表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/365

331  祝宴へと向かう鉄路と再会

 エデンの南西砦にて、四天王最後の一柱である破界将アスヴァルが強襲し、そして特記戦力達の究極奥義によって完全に消滅させられたことなど露知らず、五大国からエデンへと向かう魔導列車は、青空の下、安全に確保された鉄路をなめらかに滑走していた。


 神聖教国アーシェラから出発した『アーシェラ号』のVIP車両。


 そこには、エデンからの使者である格闘術士代行のクリス、アーシェラを統べるサキラ女王、その息子である幼い王子シリュウの姿があった。さらに、護衛として同乗しているSランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』の団長エリック、氷の魔法剣士テレジア、連節剣使いのディード、相克術士のシャオリン達も、それぞれの席で車窓からの景色を眺めたり、武器の手入れをしたりと、思い思いの時間を過ごしている。


 魔導列車が国境を越え、エデンとアーシェラの中間地点に位置する小国、フィン王国に停車した時のことだった。重厚な扉が開き、VIP車両に新たな乗客が乗り込んでくる。


 先頭を歩くのは、フィン王国の国王でありPCでもあるドルガン。その隣には華やかなドレスを纏ったPCの王妃レイラ、そして二人の間に挟まれるようにして、NPCである愛らしいピンク色の髪をした幼い王女レナが、大きな瞳で車内を見回していた。彼らの背後には、王国騎士団長のリギルとその精鋭達が、隙のない足取りで従っている。


 ドルガンとレイラは、豪華な座席に腰を下ろしているサキラ女王の姿を認めると、すぐさま歩み寄り、完璧なロールプレイで臣下の礼をとった。


「これはアーシェラのサキラ女王陛下。お目にかかれて光栄に存じます。私はフィンの国王ドルガン、こちらは王妃のレイラ、そして娘のレナでございます」


 ドルガンが深く頭を下げると、レイラと幼いレナもそれに倣って優雅にカーテシーを行い、リギル達騎士団も一糸乱れぬ動きで一礼した。


「おお、フィンの国王に王妃か。面を上げるがよい」


 サキラ女王は王者の風格を漂わせながらゆったりと頷く。


「確かにフィンにも魔導列車の駅が繋がっておるが、そなた達は対悪魔連合には参加しておらぬはず。此度は、エデンへの旅行か?」


 サキラの問いに対し、ドルガンは顔を上げて誠実な瞳で答えた。


「いえ、カシュー王とは長年の付き合いでして。女王陛下の仰る通り、我が国は小国であり、五大国やエデンに並ぶような強大な軍は持ち合わせておりません。しかし、この世界を取り巻く脅威を前に、このままではいけないと思いまして、エデンでの合同鍛錬に我が国の騎士団も参加し、強者達に鍛えてもらう予定なのです」


 ドルガンが言葉を切ると、隣のレイラが一歩前に出た。


「それに、カシュー王は我等の国力や事情を深く汲んで下さった上で、友人としてこの度の祝宴に招いて下さったのです。……加えて、娘のレナが以前お会いしたカリナさんに大変懐いておりまして、どうしてもまた会いたいと我儘を言うもので……。此度の招待に、ありがたく参加させて頂くことになりました」


 レイラは申し訳なさそうに、しかし娘への愛情を込めて微笑みながら再び頭を下げる。その言葉を聞いたクリスが、感嘆の息を漏らした。


「さすがはカシュー陛下。そのような事情までご推察されるとは、実に寛大でいらっしゃいます」


「そうじゃな。誰もが戦う力を持っておるわけではない。それでも、エデンの過酷な鍛錬に参加し、自国の軍を強化しようというその精神は、誠に素晴らしいものじゃ」


 サキラはドルガン達の決意を称えるように力強く頷いた。


「例え連合の最前線に加わることができずとも、私を含め、五大国の王達がそなた達を非難するようなことは決してせぬ。これも一つの縁じゃ。同じく国を背負う者として、そして友として、今後も良き付き合いをしていこうではないか」


 アーシェラの頂点に立つ女王からの、思いがけないほど寛大な言葉に、ドルガンは感極まったように深く頭を下げた。


「はっ! 身に余るお言葉、ありがとうございます。……それでは我等は、向こうに席が用意されておりますので、これにて失礼致します」


 ドルガン達一家と騎士団が自分達のブロックへと移動していく。その背中を見送っていたシリュウが、サキラの袖を軽く引いた。


「お母さま、あの子……レナっていったかな。すごくかわいかったね」


「はははっ、そうじゃな。シリュウ、そなたがもう少し成長して立派な王族となれば、あのレナ王女と婚約させるのも悪くないのう」


 サキラが息子の初々しい反応に豪快に笑う。


「サキラ女王陛下、五大国に比べれば小国の王にさえも対等に接せられるとは、さすがはアーシェラの頂点に立つお方です。実に寛大ですね」


 クリスは尊敬の念を込めて言った。


「なに、当然のことじゃ。誰もが前線で戦えるわけではない。彼らのような、懸命に国を守ろうとする者達の平穏と幸せを守り抜くことこそが、我らが五大国連合の真の使命であろう」


「……仰る通りです。戦っているのは、決して私達だけではありませんでした。女王陛下のその深く広い御心を、エデンの代行として、私も学ばせて頂きます」


 クリスはサキラの王としての器の大きさに、深く感銘を受けるのだった。アーシェラ号は、未来へ向けて歩みを進めるフィンのドルガン達も乗せ、一路エデンへと鉄路を進んでいく。



 ◆◆◆



 一方、魔法大国マギナを出発した『マギナ号』の車内。


 豪奢なVIP席では、マギナを統べる若きシャーロット女王と、その向かいに座るエデンの使者、魔法使い代行のレミリア、そしてマギナ魔法使い軍団長のエルザが、運ばれて来た優雅な昼食を取りながら、和やかな雑談に花を咲かせていた。


「ねえレミリア。カシュー殿とは、一体どのようなお方なのですか?」


 シャーロットがフォークを置いて身を乗り出す。その瞳は、恋する乙女のようにキラキラと輝いていた。


「わたくし、以前にエクリアやカグラからカシュー殿の武勇や人柄について多少のお話はお聞きしましたけれど……エデンの筆頭魔法使い代行であり、常に陛下のお側に仕えるあなたからも、カシュー殿の本当のお姿について、もっと詳しくお聞きしたいですわ!」


 鼻息を荒くする女王の姿に、隣に座るエルザが頭を抱え、レミリアに向けて小声で囁いた。


「……はあ。レミリアさん、申し訳ありません。エクリア様とカグラ様が、女王陛下に『カシュー王がいかに素晴らしい男性か』という話を吹き込んでから、ずっとあの調子なのです」


 エルザの溜め息交じりの愚痴を聞き、聡明なレミリアはすぐさま状況を理解した。なるほど、エクリア様とカグラ様が、他国の女王に余計なことを吹き込んだのだと。レミリアの脳裏に、優雅に笑うエクリアと扇子で口元を隠してクスクス笑うカグラの顔が浮かぶ。


 しかし、自国の絶対的な王であるカシューの評価を下げるような言葉を、代行である自分が他国の王族に向けて口にすることなど、エデンに忠誠を誓う者として断じてできない。レミリアは一瞬の思考の末、仕方なくエクリア達が敷いたであろう『予想できる口上』に全力で乗ることに切り替えた。彼女は姿勢を正し、誇り高きエデンの臣下としての表情を作る。


「カシュー陛下は……それはもう、素晴らしいお方です。国民や城の者達、エデンの全ての民に深く敬愛されております。常に優しく、しかし王としての威厳に満ちた姿勢とお言葉で皆を導き、個性の強い特記戦力達や各軍を完璧に纏め上げる、圧倒的な統率力をお持ちです」


 レミリアの言葉に、シャーロットが「まあ……!」と感嘆の声を漏らす。


「エデンでの戦いにおきましては、常に的確な指示を飛ばし、比類なき戦術眼で軍を動かされます。私達代行やその軍、騎士団は、そんなカシュー陛下のためであれば、自らの命を懸けることなど微塵も厭いません」


「命を懸けるほどの信頼……素晴らしいですわ……」


 レミリアはさらに言葉に熱を込める。


「お姿もまた、威風堂々たるものです。赤い毛皮の重厚なマント、真紅のタイトな王の装束を纏い、腰には王の象徴たる聖剣エクスカリバーと魔剣レーヴァテインの二振りを佩いております。その武力は、我が国の精鋭騎士団が束になっても掠ることすらできないほどの、神域の二刀流の使い手でございます」


「二刀流の剣士……! わたくし、強い殿方は大好きですわ!」


「今は行方不明となっております伝説の聖騎士カーズ様と、かつては『最強の聖騎士コンビ』として世界に名を馳せたお方です。武勇も人格も非の打ちどころがなく、美しい青髪に碧眼の、長身で非常に整った若々しいお顔立ちをされております」


 そこまで一気に語り切り、レミリアは少しだけ声のトーンを落とした。


「……ですが、それほど完璧なお方でありながら、未だに独り身を貫いておられ、王妃様を娶るご様子も全くありません。臣下としては、エデンの未来のためにその点だけは少し心配になりますが……間違いなく、エデンを治める最高の王だと、私は心から思っております」


 レミリアがべた褒めの口上を終えると、シャーロットは最早完全に恋する乙女の顔になっていた。両手を熱を帯びた頬に添え、うっとりとした溜め息を吐く。


「まあ……! それは、想像以上に本当に素晴らしいお方なのですね……! わたくし、カシュー殿に直接お会いするのが、益々楽しみになって来ましたわ!」


「ああ……陛下……」


 まだ若く、そういう恋愛ごとに興味津々の自国の女王の暴走気味な表情に、軍団長であるエルザが深く頭を抱えて天を仰いだ。


 レミリアは優雅に紅茶のカップに口を付けながら、心の中で特記戦力の二人に向けて密かに毒づくのだった。エクリア様にカグラ様、お二人の意志は受け取りました。それに私には敬愛するカシュー陛下を下げるような言葉は持ち合わせておりません。後は直接会ってどうにでもなって下さいませと、レミリアは心の中で思うのだった。



 ◆◆◆



 昼を過ぎた頃。


 騎士国アレキサンドからも、エデンに向けて豪快な老王レオンと近衛騎士達を乗せた『アレキサンド号』が発進し、陰陽国ヨルシカの『ヨルシカ号』も、順調にエデンの王都へ向かって鉄路を進んでいた。


 そして、ルミナス聖光国を出発した『ルミナス号』。


 ジラルド王やカーセル率いるAランクギルドのルミナスアークナイツを乗せたその列車が、エデン領の端に位置するチェスターで一時停車した時のこと。彼らが乗るVIP車両に、新たに乗り込んでくる一団があった。


 先頭を歩くのは、Aランクギルド『シルバーウイング』の団長であり、PCの剣士でもあるセリス。銀色の美しいロングヘアを揺らし、黒いコートに赤いインナー、長ズボンに黒いブーツという、洗練された出で立ちだ。


 その後ろには、副団長であり黒髪ロングヘアエルフの剣士エリア。巨大なバトルアクスを背負った、赤髪で武骨な重戦士アベル。二刀のナイフを腰に差した、金髪で赤いバンダナが特徴的なスカウトの青年ロック。そして、赤い魔石のついた杖を持つ、グリーンのミディアムヘアが知的な魔法使いセレナ。エデン領チェスターを拠点に活躍する、高名な冒険者達である。


 セリスは、車両の奥に座るジラルド王の姿に気付くと、立ち止まって恭しく一礼した。


「これはジラルド王陛下。それにルミナスアークナイツの皆様も、お久しぶりです」


 セリスがメンバーを代表して挨拶すると、ジラルド王が破顔して応えた。


「おお、セリスではないか! 久しぶりだな。お前達も、カシュー殿から招待されておったか」


「はい、光栄なことです」


「まあ、あの忌まわしき『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』との大規模な戦いに、お前達のギルドも主力として参加してくれたのだからな。カシュー殿も当然呼ぶであろうな」


 ジラルドがゆったりと頷くと、エリア、アベル、ロック、セレナの四人も「お久しぶりです、陛下」と一礼する。


「うむ、お前達も久しぶりだな。息災そうで何よりだ」


 ジラルドの向かいの席に座っていた、ルミナスアークナイツの団長カーセルが、柔和な笑顔で立ち上がった。聖銀の全身鎧が、車内の光を反射して輝く。


「やあ、みんな久しぶりだね」


「久しぶり、カーセル! ってことは……」


 エリアが応え、周囲を見渡す。通路を挟んで座っているルミナスアークナイツの他のメンバー、槍術士カイン、ピンクの巻き毛が可愛らしい陰陽術士のユナ、そして神聖術士テレサの姿を見つけた。


「よお、エリア! 相変わらず可愛いねえ!」


「もう、カインは相変わらず軽いんだから! 久しぶりね、エリア!」


「皆様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 カインが軟派な口調で手を振り、ユナが微笑み、テレサが丁寧にお辞儀をする。


「うん! みんなも元気そうね! 三カ国連合の祝宴以来だね!」


 エリアがパッと花が咲いたような笑顔になり、カーセルやユナ達と軽いハイタッチを交わして再会を祝った。和やかな空気が流れる中、セリスはふと疑問に思い、ジラルドに尋ねた。


「おや、陛下。この度の大切な祝宴に、セラフィナ殿下はいらっしゃらないのですね?」


 その問いに、ジラルドは「ハッハッハ!」と豪快に笑い飛ばした。


「あのお転婆のせいで、カリナは過労で倒れてしまったからな! 今回はその仕置きも兼ねて、ルミナスで留守番だ」


「ふふ、なるほど。それではきっと城を出る時には、お留守番を嫌がって大騒ぎになったのでしょうね」


 セリスはセラフィナの性格をよく知る者として可笑しそうに笑った。


「ハッハッハ! その通りだ。全く困ったものだな。……まあ、今回はカリナには気楽に、祝宴を存分に楽しんでもらいたいからな。だが、セラフィナのやつ、『カリナへのプレゼントだ』と言って、自分のお古の派手な衣装を大量に私に押し付けてきおったわ!」


 ジラルドが呆れたように肩をすくめると、セリスは柔らかな微笑みを浮かべて深く頷いた。


「カリナさんは、この過酷な世界の脅威と戦うために、絶対に欠かせない大切な存在ですからね。カシュー陛下からも色々とお話は伺っております。私達も、彼女が少しでも気楽に、心から笑って過ごせるようにしてあげたいものです」


 50年前にこの世界にログインし、同じく女神アリアの言葉を共有するPCとして、セリスの言葉には深い思いやりが込められていた。


「さて、それでは我々は自分達の席に移動します。ジラルド陛下、また後程」


 セリスが一礼し、エリア達を呼んで奥のブロックへと移動していく。アベルが無言で会釈し、ロックが「じゃあまた後でな、ルミナスアークナイツのみんな!」と軽く手を挙げる。セレナも丁寧にお辞儀をして、セリスの後を追った。


 各国の王達、精鋭の騎士団、そして冒険者達。世界を代表する強者達を乗せ、五大国からの魔導列車は、いよいよ明日開かれる歴史的な祝宴の舞台、エデン王都へと向かって、安全な鉄路を疾走していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ