第三話 異国からの留学生
アルヴァ様と出会ってから、数日後。
今日から新学期が始まり、レガリア王立学園に、多くの学生が登校している。
「おはようございます。新学期も、よろしくお願いいたしますわ」
「はぁ、もう春休みが終わりとか……もっと遊びたかったなー」
馬車から降りると、あちこちで学生たちが、談笑をしていた。
それを横目に、クラス分けが書かれた掲示板を確認し、教室に向かうと、何人も見知った顔があった。
「あら、フィーア様ではありませんか。今年もよろしくお願いしますね」
「はい。よろしくお願いいたしますわ」
顔なじみと軽い挨拶をしていると、窓際で多くの女子生徒に囲まれている、ルーカス様が目に入った。
「…………」
はぁ、まさかルーカス様も、同じクラスだなんて……運がない。
「……関わらない方が良いわね」
自分の席で本を読んでいると、歴史の授業を担当している、初老の女性が教室に入ってきた。
「席についてください。えー、今年の二年B組の担当は、私が務めます。去年から、皆さんは私の授業を受けているので、挨拶はこの程度にして……皆さんに紹介したい人がいます。どうぞ、お入りください」
教室の入口が開くと、そこには見覚えのある、綺麗な男性が立っていた。
「えっ……うそっ……あ、アルヴァ様!?」
「フィーアさん、お静かに」
「も、申し訳ございません……」
先生に注意された私は、身をすくめる。
……また会いたいと思っていた人と、こんなすぐに再会できるなんて……心臓がバクバクいっている。
「アルヴァさん、皆さんにご挨拶を」
「はい。はじめまして、アルヴァ・ヴィスティアと申します。ヴァルトベルクという国から、この国に留学生としてやってきました。よろしくお願いします」
「ヴァルトベルク……? そんな遠い国から留学生?」
「なんて綺麗なお方なのかしら……!」
「ありがとうございます。皆さん、アルヴァさんと仲良くしてくださいね」
こんなに早く、アルヴァ様に再会できたうえに、同じクラスで一年間も一緒に過ごせる。
これが夢なら……お願い。もう少しだけ……このままで。
****
驚きと嬉しさで、ぼんやりとしているうちに、朝のホームルームも始業式も終わった。
教室の中は、アルヴァ様に興味津々のクラスメイト達が、こぞってアルヴァ様に声をかけていた。
「アルヴァ様! あの、よろしければ、一緒にカフェテラスでお茶でもいかがですか?」
「お誘いは嬉しいが、遠慮しよう」
「アルヴァ君! もしよければ、俺達が学園を案内するぜ?」
「気持ちだけ受け取っておこう」
アルヴァ様が、次々とお誘いを断っても、クラスメイト達は諦めずに声をかけるが、全てそっけない態度を取られている。
遠い国の貴族と仲良くなっておきたい……なんて、考えているのでしょうね。
――かくいう私も、アルヴァ様と話したい。
また彼と……あの時のように、好きなことを語り合いたい。
「ははっ、随分と人気のようだね、アルヴァ殿。だが、せっかくの好意を無下にするというのは、いかがなものかな?」
「……たしか、ルーカス殿だったかな? 貴殿のアドバイスはもっともだ。しかし、私には先約がいるものでな」
そう言うと、アルヴァ様は静かに私の前に立つと、スラッとした美しい手を、私に伸ばした。
「フィーア、よければ私に、学園の案内をしてくれないか?」
「わ、私がですか?」
「ええっ!? フィーア様、いつの間にアルヴァ様にお近づきに?」
「あんな地味な令嬢の、何がいいんだ……??」
「実は、フィーアさんって凄い人……?」
全てのお誘いを断り、目立たない私の前に立った――その事実は、クラスメイト達を動揺させるのに十分だった。
「……はい、喜んで」
思わず、口元が緩み――そのまま、手を伸ばした。
しかし……その手が、アルヴァ様の手に触れることはなかった。
「こらこら、今日は放課後、俺に勉強を教える予定だっただろう?」
私の邪魔をしたのは、ルーカス様だった。にこやかに笑いながら、私の手を強く握っている。
「なんのことでしょう? あなたとの約束など、記憶にございませんわ。だから、この手を離してくださいませ」
「覚えていない? とぼけるなんて、酷いじゃないか。まったく……この前のパーティーの時からそうだったけど……俺、気分を損ねるようなことを、なにかしたかな?」
なにかしたか――ですって?
散々、私との約束を破り続けていたのに、それを全く悪びれもせず、私にだけ守らせ、知らないところで酷いことを言っていたくせに。
「とにかく、私はアルヴァ様と行きます。なので、早く離してください」
「……ちっ」
ルーカス様は、私にだけしか聞こえないくらいの、小さな舌打ちをしながら、手を離した。
……人前だから、強く出られないのね。
「では参りましょう、アルヴァ様。ぜひご案内したい場所がございまして」
「それはとても楽しみだな。よろしく頼む」
「はいっ」
私は、心を弾ませながら、アルヴァ様と一緒に教室を出る。
その際に、ルーカス様から冷たい視線を向けられていたけど、無視した。
しょうがないでしょ? もう、これっぽっちも興味がないんだもの。
****
■ルーカス視点■
「……あれが、俺の知っているフィーアなのか?」
教室の入口を呆然と眺めながら、ぽつりと呟いた。
あいつは、俺に逆らうような女じゃなかったはずだ。
俺が呼べば喜んで来るし、言えば忠実に従う。どんな扱いをしたって、変わらずに尽くしてきた。
そう。フィーアは、そういう都合の良い“道具”だったはずなのに。
「それが、あんなに堂々と拒絶をするだなんて……どうして、こうなったんだ?」
思い当たる節がない。俺は、何も悪いことはしていない。
「あの、ルーカス様? フィーア様と、何かあったのですか?」
「いや、なんでもないよ。心配してくれてありがとう。君の美しさは、外見だけでなく、心もなんだね」
「やだぁ、ルーカス様ったら~」
ふん、まあいい。少し優しくしてやれば、機嫌を直して、俺の元に戻ってくるに違いない。
ああ、そうだ――そうに決まっている。




