも新しい花冠には必要なものだ。
王宮の広間に、花が集まっていく。
美しさは統一されていない。
むしろ不揃いだ。
王都の儀式職人たちは最初、困惑した。
「規格が」
「色調が」
「花持ちが」
カッサが杖を鳴らす。
「王を中心に置かない花冠を作るんだろう。だったら揃いすぎたら失敗だよ」
リディア様が真面目に頷いた。
「ただし、構造上の安定は必要です。不揃いを保ったまま崩れない編み方を設計します」
二人はまた喧嘩のように相談を始めた。
私はその横で、届いた花の感情を浅く確認する。
深読みはしない。
祝福花は、祝福である前に本人の意志だからだ。
中には怒りの花もあった。
王家を許さない。
でも二度と同じことを起こさないために、この花を出す。
そういう手紙もあった。
アシュレイ陛下はそれを読んで、丁寧に頭を下げた。
「許されない祝福もあるのだな」
「祝福というより、監視の花かもしれません」
私が言うと、彼は頷いた。
「それも必要だ」
新しい花冠には、怒りも編み込まれる。
清らかな祝福だけでは、また美しい嘘になる。
セレスティア様は、ヴァーン家から花を持ってきた。
咲かない蕾ではない。
母の咲きすぎた婚約花の一片と、公爵家の庭にあった古い緑蔓。
「家を直す途中の花です」
彼女は言った。
「まだ祝福とは言えません。でも、監査対象として編んでください」
メイベルが笑った。
「監査花冠ですね」
「悪くないわ」
セレスティア様も少し笑った。
夕方、私は白い誓約花から小さな花粉を一粒だけ取った。
アシュレイ陛下が見ている。
「いいのか」
「はい。花そのものは、まだ私のものです。でも花粉は、新しい花冠へ」
彼は深く頷いた。
「ありがとう」
自発的な祝福花。
それは王へ捧げる花ではなく、王と国が互いを見張り、支え、記録するための花になっていく。
広間に集まった不揃いな花々を見て、私は思った。
これは、王国そのものの保留箱だ。
まだ答えは出ていない。
でも、捨てないために集められた花たちだった。




