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5 閻魔庁の書記姫

 入内の式を執り行いそこねた似絵姫は、いったん宿下がりをして日を改めて後宮に上がるつもりでいたが、そのまま留め置かれることになった。

 表向きの理由は『東宮にいたく気に入られた』から。東宮にはまだ正妃はない。宮のそばにいるのは、似絵ただひとり。東宮が即位すれば、姫の立后の式も追々行われるだろう。父の大臣などは、寵愛を独占すれば国母も夢ではないと、大喜びした。似絵の出世は父の栄華につながる。

「聞こえはいいけど」

 実際には、妙なもののけが憑かないように、監視されているのだ。冥府の使いとしてあしらわれ、からかわれている。

 体のいい雑用係だった。冥府から戻ってくる宮は毎回必ず、書き途中の閻魔帳を御所に持って帰ってきては姫に清書させる。

「お前は、冥府の贄だった姫。最大限に、使わせてもらうぞ」

 贄の過去を持つならばそれにふさわしく生き抜くことが、藤原の家のためにもなるし、なによりも宮のそばにいられる。口は悪いけれど、宮はいつも姫のことを気にかけてくれていた。入内の式もうやむやにしないつもりのようで、姫の魂が回復次第、正式に入内の手続きをとり、すぐに女御に立てると公言している。

 戸惑いながらも、姫は閻魔帳を引き受けて書き綴る。生きものたちの、生きていた証をひとつひとつ残してゆく。たとえ、体は滅んでも、魂は確かにある。

 自分と宮の行く末は、しっかりとつながっているだろうか。

 ふと、姫は筆を持つ手を止めて宮に視線を送る。

 昼夜を問わずの激務で、相当疲れているらしかった。毎晩、宮は寝所に入るふりをして、周囲に目くらましの咒をかけ、閻魔の沓で出かけてゆく。魂が修復できるまでのしばらくの間、姫は夜のお忍び禁止、内職専門なのだという。

 柱を背に、宮は日なたでうたた寝をしている。賊の件が収束を見せ、冥府に旅立つ魂は減ってきているものの、仕事はいくらでもあるようだ。

 宮の前髪が揺れる。心地よい風が吹いているが、まだ少し冷気を孕んでいる。ふたりに気を利かせてか、女官たちは近くにいない。姫は自分の袿を一枚脱ぎ、そっといざり出ると宮の体にふわりとかけてやった。

 宮の、力になりたい。宮を、知りたい。

 もっと、自分を認めてもらいたい。姫は決意した。

                              (了)

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