310 概念腐食を断ち斬る磨羯の聖剣とエデンの絆
カリナ達の攻撃で黒い血を流し、膝をついた四天王の一柱、侵蝕智将ヴァルディク・ノクスフィアの周囲の空気が、突如として異様なまでに重く、そしてどす黒く変色し始めた。
彼の紫の瞳と、魔法陣の紋様が浮かぶもう片方の瞳が、限界まで見開かれ、そこから禍々しい光が漏れ出す。
「……いいだろう。ならば、我も真の姿で貴様等の全てを朽ちさせてやろう」
ヴァルディクの3mほどの長身痩躯が、ズブズブと空間に溶け込むように半透明に透け始めた。その身体に刻まれた魔法陣の眼が常時展開状態となり、周囲の空間そのものを強制的に侵食し、朽ちさせるほどの圧倒的で禍々しい魔力が、爆発的に跳ね上がった。背中の骨張った翼が、実体を失い、まるで影のように不気味に揺らいでいる。
「真魔解放……『侵蝕思考体』」
ついに、ヴァルディクがその真の力を解放した。
彼がその言葉を発した瞬間、足元の大地が急速に色を失い、ボロボロと砂のように崩れ去っていく。草は一瞬で灰となり、周囲の水分が完全に奪われ、荒野が死の砂漠へと姿を変えていく。これまでの静かなる腐敗とは次元の違う、空間そのものを朽ちさせる絶対的な侵食の力が、カリナ達に牙を剥いたのだ。
「これがこいつの真魔解放か……! だが、あのような強力な形態には必ず時間制限や魔力消費などの弱点があるはずだ! ここは耐えろ!」
カリナが、真紅のバトルドレスの裾を翻しながら、仲間達に鋭い指示を飛ばす。
「はいっ! 『サンクチュアリ・ウォール』!!」
サティアが即座にメイデンロッドを掲げ、神聖術による純白の障壁を四人の周囲に何重にも展開するが、侵食の波が壁に触れるたびに、ジュウウウッと不気味な音を立てて光が削られていく。
「ん、わかった。……観察する」
エヴリーヌは神弓アルテミスに矢を番えたまま、極限の集中力を研ぎ澄ませ、ヴァルディクの僅かな挙動の変化すらも見逃さぬよう待機する。
「フハハハハッ! 無駄な足掻きを。我が『魔力侵蝕』は、触れた魔法、術、魔力構造の全てを一瞬で劣化させる。物理攻撃には無力かもしれんが、この半透明の身体では物理的干渉すらまともに受けることはない! 真魔解放の能力を破れるハズなどないのだ!」
ヴァルディクは、己の絶対的な優位性を誇示し、カリナ達を絶望させるかのようにその能力の情報をべらべらと喋り立てる。
「ふん! 真魔解放か何だか知らんが、そんなものはただのハッタリだ!!」
グラザが、その言葉に耳を貸さず、サティアの結界から一気に飛び出した。
「オラァァァッ!!」
グラザの極限まで鍛え抜かれた剛腕が、ヴァルディクの顔面を捉え、魔力を一切込めない純粋な格闘術の連撃を叩き込む。
ドゴォォッ! バゴォォッ!
重い打撃音が響くが、半透明となったヴァルディクの身体には僅かな物理ダメージが通るのみで、その拳の大半は幻影を殴るかのように空しくすり抜けてしまう。
「フハハハ! 愚かな! この姿の我に直接攻撃を仕掛けたな! 受けるがいい、我が深淵の力を! 最強のカウンター技を!!」
ヴァルディクが、狂気に満ちた笑い声を上げながら、両腕を大きく広げた。そして、周囲の空間を震わせるような、重く長大な詠唱を開始する。
「天地に紡がれし理の糸よ、
虚飾に満ちた円環よ。
万物は等しく流転し、
如何なる神秘もやがて泥へと還る。
構築せし式は綻び、
祈りの果てには絶対の終焉が待つ。
我は静寂、我は停滞。
万象を朽ちさせる深淵の理なり。
描かれし術理を腐食させ、
形無き無へと帰散せよ」
詠唱が進むにつれて、ヴァルディクの周囲に展開されていた黒い魔力の渦が、極限まで圧縮されていく。それは、ただの物理的な破壊ではなく、対象の存在そのものを腐らせ、崩壊させる絶対死の波動。
「――奥義・『侵蝕崩式』!!!」
ズガガガガガガガァァンッ!!!!
ヴァルディクの黒杖から、肉体までも侵食し、細胞の1つ1つを朽ちさせる強烈な腐食の衝撃波が、前衛で攻撃を仕掛けていたグラザに向けて放たれた。回避不可能な速度と範囲。まともに食らえば、屈強なグラザの肉体すらも一瞬で塵と化すだろう。
「グラザ!!!」
しかしその瞬間、後方にいたカリナが、瞬歩の極致たる速度でグラザの前に飛び出した。
「来い! ライブラの円盾よ!」
カリナが魂の底から叫ぶ。
カッ!!!
眩い閃光と共に、カリナの両手に黄道十二宮の天秤宮を司る、黄金に輝くライブラの円盾が二対展開された。黄金の輝きを放つ絶対防御。円盾の周囲には、物理と魔力の双方を完全に遮断する強固なオーラの壁が展開される。
ギギギギギギギギィィィィィィッ!!!
ヴァルディクの放った腐食の衝撃波が、ライブラの円盾に激突する。凄まじい火花と黒い瘴気が散り、円盾のオーラが悲鳴を上げる。カリナは歯を食いしばり、円盾を構えたままその致死の波動を完全に防ぎ切った。
だが、その圧倒的な衝撃力そのものは殺し切れず、カリナと、彼女の背後にいたグラザは、後方のサティアとエヴリーヌの足元まで派手に吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!」「ぐあっ……!」
ズシャァァァァァッ!
土煙を上げて二人が地面を転がる。
「カリナさん! グラザさん! 大丈夫ですか!?」
サティアが血相を変えて駆け寄り、すぐさま神聖な光で生命力を回復させる術を展開し、二人のダメージと疲労を急速に回復させる。
「ん、物理攻撃は僅かだけど効果があるみたいだけど……あのカウンター技が厄介。まともに喰らえば、防具ごと肉体まで完全に腐食する可能性があるよ」
エヴリーヌが、冷静な瞳で戦況を分析し、警戒を強める。
「ああ、助かったサティア。……だが、見えたぞ」
カリナは二対の円盾を、ジャキインッ! と音を立てて右腕と左肩にしっかりと装着し、立ち上がりながら不敵な笑みを浮かべた。
「これまでの攻防で、奴に一撃を入れられる確実な方法がな」
「本当か、カリナ!? しかし奴の身体は半透明で、物理攻撃すらも大半がすり抜ける。魔法も術も腐食される。一体どうすれば……」
立ち上がったグラザが、未だ突破口を見出せずに焦燥の声を上げる。
「ちっ、忌々しい盾だな。我が侵蝕崩式を防ぎ切るとは。だが、我の真魔解放は無敵だ。貴様等が如何なる攻撃を放とうとも、全てこの無敵のカウンターが発動する。大人しく朽ち果てるがいい!」
ヴァルディクが、最早己の勝利を完全に確信したかのように空中にふわりと浮かび上がり、上空からカリナ達を見下ろして嘲る。
「いや、突破口は確実にある」
カリナが、鋭い視線をヴァルディクに突き刺したまま断言する。
「思い出せ。サティアの展開する障壁内で、奴は先程サティアが放った神聖術のホーリー・バニッシュ――悪魔をその場から強制的に退去させる強烈な退魔の光が効いたことで、明らかに神聖術や光の攻撃を嫌がっていた。奴の能力は、純粋な聖属性と光には相性が悪い。それに……」
カリナは、自身の右腕と左肩に装着されたライブラの円盾を軽く叩いた。
「この黄道十二宮の、太陽の光を浴びたライブラの円盾には、傷一つ付いていない。奴の腐食の力は、絶対的な光の力の前では無力化される」
「ん、わかった。サティアの最大火力の神聖術で奴を怯ませ、その隙に私達の最大の攻撃をぶつければいいんだね」
エヴリーヌが、カリナの意図を瞬時に理解し、アルテミスの柄を強く握り直す。
「そうだ。奴の最大の武器であるあのカウンター技は、こちらが『攻撃しなければ』決して発動しない。しかもあの技は致命的に『詠唱時間が長い』。それも、奴の大きな隙だ」
カリナの完璧な戦術眼が、ヴァルディクの能力の底を完全に暴き出していた。
「なるほどな、そういうことか! わかったぜ。俺は直接の物理攻撃ではなく、闘気を最大限まで高めた遠距離からの奥義を、サティアの術が決まった瞬間に叩き込んでやる!」
グラザがニヤリと笑い、その全身から赤く燃え盛るような凄まじい闘気を立ち昇らせる。
「わかりました! 私の神聖術の攻撃奥義を、あの悪魔にお見舞いします!」
サティアが力強く頷き、メイデンロッドを両手でしっかりと構え、目を閉じて深く祈りを捧げ始めた。
「ああ、任せたぞサティア。……グラザ、エヴリーヌ、タイミングを合わせるぞ!」
カリナの号令と共に、四人は一瞬で陣形を再構築した。
サティアを最後尾の中央に置き、右の遠距離にエヴリーヌが弓を限界まで引き絞る。正面にはカリナが立ち、左の中距離にはグラザが大地を踏み締め、赤く燃える闘気を陽炎のように放ちながら陣取る。
「フハハハ! 何をコソコソと相談しているのかと思えば。小賢しい策を幾ら労そうが無駄だ! 我の侵食の前には、全てが等しく無に帰すのだからな!」
ヴァルディクが、カリナ達の抵抗を滑稽なものを見るように笑い嘲る。
「どうかな? 確かにお前の能力は厄介極まりない。だが、お前は少しばかり……余計なことを喋り過ぎたな」
カリナはそう言うと、左手に握っていた女神刀を、チャキッという小気味良い音と共に鞘へと納刀した。そしてその左手を、遥か天に向かって高々と翳す。
「開け、黄道十二宮の扉よ! 磨羯宮から顕現せよ、黄金のカプリコーンよ!!」
カリナの莫大な魔力が天へと駆け昇り、虚空に巨大な黄金の魔法陣を展開した。
カカアァッ!!!
目を開けていられないほどの黄金の光が溢れ出し、その魔法陣の中から、黄金の鎧に身を包んだ、鋭く美しい黄金の角を持つ神秘的な山羊の精霊、エルシドが荘厳な姿で顕現した。
「召喚に応じました、我が主、カリナよ。……なるほど、あれが今回の獲物ですか?」
エルシドが、空中に浮かぶヴァルディクを冷静な目で見据えながら、厳かな声で問う。
「ああ、魔軍四天王の一柱だ。お前の力を借りるぞ、エルシド」
「承知致しました。私の五体は、我が主の勝利のために究極にまで研ぎ澄まされています。今こそ、我が力を存分に振るうがいい!」
エルシドが天に向かって嘶くと、その身体が眩い光の粒子へと分解され、再構築されていく。光が収まった後、そこには一振りの神秘的な黄金の装飾がなされた、圧倒的な聖なる輝きを放つ『聖剣ラグナロク』が浮かんでいた。
カリナはそれを両手でしっかりと掴み、切先を天に向ける上段の構えをとった。
「フハハハ! 我が力は、精霊の力さえも奪い、朽ちさせる! 無駄なことを!!」
ヴァルディクが嘲りながら両腕を大きく振り上げた。そして、彼が持つ最凶の力、空間そのものを『朽ちる法則』へと強制的に書き換える最終奥義を展開する。
「展開せよ! 『終焉・侵食領域』!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!!
世界から色彩が失われ、カリナ達の周囲の空間が、死と腐敗の淀んだ灰色へと染め上げられていく。武器を摩耗させ、魔力を減衰させ、直接攻撃すらせずに相手を確実に死へと追いやる、絶対的な終焉の領域が展開されていく。
「お前の能力は確かに厄介だ! だが……この黄道十二宮の天の最高位精霊は、常に太陽の黄金の輝きを浴びている! お前の最も苦手な、光をな!!」
カリナの構えた聖剣ラグナロクと、ライブラの円盾が、灰色の空間を切り裂くように強烈な黄金の光を放つ。
「今だ、サティア!!」
カリナの魂の咆哮が戦場に響き渡った。
「はいっ!!」
サティアがカッと目を見開き、限界まで高めた神聖力を一気に解放する。彼女の口から、悪を裁くための長大な祝詞が紡がれ始めた。
「天に在す聖なる光よ
迷える魂を導き、穢れし悪を裁き給え
罪深き闇はここに断たれ
邪悪なる力は今ここに滅びる
神の慈悲は弱き者を守り
神の怒りは悪を討つ
聖なる光よ、この地に降りよ
我は神の代行者
聖女サティアの名において命ず!」
サティアが祈りを捧げるようにメイデンロッドを天へと突き上げると、上空の分厚い暗雲が割れ、そこに幾何学的な模様を描く巨大な神聖魔法陣が出現した。
「『天罰・聖光審判・ディヴァイン・ジャッジメント・レディアンス』!!!」
ズドオオオオオオオオォォンッ!!!!!
空に展開された巨大な魔法陣から、悪魔や魔に連なる邪悪な存在、穢れた魔力のみを完全に焼き尽くす、圧倒的な質量を持った巨大な聖光の柱が、雷のごとき速度でヴァルディクの頭上へと降り注いだ。善なる者や仲間には一切のダメージを与えない、浄化型の殲滅神聖術だ。
「ガアアアアアァァッ!!??」
純粋なる聖なる光の奔流に呑み込まれ、ヴァルディクが絶叫を上げる。
彼の誇る『終焉侵食領域』は、絶対的な神聖の光の前に一瞬で掻き消され、さらにその半透明であった身体に決定的なダメージが入り、光を嫌悪する悪魔の本能が限界を迎え、『真魔解放』が強制的に解除された。実体を取り戻したヴァルディクが、ボロボロになりながらも空中で体勢を立て直そうとする。
「おのれえええっ! 下等な人間風情があぁぁっ!!」
悪魔の本性を曝け出し、怒りと憎悪に顔を歪めるヴァルディク。しかし、特記戦力達の怒涛の連携は止まらない。
「一気に決めるぞ!!」
カリナ、グラザ、エヴリーヌの三人が、同時に自身の持つ最強の奥義を発動した。
「ん、消え失せろ。『神弓・審判射』!」
エヴリーヌが、鋭い声と共に神弓アルテミスの弦を放つ。距離や障害物を完全に無視し、狙った対象の「存在座標」へと必中で命中する因果射撃。
さらに彼女は限界を超えて魔力を練り上げ、連続で最終奥義を叩き込む。
「対象の過去、現在、未来、全ての可能性を貫き、存在そのものを射抜く世界法則級の弓奥義! 『星界因果断』!!!」
ドシュウウゥゥッ!!!
放たれた矢は空間ではなく、因果の軌道を飛び、回避不能の一撃としてヴァルディクの胸の中心を正確に射抜いた。
「ガハッ!?」
「燃え盛れェェ! 俺の闘気よォォォッ!!!」
グラザが、全身の筋肉を限界まで膨張させ、内なる闘気を拳に極限まで圧縮する。
「奥義、『終ノ破拳』!!!」
決着を着けるための最後の一撃。放たれた気の奔流が、相手を細胞単位で消し飛ばす絶技だ。
ドゴオオオオオッ!!!
グラザの突き出した右拳から、巨大な大砲が放たれたかのような、目に見えるほど濃密な赤き闘気の塊が、空中のヴァルディクの巨体を激しく打ち据え、その骨と内臓を粉砕する。
「ガアァァァッ!!」
「さらばだ、侵蝕智将ヴァルディク・ノクスフィア! お前の最大の敗因は、このエデンを敵に回したことだ!」
カリナが、両手に握った聖剣ラグナロクを大きく振りかぶり、大地を蹴って遥か上空へと跳躍する。
「高まれ、精霊力よ! そして今、全てを断つ!! 『磨羯剣技・ラグナロク』!!!」
ズバアアアアアアァァァンッ!!!!!
上段に構えた聖剣から、凄まじい精霊力を秘めた黄金の太刀筋が流星のように煌めき、空中に磔にされたヴァルディクの巨体を、脳天から股下まで完全に一刀両断した。
サティアの神聖術、エヴリーヌの因果射撃、グラザの闘気の破拳、そしてカリナの黄金の一閃。四人の特記戦力の放った究極の奥義が、空中で何乗にも掛け合わされ、天を焦がし大地を揺るがすほどの凄まじい爆発を引き起こした。
「おのれえええっ!! 人間共があああっ!!! グギャアアアアッ!!!」
ヴァルディクは、己の敗北を信じられないという驚愕の表情を浮かべたまま、断末魔の叫びを上げて爆発の光の中に呑み込まれ、塵一つ残さず完全に消滅した。
そして、爆発の跡からキラキラと光る『闇の魔力結晶』が一つ、静かに落ちてくる。着地したカリナは、ふらつく足元を堪えながら、落ちてきたその結晶をしっかりと左手でキャッチした。
「お見事でした。我が主カリナよ。またいつでも喚ぶがいい」
役目を終えた聖剣ラグナロクが、元の黄金の山羊、エルシドの姿へと戻り、深く頭を下げる。そして、右腕と左肩に装着されていたライブラの円盾と共に、美しい光の粒子となって空へと還っていった。
「――換装、解除」
カリナが短く呟くと、真紅のバトルドレスが光に包まれて消え、それまで着ていた漆黒のコートと紺色の冒険者ドレスの姿へと戻る。
しかしその直後、大技を放った代償と、ヴァルディクの侵食を受け続けたダメージの蓄積により、カリナの身体から一気に力が抜け落ちた。
「はぁっ……はぁっ……くっ……」
荒い息を吐き、カリナの膝がガクンと折れ、その場に倒れそうになる。しかし、彼女が地面に倒れ伏すよりも早く、駆け付けたサティアとエヴリーヌが、その両脇からしっかりとカリナの身体を抱き止めた。
「カリナさん!」「ん、捕まえた!」
「やりにくい相手だったな。サティアの術がなければ、本当に危なかったぜ」
グラザが、額の汗を拭いながらカリナの元へと歩み寄り、心配そうに覗き込む。
「……大丈夫か、カリナ」
「ああ……ちょっと疲れただけだ。これで、四天王も三柱まで撃破したな……」
カリナは、荒い息を整えながらも、手の中の闇の魔力結晶を見つめて誇らしげに笑う。
「もう! 毎回毎回、限界まで無理をしますねカリナさんは。本当にヒヤヒヤするんですから」
サティアが、少しだけ呆れたような、それでいて深い慈愛に満ちた声で言いながら、温かい神聖術の光でカリナの疲労と体力を回復させていく。
「ん、私達の絆の勝利。でも、カリナはちょっと無理し過ぎ。……このまま私が、装甲車まで運ぶ」
エヴリーヌはそう言うと、カリナの身体をひょいっと持ち上げ、軽々とお姫様抱っこをしてしまった。
「お、おいエヴリーヌ、私ならもう歩けるぞ!?」
突然のことに顔を赤くして慌てるカリナを無視し、四人は激戦の爪痕が残る戦場を後にし、待機している装甲車へと向かって歩き出した。
◆◆◆
四人が装甲車の近くまで戻ってきたその時。
ギャリィィィィッ!!
猛烈な土煙を上げて、ガレオスが運転するもう一台の装甲車が爆速で到着した。キキィーッ! とけたたましいブレーキ音と共に停まった車から、北東の砦を防衛したカグラとエクリアの二人が勢いよく飛び出してきて、カリナ達の元へと駆け寄ってくる。
「あら、その様子だと、どうやらもう勝負は着いたみたいね」
カグラが、エヴリーヌにまるでお姫様のように抱えられているカリナを見て、楽しそうにクスクスと微笑む。
「ああ、さすがは四天王と言うべきか。予想以上に苦戦はしたけどな」
カリナがエヴリーヌの腕の中で、手に入れたばかりの闇の魔力結晶を掲げて見せる。
「ちぇーっ! せっかく俺が、極大の魔法をぶっ放してやるところだったってのによー!」
エクリアがPC同士の気安さから素の口調で、両手を後頭部で組みながら不満げにボヤく。
「いや、カグラにエクリア、お前ら二人にとってはこの相手はかなり分が悪かったと思うぞ」
グラザが、真剣な顔でエクリアの言葉を窘める。
「奴は魔力そのものを腐敗させ、完全に消滅させてくるという厄介極まりない能力の持ち主だった。唯一サティアの神聖術だけが有効だったが、それ以外の攻撃は完全に物理によるゴリ押しで突破するしかなかったからな。術や魔法がメインの戦い方をするお前達では、かなり危なかったはずだぞ」
「そう……、でも、四天王はそれぞれ、全く異なる特殊な能力を持ってるわね。今回のカシューの部隊分けの采配は、結果的に見事に当たってたってことね」
カグラが、扇子を口元に当てながら感心したように頷く。
「はい、徐々にこちらの体力と魔力を奪っていく、本当に危険な能力でした。私の神聖術が効かなければ、全滅していてもおかしくない、危ないところでしたね」
サティアが、先ほどの絶望的な攻防を思い出して小さく身震いする。
「ん、カリナが戦いの中で、相手のクセや、光属性への弱点をすぐに見つけ出さなければ危なかった。……さすが、私のカリナ」
エヴリーヌが、抱っこしているカリナの頬に、チュッと可愛らしくキスをする。
「こ、こらエヴリーヌ! みんなが見ている前で……!」
カリナが顔を真っ赤にして抗議するが、エヴリーヌはどこ吹く風といった様子だ。
「そうだったのね。……もしかしてカリナちゃん、まさか『聖衣』を着て戦ってないわよね?」
カグラが、カリナの疲労の色が濃い顔を見て、少しだけ心配そうに尋ねる。
「ああ、聖衣の装着はしていない。だが、ライブラの円盾に加え、磨羯宮のエルシドを召喚し、形状変化した聖剣ラグナロクを振るったからな。それなりに体力は消耗したし疲労もしたよ」
カリナが、エヴリーヌの腕の中で少しだけ疲れたように微笑む。
「そう……。でも相手は四天王クラスなんだから、ある程度無理をするのは仕方ないわね。無事で良かったわ」
カグラが、ホッとしたように胸を撫で下ろす。
「ん、過保護カグラ」
エヴリーヌが、淡々とした口調でカグラをからかう。
「そりゃ、過保護にもなるわよ! カリナちゃんに何かあったらどうするのよ!」
カグラが、顔を赤くしてムキになって言い返す。
「はい、カリナさんの力が戦局を大きく左右しますからね。私達が過保護になるのは、当然のことですよ」
サティアが、両手を合わせて微笑ましく二人のやり取りを見守る。
「そうだな、奴には精霊王の加護があっても相当苦戦した。単独の戦いでは、俺達特記戦力でも勝つのは厳しかったかもしれないからな」
グラザが、ヴァルディクの異常な強さを素直に認める。
「まあ、そういう強大な敵にぶつかる時もあるさ。でも、私達には、悪魔には決してない『絆』と、互いの弱点を補い合う完璧な『連携』ができる。……だから、悪魔なんかには絶対に負けないさ」
カリナが、頼もしい仲間達の顔を一人一人見渡し、心の底からの信頼を込めて笑いかける。
「にししっ! 全くだな! 今回も結局、俺達エデンの絆の完全勝利ってことだな!」
エクリアが、八重歯を見せてニカッと快活に笑う。
「そうだな」「そうね」「ん、その通り」「そうですね!」
グラザ、カグラ、エヴリーヌ、サティアが口々に同意し、砦の前に、激戦を終えた英雄達の和やかで明るい笑い声が響き渡った。
「さて、帰ろう。さすがに疲れた。今日はカシューのことだから、国を挙げての盛大な祝宴を開く予定だろうな」
カリナの言葉に全員が深く頷く。
カリナはそのままエヴリーヌにお姫様抱っこされたまま装甲車へと乗り込み、他の特記戦力達もそれに続く。エデンの命運を懸けた防衛戦は見事に幕を閉じ、エデンの特記戦力達は、勝利の余韻と共にエデン王都へと凱旋していくのであった。




