305 恐るべき剣才と四属性刀魔法剣
さらに数日が過ぎ、五大国合同訓練は熾烈を極めていた。各部隊の鍛錬は日を追うごとに激しさを増し、演習場には絶え間なく怒号と剣戟、そして魔法の炸裂音が響き渡っている。
第一演習場。
早朝の地獄の長距離走り込みと、騎士団全員を相手にした激しい立ち合いを終え、カリナは騎士団の基礎訓練をライアンとクラウスの二人に任せると、リーサを伴って演習場の端へと移動した。
「よし、リーサ。お前の圧倒的な剣才と、魔法制御の技術があれば、三属性までの『刀での魔法剣技』はすぐに習得できるはずだ」
カリナが、演習用の刃を潰した刀を引き抜きながら言う。
「まずは私が、刀での魔法剣技を一属性から三属性まで順に見せる。見とり稽古が済んだら、すぐに三属性までの刀の魔法剣技で私と立ち合いだ。……それを完全に習得したら、いよいよ刀での『四属性』に入る。まあ、最初はしっかり見ていろ」
「はい!」
リーサも同じく演習用の刃を潰した刀を構え、師の動きを一瞬たりとも見逃すまいと鋭い視線を向ける。
カリナは白銀鉱の鎧を着せた頑丈な案山に向かって刀を構え、まずは『一属性』の魔法剣技から淀みなく披露し始めた。
「火属性、行くぞ。……『焔断』! 刃に纏った火炎を一閃し、燃え残りが後から敵を焼く。次、『紅蓮烈火斬』! 一撃の衝撃で地面を走る炎柱を生み、前方を焼き払う。そして『火車輪斬』! 火炎の輪を描くように剣を回転させ、周囲を焼き切る」
カリナの刀身から炎が消え、瞬時に凍てつく冷気へと反転する。
「次は氷・水属性だ。……『氷華一刀』! 刃に触れた部分を瞬時に凍結させ、霜の花のように砕く。『水流斬波』! 横薙ぎの一撃が水の衝撃波となり、中距離の敵も裂く。『白嵐凍月』! 斬撃の軌跡が氷の弧月となり、敵を氷結させながら斬り抜ける」
刀身に紫電が激しく弾ける。
「雷属性。……『雷閃斬』! 光速めいた踏み込みから電撃を帯びた高速の抜刀。『黄雷砕剣』! 一撃が雷鳴を裂き、直撃した敵を麻痺させる。『雷龍衝』! 斬った瞬間、雷の龍が飛ぶように敵へ突進する」
荒れ狂う風が刃の周りに渦を巻く。
「風属性。……『翠風裂』! 風圧そのものが刃となり、剣が届かぬ距離も切り裂く。『風神翔斬』! 跳躍しつつ風の奔流を纏って斬り下ろす空中技。『烈風車』! 身体ごと回転し、渦のような風刃で周囲を削る」
刀身が鈍い土気色に輝き、大地の重力を宿す。
「土・大地属性。……『岩砕刃』! 剣の一撃が地面を割り、石柱を噴き上げる。『地鳴剣』! 叩き込む斬りで地を震わせ、衝撃波で敵を倒す。『剛山裂斬』! 大岩すら断つ重斬撃、大地の重さを宿す剣技」
神聖な光が刀身から溢れ出す。
「光属性。……『光輪天断』! 円弧を描いた斬撃が光輪となり、邪を焼く。『聖煌一閃』! 純白の光で斬り払う浄化斬撃、アンデッド特効だ。『天照剣舞』! 連続斬りが光の残像を作り、舞うように敵を断つ」
全ての光を飲み込むような、漆黒の魔力が刀を包む。
「最後、闇属性だ。……『朧影斬』! 影に紛れて一瞬で距離を詰める暗殺系の一撃。『黒滅降魔』! 闇を纏った斬撃が防御を無視して内部を断つ。『影狼牙』! 斬撃の影が獣の牙のように伸び、遠距離にも届く」
一属性の基本を全て見せ終えたカリナは、息つく間もなく『二属性』の複合・混合魔法剣技へと移行する。二つの相反する、あるいは相乗効果を持つ魔力が、見事な制御で一つの刃に宿っていく。
「ここからが二属性だ。よく見ておけ。……『焔嵐旋斬』! 火と風、炎を纏った回転斬りが竜巻となり、燃え上がる烈風で敵を焼き裂く。『紅雷焔牙』! 火と雷、斬撃が火花を伴い、雷鳴を引き裂くように着弾と同時に爆ぜる。『炎氷相剋斬』! 火と氷、相反する力を同時に走らせ、急熱急冷で対象を粉砕する。『陽炎聖焔』! 火と光、ゆらめく陽炎と聖光が重なり、邪を焼く浄化の炎となる。『氷牙颶風』! 氷と風、竜巻内部に氷の刃が渦巻き、周囲を切り刻み凍てつかせる。『凍雷穿』! 氷と雷、冷気で動きを止めた瞬間、雷で貫く電撃穿ちだ。『白輝氷輪』! 氷と光、白い光を帯びた輪状の氷刃が優雅に回転し敵を切り裂く。『迅雷風裂』! 風と雷、風の加速力で雷撃が瞬時に落ち、断ち割る速度特化技。『天翔光翼』! 風と光、風で生んだ加速と光の刃で天翔るように駆け抜け斬る。『聖雷煌斬』! 雷と光、神域の輝きを纏う雷刃、邪悪に絶対的な特効を持つ。『黒焔冥斬』! 闇と火、漆黒と紅蓮の炎が混ざり合い、魂まで燃やす呪炎斬。『影氷幽裂』! 闇と氷、影の冷気が対象を温度ゼロへ引きずり込みながら切断する。『黒雷禍断』! 闇と雷、闇と雷が噛み合う災厄の一閃、遅れて大爆発を引き起こす。『明暗相滅刃』! 闇と光、光と闇を一点に収束し、相殺の爆裂で敵を断つ禁断技だ」
凄まじい威力の二属性を放ち終え、カリナは最後に極限の魔力制御が求められる『三属性』の合成魔法剣技を立て続けに繰り出した。
「最後だ! 三属性合成魔法剣技! ……『烈焔迅雷嵐』! 火・風・雷、炎の竜巻に雷を走らせ、駆け抜けるだけで周囲を消し飛ばす速度特化斬。『紅蓮氷雷葬』! 火・氷・雷、急熱・急冷・雷撃の三重衝撃で対象を内部から崩壊させる絶対破壊の一太刀。『天照焔翔斬』! 火・光・風、太陽の光を纏った炎の翼で飛翔し、風で加速して聖炎を刻み込む空中奥義。『白風氷輝刃』! 氷・風・光、透明な光を纏った冷気の旋風が舞い、触れたものを凍光化させる神秘斬。『冥雷凍界』! 氷・闇・雷、闇の冷気が動きを止め、雷が内部を爆裂させる“魂ごと砕く”斬技。『天雷光翼陣』! 風・光・雷、風で舞い、雷で加速し、光で刃を形成する天翔三属性斬。『黒焔颶襲』! 火・闇・風、闇に染まった黒炎を風が拡散し、灼熱の噴流として敵を貫く。『明暗雷劫断』! 光・闇・雷、光と闇がぶつかり合う瞬間の歪みに雷撃を叩き込み、虚無の断面を生む禁断技。『灼凍颶刃』! 火・氷・風、火と氷の温度差が風で拡散し、広範囲を粉砕する真空・熱冷混合斬。最後は『轟岩焔雷砕』! 土・火・雷、大地を揺るがす衝撃に火炎と雷が重なり、大質量破壊を起こす豪斬だ」
全ての型のデモンストレーションを終えたカリナは、軽く息を吐いて刀を正眼に構え直した。
「……覚えたか?」
「はい。基本の魔力制御や属性の絡め方は、ソードでの魔法剣技とそこまで変わりありませんね」
リーサは涼しい顔で、恐るべき理解力と剣才を見せつける。
「ははっ、なら早速立ち合いを始めるぞ! 来い、リーサ!」
「はいっ!」
二人は同時に地を蹴り、激しく激突した。
ガキィィィィィィンッ!!
演習場に、刃を潰した分厚い刀同士がぶつかり合う、耳をつんざくような激しい金属音が響き渡る。
「『紅雷焔牙』!」
リーサが火と雷の二属性魔法剣技を放つ。火花と雷鳴を伴う爆発的な一撃がカリナへと襲い掛かる。
「甘い! 『水流斬波』!」
カリナは冷静に水の衝撃波を放ち、雷炎の斬撃を正面から完全に相殺する。シュウゥゥゥという音と共に大量の水蒸気が立ち込める。
「だったら! 『白風氷輝刃』!!」
リーサは水蒸気を突き抜け、見とり稽古で見たばかりの氷・風・光の三属性合成魔法剣技を、いとも容易く完璧に発動させた。透明な光を纏った冷気の旋風が、カリナを凍光化させるべく襲い掛かる。
「くっ! 『紅蓮氷雷葬』!!」
カリナも即座に火・氷・雷の三重衝撃を伴う絶対破壊の一太刀を放ち、リーサの超大技を空中で激突させる。
ズドオオオオォォンッ!!!
三属性同士の魔法剣技がぶつかり合い、凄まじい爆発と衝撃波が演習場全体を激しく揺るがした。
「おおっ……!」「何という凄まじさだ……!」「しかもリーサ殿は、刀という武器を使い始めたのはつい先日だぞ!?」「信じられん、なんという凄まじい剣才だ……!」
周囲で鍛錬を行っていたエデンと他国の騎士団達から、感嘆と畏敬の入り混じった声が上がる。ライアンやクラウス、ガレスにセオドアといった歴戦の団長格達も、二人の息をもつかせぬ高次元の立ち合いに完全に目を奪われていた。
一方、見学席では、神聖術士としての待機任務中のサティアと、カリナの世話係として付き添っているルナフレアが並んで腰掛け、二人の立ち合いを優雅に見守っていた。
「相変わらず、とんでもない剣技ですね」
サティアが、爆発の光を眩しそうに見つめながら言う。
「カリナ様が凄いのは当然ですが、あの常人離れした動きに平然とついていくリーサさんの成長スピードも、とんでもないですね」
ルナフレアが、誇らしげに微笑む。
「ええ……。剣技が凄まじいのは言うまでもないですが……あれほどの超威力の技を撃ち合いながらも、すぐさま完璧な回避行動を取り、怪我一つせずに次の攻撃に繋げる『体捌き』も、互いに超一流ですね。……あの伝説の聖騎士カーズの動きについていっていると考えると、リーサさんは代行にしておくのが本当に惜しい逸材ですよ」
サティアが、特記戦力の視点からリーサを高く評価する。
「そうですね。あの最初の頃に、自信満々でカリナ様に突っかかっていった姿が、今となっては懐かしいです」
ルナフレアが、リーサの成長を嬉しそうに見つめて微笑む。
演習場の中央では、ライアンが大声で騎士団に呼びかける。
「お前達! あの二人の動き、剣捌きに体捌き、そして重心移動など、一瞬たりとも見逃さずにしっかり見ていろ! 見て学べるものも確実にある!」
「はっ!!」
騎士団の者達は、二人の凄まじい技と攻防を見逃さないように、息を呑んで見学する。カリナとリーサは、激しい爆発と衝撃波の中でも全く呼吸も乱さず、次々と高威力の魔法剣技を繰り出し、相殺し、すぐさま次の連撃へと繋げていく。
「いいか! お前達も、最低でも『一属性』の魔法剣を習得するのが今後の目標だ! 絶対に目を逸らすな!」
クラウスが檄を飛ばす。
「すげえ……!」「あれだけ激しく動いているのに、しかもまるで息を乱していない……!」「連撃の間にも一切の隙が無いぞ……!」「俺達も、いつかあれほどの高みに近づけるのだろうか……!」
騎士団の者達から、絶え間ない感嘆の声が上がる。
ガギィィィンッ! ズドォォォンッ!
しばらくの間、激しい金属音と魔法の爆発音を響かせながら立ち合いを続け、やがて二人は同時に間合いを取り、ピタリと動きを止めて刀を鞘におさめた。互いに、服の端が少し焦げたり切れたりしている程度で、全くの無傷であった。
「よし。三属性までの刀での魔法剣技は、完全に問題ないな」
カリナが汗を拭いながら満足気に言う。
「はい。コツを掴めば、何とかなりました」
リーサも静かに呼吸を整え、涼しい顔で答える。
「はは、本当に恐ろしい剣才だ。お前なら、いつか必ず私を超える最高の剣士になれるだろうな」
カリナが愛弟子の成長を心から喜び、笑いかける。
「いえ、私の目標はあくまでカリナ様ですから」
リーサが真っ直ぐな瞳で答える。
「じゃあ、少し休憩したら、いよいよ『四属性』の鍛錬に入るぞ」
カリナの言葉に、二人はその場にどさりとしゃがみ込み、短い休憩を取る。
すぐさま、見学席からサティアとルナフレアが駆け寄ってきた。ルナフレアは用意していた冷たいおしぼりで二人の汗を優しく拭き、冷えたレモン水を手渡す。
「お疲れ様です。サティア様、お願いします」
「ええ、いきますよ。……『ブレッシング・オブ・ザ・セイントレス』」
サティアがメイデンロッドを翳し、特記戦力であるサティアのみが使える特殊神聖術を発動させる。神聖力によってカリナとリーサの消耗した生命力と魔力を一気に大きく回復させ、さらに一定時間、回復力・精神安定・魔力回復速度を飛躍的に上昇させる、聖女専用の強力な支援術である。
「ふぅ……。ありがとうサティア、ルナフレア」
カリナが全身に活力がみなぎるのを感じて礼を言う。
「ありがとうございます、サティア様、ルナフレアさん」
リーサも深く頭を下げる。
「お二人なら大丈夫でしょうけど、少しでも不調を感じたら、無理をせずに休憩を挟んで下さいね」
サティアが優しく忠告する。
「お気を付けて」
ルナフレアも微笑み、二人は邪魔にならないように再び見学席へと戻っていった。
カリナとリーサは立ち上がり、再び刀を構える。
「まずは、四つの異なる属性を刀の刀身に維持する練習から始めるぞ」
カリナの指示で、二人は静かに魔力を練り上げる。
四属性の魔力制御は至難の業だが、二人は既にソードでの四属性魔法剣技を完璧に成功させているため、刀においてもすぐに安定した属性の維持に成功した。
「よし、ここからは実際に立ち合いをしながら、刀特有の斬撃の軌道に合わせた四属性のヒントを徐々に掴んでいくぞ!」
「はいっ!」
二人は再び激しく刃を交え、立ち合いの中で互いにヒントを出し合い、感覚を共有していく。そして、互いに編み出した新たな四属性の超大技に、次々と名前を付けていった。
「『四象創界斬』!!」
火・水・風・土。四大元素を同時に刀へ収束させ、大地・炎・水流・風刃を連鎖させて敵を包囲殲滅する創世級の魔法剣。
「『炎雷光翔斬』!!」
火・風・雷・光。炎の推進、風の加速、雷の破壊、そして光の刃で天空から降り注ぐ、回避不能の高速斬撃。
「『氷嵐大地断』!!」
水・氷・風・土。氷嵐を伴う大地の衝撃波で敵を凍結拘束し、そのまま地裂斬撃で一気に粉砕する凶悪な拘束・破壊技。
「『轟炎嵐撃斬』!!」
火・土・雷・風。火山噴火のような爆炎と雷嵐を同時に発生させ、周囲一帯を焼け野原にする大破壊斬撃。
互いにこれら四属性の刀の魔法剣技で派手に立ち合い、完璧な手応えを掴んだところで、カリナはゆっくりと刀を降ろした。
「よし、完璧だ。……順調だな。明日からは、遂に未知の領域である『五属性』の魔法剣技に挑むぞ」
「はい。必ず身に着けましょう」
リーサが力強く頷く。二人が激しい立ち合いを終えた頃には、時刻はいつの間にか夕刻になっていた。
最後に、魔法使いや神聖術士軍も合わせて、全員で演習場外周の地獄の走り込みを行う。
そして、砂まみれになった全軍の前に、カリナ、リーサ、サティアが並び立った。
「四属性までの魔法剣技は、完全に完成した。……次は『五属性』だ。これは、特記戦力である魔法使い、エクリアの純粋な魔法でも禁呪レベルに相当する難易度だ。……だが、私やリーサは必ず成功させる。その後は、お前達騎士団にも、魔法剣の基礎を徹底的に叩き込む!」
カリナの言葉に、騎士団の者達がゴクリと息を呑む。
「お前達は、まずは基礎の反復を絶対に疎かにせず、今後も死ぬ気で励むように。いいな! ……では、本日は解散!」
「「「はっ!! ありがとうございました!!」」」
各国の騎士団や術士達は「とんでもないものを毎日見せられている」という疲労と興奮の入り混じった顔で、王城のゲストルームへと帰還していく。
「リーサ。今日もウチで、ルナフレアの夕食を食べて行け」
カリナが刀を演習場の武器立てに戻しながら誘う。
「はい、楽しみです」
「今日は私もこのまま一緒に行きますね。カリナさんの疲労も心配ですから」
サティアが微笑みながら合流する。
「ふふっ、腕によりをかけさせて頂きますね」
ルナフレアが嬉しそうに微笑む。
「……どうせまた、勝手にカグラとエヴリーヌが全裸で突撃してきそうだけどな」
カリナが数日前の騒動を思い出して苦笑し、一行は和やかな空気のまま、過酷な鍛錬を終えて特記戦力居住区の自室へと帰宅していくのだった。




