12.9巻の制作
『魔術師の杖』9巻は、これまでとガラっと雰囲気を変えて、ダークな色調にした。
折り返しに入ったストーリーは、9巻で転換点を迎える。それにもうひとつ狙いがあった。
「これまで『魔術師の杖』を素通りしていた読者さんにアピールしたい」
9巻ではアンケートを取らず、最初からオドゥ単体にすると決め、読者さんにもそう宣言した。
ところがこの表紙、「異色である」と編集長に大反対された。もっと爽やかでかっこいい、竜騎士とドラゴンの挿絵①を表紙に推された。
「決定権は出版社にある!」
事前にオドゥにすることは伝えていたし、何ヵ月もかけて原稿を準備していた私はブチ切れた。
絶対に譲らず、結局は向こうが折れた。
本が完成してからいろんな人に見せて、「どちらが表紙にふさわしいと思う?」と聞くと、全員が全員「こっち!」と答える。
私にしてみれば、ただいちゃもんをつけられて、作業時間を二日もムダにしただけだった。
それ以外はスムーズに行く。よろづ先生と仕事をするのは楽しい。
書籍化の話が来た時、なろう版との違いをだすため、「錬金術師オドゥをダークヒーロー、影の主役にしよう」と考えた。
彼が最初に出てきた時は、ただグレンを崇拝&妄信する、ただの不気味な錬金術師だった。
どうしてそうなったか……彼の生い立ちから考えて、1巻・2巻のSSに書いていった。
9巻表紙の指示はこんな内容。
『ブラックオドゥ(単体)。覚醒したオドゥ。悪そうな激しい感じでお願いします。
錬金術師のローブ、黒縁眼鏡、こげ茶の髪。瞳だけ右目が深緑、左目が金色のオッドアイです』
よろづ先生からはラフ絵とともに、こんなコメントを頂く。
『今回はいち場面というよりもイメージ的な画面にしてみました。黒の蔓薔薇がオドゥに絡みついています。
黒薔薇の花言葉は「永遠の愛」「貴方はあくまで私のもの」「決して滅びることのない愛」「永遠」「恨み」「永遠の死」「あなたを呪う」
オドゥの表情は笑っているようにも怒っているようにも悲しんでいるようにも見えたらと思いました』
よろづ先生のアイディアの黒薔薇は、花言葉がオドゥにぴったり!
ラフ絵の段階でも既に完成度が高く、迫力のある画で期待が高まる。
私は編集部とよろづ先生にフィードバックした。両方に送るのは、5巻と6巻の表紙を取り違えて発注された経験からだ。
転ばぬ先の杖、用心には用心。
よろづ先生に余計な負担をかけたくない。
『全体的に黒と茶色で色味がおとなしいため、はっきりとした差し色がほしいです。たとえば、オドゥの目(右目が深緑、左目が金)の明度と彩度を上げるなど。
パッと全体を見た時に、差しだされている手に視線が集まるため、顔に視線が行くように、ライティングを変えるなどの工夫をしてほしいです。
もしくはコントラストをあげて、明るいところをより際立たせるとか。
(できれば顔は目立ってほしいです)
顔が大きく映っている構図なので、メガネや表情などは拡大してもきれいに見えるぐらい、しっかり描きこんでいただけるとうれしいです。
オドゥの表情からでる不安定さや雰囲気を生かしたいため、バラの大きさは一定にせず、遠近感をつけたり大小を変えることで画面に動きをだしてください』
すぐに対応して頂き、よろづ先生からは白か紫を使う、2案が提示される。
どちらも捨てがたかったけど、紫でお願いする。
完成版は文句なし。欲しかった画がそこにあった。
「パーフェクトです!」
美麗だからこそ不気味さや恐ろしさが際立つ、迫力のある表紙絵に仕上がった。
光る左目と眼鏡の奥に見える、彼の感情……寂しさや怒り、彼の複雑な内面をよく表現して下さったと思う。
挿絵①は竜騎士団の演舞。ミストレイとミスリル鎧姿のライアス。デザインはされていたのに、鎧とドラゴンはなかなか描いて頂く機会がなかった。
挿絵①はなろう版465話『竜騎士団の演舞』から。
横浜旗士道という、よさこいのフラッグパフォーマンス集団から思いついた。
どちらが表紙になっても、見応えと迫力のあるものになったとは思う。
とにかくさわやかでかっこいい。
挿絵②のヌーメリアのドレスは、よろづ先生に自由にデザインして頂いた。
プリンセスラインかマーメイドラインかで悩むよろづ先生が可愛かったし、私も冬の間ワクワクと気持ちが盛り上がっていた。
なんだかんだ言って、本作りはいろんな人に支えられている。よろづ先生の絵を生かすべく、タイトルやロゴ回りの色調整をして頂いた。
9巻が発売されると、これまた大反響だった。1巻からオドゥは登場するけれど、これまで表紙になったことがないキャラだったから、読者さんは喜んで下さった。
9巻を上梓し、私はしばらくコミカライズの準備に専念することになる。









