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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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304  各部隊の鍛錬と極限の術理

 第四演習場。


 ここでは、カグラと代行のユズリハが率いる『相克術・陰陽術士部隊』が、他とは異なる独自の高度な鍛練を行っていた。北の陰陽国ヨルシカから合流した実力派の精鋭術士達の協力により、カグラの部隊は確実に、そして飛躍的に練度が上がっていた。


 ウォーミングアップである演習場外周の長い走り込みを終え、エデンとヨルシカの両術士達が膝に手をつき、荒い呼吸を整えている。


 彼らの前に、カグラと代行のユズリハ、そしてヨルシカから派遣された相克術士部隊長の女性ハルカと、陰陽術士部隊長の男性マサムネの四人が並び立った。ハルカは赤髪のロングヘアに、白い狩衣と青い羽織、そして凛々しい袴姿。マサムネは青髪を短く刈り込み、黒い狩衣に黒い袴という、ヨルシカ伝統の装束を纏っている。


「今のところ、合同鍛錬はとても上手くいっているわ。これもハルカとマサムネが合流してくれた御陰ね。ヨルシカは、今も良い術士が育っているのね」


 カグラが扇子を広げ、労いの言葉をかける。


「いえ、私達の国はあの五大国襲撃事件でも、悪魔の本拠地である魔大陸からは一番遠い距離にありました。不幸中の幸いで、名のある熟練の術士達が多く生き残り、後進を大切に育てて来てくれた御陰ですよ」


 ハルカが上品に微笑みながら答える。


「はい、ヨルシカ秘伝の多くの術が今も絶えずに続いて来たのは、ただ運が良かったに過ぎません。それに、伝説の相克陰陽術士であるカグラ様にそうまで面と向かって言われると、さすがに気後れしますよ」


 マサムネが照れくさそうに頬を掻く。各国の精鋭達が息を整えるのを待ち、カグラが扇子をパチンと閉じて空気を引き締めた。


「さて、今日までの陰陽術の基礎のトレーニングはほんの序の口よ。これからは、さらに高度な術理を突き詰めていくわ。……私達術士は、魔法使いや弓術士と異なり、『中距離』でその真価を発揮する。つまり、前衛の混戦に巻き込まれることも多々あるわ。そんなときに、派手に広範囲に爆発するような術を無闇に放ったら、敵味方関係なく巻き込む大惨事になる」


 カグラの言葉に、術士達が真剣な顔で頷く。


「そこで、私には術の無駄な爆発被害や、途中での暴発を防ぐために開発して来た特殊な使い方があるの。これを身に着ければ、放った護符や呪符は対象に接触するまでは一切の余計な起動をしない。相克術も、周囲を全く巻き込まずに対象のみを攻撃できる。私も、テティスの地下洞窟と言う、狭くて崩落の危険がある場所で使用した高等技術よ」


 カグラはそう言い、訓練用の白銀鉱の鎧を着せた頑丈な案山子に狙いを定め、スッと右手を構えた。彼女の指先に数枚の呪符が挟まれ、莫大な魔力が込められる。


「よく見ておきなさい。まずは陰陽術の攻撃術から見せるわ」


 カグラが呪符を高速で案山子に向けて放つ。


 妖焔を狐の形にして飛ばす『焔狐火(えんこび)』。宙を駆ける狐の炎は空中で一切の熱を放たず、案山子に接触した瞬間にその内部で業火を炸裂させ、内側から装甲を焼き焦がした。


 続けて放たれた『雷切符(らいきりふ)』は、雷を帯びた符を投げつける高速攻撃だが、紫電は空中で瞬くことなく、直撃と同時に案山子の内部を強烈な雷撃で打ち据えた。


「次は基本相克術よ。属性同士の干渉の基礎ね」


 カグラは淀みなく次の術理へと移行する。


 火と水の相克である『沸衝(ふっしょう)』。瞬間加熱と冷却によって生み出される衝撃波は、外部に広がるのではなく、対象の内部で破裂するよう極限まで圧縮されていた。


 さらに光と闇の相克、『相滅光(そうめつこう)』。混ぜ合わせた光と闇が互いを喰らい真空の刃となるが、その刃は案山子の内部でのみ真空を生み出し、外側には微風すら起こさずに内部構造を破壊する。


「最後に、反転・圧縮を主軸とした中級相克術よ」


 カグラが両手を前にかざす。


 風圧と地圧を反転させ球状に圧縮し、触れたものを崩壊させる『圧壊球(あっかいきゅう)』。その球体は対象に触れるまで一切の圧力を外に漏らさず、触れた瞬間に内側へ向けて絶大な崩壊をもたらし、最高硬度の白銀鉱の装甲をひしゃげさせた。


「おお、これなら途中で暴発する危険もない」「しかもインパクトの瞬間、内包されていた全ての術のエネルギーが全て対象に炸裂する」「何という無駄のない術理だ……」


 その相克陰陽を極めたかのような緻密な魔力コントロールに、術士達やユズリハ、ハルカやマサムネからも畏敬の念の入り混じった称賛の声が上がる。


「まあこんなものだけど、まだまだ私自身もコントロールは完璧じゃないわ。今後は基礎体力と相克・陰陽の鍛錬に、この緻密な魔力コントロールの修行も上乗せするわ。基礎がまだの者はハルカやマサムネに徹底的に学びなさい。ヨルシカの術士軍も同じ鍛錬をしてもらうからね。……では始め!」


 各自は白銀鉱の案山子に向けて、直撃の瞬間に最大の威力を発動させる術理の極致に挑戦するが、一朝一夕で上手くいくわけはない。これは伝説の術士と言われるカグラの、異常なまでの緻密な魔力コントロールと制御があってこそ成り立つ極致の技術なのである。


 空中で暴発する札、当たっても威力が完全に死んでいる術。失敗が次々と繰り返される。


 だがカグラは一切の妥協を許さず、厳しい指示を飛ばす。


「カグラ様、イメージは掴めるのですが、対象に接触するまでに暴発したり、当たっても威力が足りない場合がありますね……」


 代行のユズリハが、自らの未熟さを噛み締めるように言う。


「ふふ、そうね。最初はそんなものよ。だからこその鍛錬でしょう?」


 カグラが優しく、しかし確かな期待を込めて笑いかける。


 術士達はエデン軍、ヨルシカ軍も含めて、己の限界を超えるため、極限のカグラの術理に何度も何度も挑戦し続けた。カグラは己の術理の限界に挑む軍の者達を、見学席で扇子を揺らし、檄を飛ばしながら頼もしそうに見守るのだった。



 ◆◆◆



 第二演習場。


 魔法使い軍のレーザー魔法の鍛錬は、苛烈を極めていた。


 エクリアほどの、神がかった魔力制御とコントロールがあって初めて成り立つ、極大魔法をレーザーのように極限まで圧縮し、一点に撃ち出すという超高等技術。軍の魔法使い達は次々とその難行に挑むが、魔力が霧散したり、暴発したりして中々成功しない。


 エクリアは見学席に優雅に脚を組んで座り、誰も聞いていないような小声で、素の口調のまま独り言ちた。


「まあ、こんな高等技術、一朝一夕でできるもんじゃないよなあ」


 そんな中代行のレミリアが、極限まで圧縮させた基本魔法のファイア・ボールを、まるで鋭い矢のように指先から発射し、見事に白銀鉱の鎧の案山子の胸部へと命中させ、小さな焦げ跡を作ることに成功した。


「おおっ……!」「さすがレミリア様だ!」「魔法の形状変化だけでもかなりの難度だというのに、あそこまで圧縮できるとは……!」


 軍の者達から、感嘆と称賛の声が上がる。しかし、レミリアは浮かれることなく、自らの指先を見つめて厳しく首を横に振った。


「いいえ、まだ所詮、基礎の基礎の魔法です。エクリア様は数属性の複雑な魔法をいとも簡単に合成し、針の穴を通すような精密なコントロールで最高硬度の白銀鉱の装甲を完全に撃ち抜きました。私達はまだまだなのです。みなさん、マギナへの魔導列車が開通すれば、遠からずマギナの優秀な魔法使いの軍も合流します! それまでに何としても最低二属性以上のレーザー魔法を完成させましょう! マギナの魔法使い軍に、やはりエデンは違うのだと見せつけるのです!」


 レミリアが力強い声で檄を飛ばし、一同は「おお!」「やってやる!」「私もよ、絶対に負けない!」などと士気も爆発的に上がり、再び凄まじい集中力で鍛錬に没頭する。


「にしし、いいね。レミリアができるようになれば他の連中も自分もできるって思えるようになる。……忘れるなよ、お前ら。魔法はイメージだってな」


 エクリアは周囲には聞こえない声でひっそりと呟き、頼もしい部下達の稽古を見ながらくすくすと笑うのだった。



 ◆◆◆



 第三演習場。


 ここでは、グラザ率いる格闘術士軍と、エヴリーヌ率いる弓術士軍が、それぞれに己の限界を超える鍛錬を行っていた。


 見学席には、神聖術士代行のジュネと、第一演習場から分割して派遣されたエデンとルミナスの神聖術士軍が待機し、戦況を注視している。


 騎士団の鍛錬は頑丈な鎧を着て行われるが、格闘術士軍の鍛錬は、丈夫な武闘着のみを纏い、生身の肉体同士を全力でぶつけ合うという、ある意味で最も危険で激しい鍛練である。そのため、骨折や打撲といった怪我人の多さは騎士団以上の規模になるのだ。


「次、来い!」


 グラザと代行のクリスがそれぞれ演習場の中央に立ち、次々と挑んでくる部下達を相手に、一体多数の生身の拳や蹴りが交錯する激しい立ち合いを行っている。重い蹴りや拳、鋭い突きをまともに食らい、派手に吹っ飛ばされてうずくまる者の側に、すぐさま神聖術士軍が駆け寄り、術で傷や骨折などを瞬時に治療していく。しかし、長い立ち合いの間に何度も何度も怪我人が出続ける。


 この日ジュネに同行しているウィンディは、余りにも激しく、手加減の一切ない格闘術士軍の立ち合い稽古に戦慄しながらも、必死にルミナスの神聖術士軍達を指揮し、自身の魔力の限界まで何度も治療を繰り返す。


「そこまで! お前達は攻撃に意識が向き過ぎている。もっと防御にも意識を割け。規格外の強力な敵が相手では、たった一撃のその被弾が命取りになる。攻撃は最大の防御だが、完璧な防御のない攻撃も成立しない。相手の攻撃を完璧にいなし、見切り、そして出来たその一瞬の隙に、己の必殺の一撃を見舞え。いいな!」


 長身のグラザが、厳しい視線を向けて檄を飛ばし、軍の者達は腹の底から「押忍!」と返事をする。こうして、死と隣り合わせの過酷な格闘術士軍の立ち合い稽古は、血と汗を流しながら延々と進んでいくのだった。



 ◆◆◆



 同じ演習場のもう一方の区画。


 弓術士軍の魔法弓の演習は、肉体的な疲労よりも、極限の精神力と集中力が求められる地獄の鍛錬となっていた。


 エヴリーヌが、いとも簡単に純粋な魔力だけで弓に魔法の矢を創造し、遥か遠くの的を正確に射抜くのを見ながら、軍の者達は、まずその魔法の矢を形として創り出し、維持すること自体に激しく苦労している。優秀な代行であるエリアスでさえ、極限まで集中してようやく形にした一矢を的に当てるのだけでやっとという状態である。


 普段の戦闘では余り使用しない膨大な魔力を、矢の形成のために一気に大量に使用したことで、軍の者達の中には、魔力不足に陥りその場で昏倒する者まで現れ始めた。


「ウィンディさん! すぐ指示を!」


 ジュネが神聖術士軍に声を飛ばし、術士達は昏倒した者達の元へ駆け寄る。すぐさま「マジック・リジェネ!」と対象の魔力を徐々に回復させる術をかけ、昏倒した者の意識を安全に回復させていく。


「どこの軍も、全く気が抜けませんね……」


 ウィンディが汗を拭いながら、エデン軍の訓練の異常なまでの熱量に圧倒される。


「ええ、ですがこれは私達神聖術士にしかできない、重要な役目です」


「はい、常に魔力循環を絶やさずいかなる事態にも迅速に対応します」


「その意気です」


 ウィンディとジュネが、互いに信頼の目を向けて言葉を交わす。


「うーん、まだ魔法弓は難しかったかな、かな?」


 エヴリーヌが、バタバタと倒れる部下達を見て少し心配そうに軍の前で言う。


「いえ、俺達の絶対的な魔力量が少ないのは確かですが、この限界を超える訓練を継続していけば魔力量も必ず増えます」


 エリアスが答え、大声で軍に檄を飛ばす。


「……お前達、エヴリーヌ様の期待を裏切るな! 何としても魔導列車の開通までにこの魔法弓をモノにするぞ。他国には、純粋な遠距離支援に特化した弓術士部隊はない。謂わば我等はエデン独自の誇りある特別な部隊なのだ! その特殊性、特別性を他国に、そして悪魔共に証明するためにも、こんなところで決して根を上げるな! 魔力が枯渇しても後ろには優秀な神聖術士軍が控えている、後のことなど一切気にするな。自分の一射一射に、魂と魔力の全てを込めろ!」


 エリアスの熱い檄に、軍の者達は「おお!!」と士気が最高潮に上がる。


「んっ」


 エヴリーヌは嬉しそうに微笑むと、自分より長身のエルフであるエリアスの黒髪を、背伸びをして優しく撫でた。


「エリアス、あんなに未熟だったのにこの100年で立派に成長した。代行を、ちゃんと務めているね」


「いえ、まだまだです。この100年、必死に努力して来たつもりでしたが、俺達の前には、常にエヴリーヌ様と言う果てしない高みがありますから。ですが、必ず魔法弓をモノにしてみせます」


 エリアスは深く頭を下げると、再び自身の弓を構え、己の魔力と向き合う鍛錬へと戻っていった。


「ん、みんな私がいなかった長い間も、必死に成長してエデンを守って来てくれたんだね」


 エヴリーヌは、何度も魔力枯渇で倒れそうになりながらも、必死に魔法弓の習得に取り組む軍の者達の背中を、姉のように、そして母のように、愛おしそうに見つめ続けるのだった。



 ◆◆◆



 そして第一演習場。


 各国の騎士団との、激しくも充実した一通りの立ち合いを終え、カリナとリーサは演習場の端で刀技の仕上げの鍛錬に励んでいた。


「よし、リーサ、一通りの刀技の基礎と奥義は完全に身に付いたな」


 カリナが刀を鞘に納め、汗を拭いながら満足気に頷く。


「次は、いよいよ刀での魔法剣技の実践だ。ソード技との違いはそこまで大きいわけじゃない。まずは私が、手本として三属性までの刀での魔法剣技を見せる。しっかり見て、魔力の流れと剣閃を学習しろ。お前が三属性を完璧に使いこなせるようになれば、いよいよ刀での四属性に挑戦するからな」


 カリナが、演習用の刃を潰した刀を静かに構える。


「はい、必ずモノにしましょう」


 リーサも同じく刃を潰した刀を構え、師の動きを一瞬たりとも見逃すまいと鋭い視線を向ける。


 相克術、レーザー魔法、格闘術、魔法弓、そして刀での魔法剣。


 五大国の精鋭達が集結し、魔導列車の開通と悪魔との最終決戦が迫る中。エデンの各演習場での血の滲むような鍛錬は、どこも熱気を帯び、日を追うごとに熾烈を極めていくのだった。

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