361 特記戦力の洗礼と輝く黄金の証
ぶつくさと文句を垂れながら、グレイトドラゴンズの五人組が舞台に上がってきた。見学席に座るステファンが、彼らを見下ろしながら厳しい声を飛ばす。
「お前達は以前、エデン特記戦力のカリナ様に完膚なきまでにボコされておきながら、反省もなく態度も悪い。この模擬戦で上には上がいることをもう一度反省し、今後に生かすがいい」
「へっ、エデンの特記戦力だあ? 所詮祭り上げられてるだけだろ。俺様の拳で粉砕してやるぜ!」
リーダー格のイヴォーが鼻で笑い、拳のバンテージを打ち合わせる。
「ふん、前はちょっと油断しただけよ。私達が負けるなんてまぐれよまぐれ」
剣士のレモナがレイピアを抜き放ち、魔法使いのニーコが相変わらずの腰巾着ぶりを発揮する。
「イヴォーさんの言う通りですよ。目に物見せてやりましょう!」
「相手は女が二人か。僕は以前とは違う。這いつくばらせてやるよ!」
青髪で聖職者の法衣を纏った神聖術士のサムエルも不敵に笑う。だが、唯一彼らの中でジュキーだけが顔面を蒼白にしていた。
「やっぱり……以前の女の子は、エデンの希望の特記戦力と言われるカリナ様だったんだ。だったらあの二人も、あのレベルの相手ということになる。みんな、油断したらダメだよ!」
「はっ、あの小娘がエデンの未来の象徴として崇められてるのも気に入らねえ! ジュキー、テメエは黙って後ろから援護しやがれ!」
ジュキーの必死の忠告も、イヴォーは全く聞く耳を持たず、舐め腐った態度で吐き捨てた。
「ん、身の程知らず。ボコボコにしてやらないと気が済まない」
舞台の反対側でエヴリーヌがイラっとした表情で呟く。
「はあ……自分の実力を過信している者ほど、御しやすい相手はいないわね」
チェトレも心底呆れた顔で溜息を吐いた。その余裕の態度が、さらにイヴォーの癪に障ったらしい。
「何だと! お前ら! こいつら、殺す気でいくぞ!」
イヴォーが素手の格闘の構えを取り、レモナも「ふん、ハチの巣にしてやるわ」とレイピアを構える。ニーコとサムエルも杖を構え、ジュキーは怯えながらも竪琴の演奏準備を始めた。見学席のカリナは「はあ、相変わらず全く進歩がない連中だな」と溜息を吐いた。
「あはは! これが咬ませ犬の典型ね。笑わせてくれるじゃない」
カリナの右隣でカグラが大爆笑し、左隣ではサティアが優雅に微笑んでいる。
「ふふ、相対するだけであの二人の力量すら理解できないなんて、たかが知れていますね」
見学席からの哀れみの視線をよそに、エヴリーヌは背負っていた愛弓アルテミスを構えた。チェトレも背中から巨大なカイトシールドである『夜空の盾』を外し、左腕にしっかりと固定する。そして左腰から、魔剣ダーインスレイヴを静かに抜いた。
「では、双方準備はいいな。始め!」
ステファンの合図が響き渡る。
「ん、先攻は譲ってあげようチェトレ」
「そうね。この程度の相手なら、全てを捌き切って勝たないと意味ないものね」
後方からジュキーの竪琴が鳴り響き、グレイトドラゴンズの能力が上昇する。ニーコとサムエルが魔法と術の詠唱を始める中、イヴォーが猛然とダッシュした。
「おらあああ!」
放たれたのは、格闘術の基礎――轟音を伴うほどの圧力を持つ重い一撃、『轟拳』。しかし、チェトレは慌てることなく盾を構えた。轟拳が『夜空の盾』に当たるインパクトの瞬間、チェトレは盾の側面を絶妙な角度で傾け、ぐいっとイヴォーの攻撃を左側へと逸らした。
「なっ!?」
全力を乗せた一撃を透かされ、体勢を崩して前のめりによろけたイヴォーの側面に、チェトレが流れるような動きで回り込む。
「あなた、実戦ならここで死んでるわよ」
冷徹な宣告と共に、チェトレはダーインスレイヴの腹で、イヴォーの無防備になった胴体に強烈な打撃を打ち込んだ。
「ぐえええっ!!」
イヴォーはカエルのような悲鳴を上げ、舞台の端まで一直線に吹っ飛ばされて白目を剥いて気絶した。
「なっ……一撃で?! これでも喰らいなさい!」
レモナが怒りに任せてレイピアの連続突きを放つ。しかし、チェトレの目にはそれがスローモーションのように見えていた。チェトレは前進しながら、上半身の僅かな体重移動とステップの動きだけで、全ての突きを紙一重で回避していく。そして、驚愕に目を見開くレモナのレイピアに対し、ダーインスレイヴの高速の剣閃を叩き込んだ。
ガキキキキキィンッ!
鋭い金属音と共に、レモナのレイピアが粉々に砕け散る。
「なあああっ! せっかく新しいのを買ったのに!」
レモナが悲鳴を上げたその隙を突き、チェトレは瞬歩で一瞬にして彼女の背後へと回り込む。そして、ダーインスレイヴの柄でレモナの首の後ろへ強烈な一撃を喰らわせた。
「うがっ……」
レモナは崩れ落ちるようにその場に倒れ伏し、動かなくなった。その間に詠唱を終えたニーコが、杖を振りかざして叫んだ。
「ファイア・ボール!」
数発の火球がチェトレへと放たれる。だが、その火球が届くより早く、後方のエヴリーヌが弓を引いていた。
「遅い。あくびが出そう」
冷たく呟きながら放たれたのは、氷属性の魔法弓技『氷凍穿矢』。凄まじい冷気を纏った矢が空中で火球を次々と射抜き、瞬時に凍結させて粉砕していく。さらにその矢は勢いを殺さず、ニーコの構えていた杖を見事に弾き飛ばした。
「ひゃああっ!?」
武器を失い硬直したニーコの眼前に、チェトレが瞬歩で肉薄する。そして、手加減を効かせた『シールド・バッシュ』をボディに叩き込んだ。
「あべしっ!」
ニーコは奇妙な悲鳴を上げながら宙を舞い、場外へと吹き飛んで気絶した。
「ふん、中々やるようだけど、僕をこいつらと同じだと思わないことだね。聖なる槍よ、敵を貫け! ホーリー・ジャベリン!」
以前カリナに言ったのと全く同じ負け惜しみを吐きながら、サムエルが光の槍を発射する。しかし、チェトレは微動だにせず盾を構え、その光の槍を全て『夜空の盾』で受け止め、完全に無効化した。その直後、再びエヴリーヌの放った矢がサムエルの杖を正確に弾き飛ばす。
「えっ……?!」
サムエルが呆然としたその瞬間、チェトレが眼前に飛び出し、ダーインスレイヴの腹でサムエルの胴を横薙ぎに強打した。
「うげええええ!」
サムエルもまた、腹を抱えてその場に崩れ落ちた。
「まあ勝敗は最初から見えてたけど、相変わらず酷いな……」
見学席のカリナが呆れ顔で呟くと、カグラは「これは酷いわねー」と扇子で口元を隠しながらくすくすと笑った。
「はい、連携というものがまるでなってないですね」
サティアの辛辣な評価が下る中、舞台上のチェトレは残ったジュキーへと視線を向けた。
「さて、残るはあなただけだけど……まだやるのかしら?」
「ん、まあやるだけやればいい。何をしても無駄だけど」
エヴリーヌが冷たく言い放つ。ジュキーは震えながらも、必死に竪琴を構え直した。
「くっ……さすがは特記戦力と、それに匹敵する実力者……。でも僕は最後まで戦う!」
ジュキーが竪琴を弾き、『ストリンガー・レクイエム』を放つ。見えない魔力の弦が蛇のように伸び、チェトレを拘束しようと襲い掛かる。
「なるほど、弦を魔力で操って相手を拘束するのね。でも……無駄よ」
チェトレが静かに発動させたのは、絶対防御の盾スキルだ。使用者の前方を完全遮断し、ボス級の一撃すら受け止める切り札――『キングス・バスティオン』。チェトレの前に展開された目に見えない絶対の防壁に魔力の弦が激突し、あっけなく飛散して消滅した。
「くっ、じゃあこれでどうだ!」
ジュキーは決死の覚悟で『ストリンガー・ノクターン』を奏で、相手の五感を徐々に奪う強力な演奏を開始した。しかし、エヴリーヌは「ん、無駄な足掻き」と鼻で笑うと、間髪入れずに矢を放ち、ジュキーの竪琴を粉々に粉砕した。
「ああっ!」
愛用の楽器を壊され絶望するジュキーをよそに、エヴリーヌは瞬時にアルテミスを背中に装着し、左腰から接近戦用の高レアリティ短剣『ファイナル・ダガー』を抜いた。そして瞬歩で一瞬にしてジュキーの眼前に躍り出ると、冷ややかな瞳で見下ろした。
「ん、さよなら」
鳩尾に容赦なく叩き込まれた、ファイナル・ダガーの柄での強力な一撃。
「がはあああっ!」
ジュキーは悶絶する声を上げ、身体をくの字に折り曲げたまま、舞台にどさりと倒れ込んだ。
「そこまで!」
ステファンの声が響き、完全無欠のパーフェクトゲームが終了した。エヴリーヌとチェトレはパチンと軽くハイタッチを交わす。
「ん、余裕過ぎた。まるで相手にならない」
「そうね。この程度で調子に乗るなんて、片腹痛いわ」
圧倒的な実力差を見せつけた二人に、見学席のカリナが苦笑しながら声をかけた。
「サティア、回復させてやってくれ。あんなのでも一応エデンの民だからな」
「そうですね。余り気は進みませんが……」
サティアはそう言うと、見学席から神聖術『ルーメン・リバース』を詠唱した。温かな光がグレイトドラゴンズを包み込み、彼らの意識とダメージが回復していく。目を覚ました五人組に、ステファンが冷酷に言い放つ。
「いいかお前達。世の中には上には上がいるのだ。いつまでもそのような態度を取っていては、Bランクより上はもちろん、冒険者資格の剥奪もあるのだぞ。心を入れ替えて真面目に依頼に励め!」
「ちっ、覚えてろよ!」「次は負けないからね!」
イヴォーやレモナが最後まで三下台詞を吐き捨てる中、ジュキーのみが「手合わせありがとうございました。もっと力を磨きます」と深く一礼し、ぶつくさ言う連中と一緒に逃げるように去って行った。チェトレは盾を鎧の後ろに装着し、剣を鞘におさめる。エヴリーヌもアルテミスをアイテムボックスにしまい、短剣を鞘に戻した。
「では、更新と新しいカードを発行しますので、窓口でお待ち下さい」
ステファンの案内で、カリナ達は一緒に演習場を後にし、冒険者窓口の前のテーブルに腰掛けて発行を待った。
「エヴリーヌはもちろんだが、チェトレの剣捌きと盾捌きも見事だったな」
カリナの称賛に、チェトレはふふっと笑った。
「ありがとうカリナちゃん。でも、相手が弱過ぎたわね」
「ん、超手抜きしてもあれだった。あれで調子に乗ってるとか、頭おかしい。さすがポンコツドラゴンズ」
エヴリーヌが相変わらずの毒舌を吐くと、カグラがパタパタと扇子を扇いだ。
「まあ、これで無事にAランクの冒険者カードが手に入るわね」
「はい、今日の任務は終了です。後はランジュ・ド・セレストに行って買い物するだけですね」
サティアが嬉しそうに微笑む。そんな彼女達の周囲では、たむろしている冒険者達のヒソヒソ話が飛び交っていた。
「おい、あのクソドラゴンズが特記戦力にボコられたらしいぞ」「さすがと言うか、勝てるわけがねーんだよな」「あいつらに反省なんて感性があるわけねーぜ。またすぐいつも通りのふざけた態度に戻るだろうさ」「あーあ、死んでくれねーかな」「しかし、特記戦力の方々は誰もが綺麗ね……」
やがて、窓口からマリアンナの声が響いた。
「お待たせしました、チェトレ様、エヴリーヌ様!」
一行が窓口に向かうと、マリアンナからチェトレとエヴリーヌへ、それぞれ金色に輝く『Aランクの冒険者カード』が手渡された。
「これで、いつでも魔大陸に乗り込めるわね」
チェトレがカードを大切に鎧の胸元にしまうと、エヴリーヌも無言で懐にカードをしまった。
「じゃあカシューからの任務も済んだし、行こうか」
カリナがそう言うと、一行はカウンターに背を向ける。
「みなさん、またいつでも顔を出して下さいねー!」
大きく手を振るマリアンナに見送られながら、一行は総合組合を出て、次なる目的地『ランジュ・ド・セレスト』へと向かうのだった。




