6.幽かにパンケーキ
「どうしても、どうしても会いたいんです!お願いします‼︎」
幽霊が僕の側でそう煩く鳴いている。通学路の途中の地縛霊だが、数日前からその場所を通る度にこれである。人に取り憑けば、少しは動けるようでそうしたいそうだが今のところ断っている。だが、通学路なのだ。一日に二回も会っており、かなり面倒になってきた。道で話し込むわけにもいかないが、そう簡単に取り憑かせるわけにもいかない。鈴風夏哉はため息を吐いた。そんなに会いたいものなのだろうか、兄妹ねえ……『一目見るだけでもいい』なんて、どうせそこで終わらなくなるのだから関わってはいけないのだ。
そんなこんなで一週間が立ち、そこを通る度に話してくる情報を覚えてしまった頃、その幽霊はぼけっとした様子でいつもの処に立っていた。が、気配が薄くなっており、休み明けに登校したときには消えてなくなっていた。一定の期間が過ぎると、自身が薄くなり、残っていた理由も分からなくなって消えてしまうものもいる。それだったのか、はたまた誰かに叶えてもらったのか。そんなことはわからないが、とにかくその幽霊はもういなくなっていたのだ。
それから数日後、鶯梅と鈴風夏哉は少し暗い倉庫のような建物の横長のソファーに座っていた。
「夏哉」
梅はくまのぬいぐるみを両手でゆったりと抱きつつ、夏哉に話かけた。
「あ?」
「パンケーキ食べたい」
「パンケーキ?そ……友達と行けよ……」
梅はじっとこちらを見ている。友達いないのかよ……。
「友達はいる。けれど、夏哉と食べたい」
「友達と行けよ」
梅の持っているスマートフォンの画面を見やれば、本日まで!おふたりでのご来店ですと割引!との文字が見える。その画面を見つつ「それ」と言えば、「そう、本日までだから」と言う。二人呼んで、味とか思い出とかで二回目以降の来店を狙う形式に行こうかと思ってと続けてやや小声で言う。
「はあ」
「お洒落そうだから女の子誘えるよ」
「誘わねえって」
「かわいそう」
梅は口に手をやって言う。
「五月蝿えなあ、どこだよ」
梅が画面を動かし、住所を見せる。
「ここ」
ちょっと遠いじゃねえか。
「……じゃあ、終わったらな」
「割り勘ね」
「……誘ったのお前だろ」
前の席に座った梅はナイフを縦に動かし、パンケーキの生地を切っている。
「甘いの苦手なんだ」
梅は具材も載ったものを口に運ぶ。
「いやこれは……」
夏哉も少ない量をフォークで刺し、口に入れた。
「じゃあ今度は、辛いの行こうか」
と咀嚼し終わった梅が言う。
「極端だなあ……」
パンケーキは甘すぎて砂糖を丸齧りしているようだったが、梅は「太っちゃう」などと言いながら満足そうであった。
梅の方が高い物を頼んだので、少し多めに払い「当然でしょ」などと言っているのを夏哉は半眼で見つつ、チャックの開いた財布からお金を取り出すのだった。




