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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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311  勝利の凱旋と英雄達の帰還

 荒涼とした大地に、重厚なタイヤの駆動音が轟々と響き渡る。エデンへと向けて爆走する戦車隊の装甲車軍の車内は、過酷な死闘を潜り抜けたばかりとは思えないほど、勝利の安堵と明るい高揚感に満ち溢れていた。


 南西の砦から帰還する大型装甲車。その広い車内には、各特記戦力から軍の指揮を任された優秀な代行達が乗り込んでいた。


 助手席には、弓術士代行のエリアスが陣取っている。そして広い後部座席の前列には、魔法使い代行のレミリア、神聖術士代行のジュネ、相克陰陽術士代行のユズリハが並んで腰掛け、その後列には格闘術士代行のクリスと、カリナの召喚術士代行であるリーサが座っていた。


 特記戦力が本命の戦場へと向かい、実質的に自分達だけの指揮で数千の魔界兵団と侯爵クラスの悪魔を討伐したという事実は、彼らの胸に確かな自信と誇りを刻み込んでいた。内部は、互いの健闘を称え合う賑やかな雰囲気に包まれている。


「今回も、エデンを侵略する魔の手から、この国と民を無事に守ることができました。エクリア様の指導によるレーザー魔法の成果も、実戦で上々でしたね」


 レミリアが、透き通るような声で優雅に微笑みながら口を開く。


「あれほどの大軍を相手にして、前衛にも後衛にも死者が一人も出なかったことは、まさに奇蹟と言っても過言ではありません。各軍もこれまでの血の滲むような合同訓練で得た新たな戦法が見事に機能し、討伐は非常にスムーズでしたね」


 ジュネが、両手を胸の前で合わせながら、安堵の息を吐き出して言う。


「はい。私達の陰陽術や相克術はまだまだ緻密な練度を上げる必要がありますが、今までとは毛色の違う悪魔の兵団に対しても、私達の術理は十分に通用し、戦果を挙げることができましたね」


 ユズリハが、浅黄色のロングヘアを揺らしながら深く頷く。


「エヴリーヌ様から厳しく指導された魔法弓も、まだまだ集中力や魔力効率の練度を上げる必要はあるが、実戦の極限状態でも既に十分通用するレベルに仕上がって来てるぜ。本当に、どの軍もこの短期間でかなり練度が上がって来てるな!」


 エリアスが、助手席から後ろを振り返り、豪快に笑いながら手応えを口にする。


「へっ、グラザ様の地獄のような立ち合い指導の御陰で、ウチの格闘術士軍の肉弾戦も上々の仕上がりだ。でも、鍛錬期間はまだまだ残ってるからな。これからさらに極限まで仕上げていくぜ」


 クリスが、拳をゴキキッと鳴らしながら、血気盛んな笑みを浮かべる。


 そんな代行達の賑やかな会話を聞きながら、リーサは傍らの座席で静かに丸くなっている神狼フェンリルの美しい毛並みを優しく撫でていた。


「またこうして、みなさんと共にエデンを守ることができました。……これも全て、みなさんの完璧な連携と協力の御陰です」


 リーサが、少し恥ずかしそうに目を伏せながら謙遜して言う。それを聞いた代行達は、呆れたような顔を見合わせ、口を揃えて言った。


「「「何をそんな謙虚なことを!」」」


「全くだ! お前は一人でシャドウナイトやホーリーナイト、それにワルキューレ達の召喚体の大軍を完璧に指揮することができるんだぞ。一人で一軍に匹敵する大活躍だったじゃねえか。もっと堂々と胸を張れよな!」


 クリスが、リーサの華奢な肩にガシッと腕を回し、自分のことのように誇らしげに言う。


「そうです。しかも、カリナ様の精霊王の加護による絶対的な特攻と能力の底上げがあったとはいえ……侯爵クラスの強大な悪魔を、五属性の魔法剣技という神業で単独で屠ったのですよ。リーサさんの力は、もはや代行の器に収まるような才能じゃないですよ」


 レミリアが、リーサの常軌を逸した剣才と成長速度に心底感服した様子で言う。


「はい、カリナ様とのあの想像を絶する激しい立ち合い鍛練を、平然とこなしているほどのレベルです。リーサさんは、もう特記戦力の方々に肩を並べるだけの実力ですよ」


 ジュネも、興奮気味に大きく頷く。


「ええ、カリナ様の直属の召喚術士軍はまだ新設されたばかりの軍ですから、一般の兵はいませんが……もし将来、カリナ様とリーサさんがお二人で共に戦場の最前線に立つのを想像するだけで、味方ながら震えますね」


 ユズリハが、その圧倒的な光景を脳裏に思い描き、身震いするように肩を抱く。


「そうだぜ、リーサ。いくら弱体化していたとはいえ、公爵に次ぐ侯爵悪魔を一対一で完全に討ち取れるのは、今の代行の中でも間違いなくお前しかいねえ。もっと自分の力を誇れ!」


 エリアスが、親指を力強く立ててリーサを称賛する。仲間達からの手放しの絶賛を受け、リーサは顔を赤くして首を横に振った。


「いえ、まだまだです。確かに、カリナ様の御指導の御陰で五属性までの魔法剣技は習得出来ましたが……カリナ様が使われるような、とんでもない召喚術は、まだまだ今の私には使えません。何より、カリナ様と同じ『聖衣(ドレス)』を纏えるようになるのが、今の私の最大の目標ですから」


 リーサの瞳に、偉大なる主への揺るぎない忠誠と、さらなる高みを目指す強い光が宿る。


「おいおい、一人で勝手にどんどん先に行くなよな! あたし達は全員で、エデンの軍を預かる代行なんだからな!」


 クリスが、頼もし過ぎる戦友の背中をバシバシと景気良く叩く。


「はいっ! みなさんと一緒に、まだまだ強くなって……この美しいエデンを守ります!」


 リーサが、弾けるような純粋な笑顔で答える。


「自分達もリーサさんに負ける訳にはいかないですね!」


「ええ、さらに上を目指しましょう!」


 一同はみな、互いに切磋琢磨する誓いを立て、装甲車の車内は明るい笑い声に包まれるのだった。



 ◆◆◆



 代行達の乗る車両のすぐ後ろを走る装甲車。こちらの車内には、エデンと同盟を結ぶ他国の歴戦の長達が乗り込んでいた。


 助手席には、エデン王国副騎士団長のライアンが座り、広い後部座席の前列にはアレキサンド騎士団長のガレスとルミナス聖騎士団長のセオドアが並んで座っている。そしてその後列には、ヨルシカから派遣された相克術士部隊長のハルカと、陰陽術士部隊長のマサムネが腕を組んで座っていた。


「カリナ様の熱心な御指導の御陰で、我がアレキサンドの騎士達も、魔法剣の習得ができた。……それにしても、あれほどの絶望的な規模の戦場はこれまで経験したことがなかったが、エデンの戦力は本当に圧倒的だったな」


 ガレスが、車窓から流れる景色を見つめながら、未だ冷めやらぬ興奮を口にする。


「ああ。特記戦力の方々がいない戦場でも、各軍の代行達が見事に指揮を執り、連携に一切の混乱もなかった。……しかし、あのリーサ殿の力は凄まじかったな。一軍に匹敵する召喚体数に加え、五属性を操る魔法剣技。あれでは悪魔の軍勢でも手も足も出まい」


 セオドアが、リーサの常識外れの戦いぶりを思い出して深い溜め息を吐く。


「ふっ……。以前は、カリナ様の課す基礎訓練について来るのも精一杯だったあの可憐な少女が、今や特記戦力にも並び立つほどの実力になっている。本当に、恐るべき成長スピードだよ」


 ライアンが、リーサのひたむきな努力の軌跡を思い返し、目を細めて嬉しそうに笑う。


「あの召喚術士代行のエルフの少女ですか。確かに、彼女だけは明らかに他とは次元の違うレベルにありましたね。圧倒的な召喚術に、多彩な魔法剣技。エデンには、本当に有望な人材が豊富に揃っていますね」


 ハルカが、感心したように相槌を打つ。


「ああ。彼女一人の存在が、戦局そのものを大きく左右するほどだった。あの禍々しい悪魔の魔界兵団を召喚術と魔法剣技でねじ伏せ、果ては強大な侯爵悪魔まで単独で討ち取るとはな。……これは、我々ヨルシカもうかうかしてはおられんな」


 マサムネが、武者震いするように呪符を固く握り締める。


「うむ、我等もこの勝利に驕ることなくもっと腕を磨かなくては。来たるべき、悪魔との真の決戦のためにも……明日からさらに鍛錬を厳しくしなくてはな!」


 ライアンの力強い決意の言葉に、各国の長達も深く頷き合う。やがて、戦車隊の重厚な装甲車両の列と、兵士達を乗せた一団は、エデンの巨大で堅牢な外壁の門を次々と通過し、熱狂に包まれる城下へと入っていくのだった。



 ◆◆◆



 一方、一番遠い南東の砦の戦場から、爆速でエデンの城下へと向かって土煙を上げて進む二台の装甲車両があった。ガレオスが荒々しく運転する先頭車両には、グラザとエクリアが後部座席に乗り込んでいる。


「ふぅ……今回は、かなり危険な相手だったな。カリナの瞬時の機転と戦術眼がなければ、腐食の力にやられて負けていたかもしれん」


 グラザが腕を組みながら、四天王ヴァルディクの理不尽な能力を思い返して渋い顔をする。


「魔法や術を侵食して無効化する相手とはな。悪魔にも、ああいう厄介な能力持ちがいるもんだな」


 エクリアは、運転席にガレオスがいるため、彼に聞こえないように小声で、しかし素の口調のまま吐き捨てる。


「カーズがいない今、このエデンの近接戦闘役は俺とカリナ、そしてカシューのみだ。しかし、カリナの本来のクラスは召喚術士であり、中間距離での戦いの方が向いているはずだ。あの細い少女の身体で、最前線の近接戦闘をこなすのは相当な負担のはず……。俺達がもっとしっかりしないとな」


 グラザが、前衛としての己の責任を噛み締めるように言う。


「まあ、カリナの中身は本来、前衛特化のカーズの戦闘スタイルが骨の髄まで身に付いているからな。いつもの大盾がないから多少不安にはなるが、あの異常な反射神経だ、そう悲観することはねーさ。多少の攻撃なら、あいつは軽く回避するぜ。……元がサッカーの日本代表候補で、未来を嘱望されてたフィジカルエリートの逸材だ。ただのゲーマーの俺達とは、根本的な能力の土台が違うからな」


 エクリアが、現実世界でのカリナの圧倒的なポテンシャルを引き合いに出し、小さく笑う。


「俺も、一応格闘技をやってきてたんだがなあ……」


 グラザが、少しだけ自信なさげに呟く。


「にしし! 凡人の格闘技かじった程度と、国を背負うレベルのフィジカルエリートじゃ、土台の出来が違い過ぎるだろ」


 エクリアが、遠慮なく小声でグラザをからかって笑う。


「悪かったな。どうせ俺は、カリナと違ってただの凡人だよ」


 図星を突かれたグラザが、子供のように口を尖らせてそっぽを向く。


「そろそろ、エデンの城下に入ります! お二人共、窓から国民の皆様に応えてあげて下さい!」


 運転席のガレオスが、明るい声で後部座席に声をかける。その声を聞いた瞬間、エクリアは表情を一変させ、完璧な『淑女のスイッチ』を入れた。


 二人は城下に入った装甲車の窓を大きく開け、押し寄せる国民の歓声に対し、英雄としての威厳と優雅な微笑みをもって応えるのだった。



 ◆◆◆



 そして、その後方を走るもう一台の車両。


 広い後部座席の中央では、エヴリーヌが疲労したカリナを愛おしそうにしっかりと抱き締め、その細い背中にすりすりと顔を押し付けていた。


「ん……カリナは小さくて、可愛くて、本当に良い匂い……」


 エヴリーヌが、くんくんとカリナの甘い匂いを嗅ぎながら、至福の表情でご満悦の声を漏らす。


「おい、エヴリーヌ。そろそろ普通に座席に座らせてくれないかな……」


 カリナが、エヴリーヌの腕の中で少しだけ困った顔で抗議する。


「ちょっとエヴリーヌ! アンタいつまでカリナちゃんを独占してんのよ! 私と代わりなさい!」


 左隣に座るカグラが、扇子でエヴリーヌの肩をペチペチと叩きながら嫉妬の声を上げる。


「ああ、私もカリナさんを膝に乗せて、優しく癒してあげたいですー!」


 右隣に座るサティアも、身を乗り出して羨ましそうに言う。


「ん、これは母乳係である私の正当な特権。エロ巫女とむっつり聖女は、お呼びでない」


 エヴリーヌが、一切の表情を変えずに淡々とした口調で、二人に向かってとんでもない爆弾発言を投下する。


「なっ……! 何ですって!? 誰がエロ巫女よ!!」


 カグラが顔を真っ赤にして激怒し、エヴリーヌの後ろだけ長いお下げ髪をギュッと引っ張る。


「むむむっ、むっつりじゃありませんから!!」


 サティアも顔を茹でダコのように真っ赤にし、涙目で猛抗議する。死闘を終えた直後とは思えない、特記戦力達のあまりにも平和でコミカルな争いに、カリナは深い深い溜め息を吐いた。


「おい、お前ら。もう城下に入ったぞ。外で待っている住民の歓声に応えてやれよ。それが、私達特記戦力の仕事だろ」


 カリナが、呆れ顔で三人を諭す。


「ふふっ、そうね。カリナちゃんの言う通りだわ」


「はい、そうですね!」


 カグラとサティアが気を取り直し、装甲車の左右の窓を大きく開け放つ。そして、街道の両脇を埋め尽くすように集まったエデンの国民達の割れんばかりの声援に対し、優雅に手を振って応え始めた。



 ◆◆◆



 エデンの城下の大通りは、足の踏み場もないほどの群衆で溢れ返っていた。


 国民達は、三つの方角の遠く離れた砦の方から、空を焦がす激しい魔法の閃光や、大地を揺るがす術の炸裂音、そして鋭い剣戟の音が響いてくるのを、祈るような気持ちで聞いていたのだ。


 しかし今、その恐ろしい音は止み、自慢のエデン軍と特記戦力達が、此度も無事に勝利を収めて堂々と凱旋してきた。その事実に、民衆の熱狂は最高潮に達していた。


「うおおおおおっ!! エデン軍が帰ってきたぞ!!」「エデンは最強だ!!」「我らがカシュー王、万歳!!」「エデン万歳!! 特記戦力の方々、万歳!!」


 一番先頭を走る代行達の装甲車や、騎士団を乗せた武骨な装甲車に向けて、惜しみない歓声と拍手、そして美しい花吹雪が降り注ぐ。続いて現れた特記戦力達の車両には、さらに凄まじい熱気が向けられた。


「エクリア様ーっ!! こっち向いてー!!」「今日も最高にお美しいですわ!!」


 国民にとっての絶対的なアイドルであるエクリアへ、悲鳴のような黄色い声援が飛ぶ。エクリアは完璧な淑女の微笑みでそれに応える。


「カグラ様! サティア様! ありがとうございます!!」「グラザ様! エヴリーヌ様! 復帰おめでとうございます!!」


 カグラの妖艶な微笑み、サティアの慈愛に満ちた笑顔、グラザの力強いガッツポーズ、エヴリーヌの静かな会釈。それぞれのアクションに、群衆は熱狂の渦に巻き込まれる。


 そして、何よりも大きな歓声が、最後尾の車両に向けられた。


「カリナ様ーーっ!!!」「今日も可憐で、強くて最高だ!!」「エデンの光! 俺達の希望!!」


 カリナは、窓から顔を見せ、エヴリーヌの膝の上に乗ったままという少し恥ずかしい体勢ではあったが、愛すべきエデンの国民達の笑顔に向けて、凛とした表情で力強く手を振るのだった。


 こうして、エデンに迫り来る魔軍四天王と数千の魔界兵団の襲撃を、見事な連携と絆で撃退したエデン軍と連合軍は、国中を包み込む華やかで熱狂的な凱旋パレードの中、カシュー王の待つ王城へと誇り高く帰還するのであった。

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