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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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24話:対抗準備

夜。

街の中心に位置する石造りの議事堂に、全ての灯りが集まっていた。

普段は穏やかな活気に満ちているはずのこの場所も、今は張り詰めた弦のような緊張感に支配されている。窓の外では自警団が普段の倍の頻度で巡回し、松明の火が規則正しく闇を切り裂いていた。


「……全員、揃ったな」


円卓の最奥、主座に腰を下ろしたオルシェが静かに言った。

卓を囲むのは、この街の各部門を司る主要メンバー。

リーヴ、セレス、マリナ、ロイ、ダン、サラ。そして、街の防衛に欠かせない戦力となった冒険者ギルドの代表たち。

彼らの視線は、一点の曇りもなくオルシェへと注がれていた。


「……で、どうなっている。敵の動きは」


リーヴが、重厚な沈黙を破って口を開く。その手は、マリナが新調したばかりの大剣の柄に、無意識のうちに置かれていた。

それに応えるように、セレスが数枚の、しかし致命的な情報の詰まった羊皮紙を広げた。


「状況は単純よ。……そして、最悪の予想通りだわ」


彼女の指先が、ヴァルディン領の地図をなぞる。


「私たちは先日、貴族の送り込んできた“末端”――代官と私兵の砦を完全に潰した。……だが、それはあくまで本体を隠すためのトカゲの尻尾に過ぎなかったわ」


「来るか、やはり」


ダンが低い声で聞く。セレスは即座に、断定的に頷いた。


「来る。しかも次は、盗賊を装った不正規兵ではない。ヴァルディン伯爵直属の“正規戦力”……つまり、本物の軍隊がこの街を目指しているわ」


重い空気が円卓を包み込んだ。

「魔物」でも「盗賊」でもない。国家の一翼を担う組織的な暴力との、正面衝突。

ロイが不安げに唾を飲み込み、マリナが自身の二の腕を強く握りしめる。


「規模は?」


「現時点では正確な数字は不明よ。……だが、バルドの商会からもたらされた伝聞と、私の解析を照らし合わせれば、最低でも今回の盗賊の数倍――三千から五千の規模は想定しておくべきだわ」


三千から五千。その数に、冒険者たちが顔を見合わせた。

個々の力では勝るかもしれないが、軍としての統率、補給、そして「数」という名の暴力。それは、これまで経験したことのない壁だった。


「……いいな、全員。顔を上げろ」


オルシェの声が、冷たい水のように彼らの頭に降りかかった。


「やることは何も変わらねぇ。……準備だ」


その一言。

迷いのない、確信に満ちた声に、停滞しかけていた空気が一気に熱を帯びる。


「まず、戦略を提示する」


オルシェが地図の上の、この街を囲む地形を指先でなぞった。


「五千の軍勢を正面から受けるのは、もっとも効率の悪い愚策だ。……俺たちの武器は『仕組み』だろ? 壁を使え。地形を使え。奴らを“分断”する」


「……誘導する、ということか?」


リーヴが目を細め、戦術の糸口を探る。


「そうだ。街の周辺に意図的な『隙間』を作る。五千を一気に相手にする必要はねぇ。細い通路、険しい崖、罠を仕掛けた森。奴らを強制的に分割し、小分けにして削り取る。……一対一なら、俺たちの住民の方が圧倒的に強ぇんだからな」


シンプル。だが、徹底された消耗戦の理論。

敵の物量を無効化し、こちらが最も得意とする「個の暴力」を押し付ける形だ。


「次。個々の戦力だ。……マリナ、装備の換装はどうなっている」


「全住民の三割まで完了した。自警団に関しては全員分、あんたの設計通りの『魔導合金製』だ」


「いいな。……だが、まだ足りない」


オルシェは即答した。マリナが驚いたように眉を跳ね上げる。

これ以上の装備など、王都の親衛隊ですら持っていない。だが、オルシェの視線はさらに先を見ていた。


「上げるぞ。お前ら自身の『出力』をな」


全員が顔を上げる。

「まだ伸びるのか?」という、期待と畏怖。

オルシェはゆっくりと立ち上がった。


「やるぞ。……受け入れる準備はできてるか」


《スキル発動:教育指導・幹部専用深度アクセス》


その瞬間、室内の空気が物理的に歪んだ。

これまで全員に施してきた教育。そのさらに深層にある、「極限の効率」と「身体の理」が、オルシェの魔力を介して彼らの脳、神経、魔力回路へと直接書き込まれていく。


「……っ!!」


リーヴが、あまりの情報の密度に椅子を鳴らして立ち上がった。


「これは……! 力の使い方が、根底から……!」


「まだ上がる。リーヴ、お前はこんなもんじゃねぇ。筋肉の収縮、魔力の循環、その全てに“意志”を介在させろ。……もっと速く、もっと軽く動けるはずだ」


リーヴがその場で手を握り締める。

今まで「自分の限界」だと思っていた壁が、音を立てて崩れ、その先に広大な未踏の領域が広がっているのが見えた。


「マリナ。お前の炎はまだぬるい。金属の『心臓』を視ろ。もっと温度を上げられる。……分子を、もっと密に組み替えられるはずだ」


「……あ、ああ……! 分かる……! 鉄の『震え』が、手に取るように分かるよ!」


「セレス。お前の頭脳なら、一万の計算を同時にこなせる。戦場全体をチェス盤のように捉えろ。……一兵卒の呼吸一つまで、お前の管理下に置くんだ」


「……ふっ、。鬼畜な要求ね。……でも、最高に面白そうだわ」


全員が、オルシェから与えられた「新しい自分」の力に震えていた。

熟練度、魔力効率、戦闘精度。

その全てが、異次元の領域へと一気に跳ね上がる。


「……やべぇな。こりゃ、俺たちが知ってる『人間』の枠を飛び越えちまったぞ」


冒険者が戦慄しながらも、愉快そうに笑った。


「違う。……お前らが元々持っていた可能性を引き出しただけだ」


オルシェは静かに席に戻った。

「引き出したからには、責任を持って使いこなせ。……いいな、負ける理由なんてどこにもねぇぞ」


静寂。

その言葉が、祈りのように、あるいは絶対の予言のように室内に響く。

もう、誰も不安な顔をしてはいなかった。


「……準備は、整う」


セレスが、新しく書き換えられた防衛計画書を大切に抱えて頷く。


「後は――来るのを待つだけだわ。ヴァルディン伯爵の軍勢を」


窓の外。

深い闇が地平線を支配している。

だが、その闇を睨みつける彼らの瞳には、もはや恐怖はない。

あるのは、自分たちが築き上げた「居場所」を、何者にも、たとえそれが国であろうとも、奪わせはしないという揺るぎない覚悟だけだった。


「……迎え撃つだけだな、全部まとめて」


オルシェは、消えゆく蝋燭の火を見つめながら、静かに、しかし断定的に呟いた。

運命の決戦は、もう、目と鼻の先に迫っていた。

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