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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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309  侵蝕智将ヴァルディク・ノクスフィア

 ガレオス率いる戦車隊の装甲車に乗り、特記戦力であるカリナ、サティア、グラザ、エヴリーヌの四人は、本命である四天王クラスが待ち受ける南東の砦を目指して、荒れ果てた大地を猛スピードで爆走していた。


 重厚な装甲車の車内は、エンジンの駆動音とわずかな振動に包まれている。その時、車内に設置された通信機から、他の戦線の結果を知らせる報告が届いた。北東と南西の陽動部隊を完全に壊滅させたとの連絡である。


「北東はカグラ様にエクリア様でしたから当然ですが、南西の砦も無事に片付いたようですね。死者も一人も出ていません」


 装甲車を操る戦車隊の運転手が、ホッとしたような声で報告する。


「あの二人なら、まあ当然だろうな。弱体化した侯爵クラス程度、ウォーミングアップにもならんはずだ」


 助手席に座るグラザが、腕を組みながら言う。


「南西の砦もリーサがいる。精霊王の加護で数ランクも弱体化した侯爵程度なら、あいつにとっては何の問題もなかったな」


 カリナが、愛弟子の成長を誇らしく思いながら静かに頷く。


「ん、弓術士軍の魔法弓の訓練も、しっかり実戦で生きたね」


 カリナの左隣に座るエヴリーヌが、淡々とした口調で自軍の成果を肯定する。


「一人の死者も出なかったことが、何よりも一番の朗報です。……それとみなさん、このショックポーションを飲んでおいて下さい。戦闘における負傷のショックを和らげ、精神を安定させる効果があります」


 サティアはそう言うと、アイテムボックスから赤い液体の入った小瓶を取り出し、三人に手渡した。四人は一斉にポーションを煽り、これから始まる死闘に向けて完璧な準備を整える。


 やがて、装甲車のスピードが緩み、車体が重々しい音を立てて停止した。


「南東の砦に到着しました! 御武運を!」


 運転手の力強い声と共に、四人は一斉に車外へと飛び出した。


 砦の高台に降り立った四人の眼下に広がっていたのは、絶望的な光景だった。数千を優に超える魔界兵団の大軍が、大地を隙間なく黒く染め上げている。全身黒鎧の影霊騎士や、闇に溶け込む影喰犬、弓を構える影霧弓兵などが、まるで蠢く黒い海のように砦へと押し寄せていたのだ。


 砦を守っていたエデン軍の兵士達は、すでに己の死を覚悟し、決死の表情で武器を構えていた。しかし、カリナ達四人の特記戦力の姿を見た瞬間、彼らの顔に安堵と希望の色がパッと広がる。


「よく持ち堪えたな。後は任せて下がっていろ」


 カリナが、威厳に満ちた声で兵士達に告げる。


「はいっ! 特記戦力の方々の到着だ! 全軍、ただちに撤退しろ!!」


 部隊長が叫び、兵士達は一斉に陣形を解いて後方へと退避していく。


 兵士達を安全な場所まで下がらせたカリナは、『千里眼』を発動し、視力を極限まで強化して遥か彼方の魔界兵団の最奥を睨みつけた。そこに、周囲の魔物とは明らかに次元の違う、異様な気配を放つ悪魔の姿をはっきりと捉える。


「……見つけた。最奥に四天王クラスがいる」


「ええ。私の魔力探知でも、災禍六公に決して劣らぬ、底知れない異様な魔力を感じます。……十分に気を付けて行きましょう」


 サティアが、メイデンロッドを握り締めながら緊張した面持ちで忠告する。


「ああ、あんなのは有象無象の雑魚ごと、一気に蹴散らしてやる」


 グラザが、両手の拳をゴキキッと鳴らしながら闘志を燃やす。


「ん、エデンを侵略する輩に、慈悲はない」


 エヴリーヌの静かな瞳に、冷酷な光が宿る。


「行くぞ!」


 カリナの号令と共に、四人は砦の高台から一斉に空歩を発動し、眼下の戦場へと音もなく着地した。


「ちっ、いくら何でも数が多過ぎるな」


 グラザが、四方を完全に包囲する魔界兵団の数に舌打ちをする。


「ん、面倒。一気に蹴散らす。『蒼天連星射(そうてんれんせいしゃ)』!」


 エヴリーヌが背負っていた神弓アルテミスを手に取り、空中に向けて弓を引いた。空中に魔法陣が展開し、複数の光矢を同時生成して放つ極技。弦から指を離した瞬間、数十本の光の矢が星群のように魔界兵団へと降り注ぎ、前衛の影霊騎士達を次々と貫き倒していく。しかし、倒れた先から次なる影の魔物達が湧き出し、その大群には全く底が見えない。


「ん、雑魚に限って無駄に多い」


 エヴリーヌが、少しだけ眉をひそめて言う。


「『セインツ・ディヴァイン・ヴァーディクト』!」


 サティアがメイデンロッドを振るい、悪と判じた存在のみを焼く審判の光を放って、空から純白の光を降らせ、影喰犬や幽影兵の群れを浄化して灰に変えていく。しかし、それでも魔界兵団の波は止まらない。


「面倒だ、一気に薙ぎ払ってやる!」


 カリナが両手を大きく広げると、彼女の足元に巨大な魔法陣が展開された。幾重にも重なり合う光の輪が、平原の草を薙ぎ倒すほどの圧倒的な魔力を周囲に放ち始める。カリナは静かに目を閉じ、厳かに召喚の祝詞を唱え始めた。


「雷鳴よ、王座を照らせ

天穹よ、極光の道を拓け

黒き天を裂き、白銀の腹に力を宿す

覇を戴く龍王、万雷を統べし者

我はその名を呼ぶ

畏れではなく、覚悟をもって

契約は今、魂と魂を雷で繋ぐ

降臨せよ、天災の化身

――顕現せよ、カイザードラゴン・アジーン!!」


 カッ!!!


 巨大な魔法陣が、天と地を繋ぐ強烈な光の柱となった。


 空気が限界まで張り詰めたその瞬間、世界そのものを貫くような鼓膜を破る轟雷が鳴り響いた。暗雲を物理的に引き裂いて現れたのは、夜という概念そのものを具現化したかのような、巨大な黒龍だ。


 全身を覆う鱗は、光すら吸い込む深淵の闇を思わせる漆黒。だが、腹側だけは月光を凝縮したかのような白銀の装甲鱗が連なり、神々しいまでの輝きを放っている。その巨躯の周囲には常に紫電のオーラが渦巻き、アジーンが一振り翼を動かすだけで空は裂け、咆哮一つで大地は激しく震動した。


 黄金とも白光ともつかぬ神秘的な双眸が開かれた瞬間、空間そのものが絶対的な威圧感に押し潰され、魔界兵団の魔物達すら本能で「抗うな、ひれ伏せ」と告げられるかのように動きを止めた。


「お久しぶりです、母上」


 アジーンが、その巨体を屈め、カリナに対して忠誠の証として深く頭を垂れる。


「ああ、久しぶりだなアジーン。敵は目の前の魔界兵団、そしてその奥にいる悪魔だ。お前の力を見せてやるがいい! 薙ぎ払え!」


 カリナがアジーンの鼻先を優しく撫でながら、冷酷な殲滅の命を下す。


「はっ!」


 アジーンが天高く首をもたげ、その顎に限界までエネルギーを圧縮する。そして、白と金が混じり合った極光の『龍の息吹(ドラゴンブレス)』を、眼下の敵陣へ向けて一気に解き放った。


 ドゴオオオオオオオオッ!!!


 エクリアの極大魔法すら凌駕する圧倒的な熱量と雷撃の奔流。


 数千の魔界兵団は、悲鳴を上げる間もなく、影霊騎士も影霊甲冑も全て等しく一瞬で蒸発し、大地には焼け焦げた巨大な爪痕だけが残された。そして、その絶対的な破壊のブレスは、最奥に陣取る四天王クラスの悪魔をも完全に飲み込んだ。カリナ達は、誰もがその一撃で勝負が決まったと確信した。


 ――しかし。


 ブレスが悪魔の肉体に直撃する直前。極光の雷撃が、突如としてまるで泥のように濁り、霧散していく。いや、霧散するというよりも、強大な魔力そのものが『腐り落ちた』というような、異常極まりない現象が起きたのだ。


「……どういうことだ?」


 カリナが、あり得ない光景に目を見開く。


「あのアジーンの規格外のブレスが……全く通用しないだと!?」


 グラザが、驚愕に顔を歪ませる。


「あのブレスは、エクリアさんの放つ禁呪レベルに匹敵する威力ですよ!? それが通用しないなんて……」


 サティアも、信じられないという顔でロッドを握り直す。


「ん、何か必ずトリックがあるよ」


 エヴリーヌが、冷静に敵の異常な現象を分析する。


「アジーン、一旦戻れ!」


 カリナが即座に判断を下す。


「はっ、母上」


 アジーンは光の粒子となり、送還されていき、カリナは全身に魔力を集中させ、短く叫んだ。


「――換装!」


 カリナが着ていた装備が自動的にアイテムボックスへと送られ、女神アリアから与えられた真紅のバトルドレスがその肢体を包み込む。同時に、右腰から『女神刀』を抜き放った。


「行くぞ! 接敵すれば、あの腐り落ちたトリックもはっきりするはずだ!」


 カリナの言葉に三人が頷く。一行は瞬歩を発動し、魔界兵団が消え失せた荒野を一気に駆け抜け、敵の悪魔の眼前へと肉薄した。


 近接の要としてカリナとグラザが前衛に立ち、遠距離の火力と支援を担うエヴリーヌとサティアが後方に位置取るという、完璧な陣形を保つ。


 グラザは鍛え抜かれた腕で力強く拳を構え、エヴリーヌはアルテミスの弓に矢を番え、サティアはメイデンロッドを静かに構える。


「これはこれは、御挨拶だな。下等な人間共よ」


 そこに立っていたのは、威圧感こそ薄いものの、空間そのものを歪ませるような異常な存在感を放つ悪魔であった。


 身長は3mほどの長身痩躯。全身を覆う長い黒衣には不気味な魔法陣が刺繍されており、手には多数の指輪型魔導具がはめられている。その指は異様に長く、手には先端が崩れた結晶体の細身の黒杖を握っていた。


 頭部には細長く真っ直ぐに上に伸びる灰黒色の二本角。背には骨格が目立つ小型の翼を持ち、膜は薄く紫がかっている。銀灰色の前髪が片目を隠しており、見えている片目は紫、もう片方には魔法陣のような紋様が浮かんでいた。


 武人というよりは、冷酷な『魔導学者』といった風貌である。そして何より、彼の周囲には常に『乾いた空気』が漂い、足元の草や岩が、音もなくわずかに劣化し、朽ちていっている。


「我は四天王が一柱、侵蝕智将ヴァルディク・ノクスフィア。小賢しい精霊王の加護を持つ小娘の魂をもらい受けるついでに、このエデンを落としに来た」


 ヴァルディクは、冷徹な分析型の声音で静かに名乗りを上げた。


「ほう……これが精霊王の加護か。なるほど、貴様達の全能力が底上げされ、魔力を無限に供給し、こちらの力を削ぐのか。フハハ……いいハンデだ」


 ヴァルディクが、カリナ達の身体の七色のオーラの輝きを見て、嘲るように口の端を歪める。


「また性懲りもなく四天王か。既にお前の仲間は二体討ち取った。お前で三体目だな」


 カリナが、女神刀の鋭い切先をヴァルディクの鼻先へと真っ直ぐに突き付けて言い放つ。


「だが、先ほどの龍の息吹(ドラゴンブレス)をかき消したのは一体何だ。お前の能力か?」


 カリナの問いに対し、ヴァルディクは己の能力を隠そうともせず、絶対的な自信を持って自慢気に語り始めた。


「フフッ……良いだろう。冥土の土産に教えてやる。我が能力は『概念腐食』。触れた魔法、魔法の技、結界、術、そしてあの龍のブレスすらも、全てを劣化させ、朽ちさせる力だ」


 ヴァルディクが一歩前へ出ると、その足元の地面がさらにボロボロと崩れ落ちる。


「直接的な破壊ではない。ゆっくりと、だが確実に『削れていく』のだ。……対象の魔法を劣化崩壊させる『契約朽滅(コントラクト・ロット)』。広域の腐食波動で防御魔法の耐久を急速に低下させる『結界腐敗波(ドミニオン・ディケイ)』。守りなど時間の問題だ」


 ヴァルディクの紫の瞳が、カリナ達を品定めするように見つめる。


「貴様達の強度は高い。だが、永遠ではない。焦るな。腐敗は静かに進む。貴様等の誇りなど、我の前では三分で崩壊する」


「なるほどな。魔法や術そのものを腐らせる厄介な能力というわけか」


 カリナが、冷静に敵の能力を分析する。


「だが、無敵の能力など決してない。お前の化けの皮を剥がしてやる!」


 カリナの宣言と共に、四人は一斉に戦闘を開始した。


「「「真眼解放!!!」」」


 カリナ、グラザ、エヴリーヌの三人の瞳孔が真紅に染まり、全能力のリミッターが完全に外れ、莫大な力が溢れ出す。


「無駄だ。……『英雄劣化式(グローリー・フェイド)』」


 ヴァルディクが黒杖を軽く振るうと、目に見えない腐敗の波が三人を襲った。強化状態や覚醒状態を強制的に減衰させるその能力により、三人の真紅の瞳孔は瞬時に元の色へと戻り、限界突破の力が掻き消されてしまった。


「ちっ、強化が消されやがった!」


 グラザが舌打ちをし、その剛腕に赤い炎の魔力を限界まで纏わせる。


炎拳(えんけん)!!」


 グラザが踏み込み、炎を纏った正拳突きの魔力格闘をヴァルディクの顔面を狙って放つ。しかし、その炎の拳がヴァルディクの肉体に触れる直前。


「無駄だ」


 シュゥゥゥ……ッ!


 ヴァルディクの周囲に展開された概念腐食の力により、グラザの拳に纏われていた炎の魔力が、瞬く間に腐り落ち、ただの風圧へと変わってしまった。


「なっ!?」


 驚くグラザの腹部に、ヴァルディクの黒杖が軽く突き込まれる。


 ドゴオオオッ!


「ぐはっ!」


 それだけの動作で、グラザの体が後方へと大きく吹き飛ばされた。


「ん、なら遠距離から!」


 エヴリーヌがアルテミスの弓を引き絞る。


「『紅蓮焔矢(ぐれんえんし)』!!」


 エヴリーヌが炎を纏った矢を放ち、爆炎の矢がヴァルディクの胸元へ迫るが、それもまた、彼の周囲数十センチの空間に入った瞬間に魔力が腐食し、ただの木の枝のようにボトリと地面に落ちた。


「私も行くぞ! 『獄炎葬刃(ごくえんそうじん)』!!」


 カリナが、炎の気を纏わせ敵を一気に焼き斬る魔法剣技の奥義で、刀身に燃え盛る炎を纏わせ、ヴァルディクへ向かって袈裟懸けに斬り下ろす。しかしその強大な獄炎の魔法剣も、ヴァルディクの概念腐食に触れた瞬間に火が消え失せ、刃が空を切る。


「フハハハッ! 無駄だと言ったはずだ。あらゆる魔力も術も、我の前に到達する前に朽ち果てるのだ!」


 ヴァルディクが両手を広げ、周囲の空気をさらに乾燥させていく。その腐食の力は空間そのものにまで及び始め、前衛で戦うカリナとグラザの体力が、目に見えない毒に侵されるように徐々に、しかし確実に削られていく。


「くっ……息が、苦しい……!?」


 カリナが片膝をつき、激しい疲労感に襲われる。


「前衛のお二人は離れて下さい!」


 後方でその影響を受けていなかったサティアが、切羽詰まった声で叫んだ。


「『ホーリー・ライフ・レストレーション』! 『セイントレス・エンブレイス』!」


 サティアが神聖な光で生命力を回復する回復術を放ち、杖から放たれた純白の光がカリナとグラザを包み込み、削られた体力と疲労を瞬時に回復させる。そして間髪入れず、自身の聖女の力を最大限に発動する神聖術を放ち、優しく温かい神聖力が、カリナとグラザの魂を包み込み、ヴァルディクの魔力侵食や精神への干渉を完全に浄化し、弾き返した。


「ほう……聖女の神聖術か。魔力とは異なる神の力……我の腐食も、純粋な光や聖属性には少し梃子摺るようだな」


 ヴァルディクが、サティアを忌々しげに睨む。体力を回復したグラザは、歯を食いしばりながら立ち上がった。


「ふざけやがって……! 魔力が腐るなら、これならどうだ!!」


 グラザは、拳から炎の魔力を完全に消し去った。


 純粋な肉体の力、極限まで鍛え抜かれた筋肉のバネだけで、大地を砕いてヴァルディクの懐へと飛び込む。


轟拳(ごうけん)!!!」


 グラザが、防御や鎧すら砕くほどの破壊力を秘めた渾身の一撃である純粋格闘術を放つ。魔力を一切込めない物理攻撃だ。


 ドゴオオオッ! 


 グラザの重い鉄の拳が、ヴァルディクの防御をすり抜け、その横腹に深く突き刺さった。


「ガハッ!?」


 魔力を腐食させることはできても、純粋な質量を持った物理的衝撃は腐食できない。ヴァルディクの長身痩躯が、くの字に折れ曲がり、数メートル後方へと弾き飛ばされた。


「……なるほど。そういうことか」


 カリナが、グラザの攻撃を見て全てを理解し、不敵な笑みを浮かべた。


「魔力を込めた魔法や術は全て腐食される。だが、魔力を伴わない『純粋な物理攻撃』なら通るということだな。……それに、奴は武器への侵食も狙っているようだが、私達の武器は決して朽ちることはない。私のこのバトルドレスもな」


 カリナが、自身の真紅のドレスと、決して輝きを失わない女神刀を見つめて言う。


「グラザ、エヴリーヌ! 魔力を込めた技は使うな! 純粋な格闘術と、魔力を伴わない物理の弓技だけで攻めるぞ! サティアはそのまま光の神聖術で私達の体力回復と援護に徹してくれ!」


「応よ! 肉弾戦なら負けねえぜ!」


「ん、了解。物理で穴だらけにする」


「はいっ! みなさんをお守りします!」


 特記戦力達の反撃の狼煙が上がった。グラザが、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。


「『空破拳(くうはけん)』!! 『旋風螺旋脚(せんぷうらせんきゃく)』!!」


 ドゴオオオオッ! ズガアアアッ!


 グラザが、空気を押し割るように突き出す風圧の拳や、身体を回転させて放つ強力な回し蹴りを放つ。魔力を一切使わない、圧倒的な質量と速度による純粋な格闘術がヴァルディクの肉体を激しく打ち据え、反撃の隙を与えない。


 エヴリーヌもまた、魔力の矢ではなく、アルテミスの弓の圧倒的な張力だけを利用して、実体の矢を次々と番える。


「『アロウ・ショット』! 『ラピッド・ファイア』! 『プレシジョン・ショット』!」


 ズシュゥゥゥッ! ドスドスドスッ!


 エヴリーヌが、基本の直射、矢を連続で放つ技、急所を狙う精密射撃を次々と放つ。魔力を持たない無数の矢が、ヴァルディクの衣服を裂き、その肉体に深く突き刺さる。


 そしてカリナが、神速の足運びで一気に間合いを詰めた。


「『霞斬(かすみぎり)』!!」


 カリナが、霞のように揺らぐ軌道で相手を惑わせる斬撃の刀技を放ち、ザシュッ! と女神刀の鋭い刃が、ヴァルディクの胸元を浅く切り裂く。


「『影走(かげばしり)』!! 『風裂(ふうれつ)』!!」

 

 ズシャァァァッ! ザギィンッ!


 カリナが一歩踏み込み、影が伸びるように素早く斬る刀技や、横一文字に風を裂く鋭い切り払いを放つ。魔力を纏わない純粋な剣の軌跡が、黒い血を散らしながら確実に悪魔の肉体を削っていく。


「チィッ……! 野蛮な人間共め……!」


 ヴァルディクが顔を歪め、黒杖から広域腐食波動『結界腐敗波(ドミニオン・ディケイ)』を放ち続けるが、サティアの神聖術がそれを中和し、カリナ達の体力を即座に回復し続ける。


「『ディヴァイン・ヴァイタル・レディアンス』! 『ホーリー・バニッシュ』!!」


 サティアが、聖なる光の波動で体力と魔力を同時に回復させる上位回復術を展開しつつ、悪魔をその場から強制的に退去させる強烈な退魔の光を放ってヴァルディクの接近を阻む。回復と攻撃を織り交ぜたサティアの完璧なサポートにより、前衛のカリナとグラザは体力を削られながらも、決して歩みを止めることなくヴァルディクを追い詰めていく。


一瞬一刃(いっしゅんいちじん)!!」


 ザヴァアアアアアアッ!!!


 カリナが抜刀と同時に勝負が決まる正統派居合を放ち、神速の抜刀が、ヴァルディクの左腕を深く斬り裂き、黒い血を噴き出させた。


「グアァッ……!! おのれ……我の静かなる終焉を、力ずくで打ち破るというのか……!!」


 血を流し、膝をついたヴァルディクの周囲の空気が、突如として異様なまでに重く、そしてどす黒く変色し始めた。彼の紫の瞳と、魔法陣の紋様が浮かぶもう片方の瞳が、限界まで見開かれる。


「……良いだろう。ならば、我も真の姿で貴様等の全てを朽ちさせてやろう」


 ヴァルディクの長身痩躯が、ズブズブと半透明に透け始める。その身体の魔法陣の眼が常時展開状態となり、周囲の空間そのものを侵食するほどの、禍々しくも圧倒的な魔力が跳ね上がった。背中の翼が影のように不気味に揺らぐ。


「真魔解放……『侵蝕思考体(しんしょくしこうたい)』!」


 ついに四天王ヴァルディク・ノクスフィアが、その真の力を解放した。これまでの静かなる腐敗とは次元の違う、空間そのものを朽ちさせる絶対的な侵食の力が、カリナ達に牙を剥く。


 純粋な暴力と、全てを腐敗させる侵食の力。エデンの命運を懸けた南東の砦の死闘は、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。

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