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『ラストシーンは神アングルで。』〜死んだら契約終了、遺品はスタッフが美味しく回収します〜  作者: うちの猫
宇佐美 紬編

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シーン21:『偽りの休日、重なる足跡』

 パチパチ、と爆ぜるような小気味いい音が、静まり返ったリビングから薄暗い寝室へと優しく響いてきた。それに混ざって、香ばしいベーコンの匂いが鼻腔をくすぐる。


 薫はベッドの中でゆっくりと目を覚まし、体を起こした。時計の針は午前八時を回ったところだった。隣のシーツはすでに冷たくなっており、リビングへと向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。


「あ、薫ちゃん! おはよう。ちょうど今、朝ごはんができるところだよ」


 台所に立っていた紬が、フライパンを片手に満面の笑みを浮かべて振り返った。薫の貸したシルクのパジャマの袖を少し捲り上げ、手際よく目玉焼きの焼き加減を確かめている。食卓の上には、香ばしく焼かれたベーコンと、人数分のトーストが綺麗に並べられていた。


「紬ちゃん……。これ、どうしたの?」


「あはは、驚かせてごめんね。目が覚めたら薫ちゃんの冷蔵庫、本当にお水と栄養ドリンクしか入ってなかったからさ。近くの24時間営業のスーパーに行って、少し食材を買ってきちゃった」


 紬は少し照れくさそうに笑いながら、焼き上がった目玉焼きを載せた皿をテーブルへと運ぶ。


 都会に出てきて以来、薫は自分で料理をしたことなど一度もなかった。


 いつも冷たいサプリメントや外食で済ませていた日常の中に、突如として現れた、人が作ってくれた温かい朝食。湯気がふわりと立ち上る目玉焼きを前にして、薫の胸の奥に、言葉にできないじんわりとした温もりが広がっていった。


「すごく美味しい……。紬ちゃん、料理上手なんだね」


「本当!? よかったぁ。地元にいる頃は、いつも私が家族の分も作ってたからね」


 他愛のない、だけどどこか特別に温かい朝食を終えた後、二人はリビングの柔らかなソファに並んで腰掛け、ぼーっと贅沢な午前中の時間を過ごしていた。紬はスマートフォンを操作しながら、不意に薫の方を振り返る。


「ねえねえ、薫ちゃん。MBTIってやったことある? 都会で今、すごく流行ってるってネットで見てさ。私も昨日、誕生日まで入れて相性を見てくれる診断サイトでやってみたんだよね」


「MBTI? 性格診断のやつだよね。紬ちゃんは何だったの?」


「私はね、『ISFP』っていう冒険家タイプだったの! 『芸術家肌で、今この瞬間を大切にする自由人』なんだって。平穏を愛するけど、時々スリルを求める一面もある、とか。しかも誕生日まで合わせると、『好きになった相手や大切な人には、言葉より行動で尽くすタイプ』なんだって。なんか、ちょっと当たってる気がしない?」


 紬は画面を見せながら、自分の診断結果に楽しそうに笑った。


「薫ちゃんも一緒にやってみようよ! 質問に答えて、最後に誕生日を入れるだけだから!」


「ええ、いいよ。どれどれ……」


 紬に促されるまま、薫はスマートフォンの質問項目に一つずつ答えていった。


 感情に左右されないか。計画的に物事を進めるか。目的のためなら、ときに冷徹な判断もできるか――。


 差し出される問いに、薫は淡々と指を滑らせていく。


 やがて画面に表示されたのは、『INTJ(建築家)』という4文字だった。


「わあ、『建築家』だって! 『物事を何手も先まで考える戦略家。感情より合理性を優先し、一人でも自分の目的を貫けるタイプ』……。うわぁ、なんだかすごく薫ちゃんっぽい!」


「ふふ、そう? 戦略家、ね……」


「あ、最後に誕生日も入れるんだって。薫ちゃん、誕生日いつ?」


「私は【10月24日】だけど……」


「えっ、24日!?」


 紬がぱっと目を輝かせる。


「私も24日生まれだよ!」


「本当? 何月?」


「【12月24日】! クリスマスイブ!」


「へえ……紬ちゃん、クリスマスイブが誕生日なんだ」


「うん! 小さい頃から、誕生日ケーキとクリスマスケーキを一緒にされるのがちょっと不満だったけどね」


「あはは、それはちょっと損した気分になるかも」


 二人で笑い合ったあと、紬はふと思いついたように身を乗り出した。


「じゃあさ、今年のクリスマスイブ、一緒に過ごそうよ!」


「え?」


「薫ちゃんと私でクリスマスパーティ! 私の誕生日も兼ねてさ。ケーキ買って、美味しいものいっぱい並べて、映画とか見ながら夜更かしするの!」


 紬はもうその光景が見えているかのように、楽しそうに指を折って予定を数えていく。


「絶対楽しいよ。約束ね、薫ちゃん!」


「……まだ何か月も先じゃない」


「いいの! 先の約束だから楽しみなんじゃん!」


 そう言って、紬は小指を差し出した。


「はい。約束」


 薫は差し出された小指をしばらく見つめたあと、小さく笑って自分の指を絡める。


「……分かった。約束ね」


「やった!」


 嬉しそうに笑う紬を横目に、薫は再びスマートフォンへ視線を落とした。


「それで? 私たちの相性は?」


「あ、そうだった! えーっと……あっ、見て!」


 紬が画面を二人の間へ持ち上げる。


「『性格は正反対でも、お互いに持っていないものを補い合える関係。一度強い信頼が生まれると、簡単には離れられない』だって!」


「簡単には離れられない、か……」


「ね! ますます私たちにぴったりじゃん!」


 無邪気に笑う紬を見つめながら、薫も小さく微笑んだ。


 ひとしきり診断結果に盛り上がったところで、薫は私物バッグの中から、リボンのついた小さなガラス瓶のハンドクリームを取り出した。


 薫はキャップを外すと、手の甲に少量を乗せ、指先でゆっくりと塗り広げていく。さらにほんの少しだけ指先に取り、自分の唇へ薄く馴染ませた。


 どこか懐かしい、甘い香りがふわりと漂う。


 ふと見ると、隣で笑う紬の唇も、都会の乾燥した空気のせいか少しだけ荒れて、白くカサついているのが目に入った。


「紬ちゃん、唇が少し乾いてるよ。はい、じっとしてて」


「えっ……? あ、うん」


 薫は自分の指先に新しく少量のクリームをとると、紬の顔をそっと包み込むようにして、その荒れた唇へと優しく、丁寧に塗り広げてあげた。


 至近距離で重なる視線。紬は少し気恥ずかしそうに目を泳がせながらも、薫の指先から伝わる温もりに、じっと身を委ねている。


「はい、これで大丈夫。オシャレな女の子は、唇のケアも忘れたらダメだよ?」


「……うん。薫ちゃん、ありがとう。すごく、いい匂いがする」


 紬は自分の唇にそっと手を当て、嬉しそうにはにかんだ。


 昼前になると、二人はパジャマから私服へと着替え、オシャレなショップが立ち並ぶ都会の街へと繰り出した。


 お昼ご飯に少し背伸びをしたカフェでパスタを食べた後、並んで洋服屋やインテリア雑貨の店を巡る。


「薫ちゃん、この服どうかな!? 都会の配信者っぽくて格好いい?」


「うーん、紬ちゃんにはこっちの、少し動きやすいアクティブなジャケットの方が似合うと思うな。ちょっと合わせてみて?」


「わあ、本当だ! 薫ちゃん、やっぱりセンス最高だね!」


 お互いに服を選び合い、鏡の前で何度もポーズを取って笑い合う。誰の視線も、業務用の重いカメラも、髪留めの隠しレンズもそこにはない。ただのどこにでもいる、休日の買い物を心から楽しむ同世代の女の子たちの足跡が、都会の路面にいくつも重なっていく。


 夕方になり、少し足が疲れてきた頃、二人は帰り道にスーパーへ立ち寄った。今夜のために、少しのお酒とおつまみをカゴに放り込み、さらに近くのレンタルショップで、二人で観るための少し古いコメディ映画のDVDを借りる。


 私服のまま両手に買い物袋を抱えて薫の部屋へと戻ると、外はすっかり暗くなっていた。


「よし、じゃあ先にお風呂に入っちゃおうか。今日は家のお風呂だけど、紬ちゃん、一緒に入ろ?」


「えっ、おうちのお風呂に二人で!? ……うん、お邪魔します!」


 昨日の昔ながらの銭湯の広い湯船とは違い、マンションのプライベートな浴室は、二人が入ると少しだけ窮屈だった。だけど、それがかえって二人の距離を縮めてくれる。


 白く立ち上る湯気の中、肩までお湯に浸かりながら、他愛のない今日の買い物の反省会をして笑い合う。狭い湯船のなかで、二人の肌が優しく触れ合うたびに、昨日よりもずっと深い、確固たる結びつきが部屋を満たしていった。


 お風呂から上がり、ようやくお揃いのパジャマ姿になった二人は、リビングの絨毯の上に並んで座り、お酒を片手に借りてきたDVDを再生した。


 テレビ画面の中で繰り広げられるドタバタ劇に、おつまみを口に運びながら一緒になってお腹を抱えて笑う。お酒が回るにつれて、会話の内容はさらに境界線を無くし、深夜になるまで笑い声が途切れることはなかった。


 やがて映画が終わり、深夜の静寂が静かに部屋を満たしていく。


 二人は大きなベッドへと潜り込み、並んで枕に頭を沈めた。カーテンの隙間から、昨日と同じように、冷たくて優しい月光が二人の布団を照らし出している。


「ねえ、薫ちゃん。明日は、またダンジョン配信だね」


 暗闇のなか、紬が布団を顎まで引き上げながら、薫の顔を真っ直ぐに見つめて呟いた。その瞳には、かつて都会の冷たさに怯えていた迷子の影はもうなかった。ただ相棒を信じ切っている、強い光が宿っている。


「私、薫ちゃんがカメラを構えてくれてるって思うと、本当に何でもできる気がするんだ。……明日も、一緒に頑張ろうね」


「……うん。明日も、最高に格好よく撮ってあげるからね。おやすみ、紬ちゃん」


「おやすみ、薫ちゃん……」


 紬は満足そうに微笑むと、一日の心地よい疲れに身を任せるように、すぐにすやすやと愛らしい寝息を立てて眠りに落ちていった。


 静まり返った寝室。枕元には、二人の、本当にお揃いのウサギの髪留めが静かに並べられている。


 薫は暗闇の中でゆっくりと寝返りを打ち、自分の隣で完全に安心しきって眠っている親友の寝顔を、ただ静かに、じっと見つめ続けた。


 パチパチと音を立てて焼けた、温かい目玉焼き。

 スマートフォンの画面を二人で覗き込んだ、MBTIの診断結果。


 自分の指先で、そっと触れたあの子の柔らかい唇。

 あの子が自分を信じて笑えば笑うほど、あの子との日常がこれほど愛おしく重なれば重なるほど――。


 薫の胸の奥深く、その冷徹な『建築家』のチェス盤の底で、言いようのない重い何かが、静かに、だけど確実にその輪郭を広げようとしていた。


【あとがき】


「配信(シーン21)を見てくれてありがとう! カメラマンの千歳薫よ。


 配信のあと、私の部屋で一緒に朝ごはんを食べて、のんびりMBTIの相性診断をして、お昼からは都会の街を並んで歩いて――本当に、どこを切り取っても“普通の女の子同士の休日”みたいな一日だったでしょう?


 しかも、私が【10月24日】生まれで、紬ちゃんが【12月24日】生まれ。二人とも同じ“24日生まれ”だなんて、ちょっと出来すぎなくらい可愛い偶然よね。

 そのうえ紬ちゃんったら、自分の誕生日でもあるクリスマスイブに『一緒にクリスマスパーティしようね!』なんて、あんなに無邪気に約束してくれるんだもの……。画面の前のあなたも、あの子の眩しい笑顔に、ついつい心をほどかれちゃったんじゃないかしら? うふふ。


 それに、手にも唇にも使える低刺激の保湿クリームで、あの子の唇まで優しくケアしてあげたら、あんなに嬉しそうにはにかんじゃって……本当に、素直で可愛い私の『ウサギさん』。


『二人の距離がどんどん近づいていくのがたまらない!』

『クリスマスイブの約束がどうなるのか気になる!』


 そう思ってくれた画面の前の、そう、そこのあなた!

 その熱い気持ちを、ぜひ【ブックマーク】登録で私に直接届けてちょうだい!


『面白かった!』

『薫と紬の穏やかな休日なのに、不穏さがじわじわ滲んでいて最高!』


 と思ってくれたら、下にある評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めるという名の、私への『最高額スパチャ』を投げてくれたら嬉しいわ。

 もちろん、フェイク抜きの本物の星5個でお願いね?


 君たちの一票(星)が、私のカメラワークと、この物語をもっと強く、もっと美しく輝かせるエネルギーになるの。みんなからの熱いコメント(感想)も、いつも通り楽しみに待っているわね。


 さあ、休日を重ねてますます深まっていく“友情”が、これからどんな運命へ向かっていくのか――次の配信(シーン22)も、楽しみにしててね♡」

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