11.8巻の制作
8巻の場面は港町タクラ。この巻は最初に構想を練った時、『魔導列車に乗るネリアとそれをエスコートするユーリ』というものだった。
連載するうちに、ストーリーが少し変わった。ネリアとユーリは別々に行動して、魔導列車には一緒に乗らなかった。
「6、7巻と夜の表紙が続いたので、昼の港町を描くの楽しみです!」
よろづ先生はいつも、楽しそうにイラストを描いて下さる。
6巻を仕上げた直後、彼女は店の看板などに使う、エクグラシア文字を考えることを提案して下さった。
ちょうど8巻になる部分を連載していた時だ。
「アルファベットベースでいいですか?」
「はいっ!」
この時デザインされた文字は、漫画家のひつじロボ先生にも共有され、コミカライズでもばんばん使って頂いている。
そんな感じで、コミカライズなんてまだ雲をつかむような時から、私もよろづ先生もガンガン『魔術師の杖』の世界観を作りこんでいたのである。
もともと私は、映画やゲームの制作資料集や設定資料集を読むのが好きで、世界観が作りこまれる所を感心して眺めていた。
だから書籍化の話がくる前から、キャラクター設定や設定資料集を、更新しながら軽く10万字ぐらい作っていた。
それが結局、役に立った。なろうのページをそのまま送っただけで、「これでじゅうぶんです」と言われた。
「原作の世界観や雰囲気を生かしたコミカライズにしたい」
どんなコミカライズになるのか心配で、大阪の編集部まで出向いた私に、マッグガーデンの担当様は、安心させるようにそう言って下さった。
いろんな人が作品に関わってくれる。ありがたいことだけれど、プレッシャーもある。
ただ楽しく書いていただけなのに。
どんどんおおごとになっていく。
私としては、よろづ先生に絵を描いてもらえれば満足だけれど、そのためには本を出す必要があった。
たくさんの人に彼女の絵を見てもらうためには、本が売れる必要があった。
ヒリヒリするような発売前の緊張なんか味わいたくないし、 あまり目立つのも好きじゃない。
このまま無事に完結できればいいや、ぐらいに考えていた私は、マッグガーデンの担当様に発破をかけられた。
「粉雪さん、マスを目指して下さい。私たちは本を1冊でも多く、そう100万部を売りたいと思って、真剣に仕事をしています!」
ひゃいっ!(ビシッ)
漫画家さんの時間をお預かりするのだ。きちんと結果を出せるよう、最大限のサポートをすることを、こちらもお約束した。
そうして大阪から戻って、8巻の制作。短編集の半年後の10月発売と決められた。
2巻と8巻の表紙を飾ったユーリはどちらも仮の姿。眼鏡を貸したオドゥが、のんびりと笑ってる。
よろづ先生はキャラの特徴をとらえて、違和感なく仕上げて下さった。
リクエストして描いてもらったミニネリアが可愛い。
その前の短編集から、デザインしてもらうキャラを増やしている。
挿絵①はカーター副団長の1人娘メレッタと、ユーリの弟カディアン。もちろん可愛い組み合わせなのはわかっていたけれど、実際に絵ができてくるとまた違う。
8巻にして初めて、魔術学園のローブもデザインしてもらう。
『魔術師の杖』では白いローブが錬金術師、黒いローブが魔術師、紺色のローブは魔術学園生、そして呪術師は赤いローブと決めている。
挿絵②はネリアとニーナ。驚くニーナと楽しそうなネリアの表情が印象的だ。
最初の頃は目先を変えて、読者さんを飽きさせないよう、表紙ではネリアと組む相手をどんどん変えていった。
シリーズが安定してきても、読者さんに人気があるキャラクターを中心に、表紙や挿絵を考えた。
コミカライズが決まったおかげで、短編集①と8・9巻は、ようやくサブキャラクターを表紙に使うことができた。
デザインが送られてくるたび、私は喜びをかみしめる。それと同時に、ここにくるまでにかかった時間と労力に対して、不甲斐なさと悔しさのようなものも感じている。
読者さんの「もっと絵が見たい」という希望には、まだちっとも応えられていないのだ。
8巻が出来上がるころ、ひつじロボ先生が漫画を描かれることが決定した。
発売時にサイン本企画をやったこともあり、8巻は数ヵ月に渡ってロングランで売れた。
年明けの2025年はキャンペーンをやったこともあり、1巻を始めとする既刊も新刊並みに売れた。
素人がひぃひぃ泣きながら、原稿を直して作っていた『魔術師の杖』は、いつのまにか抜群の安定感を誇るシリーズに成長していた。









