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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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326  五大国集結、魔導列車が繋ぐ世界

 翌朝。西の武大国アーシェラ。


 王城の最上級貴賓室に差し込む柔らかな朝陽によって、豪華な天蓋付きのベッドで眠っていたクリスはパッチリと目を覚ました。


「よし、体調は万全だ! さすがの貴賓室のベッドだな、よく眠れたぜ」


 クリスは極上の柔らかさを誇る布団を跳ね除け、ばっと勢いよくベッドから飛び起きた。寝間着を脱いで手早く身支度を整え、いつものエデンの格闘術士としての武闘着に袖を通す。長い水色の髪をツインテールに纏め、胸元にエデンの国章である黄金の獅子が刺繍された黒のトップスに、白い帯を締める。エデンを出発した時と変わらぬ、スペアがたくさんある凛々しい格闘術士の正装だ。


 クリスは洗面台で顔を洗い、用を足して全ての準備を整える。やがて侍女達によって運ばれて来た朝食をしっかりと平らげると、サキラ女王を迎えに行くために謁見の間へと向かった。


 玉座の間に足を踏み入れると、そこには既に出発の準備を整えたアーシェラの首脳陣が揃っていた。豪華な玉座には、息を呑むほど美しい黒髪のサキラ女王が腰掛け、その膝の上には幼い息子のシリュウがちょこんと抱かれている。彼女の側には、実務を取り仕切る夫である宰相の男性が静かに控えていた。


 さらに赤い絨毯の左右には、アーシェラが誇る戦力達が集まっている。格闘術士軍団長のコウマと騎士団長のショウキ。そして、ドラゴンベイン・オーダーのメンバーであるエリック、氷の魔法剣士テレジア、連接剣の使い手ディード、相克術士のシャオリン達が待機していた。


「おはようございます。では、これからエデンへ向かいます。魔導列車は一日一本ですので、急ぎましょう」


 クリスは玉座の前に進み出ると、恭しく跪いて出発を促した。


「うむ、そうじゃな。……では行こうか」


 サキラは優雅に頷くと、シリュウをしっかりと抱っこして立ち上がった。


「では、留守は任せるぞ」


 サキラが夫である宰相に声をかける。


「はっ。どうかお気を付けて、行ってらっしゃいませ」


 宰相は深く頭を下げた。


 一行は玉座の間を後にし、堂々たる足取りで王城の巨大な城門へと向かった。門番達が重厚な音を立てて内側から城門を大きく開け放つ。


「陛下、いってらっしゃいませ! お気を付けて!」


 ずらりと並んだ門番達が、一斉に力強い敬礼をして女王達を送り出した。城門の前には既に準備されていた馬車に一行が乗り込み、後続の馬車にはアーシェラの軍や騎士団の精鋭達が次々と乗り込んでいく。準備が整うと、車列はゆっくりと動き出し、アーシェラ・セントラル駅へ向けて出発した。


 先頭を走る豪華な広い馬車の中では、ふかふかの座席にサキラと、彼女の膝に乗る息子のシリュウが座っている。その左右を警護するようにショウキとコウマが腰を下ろしていた。そして向かいの座席には、使者であるクリスと、護衛役のドラゴンベイン・オーダーのエリック、テレジア、ディード、シャオリンが並んで座っていた。


「いよいよ魔導列車に乗れるのじゃな。ふふ、楽しみじゃ」


 サキラは車窓から流れるアーシェラの街並みを眺めながら、艶やかな唇に笑みを浮かべた。


「乗り心地は最高に快適ですよ。思わず居眠りしてしまうほど揺れませんし、ヨルシカの術士達が張った結界で安全も保障されています」


 クリスは自信を持って太鼓判を押す。


「そうかそうか、ますます楽しみじゃな。……のう、シリュウよ」


 サキラは慈愛に満ちた瞳で、膝の上の息子に話しかけた。


「エデンに行ったら、カリナお姉ちゃんに会える?」


 シリュウは目を輝かせ、無邪気な声で尋ねた。


「そうじゃな。会えるぞ」


 サキラが優しく頭を撫でると、シリュウは嬉しそうに笑った。


「ははっ、カリナ様はどこに行っても人気者になりますね。私の師匠のグラザとは大違いです」


 クリスは思わず苦笑いを漏らした。


「ほう。カリナは、エデンでも人気なのか?」


 サキラが興味深そうに尋ねる。


「はい、カリナ様は誰からも愛されていますね。城の者達にも、城下の民達にもです。カリナ様の調子が悪いと、城の中の雰囲気が暗くなるほどです。しかも実力は、あの若さで特記戦力の中でも群を抜いています。あのまま成長すればどんな強さになるのか恐ろしいですよ」


 クリスは真剣な眼差しで、エデンが誇る最強の召喚魔法剣士の実力と人望について語った。窓際で話を聞いていたエリックはPCであるため、同じPCのカリナがこれ以上肉体的に変化しないことは知っているが、話を合わせて口を開いた。


「そうだな。アーシェラの北の滝の前で腐っていたグラザとガチの殴り合いをしてぶっ飛ばすくらいだ。しかも、アレキサンドでの剣術大会では、女神が相手じゃなかったら間違いなくアイツが優勝してたぜ。さすが聖騎士カーズの実の妹だけあって、実力も半端じゃねえ。まあ、俺も大会でアイツに負けちまったしな!」


 エリックは笑い飛ばし、カリナの数々の武勇伝を褒め称えた。


「そうだ、エリック。グラザ様がお世話になったと聞いた。礼を言わせて欲しい」


 クリスは姿勢を正し、エリックに向かって頭を下げた。


「はははっ! そんなこと気にすんな。またエデンでアイツと飲み比べしねーとな!」


 エリックは全く気にした様子もなく笑い飛ばした。


「ほら、昨日言った通りでしょう? 団長の性格じゃあそんなの気にしませんよ」


 テレジアとディードがクリスに向かって言う。


「ははっ、そうみたいだな」


 クリスもつられて明るい笑い声を上げた。


 やがて、アーシェラの街並みにそぐわない近代的な建物、アーシェラ・セントラルの駅が見えて来た。


「あ、着きましたよ」


 シャオリンが言い、一行は馬車から降りる。そして、クリスの案内で構内に入っていく。


「一般客は券売機でチケットを買うんですが、私達はVIP扱いなので顔パスです。こちらのゲートから入れます」


 クリスが先導して案内する。駅の広大な構内を行き交う国民達は、一行の姿に気付くと一斉に歓声を上げた。


「おお、サキラ女王陛下だ!」「エデンへ向かわれるのでしょうか?」「シリュウ王子は相変わらず可愛いわ」「エリック達もいるぞ! 護衛か?」「さすが我が国の誇るAランクギルドのドラゴンベイン・オーダーだな」


 国民達からの声を聞き流しながら、クリスの先導でアーシェラ号のホームに向かう。ホームのすぐ隣にはもう一本の線路が伸びており、そこからは東のヨルシカへと向かう『武大・陰陽号』が今後開通するための工事が進んでいるのが見えた。


「これは皆様。こちらのVIP席へどうぞ」


 車掌の恭しい案内に従い、一行は豪華なVIP席へと乗り込んだ。車掌から、魔導列車の説明や、VIP席の客は運ばれて来る飲食は全て無料サービスだという説明を受ける。


 豪華な席にサキラとシリュウが並んで腰掛け、向かいに使者のクリスが座る。通路を挟んで向かいの席にはドラゴンベイン・オーダーのメンバーが座り、その他の席には軍の精鋭達が座った。


 やがて車内アナウンスが流れ、アーシェラからエデンへ向けて、魔導列車が滑るように加速して走り始める。


「これが魔導列車か。エデンの技術は素晴らしいのう。ヨルシカの結界も見事なものじゃ」


 サキラは、ガタンという揺れ一つ感じさせないまま、窓の外の景色が凄まじいスピードで後方へと流れていく様を見て、深い感嘆の声を漏らした。シリュウも窓ガラスにへばりつくようにして、流れる景色にキラキラと目を輝かせている。


 こうして、西の大国からの使節団を乗せたアーシェラ号は、一路エデンを目指して疾走していくのだった。



 ◆◆◆



 一方、マギナ。


 こちらでも朝の準備を済ませたレミリアが、代行の衣装に着替えていた。茶髪のセミロングを整え、白を基調としたローブに高貴な黄色のリボンがあしらわれたいつもの魔法使いの衣装を身に着ける。


 美味しいマギナ式の朝食を取ったレミリアは、王城の美しい玉座の間に向かい、シャーロット女王達と共に出発の準備を進めていた。


「では参りましょう。カシュー殿の待つエデンへ」


 豪華なドレスを纏ったピンクのロングヘアが美しいシャーロット女王が、気品に満ちた声で告げた。


「留守の間は、任せますわ」


 シャーロットが実務を担う宰相の男性に声をかける。


「はっ、どうか道中お気を付けて」


 宰相は深く頭を下げた。


「魔導列車は一日一本の運行ですから急ぎましょう、陛下」


 レミリアが静かに進言する。


「ええ、そうしましょう」


 シャーロットは微笑んで頷き、マギナ魔法使い軍団長のエルザと魔法騎士団長のブレイズを伴って、玉座の間を歩き出した。一行が巨大な城門を抜ける際、ずらりと並んだ門番達が一斉に姿勢を正す。


「行ってらっしゃいませ!」


 力強い声援に送り出され、城門前に待機していた豪華な馬車に次々と乗り込んだ。先頭の王族専用の馬車にはシャーロット女王が優雅に腰掛け、その向かいには使者のレミリアと、護衛のエルザ、ブレイズが並んで座る。後続の馬車には、マギナが誇る魔法使い軍や騎士団の精鋭達が乗り込んだ。馬車は、白と金を基調とした芸術的な彫刻が並ぶマギナの洗練された街並みを滑るように抜け、巨大なマギナ・セントラル駅へと到着した。


 駅の構内は、魔導光の淡い光で幻想的に照らされている。行き交うマギナの国民達は、馬車から降り立つ女王一行の姿に気付くと、一斉に歓声を上げた。


「おお、シャーロット女王陛下だ!」「エルザ様やブレイズ様もいらっしゃるぞ!」「いよいよ魔導列車でエデンへ向かわれるのだな。どうかお気を付けて!」


 国民達からの温かい声援を受けながら、レミリアの案内でVIP客のゲートを顔パスで抜け、車掌の案内でマギナ号のVIP席へと乗り込む。


 ホームの奥には、もう一本のまだ工事中の路線が見えた。北東のルミナスとを繋ぐ『聖光・魔法号』が走る予定の大規模な新路線の工事が進められている。だが、北西のアーシェラへ向かう路線については、途中に凶悪な魔物達が巣食う広大な『魔大陸』の前を走ることになるため、安全上の理由から現在のところ開通予定はない。


「こちらへどうぞ、皆様」


 車掌の恭しい案内に従い、一行はマギナ号の特別車両、VIP席へと乗り込んだ。VIP席のふかふかの豪華な座席にシャーロットが優雅に腰掛け、その向かいの席にレミリアとエルザが並んで座った。通路の向こう側の座席にはブレイズと騎士団の精鋭数名が陣取り、他の車両の席にはマギナの軍の精鋭達が座っている。


 車掌から魔導列車の構造や、VIP席の客の飲食は全て無料であるという説明を受け、やがて静かな車内アナウンスが流れた。魔力炉が静かな駆動音を上げ、マギナ号はエデンへ向けて滑らかに発進した。


「素晴らしいですわね……。エデンの科学力と魔法工学の力に、ヨルシカの術の完璧な融合。全く揺れないなんて」


 シャーロットは窓の外を凄まじい速度で流れ去る景色と、一切の不快な振動がない車内の快適さ、そして列車の周囲を覆う絶対の結界の力に、心底驚いたように感嘆の声を漏らした。


「夕刻にはエデンに到着します。とはいえ長旅にはなりますので、道中はごゆっくりして下さいね」


 レミリアは上品な笑みを浮かべて気遣う。


「ええ、そうさせて頂きますわ」


 シャーロットは優しく微笑み返し、魔法の力が切り拓いた新たな景色を静かに眺めるのだった。



 ◆◆◆



 その頃、東のルミナス聖光国からも、ジラルド王と側近達、かの国が誇るAランクギルドのルミナスアークナイツ、団長である聖騎士カーセル、槍術士カイン、陰陽術士ユナ、神聖術士テレサが護衛として乗り込み、ルミナス号がエデンへ向けて発進していた。


「陛下、セラフィナ様は今回はお連れしなくても良かったのですか?」


 カーセルが向かいの席に座るジラルド王に尋ねた。普段であれば、王の行くところには必ずあの破天荒な第一王女が同行を我儘を言ってついて来るからだ。


「うむ。あのお転婆のせいで、大事なカリナに無用な迷惑を掛けて、また過労にでもなられては敵わんからな。今回は仕置きも兼ねて、城で大人しく留守番だ。……まあ、案の定置いていく時は城中で大暴れしおったがな」


 ジラルドは留守番を命じられた娘の凄まじい癇癪を思い出して「ハッハッハ!」と笑い飛ばした。


「はは……、それは壮絶そうですね」


 カーセルは、城の被害を想像して引きつったような苦笑いを浮かべる。


「まあ、あれだけ四六時中ベッタリくっつかれていればなあ。さすがのカリナちゃんでも、精神的に疲労するだろうぜ」


 カインも、セラフィナの異常なまでのカリナへの執着ぶりを思い出して肩をすくめて笑った。


「そうね。セラフィナ様には少し可哀想だけど、カリナちゃんはこの世界の命運を握る程の大切な力があるもの。無駄に体調を崩されるのは困るわね。……ああー、私はまたカリナちゃんの可愛らしい召喚体のケット・シー隊員ちゃんに会いたいわ」


 ユナがうっとりと頬に手を当てて言う。


「カリナさん達特記戦力の方々に会うのも、本当に久しぶりですね。私達ルミナスアークナイツもエデンの合同鍛錬に参加しますから、一から死ぬ気で鍛え直しましょう」


 テレサは自身の手にする杖を握り締め、来るべき厳しい鍛錬に向けて真剣な表情で言った。


「ウチの聖騎士団や神聖術士軍の連中も、エデンでは相当に厳しく絞られているらしいからな。……さて我等も、久々の魔導列車の旅を存分に楽しむとするか」


 ジラルドが上機嫌に言い放ち、快適なソファーに深く身を預けた。ルミナス号もまた、結界に守護されながら、凄まじい速度でエデンへ向けて走り続けていくのだった。


 そして、北のヨルシカからもカリナとの再会を心待ちにするソウガ王達を乗せたヨルシカ号が既に発進していた。エデンに最も近い中央のアレキサンドからは、昼頃にレオン王を乗せたアレキサンド号がエデンへ向けて出発する予定となっている。


 世界を繋ぐ魔導列車の開通により、五大国連合の歴史的な祝宴に向けて、各国の王と最高戦力達が続々とエデンを目指して集結しつつある。だが五大国連合の祝宴に向けて各国の王達がエデンを目指す中、エデンではやはり暗雲が立ち込めようとしていたのだった。

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