362 ランジュ・ド・セレストとセクシーな挑戦
総合組合を出た一行は、東の商業区を歩いていた。
相変わらずカリナの左右の腕をカグラとサティアがしっかりと絡め取り、背後からはエヴリーヌがぴったりと張り付いている。その過保護すぎる様子を苦笑しながらチェトレが歩き、一行は目的の店舗へと到着した。
そこは『モード・ド・エデン・セレスト』の系列店にして、エデン随一の高級下着専門店――『ランジュ・ド・セレスト』。近代的なガラス張りの店舗のウィンドウには、清楚なものから思わず目を奪われるほど過激でセクシーなランジェリー、さらにはエレガントなナイトドレスや寝間着を着せられたマネキンが多数並んでいる。
「ここだな。さすが系列店だけあって高級な感じがする」
「ん、ここでカリナを悩殺するセクシーな下着を手に入れる」
エヴリーヌが密かに、しかし声に出して意気込む。
「ふふ、いいわね。私も色々と見て回ろうかしら」
「私はエクリアさんに勧められたナイトブラを探してみます」
「私は当面の生活に困らない分の物を色々と買うわ」
それぞれの目的を口にし、カリナの「じゃあ行こうか」という声と共に、一行はガラス張りのドアを開けて中へ入った。
以前のカリナであれば、ここまで極端に女性向けの下着が並ぶ店など、入るのにかなりの躊躇を覚えたはずだ。しかし、徐々に、しかし確実に進行する『少女のアバターの精神浸食』の影響か、今のカリナは何の躊躇いもなく足を踏み入れていた。店内には、清楚な日常使いのものから、夜の営みを連想させるような過激で艶やかなランジェリー、そして上質なシルクのナイトドレスなどが美しくディスプレイされている。
モード・ド・エデン・セレストの系列店だけあって、洗練された衣服に身を包んだ女性店員が「いらっしゃいませ」と優雅に挨拶をしてきた。だが、客の顔を見た瞬間にその顔が驚愕に染まる。
「これは……カリナ様にカグラ様、サティア様にエヴリーヌ様まで……! この度はランジュ・ド・セレストにようこそいらっしゃいました! 特記戦力の方々に来て頂けるとは光栄です!」
店員は興奮気味に頭を下げると、最後尾のチェトレの姿を見て首を傾げた。
「おや、あの黒い鎧の方は……?」
「彼女は今後特記戦力と共に戦ってくれる力強い戦力で、今は魔大陸となってしまったロザリアの元城主だ。数日前にエデンへ、友人であるカシュー王を訪ねて来たんだ。今後の必要な物をここで揃えたい。色々と彼女に勧めてやってくれないかな?」
「はい、もちろんです! ではその前に店長をお呼びします。特記戦力の方々に、今後一緒にエデンのために戦って下さる方がいらっしゃったのですから、きっと喜びますよ。少々お待ち下さい!」
店員が奥へ駆け込み、すぐにこれまたお洒落な衣装を身に着けた女性店長が現れ、彼女は深々と頭を下げた。
「これはようこそいらっしゃいました! 歓迎致します!」
「ああ、エクリアの紹介なんだ」
「まあ、エクリア様の……! ありがとうございます!」
カリナが言うと、店長が嬉しそうに微笑んだ。その間にも、店内からはエデンの住民や、魔導列車で他国から最新ファッションを買いに来た女性客達のざわめきが聞こえてきていた。
「まあ、特記戦力の方々だわ!」「カリナ様にカグラ様よ、サティア様にエヴリーヌ様までいらっしゃるわ!」「皆様お美しいわね」「あの黒い鎧の方は誰かしら……?」
「ではチェトレ様。お勧めの品を色々とご用意しますので、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
店長に案内され、チェトレは店の奥へと移動していった。
「さて、チェトレの買い物が済むまで私は適当に店内を見て回るよ」
それを見送ったカリナが踵を返そうとした瞬間、エヴリーヌがその腕をがしっと掴んだ。
「ん、カリナには、私の選ぶ『カリナを悩殺する下着』を試着したところを見て感想を言って欲しい。……でも、あまり本気で褒められると商品がぬめってしまうから、お手柔らかにして欲しい」
エヴリーヌはそう言うと、有無を言わさぬ力でカリナの手を引き、少々セクシーな下着売り場へと歩き出した。
「ふふ、面白そうね。じゃあ私もその勝負乗ったわ。ああー、でも確かにあの褒め言葉を受けたらエヴリーヌの言う通りになりそうね。まあいいわ、セリンは腐るほどあるし、買えばいいしね」
カグラもノリノリで後を追う。
「はは……結局こういうノリになってしまうんですね……まあ仕方ないですね」
サティアは小さく溜息を吐きつつも、近くにいた店員に声をかけた。
「エクリアさんからナイトブラをお勧めされたんですが、見せてもらえますか?」
「はい、ではこちらへご案内致しますね」
サティアはナイトブラのコーナーへと移動していった。
一方、カリナの手を引きながら「ん、これも中々いい」とセクシーなランジェリーを次々と物色するエヴリーヌ。カグラも「うふふ、私も過激な物を見繕わないとね」と、かなりきわどいデザインのものを数着手に取っていた。そして二人はカリナを連れて試着室の前へ移動する。
「ん、カリナ、ちょっと待ってて」
エヴリーヌが試着室の中に入り、カグラも「私もカリナちゃんの感想が楽しみだわ」と隣の試着室へと消えた。そこへ、ナイトブラと下着を数着手に持ったサティアも合流する。
「では私も試着してきますね」
サティアもカグラの隣の試着室へ入っていく。
一人残されたカリナは、「はあ……相変わらずよくわからない張り合いをするなあ」と首を傾げながら三人を待つことになった。
店の奥ではチェトレが店長に採寸をしてもらいながら、様々な下着を試着しているところだった。
やがて、エヴリーヌの試着室のカーテンがシャッ、と開かれた。
「ん、これはどう、カリナ?」
くるっと回って見せたエヴリーヌが纏っていたのは、純白のレースと細いリボンで構成された、極めて布面積の少ないセパレートタイプの下着だった。彼女のスレンダーな曲線美と、引き締まった腹部のラインが惜しげもなく晒されている。
続いてカグラのカーテンが開く。
「ふふ、これはどうかしら、カリナちゃん?」
カグラが選んだのは、胸の谷間から腹部にかけてが大胆に開いた、純白のホルターネック風の過激な下着だった。彼女の豊満な双丘と大人の色気を極限まで強調するポーズに、周囲の空気が甘く色づく。
最後にサティアがカーテンを開いた。
「どうですか、カリナさん?」
清楚な彼女が身に着けていたのは、黒の総レースで仕立てられたエレガントなナイトブラとショーツのセットだった。白い肌と黒いレースのコントラストが、彼女の破壊的なプロポーションをさらに艶やかに際立たせている。
「そうだな……」
カリナが腕を組んで考え込むと、三人は期待と緊張で「ごくり」と生唾を飲んだ。
「エヴリーヌの下着は、スレンダーなエヴリーヌの魅力を引き立てていて、意匠も凝っているし何だか神秘的だな。セクシーだしよく似合っているよ。カグラのは上下がくっついているのか……機能的にはどうなのかよくわからないけど、カグラの大人っぽいプロポーションによく似合っていてセクシーだと思うぞ。サティアのはナイトブラなのか……でも普段でも全然着れそうなデザインだな。黒っていうのもセクシーだし、サティアの清楚な雰囲気とはまた違う魅力を出していていいと思うよ」
カリナの口から、いつもながらの『容赦のない裏表のない褒め言葉』が流れるように放たれた。
「んんん……!」「はあんっ……!」「ひゃわわわ……!」
直後、三人はそのあまりにも真っ直ぐな称賛の威力に抗えきれず、腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。
「はあ、はあ……さすがいつも通りの強烈な褒め殺しね……」
カグラが荒い息を吐きながら頬を染める。
「はあ、はあ……そうですね……カリナさんは遠慮を知らないんですよ。思いっきり腰にキました……」
サティアも潤んだ瞳でカリナを見上げる。
「はっ、絶対にぬめってしまった。……でも、カリナに褒められたこの下着は絶対買う」
エヴリーヌは息も絶え絶えになりながらも、強い決意を口にした。
「はあ……何で毎回、普通に褒めただけでこうなるんだよ……」
カリナは心底理解できないといった様子で頭を抱えた。その後も三人は下着の試着を続け、その度にカリナの天然の褒め言葉を浴びては腰を抜かす、という奇妙な、しかし幸せなループを繰り返した。
そして全ての試着を終えた三人は、選んだ下着のセットを大量に抱えてレジへと向かい支払いを済ませた。その直後、カグラが不敵な笑みを浮かべてカリナへとすり寄ってきた。
「ふふふ、最後はカリナちゃんにセクシーな下着を着てもらいましょうか」
「えっ、いいよ! ルナフレアが用意してくれた下着で間に合ってるから!」
カリナが後ずさって抵抗するが、エヴリーヌが素早く背後に回り込んだ。
「ん、カリナのセクシーな下着、見てみたい。もしかしたら鼻血が出るかもしれない……気合を入れる」
「いいですね。カリナさんはいつもルナフレアさんが選んだ清楚な下着ばかりですから、セクシーな物も経験してみた方がいいですよ……」
サティアまでもが少々据わった目で迫ってくる。三人の凄まじい気迫に押され、カリナは為す術もなく試着室へと押し込まれ、彼女達が嬉々として選んだ『セクシーな下着』へと着替えさせられてしまった。
「ああっー! 可愛いわカリナちゃん!」
試着室のカーテンが開かれた瞬間、カグラが悲鳴のような歓声を上げてカリナに抱き着き、すりすりと頬擦りをした。三人がカリナに着せたのは、黒いレースと無数のリボンが散りばめられた、背徳的で刺激的なデザインのランジェリーだった。しかも後ろは際どいTバックである。
「ん、これは美少女の身体になんて背徳的……鼻血が出る」
エヴリーヌが本当に鼻を押さえながら悶える。
「カリナさんのまだ幼さが残る身体だからこその、健全なセクシーさですね」
サティアも我慢できずにカリナの背中から抱き着いた。当のカリナは、顔を真っ赤にして困惑していた。
「うーん……お尻がスースーするなあ。これを中に着ていつもの戦闘衣装を着たら、お尻が丸見えじゃないか?」
「それがいいのよ。まあでも実際は、ドレスの下とかに着て下着のラインを見せないようにするものだからね。休日とかパンツルックの時に着るといいわ」
カグラの解説に、エヴリーヌが自分の首の後ろをトントンと叩きながら頷く。
「ん、背徳的だけど、カリナが着るとまさしく女神」
「ふふ、戦闘で着たらほどけちゃいますからね。普段着やリラックスする時に着るのがいいですよ」
サティアが優しく笑うと、カリナはふと疑問を口にした。
「お前達もこんなの持ってるのか?」
「ん、不覚。今すぐ買う」
「そうね、私達も買いましょう」
「いいですね。みんなでお揃いです」
カリナの一言で、三人は嵐のように試着室を飛び出し、同じような下着を探しに店内へと散っていった。
「はあ……女性陣の買い物の時のエネルギーだけは凄まじいな」
カリナは深い溜息を吐きながら、元の下着と衣装に着替えるのだった。結局、カリナが着たそのセクシーな下着は、エヴリーヌが嬉々として買った。
その頃、チェトレは寸法を測ってもらい、色々な下着を試着させてもらい、ナイトドレスや他の寝間着なども勧められるがままに購入していた。
「これで着替えは安心ね」
チェトレがひと息吐いて視線を向けると、そこにはセクシーな下着を買い漁る特記戦力の三人と、それを呆れたように眺めるカリナの姿があった。
「ふふ、エデンのみんなは本当に仲がいいのね」
チェトレは優しく微笑むと、カリナを見つめて思考を巡らせた。
「それにしてもカリナちゃん、不思議な子ね……。中性的な言葉遣いだし、あんなにも愛されてるなんて。でもあの聖騎士カーズの実の妹……明日からの鍛錬で、きっとその実力が見られるのね、楽しみだわ」
こうして、ドタバタな『ランジュ・ド・セレスト』での買い物は幕を閉じた。一行は大量に買い込んだ下着類をアイテムボックスへと収納し、店長を含めた店員一同から手厚くお礼を言われながら、満足気に店を後にするのだった。




