360 冒険者カード更新へ
翌朝。いつものようにカリナの自室に泊まり込んだエヴリーヌ、カグラ、サティアの三人は、ルナフレアが用意してくれた美味しい朝食を平らげ、それぞれ馴染んだ『冒険者の衣装』へと着替えていた。
カリナは黒のフリル付きコートにピンクの冒険者ドレス、絶対領域を強調するニーハイソックスに黒いショートブーツ。右腰には二振りの愛剣を帯びている。エヴリーヌは銀色のライトメイルに、赤を基調とした弓術士の衣装と赤いミニスカート、黒いブーツ姿で、背中には愛弓アルテミスを背負っている。サティアはメイド隊がデザインした、少しセクシーな白を基調としたスリット入りの法衣を纏い、メイデンロッドを腰紐に差している。カグラは紫の狩衣に黒のミニスカート丈の袴。ニーハイで美脚を強調しつつ、和装の履物に赤い羽織という、風流さとセクシーさが同居する姿である。
「では、いってらっしゃいませ。お気をつけて」
ルナフレアから優しくカリナは抱擁され、送り出された四人が、城門の内側にある巨大なホールへと向かうと、丁度そこへチェトレがやって来たところだった。
彼女はセクシーなユニーク装備である黒く輝く『夜空の鎧』を纏い、ミニスカートの後ろの腰からは白いコートのような布を足元へとなびかせている。背中には大きな黒いカイトシールド『夜空の盾』を装着し、左腰には魔剣ダーインスレイヴを佩いた、まさに一級品の盾騎士の佇まいだ。
「おはようチェトレ。よく寝れたか?」
カリナが声をかける。そのカリナはといえば、左右からカグラとサティアにしっかりと手を握られ、背後からはエヴリーヌが肩に手を回してぴったりと密着しているという、傍から見れば少し異様なフォーメーションであった。
「おはよう、カリナちゃんにカグラ、サティア、エヴリーヌ。お陰様でね。大浴場も気持ち良かったし、メイド隊の方々が色々と身の回りのものを揃えてくれたわ。貴賓室もカードキーだし、中も豪華だったし……エデンの技術は凄いのね」
チェトレが感心したように言うと、カグラがパタパタと扇子を扇いだ。
「カシューはああいう技術に凝ってるからね。魔法工学と近代的な技術を融合したようなものよ」
「それにしても……みんなカリナちゃんにべったりね。まあ、確かに可愛らしいけど……」
チェトレが、カリナに密着して離れない三人を見ながら苦笑する。
「まあ、これはいつものことだよ」
慣れた様子のカリナに、カグラが「カリナちゃんは大事な妹分だからねー」とすりすりと頬擦りをした。
「カリナさんは確かに可愛らしくて可憐ですけど、戦闘ではいつも無茶しますからね。私達は色々とサポートしてるんです」
サティアもカリナの腕にしがみついて微笑む。
「ん、カリナは可愛い。女神。それに、私達が支えないといけない理由もある。チェトレにもその内話す」
エヴリーヌの言葉に、チェトレは少しだけ真面目な顔になった。
「そう……。それにしても、昨日も思ったけど過剰に愛されてるわね。まあいいわ、可愛いのは私も好きよ。じゃあ行きましょうか」
「ああ、行こう」
カリナが応じると、門番達が重厚な城門を開けてくれた。
「昨日はごめんなさいね。これからはエデンのために戦うから、許してちょうだい」
チェトレがスッと頭を下げると、門番達は慌てて姿勢を正した。
「いえ! カシュー陛下の御友人に刃を向けてしまった自分達にも問題はあります。これからは共に、エデンのために戦いましょう!」
門番達の力強い敬礼を受け、「行ってらっしゃいませ、カリナ様、カグラ様、サティア様、エヴリーヌ様にチェトレ様!」という見送りの声と共に、一行は城門をくぐり抜けた。
「エデンの人達は温かいのね」
「それがエデンの良さだな」
チェトレの言葉にカリナが誇らしげに笑う。城壁の門を抜け、東の商業区へと足を踏み入れると、行き交う住民達から次々と声が上がった。
「カリナ様にカグラ様だ!」「サティア様にエヴリーヌ様もいらっしゃるぞ!」「特記戦力は美女揃いだなあ」「朝から何ていい日なのかしら」「あの黒い鎧の方は誰だろう?」
道行く人々が立ち止まり、憧れの眼差しを向けてくる。
「あなた達はエデンでは本当に国民から崇拝されているのね。さすが特記戦力ね」
「まあ、御陰で常に注目されてしまうからプライバシーがなくなるけどね」
カリナが苦笑交じりに言うと、やがて一行の前に一際目立つ巨大な建物――『ギルド総合組合』が姿を現した。
「これが冒険者ギルド改め、総合組合だ、チェトレ」
「冒険者だけじゃなくて、商人や職人、採集なんかのあらゆる機能がひとまとめになってるのよ。これまでは別々だったけど、まとめたことで効率性が増したわ」
カグラの説明に、チェトレは「なるほど、確かに合理的ね」と頷く。
「ん、私も初めて入る。こういうのはゲーマー心を刺激する」
「ふふ、確かにそうですね。じゃあ行きましょうか」
エヴリーヌとサティアの言葉に後押しされ、一行は両開きの大きな扉を開けて中へと入った。その瞬間、組合の広いホール内にいた大勢の冒険者や商人達の視線が一斉に集中し、場は信じられないものを見るような騒然とした空気に包まれた。
「右奥が冒険者の受付だ」
カリナの先導で一行が右奥のカウンターへと向かうと、そこへ見覚えのある受付嬢――マリアンナがカウンター越しに慌てて駆け寄って来た。
「まあ! これは特記戦力の方々ではありませんか! それにカリナ様、お久しぶりです。あの時は、まだ特記戦力ではなくカシュー陛下の任務のためにカードの更新をされてましたね」
「ああ、そう言えばそうだったな。そう言えば、私はいつの間に特記戦力にされたんだろうかな? まあいいや。今日は特記戦力とその補佐の、こちらのエヴリーヌとチェトレの冒険者カードを更新して欲しい。今後マギナから魔大陸に乗り込むのに必要なんだ。組合長のステファンはいるかな?」
「はい! ではお通ししますので、こちらからお入り下さい!」
マリアンナが素早く右手のドアを内側から開けてくれ、カリナ達は彼女の案内で奥の豪華な執務室へと足を踏み入れた。
「これはカリナ様、お久しぶりですな」
応接ソファーから立ち上がったのは、冒険者組合のギルドマスターである壮年の男、ステファンだった。
「ああ、久し振り、ステファン。今日はカシュー王からの緊急の依頼だ。今後のエデンの五大国との連携で、魔大陸に乗り込むのに必要なことだ」
「わかりました。では中でお掛け下さい」
ステファンに促され、一行はソファーへと腰を下ろした。右から、カリナを膝に乗せて幸せそうなサティア、カグラ、エヴリーヌ、チェトレの順である。エヴリーヌとチェトレがカシューからの書簡を差し出すと、ステファンはそれを受け取り、真剣な眼差しで目を通した。
「なるほど……。あの、今は魔大陸となったロザリアの生き残りの城主のチェトレ様に、100年間世界の果てに囚われていて更新ができなかったエヴリーヌ様に、今後世界規模の魔大陸侵攻のためにもAランクの冒険者の資格が必要だと……。わかりました。事情が事情ですからね。ですが、また模擬戦を行って頂きます」
ステファンの決定に、カリナは「やっぱりな」と苦笑した。
「まあ、そうなるよな。ひょっとしてまたあの例のポンコツドラゴンズか?」
「ははは、そうですね。奴らは進歩が見えないので、この際ボコボコにしてやって下さい」
ステファンの容赦ない提案に、エヴリーヌはつまらなそうに首を振った。
「ん、まあ誰が相手でも関係ない。模擬戦だから手加減するのが面倒」
「そうね。相手が誰でも関係ないわ。これからやるべきことがあるのに、つまづいていられないもの」
チェトレも涼しい顔で同意する。
「ねえ、そいつらってカリナちゃんが更新のときにボコった雑魚よね? 今更やるまでもなく結果は見えてると思うんだけど」
カグラが呆れたように言うと、サティアはふんわりと微笑んだ。
「ふふ、手加減してあげて下さいね。ある程度なら私が回復しますけど」
「ではマリアンナ、あの悪ガキ共の『グレイトドラゴンズ』を呼べ。どうせ組合内でたむろしているだろう」
「はい。では皆様は、裏手の演習場でお待ち下さい」
マリアンナが連中を招集しに向かうのを見送り、カリナは肩をすくめた。
「さて、今回は気楽に見学させてもらおうかな。殺すなよ、エヴリーヌ」
「ん、手加減する」
一行はギルドの裏手にある、正方形の石造りの舞台が設置された演習場へと移動した。チェトレとエヴリーヌが舞台の上に立ち、軽くストレッチを始める。カリナ、カグラ、サティア、そしてステファンは見学席へと移動し、腰を下ろした。
やがて、裏口の扉が開き、マリアンナに連れられた五人組の冒険者――『グレイトドラゴンズ』が現れた。
「組合長、連れて来ました。では私も見学席に行きますね」
マリアンナが足早に離脱する中、現れた五人組は、以前カリナにボコボコにされた時と全く同じ、三下感丸出しの態度で舞台へと近づいてきた。
「おい、ギルマスー! 来てやったぞ。ちっ、今日は一体誰の相手を、このBランクの俺様がやらされるってんだ? 面倒臭くて仕方ねえぜ!」
真っ先に悪態を吐いたのは、筋骨隆々で拳にバンテージを巻いた赤毛の坊主頭の格闘術士、イヴォーだ。
「まあまあ、イヴォー。所詮また新人の適正テストみたいなもんでしょ? すぐ終わりますって」
リーダー格のイヴォーにすかさず媚びを売るのは、黒髪の魔法使いのローブを着た青年、ニーコ。
「こんな勝負が見えている模擬戦なんて時間の無駄だ」
青髪で聖職者の法衣を纏ったサムエルも、ダルそうに愚痴をこぼす。
「ま、私達の実力なら誰が相手でも楽勝よ」
金属プレートのライトメイルにレイピアを差した、薄いピンクヘアの剣士レモナも軽口を叩く。
「でもBランクの僕達を指名して来るくらいだから……。また、あの時の女の子みたいに凄い相手だったらどうしよう……」
最後に、竪琴を持った白髪の青年ジュキーだけが、かつてのカリナの恐怖を思い出したのか、気弱そうに震えていた。
見学席からその様子を見ていたカリナは、「まるで進歩していないな……」と深い溜息を吐いた。かくして、身の程知らずな三流パーティと、エデンが誇る特記戦力&最強の助っ人による、余りにも勝負が見えすぎている模擬戦が幕を開けようとしていた。




