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アイテム 2 七輪

 ふふふふふ


 ふははははは……、いかん、ニヤケが止まらない。


 なぜって?

 ついに、ついに! 念願のリングメイルを購入したのだ!

 さようならレザーアーマー。今までありがとう。

 これからは新しい相棒と生きていくのだ。


 なんて考えているうちに、いつもの分かれ道までやってきた。

 さて、今日はどうしようかな。

 やっぱり『始まりの祠』かな……、でもずっとあそこばっかりだからさすがに飽きてきたなぁ……

 そうだ!

 せっかく鎧を新調したんだから、今日はワンランク上を目指そう。

 えっと、『べチョリ沼』か。

 ……たしか、オーガがでるんだよなぁ。

 でも、入り口付近ならさすがにゴブリンぐらいしかでてこないだろう。

 今日は、様子見ってことで入り口付近を冒険してみようか……、うん、そうしよう!


「ねぇ、ねぇ、お兄さん、寄ってかないですか?」


 どっかで聞いたような声がした。

 振り向くと、屋台みたいな建物にちょこんと座った女の子がニコニコとこっちを見ていた。


「ああ、また君か」

「また君じゃないです。 道具屋の『可愛い』看板娘です」


 また、可愛いって言ったよ、この子。

 ……、この笑顔がこわいんだよな。この間は、ぼったくられたし。

 で、でも、まあ、お陰で命拾いしたのも事実だしなぁ……ま、話ぐらいは聞こうかな。


「ご機嫌ですね、お兄さん。あ、鎧、新調したんですね」

「え? 分かる?! 分かっちゃったかぁ。

そうかぁ~。そうなのよ。どうよこれ。リングメイルだよ。

思い切って奮発しちゃった。

今までのレザーアーマーと防御力が違うんだ。

それになんてったって金属だからねぇ。これで俺も冒険者として一人前だよね」

「そうですね。もう一人前ですね。だからなにか道具買っていきませんか?」

「……、今日はいいよ。

リングメイル装備しているからね。道具の方はそこそこのものがあれば滅多なことにはならないさ」

「……危ないなぁ」


 看板娘さんがぼそりと呟いた。


「へ? なに。なにが危ないっていうの?」

「いや、冒険者って今ぐらいの時期が一番危ないんですよねぇ。

ちょっと慣れてきて、装備も良くなって、きっと気が緩んじゃうんですよ」

「いや、いや、いや。

俺、油断なんてしてないし。

いつでも慎重に行動しているよ」

「そうかなぁ。

きっと、『始まりの祠』にも飽きてきたから、たまには別のところに行ってみよかなー、なんて考えてたんじゃないですか?」


 ……読まれてるよ!


「え?!

そ、そ、そんなことないよ。

今日も祠へ行こうと思っていたさ。油断とか慢心とか俺には無縁だよ。

あー、でも、言われてみると新しいところにそろそろ挑戦してもいいかなぁって、思えてきたなぁ。

た、たとえば『べチョリ沼』……とか」


 どうだ。この見事な返し!

 これできっかけは看板娘さんだ、という流れにできたぞ。


「リングメイル着て、『べチョリ沼』行く気ですか?」


 看板娘さんは、本気で嫌そうな表情になった。

 へ? リングメイル着て、『べチョリ沼』行っちゃだめなの?

 そんな話聞いたことないけど……


「え? 駄目なの?」

「駄目じゃないですけど。『べチョリ沼』行くならレザーアーマーの方がいいかなぁって、思っただけです」

「ええ、なんでよ。

リングメイルのほうが絶対いいでしょう!」

「う~ん。ほらリングメイルって金属だからカチャカチャ音するじゃないですか」

「そうだね。

それがかっこいいんじゃん!」


 俺の反論に看板娘さんは小首をかしげて見せた。そしてニッコリと笑った。


「そっか……それもそうかぁ。

じゃあ、本日のおすすめはこれです」


 看板娘さんは、どんと品物を棚にだした。


「七輪です」

「七輪って……あの料理に使う七輪?」

「はい。本日はサービスで炭と干し肉をお付けします」

「……、いや、いや、いや。俺、今から冒険に行くのよ。 バーベキューしに行くわけじゃないから!」

「炭は中々火がつきにくいし、弱火なんで焼けるのに時間がかなりかかります」

「いいとこないじゃん!」

「弱火でじっくり焼いたほうがいい匂いしますよ」

「だからバーベキューに行くんじゃないって!」

「じゃあ、買わないんですか?」

「買わないよ!」

「……そっか」


 看板娘さんはそう言うと雑巾を取って立ち上がった。


「って、だから無言で墓石磨きに行くとか止めて!」

「いや、すごく必要になるような予感がするんですよ。なんとなくだけど」

「やな、予感だな。 本当、怖いから止めて……

まあ、そんなに言うなら持ってってもいいけど。

うーん、なにこの肉。ガチガチで臭いもほとんどしない。……うまいの?」

「ああ。まあ、焼けばだんだんいい匂いがするんですよ。お勧めですよ」

「……なんか釈然としないなぁ。本当にお勧めなのかなぁ。

でもまあ……、墓石磨かれるのも気分悪いし、この間は本当に役にたったしなぁ。

いいや、買ってくよ」

「毎度、ありがとうございます!」


 買っちゃったよ。

 うわ、結構、重ッ! 、やっぱり失敗したかなぁ。 


 とりあえず七輪を抱えて、俺は『べチョリ沼』へと向かった……




「どわああ~」


 俺はゴブリンの群れに追われて、必死に逃げていた。

 『べチョリ沼』についてすぐにゴブリンに遭遇した。1体を倒しているうちに2体現れ、2体を倒すころには4体のゴブリンが襲ってきた。

 いや、どうにもならないので、逃げだしたけど、ゴブリンたちは執拗に追いかけてきた。

 隠れてもすぐに見つかり、追いかけまわされている。


 走るたびにリングメイルがカチャカチャと音を立てた。


「この音か!? 

ぬう。ヤバい。これマジで死ぬ!」


 なんとか、ゴブリンたちを振り切り、手近の茂みに身を潜めた。

 取り敢えずリングメイルを脱いだ。


 いまはもう逃げる切ることだけを最優先だ。


 そっと茂みから外の様子をうかがってみる。たくさんのゴブリンたちが周囲をうろつき、俺のことを探していた。


「まずい。こっそり逃げようにもこれは難しい……

なにかであいつらの気でも惹かないと……、あ!」


 そこで看板娘さんお勧めの七輪のことを思い出した。


 茂みの裏手にはい出ると、七輪に炭を入れ火をつけた。

 手をかざしてみると、じわじわと熱くなってきた。


「うん、なかなか熱くならないっていったけど、その通りだな。

でもこっちの方が好都合だ。

で、干し肉を置いてと……」


 そして、再び茂みへ身を潜めた。


 やがて、干し肉から煙が出てきた。そして、すごくおいしそうな匂いがあたりに漂い始めた。

 その匂いにつられ、あちこち散らばっていたゴブリンたちが七輪の周りに集まり始めた。

 そして、七輪の上に乗っている肉を奪い合い始めた。


「い、今だ!」


 俺は大混乱に陥ったゴブリンたちをしり目に必死に逃げ出した。

 

 

「はぁ、はぁ。ようやく逃げ切れた。

死ぬかと思った」


 いつもの分かれ道のところまで来て、ようやく一息入れることができた。


「……また、看板娘さんの道具に助けられた。

一応、お礼だけはいっておこうな。あれ……見当たらないな……」


 いつもなら店から道をいく冒険者たち見ているのに今は姿がなかった。

 その内、店の裏手からなにかいい匂いが漂ってきた。

 裏に回ってみると、看板娘さんが墓地の前でうちわで七輪をパタパタとあおいでいた。


「そんなところでなにやってんだい?」


 声をかけると、看板娘さんは振り返り、はじけるような笑顔を見せた。


「おかえりなさい!

良かった。

無事戻ってこられたんですね……」


 そして、七輪の方へ目を向けた。


「なにしてるって、七輪でお肉焼いていました。

そろそろお腹空かして戻ってくるんじゃないかと思ってましたから」

「お腹空かして戻ってくるって、誰が……」


 そこまで言ったらお腹の虫が盛大に鳴った。ずっと走り回っていたから無理はない。


「あは、食べます?」


 と、看板娘さんは言った。


「食べる、食べる」

「お肉1枚で銀貨1枚です」

「金とるんか!」

「当然です。

私、道具屋の可愛い看板娘ですよ?

嫌なら無理には売りませんけど」

「ああ、買いますよ」


 買った肉を頬張ると、肉汁が口一杯に広がる。

 美味い。なるほどゴブリンたちが奪い合うのも納得だ。

 ああ、そう思うと七輪もリングメイルも惜しいことしたなぁ……


「お〜い、看板娘さん居る?」


 黄昏ていると男の声がした。

 見ると、冒険者パーティーらしき3人の男がこっちにやってくる。

 リーダーとおぼしき男がニコニコしながら、看板娘さんに語りかける。その背中にはどこかで見覚えのあるリングメイルが背負われていた。


「いやぁ、看板娘ちゃんの言う通り『べチョリ沼』へ行ったらさ、ゴブリンの集団が喧嘩してたから、隙を見て一気に倒しせたよ。いや、大漁、大漁〜。

で、これ、言っていた七輪ね」


 リーダーさんが七輪を看板娘ちゃんに手渡した。

 

 い、いや……、それもしかして俺の……?


「はい、ありがとうございます。

買い取りますね」

「こちらこそ、毎度。

またよい情報があったら教えてくれよ。

じゃあな」


 その名も知らぬ冒険者パーティーは去って行った。


 ああ……俺のリングメイルさん……


「まあ、いいじゃありませんか。

リングメイルを捨てて、命を拾ったってことで」


 がっくし肩を落とす俺に看板娘さんはしれっと言った。

 俺は恨めしそうに看板娘さんを見つめる。


「それ、今、自分、上手いこと言った、とか思ってるでしょう?」

「はい!」


 満面の笑顔で看板娘さんは答えた。

 

 やっぱり、この子、怖いわ……

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