306 五属性魔法剣の完成
さらに数日が過ぎ、第一演習場。
いつもの過酷なウォーミングアップと、数百人という騎士団を相手にした立ち合いを済ませたカリナ達は、ライアンとクラウスに騎士団の立ち合い稽古の指揮を任せると、リーサと共に演習場の端の少し離れた場所へと移動した。
「刀の四属性魔法剣技は、もう完全にモノにしたな。……今日からは、いよいよ未知の領域である『五属性』に挑戦するぞ」
カリナが、期待に満ちた声で告げる。
「はい! いよいよですね!」
リーサも興奮気味に頬を上気させ、いつものように演習用の刃を潰した刀を構えた。二人は深く息を吸い込み、刀の刀身に五つの異なる属性の魔力を極限まで練り上げて纏わせようとする。
――しかし。
バキィィィィィィンッ!!!
「「あっ……!」」
今までとは違い、五属性という相反し、暴れ狂う莫大な魔力の負荷に耐え切れず、二人の手の中で頑丈なはずの鍛錬用の刀が粉々に砕け散ってしまった。
「……やはり、エクリアの極大魔法並、いわば禁呪レベルの五属性融合を、ただの鍛錬用の刀や剣に無理やり纏わせるのは無理があるようだな……」
カリナが、手元に残った柄だけを見てため息を吐く。
「仕方ない。危険だが、実戦用のものを使う」
カリナはそう言うと、右腰から眩い輝きを放つオリハルコン製の『女神刀』を引き抜いた。リーサも頷き、カリナから譲り受けた業物である『布都御魂』を抜く。二人は再び、互いの実戦用の刀に五属性の魔力を纏わせる。
シュゴォォォォォ……ッ!
刀身の上で、火、水、風、雷、光といった五つの魔力が激しく反発し合い、火花と暴風を散らす。しかし、さすが高ランクのレア武器だけあって、その刀身は一切の傷一つつかず、莫大な五属性の魔力を見事に受け止めていた。
「よし、この刀なら破損することはないな。……だが、このレベルの業物で立ち合いをするのは、さすがに危険すぎる。一撃が致命傷になる可能性があるからな。見てみろ」
カリナはそう言うと、白銀鉱の鎧を着せた訓練用の頑丈な案山子に向かって、五属性を纏わせた女神刀を軽く振るった。
ズシャァァァッ……!
その一閃のみで、最高硬度を誇るはずの白銀鉱の装甲が、まるで熱したナイフでバターを切るかのように、いとも容易く両断されてしまった。
「確かに……、この武器の性能と五属性の威力で直接立ち合いをするのは、修行の域を超えていますね。一歩間違えれば、命に関わります。……では、どうしますか?」
リーサが、真っ二つになった案山子を見て冷や汗を流しながら聞く。
「これまでの属性魔法剣を組み合わせ、各自で素振りをしながら『型』を作っていこう。これまでの応用だ。敵への使用は実戦でぶっつけ本番になるが、型を構築するには素振りでも充分だからな。……五属性ともなると、広範囲に技の影響が及ぶ場合もある。互いに十分に距離を取って、それぞれで突き詰めていこう」
カリナが、安全を考慮した鍛錬の方向性を指し示す。
「はい。互いに手応えや発見があれば、逐一報告し合って、その要素を互いの技に上乗せしていきましょう!」
「ああ、お前には期待しているからな。行くぞ!」
二人は演習場の端と端、十分に距離を取ると、五属性の組み合わせを次々と既存の技の型に組み合わせていった。素振りをするたびに、演習場に爆炎や吹雪、落雷と突風が吹き荒れる。
しかし、二人はこれまで四属性までを共に完成させてきた経験と、互いの天才的な剣才でその暴走をカバーし合い、次々に新たな技の糸口を掴んでいく。
「リーサ! 雷と光の反発は、間に氷の冷気を噛ませると安定するぞ!」
「わかりました! なら、火と水が衝突する瞬間に、風でその熱を散らせば……いけました! 威力が外に向かって爆発します!」
二人は遠く離れた場所から大声で情報交換を行い、その都度、互いの技を見せ合いながら、徐々に五属性の刀魔法剣技を完全な形へと昇華させていった。
そして、ついに。
「よし、いけるな! 立ち合いで直接試せないのは残念だが……これは、本当に一歩間違えば即死の威力だからな」
カリナが、汗を拭いながら女神刀を振るう。
「はい。五属性の威力は、本当に凄まじいですね……。素振りの余波だけで、演習場の地面が抉れてしまいますから」
リーサが、抉られた地面を見つめながら息を吐く。カリナ達は練習と意見交換を繰り返し、ついに五属性の凄まじい威力の刀魔法剣技を完成させた。
「リーサ! 雷、光、闇、氷、重力だ! 五属性の力を一点に収束し、重力で拘束した敵を雷と氷で完全に停止させ、最後に光と闇の対極爆発で世界ごと消滅させる究極剣! 『五極星界断』だ!」
カリナが刀を振るう。
「凄まじい威力ですね! では、火、水、風、雷、光です! 自然界の五元素を束ね、それを雷光の巨大な嵐へと変えて敵陣を広範囲に焼き裂く大規模殲滅技! 『五天煌雷陣』としましょう!」
リーサが刀を振り抜く。
「いいな! 光、闇、氷、雷、重力! 重力で敵を封じ込め、氷で静止させ、そこを雷で貫き、最後に光と闇の爆発で対象の存在そのものを消滅させる終極奥義! 『極星終滅斬』だ!」
「はい! 火、水、氷、雷、風なら、火山、嵐、雷、吹雪、暴風という五つの天災を同時に発生させる災害級の魔法剣ですね! 『天災五嵐斬』!」
見学席で、自らが展開した安全な結界の中から、その様子を見ていたサティアは、信じられないものを見るように目を丸くしていた。
「あれが、五属性の魔法剣技……。まるで、エクリアさんの放つ極大魔法そのものですね。高位の悪魔であっても、あれをまともに食らえば致命傷は免れませんね……」
「カリナ様が凄いのは当然ですが、やはりリーサさんの剣才は本物ですね。……純粋な剣の技量でカリナ様と本気で立ち合いができるのは、彼女とカシュー陛下くらいしか、今のエデンには存在しないでしょう」
ルナフレアが、誇らしげに微笑む。
演習場の中央で立ち合い稽古を止めていた騎士団の者達も、二人の生み出す規格外の光景に絶句していた。
「あれが五属性……。魔法使いの極大魔法並みの威力じゃないか……!」「カリナ様にリーサ様。あの二人の力は、本当に底が知れないな……!」
見ていた騎士達が戦慄する。
「あれは、人類が到達できる剣技の限界を遥かに超えているな……」
ライアンが、冷や汗を流しながら呟く。
「ああ、もしあの技がこの演習場で連発されたら、王城ごと吹き飛んでしまうほどの威力だ……」
クラウスもごくりと唾を飲み込む。
「これが『剣技』だとは……。我等の誇ってきた剣技など、彼女達の前では子供の遊びに過ぎないな」
「間違いない。不用意に近づくのすら危険だな……」
アレキサンドのガレス、ルミナスのセオドアといった他国の団長格達も、そのあまりの次元の違いに完全に白旗を上げていた。
遠巻きに第一演習場の様子を見学していた神聖術士軍の者達も、その異常な魔力現象に青ざめていた。
「あり得ない……!」「五つの相反する属性魔力を同時に纏わせているだと!?」「あんな緻密な魔力制御、どうなってるのよ、あの二人は……!」
神聖術士達は、魔法の常識を根本から覆すカリナとリーサの所業に、ただただ圧倒され、畏怖の声を漏らすしかなかった。
「やったな、リーサ!」
「はいっ!」
カリナとリーサは歩み寄り、互いの健闘を称え合うように力強く拳を合わせた。
そして。
「次は、ソードでの五属性だ!」
「ふふっ、カリナ様と鍛錬していると、自分の限界がどんどん引き上げられていく感じがして、本当に楽しいです!」
二人は快活に笑い合い、そして極度の魔力消費による疲労で、その場にどさりとしゃがみ込んだ。すぐさま、見学席からサティアとルナフレアが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です、お二人とも! ……『ブレッシング・オブ・ザ・セイントレス』!」
サティアがメイデンロッドを翳し、サティアのみが使える特殊神聖術を発動させる。神聖力によって二人の生命力と魔力を一気に回復させ、精神安定と魔力回復速度を上昇させる。ルナフレアは冷たいタオルで二人の汗を優しく拭き、冷えた飲み物を差し出した。
「ありがとう、二人共」
「ありがとうございます、サティア様、ルナフレアさん」
カリナとリーサが礼を言う。
「五属性は、さすがに立ち合いはしないで下さいよ? 本当に死んでしまいますからね」
サティアが、少し呆れたように釘を刺す。
「次はソードでの五属性ですか。演習場が完全に荒れ狂いそうですね」
ルナフレアが微笑みながら言う。短い休憩を挟み、体力と魔力を全快させた二人は再び立ち上がった。
「よし、次は『ソード技』だな」
「はい。今の調子で、一気にマスターしてしまいましょう!」
刃を潰した剣ではまたしても五属性の魔力に耐えられないため、カリナは聖剣アスカロンを、リーサは聖剣ジュノワーズを抜き放った。
五属性の莫大な魔力を聖剣に纏わせ、先程の刀と同じ様な要領で、互いに距離を取り、立ち合いはなしでの型稽古に励む。刀で五属性の魔力制御のコツを完全に掴んでいた二人は、ソードの軌道に合わせた調整もスムーズに行い、逐一報告や手応えを情報交換しながら、ハイスピードで仕上げていく。
「ソードの突きには、重力と雷を先端に集中させれば貫通力が跳ね上がります!」
「よし、なら振り下ろす時は、光と闇の反発を剣圧に乗せろ!」
そして、瞬く間にソードでの五属性魔法剣技も明確な形になって行き、互いに技名をつけ、完全に完成を見た。
「雷、光、闇、氷、重力! 五属性の魔力陣が空中に展開し、宇宙規模の巨大なエネルギー爆発で敵を跡形もなく消滅させる! 『コズミック・ペンタグラム・ブレード』だ!」
カリナのアスカロンから放たれた極大のエネルギーが空間を震わせる。
「火、水、風、雷、光! 五属性の嵐が天空から降り注ぎ、戦場全体を無差別に破壊し尽くします! 『セレスティアル・エレメント・テンペスト』!」
リーサの剣撃が上空に疑似的な天災を巻き起こす。
「光、闇、氷、雷、重力! 宇宙の崩壊を模したエネルギーを剣に宿し、全てを無に帰す五属性の最終剣! 『オメガ・ヴォイド・カタストロフ』!」
「火、水、氷、雷、風! 五属性の天災が完全に融合した巨大嵐を巻き起こし、敵軍を大軍ごと一網打尽に消滅させます! 『アポカリプス・ストーム・ブレード』!」
完成した五属性ソード技の余波により、第一演習場の一部が激しく抉れ、修復不可能なほどに損傷していた。
「……これも、強大な悪魔や敵軍を相手にしないと、演習場ではとても使えないな。だが……これで、五属性は完全に完成した!」
カリナが、荒い呼吸を繰り返しながらも笑う。
「はいっ! 遂にやりましたね、カリナ様!」
リーサも肩で息をしながら、師と共に偉業を成し遂げた喜びに顔を綻ばせる。二人は再び歩み寄り、ガシィッと力強く拳を合わせて完成を祝った。
その後、カリナとリーサは再びサティアに魔法と体力を回復してもらい、ルナフレアの丁寧なケアを受けた。そして、二人は立ち合いの鍛錬を続ける騎士団の前に、威風堂々と並び立った。
「全員、整列!!」
ライアンの号令で、エデン、アレキサンド、ルミナスの三カ国の精鋭騎士達が、一糸乱れぬ動きで整列する。カリナが、全軍を見渡して凛とした声で宣言した。
「ようやく、私とリーサの五属性までの魔法剣技は全て完成した。……今日からは、お前達全員に『魔法剣技の基礎』を叩き込む!」
カリナの言葉に、騎士達がゴクリと息を呑む。
「これは、ただの剣技の稽古ではない。実際に魔力を纏わせる以上、これからは暴発や反発による怪我の危険性も、今までよりさらに増すことになる! ……だが、悪魔が喚びだす強力な魔界兵団には、お前達の並の剣技だけでは通用しないからな!」
カリナが厳しい視線で騎士達を鼓舞する。
「だが安心しろ! お前達の後ろには、サティア達が率いる優秀な神聖術士軍が常に控えている! 怪我を恐れず、己の限界を超えて鍛錬に励め!!」
「「「はっ!!!」」」
各国の精鋭達から、地鳴りのような決意の返事が響き渡った。
こうして、カリナとリーサの五属性までの魔法剣技は完璧な形で完成し、次は騎士団全体への魔法剣技の習得へと移行していく。エデン騎士団とアレキサンド、ルミナスの騎士団も含めた合同鍛錬は、さらなる高みを目指し、これまで以上に激しさを増していくことになるのだった。




