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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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330  凱旋と受勲、柔らかな休息

 南西の砦での激闘を制した特記戦力とカシューは、ガレオスの運転する魔導装甲車に乗り込み、エデン王都へと帰還の途に就いていた。


 車内の助手席には右の窓際にカシュー、その左にグラザがどっかりと腰を下ろしている。後部座席には、右の窓際にエクリアが脚を組んで座り、その隣にはエヴリーヌ。そして、エヴリーヌからじゃんけんで見事カリナを奪い取ったカグラが、ほくほく顔でカリナを膝の上に乗せて背後から抱き締めて座っている。左の窓際にはサティアが座り、どこか落ち込んだ様子を見せていた。


「ふぅ、中々の強敵だったけど、このメンバーなら負ける気はしないね」


 カシューが窓の外を流れる荒野の景色を眺めながら言った。


「そうだな。特記戦力の全員と、最強の前衛だったカシューが加わったんだ。絶対の盾持ちだった聖騎士カーズがいないのが少々難点だが……それでも、かつての『最強のエデン』が戻って来た気分だ」


 グラザは腕を組みながら深く頷いた。


 一方、後部座席では静かな、しかし熱い女の戦いが繰り広げられていた。


「ん、抜け駆けしたせいでカグラに怒られた、不覚。カリナが私の膝の上にいない」


 エヴリーヌはカグラの膝の上で寛ぐカリナを恨めしそうに見つめた。


「自分で『抜け駆け』って言ってるじゃないの。それに、これはじゃんけんで公平に決めたんでしょ? ねー、カリナちゃん」


 カグラが勝利者の余裕たっぷりにカリナの赤い髪を撫でながら、背後からギュッと抱き締める。


「はは……。なぜあそこで、私はグーを出してしまったんでしょうか……」


 左窓際のサティアは、頭を抱えてがっくりと肩を落としていた。


「はあ……。そんなことで争わないで、順番にすればいいんじゃないのか? 別に私は逃げたりしないんだし」


 膝の上のカリナは呆れ顔で溜め息を吐いた。


「にしし、これだから天然たらしは言うことが違うねえ。常に独占しておきたい女心がわかってねえな」


 エクリアが運転席のガレオスに聞こえないよう小声で笑う。


「ん、エクリアの言う通り、常に独占したいのが女心」


 エヴリーヌも珍しくエクリアの意見に深く頷いた。


「まあ、カリナちゃんがそういう感情に疎いのは今更だからね。私達が愛情をしっかりと刻んであげるんだから」


 カグラはカリナの頬をつんつんと突きながら言う。


「そうですね……。次は絶対に負けません!」


 サティアが両手をグッと握り締めて謎の闘志を燃やした。


「はあ……仲良くしてくれないかな……」


 女心などさっぱりのカリナは、再び深々と溜め息を吐くのだった。



 ◆◆◆



 やがて装甲車は、エデン王都を囲む巨大な外壁へと到着した。門番達によって重厚な城門がゆっくりと開かれる。


「おかえりなさいませ、陛下!」「特記戦力の皆様、御無事で何よりです!」


 門番達が一斉に敬礼し、装甲車は外壁を抜けて、割れんばかりの歓声に湧く城下町へと入っていった。南西の空を激しく照らした極大魔法や神聖術の光、そして戦闘の轟音は、遠く離れた城下にも届いていた。不安に包まれていた国民達の前に、凱旋して来た一台の特別な装甲車。そこには、国王カシューをはじめ、エデンが誇る特記戦力達が全員乗っているのがはっきりと見えた。


 城下をゆっくりとパレードのように走る装甲車の窓を開け、カシューが手を振って国民の歓声に応える。


「エデン万歳!」「カシュー陛下万歳!」「エデンは最強だ!」「特記戦力万歳!!」


 沿道を埋め尽くす国民達から、熱狂的な声援が上がる。


「後列の女性陣の皆様も、国民に応えてあげて下さい」


 ガレオスの気の利いた提案に、窓際のエクリアとサティアが窓を開けた。


 国民からアイドル的な人気を誇るエクリアには男女問わず声援が飛ぶ。


「きゃーっ! エクリア様ーっ!」「今日も素敵だわ!」「何て美しいんだ!」


 黄色い声援が飛び、エクリアはにこやかに微笑みながら、内心では「いやー、人気者はつらいぜ。でも、こんな程度で国民が喜ぶなら、幾らでも演技してやるぜ」と自尊心が満たされまくっているのだった。


「ん、エクリアのその自称淑女の演技はいつ見ても面白い」


 エヴリーヌは隣で手を振りながらくすりと笑った。


「なんだと!? 完璧じゃねーか!」


 エクリアが小声で言い返すが、国民へ向ける優雅な笑顔は決して崩さない。


 サティアの慈愛のこもった聖女の微笑みや、カグラの扇子を優雅に扇ぎながらの艶やかな反応にも、次々と歓声が飛んだ。しかし、やはり国民から一番の、そして最も熱狂的な声援が飛ぶのは、カリナであった。


「カリナ様ーっ!」「今日も可憐だ!」「エデンの未来の光だ!」「何て可愛らしいの!!」


 まだ幼い少女の姿でありながら、特記戦力として未来のエデンを背負う、建国の英雄・聖騎士カーズの妹。


 NPCである彼らは、PCであるカリナが『成長しない、アバターの姿は変わらない』ことを知らない。そのため、これから美しく成長していくであろうエデンの未来を象徴するカリナの存在は、彼らにとって絶対的な「希望」なのである。老若男女問わず、誰もが彼女に熱狂的な声援を送っていた。


 カリナは少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに彼らの声援に手を振って応える。


「ふふ、カリナちゃんの人気は凄いわね」


 カグラが微笑ましく言った。


「ええ、聖騎士カーズの妹という期待度と、これから立派に成長していけば……という期待値もあるんでしょうね」


 サティアは国民の心情を代弁するように頷いた。


「ん、エクリアの嘘くさい人気とは大違い」


「にしし、まあいいんだよ。今の国民のアイドルは俺だからな。……まあ、俺達PCは姿が変わらないってのは、国民にとっては残酷な事実だな」


 エクリアは先程までの言い合いを忘れたように、少し自嘲気味に溜め息を吐いた。


「今の姿のまま変わらない……そのアバターの問題も、それを何とかするためにも、このエデンがどうなるかはわからないが、早く抜け出さないとな」


 カリナは手を振りながらも決意を込めた瞳で言った。


「ん、エクリアがまともなことを言っている、驚愕……」


「おい、そりゃ一体どういう意味だ!」


 またしても小声で言い合いを始める二人に、カリナは「エヴリーヌはなんで一言余計なことを言うんだろうな」と呆れるのだった。


 カシューは車内の魔法マイクを手に取り、国民に向けて語りかけた。


「愛すべきエデンの国民達よ! この五大国の王達が集結する歴史的瞬間を狙い、姑息な悪魔が強襲して来た。だが、安心して欲しい。私と特記戦力達で、奴を完全に討ち取った! これで魔軍四天王は壊滅だ!」


 ウオォォォォォォォッ!! という地鳴りのような歓声が上がる。


「残るは災禍六公の最後の一柱と、魔大陸に潜む巨悪のみ。悪魔の能力は強大だ。だが……我がエデンは、決して負けはしない! 明日には国を挙げての盛大な祝宴だ。だが、今宵この戦勝を祝うのは悪いことではない。大いに盛り上がるがいい!!!」


「カシュー陛下万歳!!」「エデンは最強だ!!」「今日も飲むぞーっ!!」


 王の力強い宣言に、城下町は最高潮の熱狂と賑わいに包まれた。



 ◆◆◆



 やがて城壁を抜けて、城門前に装甲車が停まり、一行は車から降りた。


「おかえりなさいませ、陛下!」「御無事で良かったです!」


 城の門番達が安堵の表情で城門を開ける。カシューを先頭に一行は城内を歩き、城仕えの者達やメイド隊達からも「おかえりなさいませ、陛下!」「御無事で本当に良かったです!」と涙ながらに出迎えられた。


「はははっ、心配を掛けたが私は無事だ」


 カシューは彼らに気さくに笑いかけ、そのまま玉座の間へと向かった。


 玉座の間では、代行達やライアン、クラウス、アステリオン、他国の騎士団長達や軍団長が、赤いカーペットの左右に並んでカシュー達の帰還を待ちわびていた。カシューとカリナ達が姿を現すと、広間に深い安堵の空気が広がる。


「おお……さすが陛下だ……!」「特記戦力の方々も全員無事だぞ……!」


 カシューが玉座に腰掛け、すぐさま執政官アステリオンが側に控える。玉座の前の最前列にはカリナ達特記戦力が、その後ろにはリーサ達代行、さらに後ろにはライアンやクラウス、ガレス、セオドア、ウィンディ、ハルカとマサムネが静かに跪いた。


「どうやら伏兵はいなかったようだな。私が留守の間、よくエデンを守護してくれた」


 カシューが臣下達を労い、激闘の報告を始める。


「敵は四天王の最後の一柱だった。恐るべき重力と防御無視の能力を持った悪魔だったが、私と特記戦力の連携で、完全に消滅させた」


 その言葉に再びざわめきが起こる。


「おお!」「さすが陛下だ!」「特記戦力も揃っていたのだ、陛下が負けるはずがなかったのだ!」


 出陣の際にはあんなにも反対していた者達が、今や興奮気味に称賛の声を上げていた。


「お前達の心配はわかるが、今後も私は最強エデンの国王として、最前線に立つだろう。……異論は認めん」


 カシューが王の威厳をもって断言すると、ライアン達は今度こそ何の反論もできず、「はっ!」と力強く応えた。


「では、今回の受勲を始める」


 カシューの言葉に合わせ、アステリオンがビロードの台座に乗せた『黄金の護国勲章』を恭しく運んでくる。カシューは立ち上がり、最前列に跪く特記戦力達の首に、一つずつ勲章を掛けながら声を掛けていった。


「サティア、お前の聖女の神聖術と鉄壁の防壁がなければ、全員が危なかった」


「もったいないお言葉です、陛下。神と精霊の導き、そして皆様の支えがあってこそです」


 サティアが聖女らしく優雅に頭を下げる。


「カグラ、いつもながら、見事な相克と陰陽の術理の極致だった」


「ふふ、恐れ入りますわ、陛下。私の術が、少しでも勝利への盤上を整えられたのなら重畳です」


 カグラも優雅に微笑んで応える。


「グラザ、お前の槍術も、まだまだ一級品だな」


「ありがたき幸せ。陛下の背中を守る盾にはなれませんでしたが、矛として少しは役に立てたようで何よりです」


 グラザは武人らしく短く答える。


「エクリア、お前の魔法はやはり凄まじい威力だった」


「にしし、当然だろ? ……あ、いえ。過分なお褒めの言葉、恐悦至極に存じます、陛下」


 エクリアは危うく素が出そうになるのを誤魔化し、完璧な淑女の演技でカーテシーをする。


「エヴリーヌ、お前の多彩な弓技が、見事に前線を支えてくれた」


「ん、お言葉、光栄の至り。……次も必ず、敵を射抜いてご覧に入れます」


 エヴリーヌは抑揚のない声ながらも確かな忠誠を示した。


「そして……カリナ。黄金の聖衣(ドレス)の力に助けられた。これからも特記戦力として、そして友として、エデンを支えてくれ」


 カシューが最後にカリナの首に勲章を掛ける。


「はっ! これからも、エデンとカシュー王のために、私の剣を捧げましょう」


 カリナも完璧なロールプレイで臣下の礼をとる。その凛々しい姿に、カシューは満足そうに微笑んだ。


「これで、五大国の祝宴前の最大の脅威は去った。歴史的な祝宴は明日の昼からだ。各自しっかりと休み、明日に備えるがいい。大儀であった! では、解散!」


 王の号令と共に、玉座の間は解散となった。



 ◆◆◆



 カシューの執務室。


 極度の緊張と死闘から解放された特記戦力達は、いつものようにソファーで寛いでいた。


 デスク側のソファーにはカシュー、真ん中には先程までの淑女の演技を完全に捨て去り、だらけ切った姿勢のエクリア、その右にはグラザ。紅茶とお菓子が並んだテーブルを挟んで、向かいのソファーの右側には、満面の笑顔でカリナを膝に乗せてギュッと抱き締めているサティア。真ん中にはカグラ、左にはエヴリーヌが腰掛け、和やかに談笑している。


「ふぅ、強敵だったけど、何とかなったね。まあ、このメンバーで負けるなんて全く思っていなかったけど」


 カシューが紅茶を飲みながら軽やかに笑う。


「にしし、実は戦闘狂だからな、我等が国王様は。しかしあの野郎、俺の魔法を消し飛ばしたり、重力で無効化しやがった、腹立つぜ」


 エクリアはソファーの背もたれに寄りかかりながら忌々しげに口にした。


「あの真魔解放状態では、近づくことさえできなかったからな。制限時間があるとは言っても、脅威に違いないな」


 グラザも腕を組んで分析する。


「中衛の私の場所まで、重力の領域が届いたからね。サティアの障壁がなかったら、本当に危なかったわ」


 カグラは冷や汗を拭う仕草をした。


「あの術は魔力の消費が激しいので、精霊王の加護がなければあそこまでの時間展開できませんでしたよ。全てはカリナさんの加護の御陰です」


 サティアが膝の上のカリナの髪を梳きながら謙遜する。


「ん、それに結局最後はカリナの聖衣(ドレス)に救われた。カリナの負担は減らしたかったのに、勝ったけど複雑。次はカリナに負担をかけずにハチの巣にする」


 エヴリーヌは悔しそうに宣言した。


「まあ、誰が欠けていても勝てなかったさ。聖衣(ドレス)はあくまで奥の手だ。使わずに決着を着けるのが一番なんだけどね……。今回はさすがに、相手がタフ過ぎたな」


 カリナはサティアの膝の上で苦笑した。


聖衣(ドレス)の使用は、カリナの体力を大きく削ることになるからね。今回のような強敵相手ではどうしようもなかったが、今後も僕達がカリナになるべく負担をかけないようにしないとね」


 カシューは真剣な表情で気遣う。


「にしし、カリナはお前と同じくらいの戦闘狂だぞ。いの一番に敵陣に突っ込むからな。出番を奪ったら、逆にストレスになるかもだぜ」


 エクリアが意地悪く笑う。


「まあ……確かにそれはあるな。あの闘争心は、リアルの性格も影響しているんだろうな」


 グラザも納得したように頷いた。


「はあ、もう。カリナさんは毎回心配をかけるんですから……」


 サティアは愛おしそうに、カリナを自分の柔らかな巨乳の胸元にギュッと抱き締めた。


「確かに心配になるけど、敵の攻撃は異常な身体能力で回避するからね。問題は疲労の蓄積よ。常に疲労が溜まらないようにケアは必要ね」


 カグラが的確な指摘をする。


「ん、あの症状が出ても私達が鎮めるけど、疲労の回復はサティアにかかっている。任せた、肉聖女」


 エヴリーヌはジト目でサティアの胸元を見ながら言い放った。


「に、ににに、肉聖女じゃないですから! もう、エヴリーヌさんはその口の悪さを直して下さい!」


 サティアが顔を真っ赤にして抗議する。


「にしし、こいつの口の悪さは筋金入りだからな、治らねーよ!」


 エクリアが大爆笑した。


「そうだな、俺も『脳筋チキン』なんて言われたからな」


 グラザも遠い目をして呟く。


「あはははっ! それは間違ってねーだろ!」


 エクリアは腹を抱えて笑った。


「……今までの自分の行動のせいで、くそ、返す言葉もない」


 グラザが肩を落とすと、執務室はドッと楽しい笑い声に包まれた。


 そんな賑やかなやり取りの中、いつの間にか抱き締められたサティアの胸の圧倒的な柔らかさと温もり、そしてミルクのような甘い香りに包まれたカリナは、うとうとと微睡み、静かな寝息を立て始めていた。


「ん、おのれ肉め……」


 エヴリーヌがギリッと歯噛みする。


「はいはい、寝てるんだから静かに」


 カグラは扇子でエヴリーヌの頭をすぱーんとひっぱたいた。


「……術で回復はしても、身体の奥には疲労が残るのかもね」


 カシューは穏やかな寝顔のカリナを見つめながら、静かに、しかし強い決意を込めて言った。


「カリナの精神がアバターに完全に飲まれてしまう前に……僕達は必ずこの世界を出て、カリナを救おう」


 その言葉に、エクリアも、グラザも、カグラも、エヴリーヌも、そしてサティアも、深く力強く頷き、心の中で誓い合った。


 こうしてエデン最大の危機は去り、世界最強の戦士達に見守られながら、カリナはサティアの温かい胸に抱かれて、静かに眠り続けるのだった。

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