表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都合の良い女はもうやめます ~婚約者を捨てたら、王太子様に想われて離してくれません~  作者: ゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第二話 新しい出会い

 屋敷へ帰ると、リーベがすぐに出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、フィーアお嬢様。あら……なんだか、顔色が優れないご様子……」


「心配ないわ。それよりも、あなたに伝えたいことがあるの」


 小さく息を吸ってから、リーベを真っ直ぐ見る。


「私ね……もう、ルーカス様を愛することを、やめることにしたわ」


「フィーアお嬢様……?」


 リーベは、突然の報告に、戸惑いを見せていたけど、すぐに何かを察したように、小さく頷いた。


「はい。あなたにとって、それが一番でしょう」


「色々と心配をかけてしまって、本当にごめんなさい、リーベ」


「お気になさらず。あなたがお気づきになって、嬉しく存じます」


 リーベの声が、いつもよりも弾んでいるように聞こえる。


「そうだ、明日の予定は?」


「午後から、建国記念日のパーティーがありますね」


 国を挙げての、大きなパーティー……きっと、彼も参加をするでしょうね。


 以前なら、すぐに会えると喜んでいたはずだけど、今はそんな気持ちはない。


「なら、早めに休んだ方が良いかもしれないわ」


「お休みになるまで、ご一緒いたしましょうか?」


「もう子供じゃないんだから、大丈夫よ」


 大丈夫と伝えているのに、リーベの表情は、不安そうなままだ。


「大丈夫よ。ちょっとあったけど、おかげで憑きものが取れたみたいで、気分が良いのよ」


「……かしこまりました」


 渋々納得したリーベに、私はごめんねと謝りながら、小さく笑う。


 ――今日は、珍しく悪夢を見ることはなさそうだ。



 ****



 翌日のパーティーは、王家が持つ大きな会場で行われた。


 高い天井に煌びやかな装飾、そしてそれらに負けない、キラキラと輝く参加者……いつもの光景だ。


 そんな会場に到着して、早々に見かけたのは……ほかでもない、ルーカス様だった。


 彼は、知らない女性と、楽しげに話している。


 ……いつもなら、すぐに挨拶に行くが、今日は全くその気が起きない。


 だから、気にしないで通り過ぎようとしたが、リーベに止められてしまった。


「フィーアお嬢様。お気持ちは重々承知ですが、立場上お声がけをしないのは……」


「……そうよね」


 小さく溜息を漏らしてから、ルーカス様に声をかけた。


「……ごきげんよう」


「……ああ、フィーアか」


 ルーカス様は一度だけ視線を寄越すと、すぐに隣の女性へと微笑みを向けた。


「すまない、少しだけ席を外す」


「ええ、ごゆっくりどうぞ」


 柔らかな声に頷いてから、再び視線をこちらに向けた。


「……今は手が離せない。あとにしてくれ」


 周囲には聞こえないほどの声で、それだけを告げると、視線を彼女に戻した。


「待たせてすまなかったね。向こうで話そうか」


 ルーカス様は、何事もなかったかのように、そのまま女性をエスコートして去っていった。


「フィーアお嬢様、よろしいのですか?」


「……ええ。行きましょう、リーベ」


「……はい」


 その後、リーベと一緒に、無事に挨拶を終えると、またルーカス様の姿が目に入る。


 そこでも、また別の女性と……はぁ、どうでもいいか。


「お疲れ様でした、フィーアお嬢様」


「リーベもお疲れ様。パーティーの開始時刻まで、もう少し時間があるから、少し外で休んでくるわ」


「私もご一緒いたしましょうか?」


「すぐに戻るから、大丈夫。それじゃあ、行ってくるわ」


 会場を抜けて中庭に出ると、そこには先客がいた。


 長くて真っ白な、雪のような髪と、切れ長の金色の目が美しい男性だった。


 ――その整った横顔に、思わず視線が引き寄せられた。


『……ここは静かだな』


 彼の独り言が、ふと耳に入る。


 今の言語……確か、外国の古代言語の一種だったはず。


「……? そこの君、私に何か用か?」


「あっ……失礼いたしました。ちょっと風にあたりに……私は、フィーア・クライリスと申します。レガリア王立学園に通っております」


「これはご丁寧に。アルヴァ・ヴィスティアだ」


「アルヴァ様ですね、よろしくお願いしますわ」


 ヴィスティア……聞いたことがない家の名前だわ。


 リーベだったら、知っているかもしれない。後で、聞いてみようかしら。


 ――そんなことを考えながら、並んで風に当たっていると、アルヴァ様が、小さく口を開いた。


『祖国と違って、この国の風は気持ちがいいな』


『……はい。優しくて、温かくて……私も好きです』


 自然と口にした私の言葉に、アルヴァ様は大きく目を見開いた。


「待て。君は、祖国の古代言語を話せるのか?」


「完璧に使いこなせるわけではありませんが……」


「謙遜するな。先ほどの発音……訛りがなく、文法も乱れていなかった……我が祖国、ヴァルトベルクの民でも、使いこなせるのは、ほとんどいないというのに……」


 ヴァルトベルク? それって、馬車や船で数日はかかる、遠い国だったはず。


 どうしてそんな遠い国の人が、このパーティーに参加しているのかしら?


「えーっと……私、語学や歴史の勉強が好きでして。特に、古代言語が好きなのです」


「奇遇だな。私も言語や歴史が好きなんだ」


「まあ……こんな素敵な偶然がありますのね。よければ、少しお話ししませんか?」


「ああ、喜んで」


 私の趣味の話なんて、あまり出来るものじゃない。


 それを、自然に話せる相手に出会えるなんて……思わず頬が緩んでしまうわ。



 ****



 気が付けば、あっという間に時間が過ぎていた。


「まさか、こんな遠い異国で、君のような人に出会えるとは。私はとても幸運だ」


「私も、こんなに楽しくて満たされた気持ち、初めてですわ」


 古代言語や、両国の歴史についてだけでなく、好きな時代の話もして……なんて充実した時間なのかしら。


 それに、アルヴァ様とお話していると……とても心が落ち着く。


「そろそろ、戻らなくてはいけないが……もう少しだけ、私に付き合ってくれるか? 少し、君と議論をしたい話題があってな」


「もちろんですわ。一体どんな――」


「ああ、こんなところにいたんだね」


 せっかくの楽しい時間を、壊すように――聞きたくもない声が、邪魔をしてきた。


「パーティーが始まるのに、戻ってこないなんて……いつからそんな人間になった?」


「…………」


「君が遅刻したら、俺にも迷惑がかかるのが、わからないのかい? ほら、一緒に行ってあげるから、早くおいで」


「離してください」


 腕を掴んで連れていこうとするルーカス様に、抑揚のない声で反発する。


 今までだったら、迎えに来てもらえたと、はしゃいでいただろうが……そんな気持ちは、微塵も沸いてこない。


「……俺に迷惑をかけるな」


 静かに、しかし確実に苛立ちを孕んだ小さな声。


 それでも、私はもう一度、離すように促した。


「ちっ……」


「いたっ……」


 私の細い腕を握る手に、力が入る。


 それを見越したかのように、アルヴァ様が私達の間に割って入った。


「失礼。お二人の会話に、部外者が割り込むのは、マナー違反だと思われるだろうが……貴殿の連れ戻し方が、少々気になった。貴殿の国では、それが婚約者を連れていく作法なのか?」


「……おや、外国の方かな? はじめまして。興味を持っていただけたのなら、お話ししたいところですが……生憎、急ぎの身でして」


 さっきまで、私には不機嫌そうな表情を向けていた。


 しかし、今のアルヴァ様はとてもにこやかで、敵意なんて一切感じさせないものだった。


 相変わらず、人当たりの良い態度を取るのが上手ね。


「とにかく、早く戻ってくるんだよ」


 アルヴァ様に邪魔をされたルーカス様は、不満げな態度で会場に戻っていった。


「お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ございません。その、彼は私の婚約者なのですが……色々ありまして」


「そうか。私こそ、部外者なのに出しゃばって、すまなかった」


 アルヴァ様は、何も悪くない。


 むしろ、助けてくれたことに、深い感謝をしているくらいだ。


「それにしても……君のような素敵な女性には、彼はあまり相応しくないように思うのだが……いや、これは失言だった。忘れてくれ」


「あ、あはは……私も、あのお方には、関わりたくありません。できれば、私もあなたのような……もっと知的で優しくて、一緒にいると安心するような……そんな方が、婚約者だったらと思います」


「…………」


「本日はお相手していただき、誠にありがとうございました。遠い国のお方ですし、もうお会いすることは叶わないでしょうね」


 本当は、もっとお話をしたかった。彼のことを知りたかった。


 でも、これ以上は高望みが過ぎるわよね。


「さようなら、アルヴァ様。ご縁があれば、またお会いできることを願っております」


 後ろ髪を引かれる思いで、私は振り返らずに、会場の中に戻っていく。


 ――神様、この願いが届くのなら。


 もう一度だけでいいので、彼とお話させてください。









『まさか、この地であれほどの才を持ち、魅力的な女性に出会えるとは……レガリア王立学園……か。なるほどな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ