第六十話
「というわけでw俺はアンタとは一緒に行かないよw用済みじゃんw」
ユーチューバーは帽子を取ると、坊主頭に月の満ち欠けの剃り込みが入った頭が、ネオンサインのピンクの光に洒落た雰囲気を感じさせた。
「つまり?」
「俺は、この力を手にしたままに現実世界に行きたいわけwそのために役立ちそうな奴に会うねw」
「サインだけ頂戴。どこかで売るわ。」
「現実で会えたら仲良くしてたねwはいw」
ユーチューバーは、鈿音のカメラにサインをしようとしたが、ホログラムの作る世界のものだったので鈿音の元に無かった。
「じゃこのコートでw」
「アンタの格じゃない。」
鈿音はガムの包み紙を差し出す。
「ファンなんです。サインお願いします。」
「ま・じ・で!せいせいするわw」
ユーチューバーは手持ちのボールペンで雑にサインした。
「ガムくれないw」
「やだw」
鈿音は笑いながらガムを噛んだ。
互いに笑っていたが最悪の雰囲気だ。
「じゃwチャンネル登録、高評価よろしくおねがいしますw」
ユーチューバーは去っていった。
「そう。私も決断の時ね。」
薔薇はこのまま鈿音と一緒にいるべきか悩んだ。
ように見せかけて即答した。
「私も離れます。じゃあ。」
鈿音は怪しく光るネオンサインの前でまた孤独になった。
スリを蹴り飛ばしながら次に向かうべき場所を探す。
「警察って、どこにいれば有利なの?そもそも勝手に脱出しないの?」
鈿音はスリを回転するように蹴り飛ばして頭がスライドした方向に進むことにした。
早速蹴ってみる。
スリは回転しながら動いていく。そのまま店の写真看板に突っ込んだ。
スリがショックで立ち上がる。
「………そう……120分コースを。サディスティック御前。プレジェントを……」
薔薇の写真を前にして意識朦朧としながら必死にコースの指定を始める。
「プレゼントを、時計。ここに。ナイ!」
スリは慌てふためく。そのまま自分のズタズタに噛み裂かれたズボンのポケットをまさぐる。“ナイ!”ことを再確認しただけだった。
スイッチが切れたように項垂れたまま膝をつき、そのまま頭を項垂らせて気絶した。
鈿音は頭の方向を確認する。
「というわけで、地下なのね。私が向かうのは。」
鈿音はそこらのマンホールから下水道に潜ることにした。
「弾丸で開けられるかしら?」
銃をマンホールに向けて発射したが、弾丸は跳ね返って鈿音のおでこを貫通していった。
マンホールを持ち上げるのは不可能だ。
地下通路のような場所があれば。
そう思っていると、SM専門店の店主が看板を持って出てきた。
眠そうな、ほとんど開いていない目をネオンサインのピンク色に晒しながらドアに立てかける。
「夢を見たな。店で眠ったことなどしばらくないのにな。」
[open]
鈿音はマンホールの周りを歩いて方法を探していた。
夜も本格的に深まり始め、通り全体にネオンサインが出る。
鈍い光がこの場所を適切に隠し、求める者のみ辿り着けるように調整されていた。
店のネオンサインはドアに貼り付いていた。
鈿音が歩くのをやめて見とれていると、店ごとのネオンサインからアルファベットが飛び出しきた。
ローマ字のつづりで鈿音に接触をとってきた。
『na ni shi tell?』
「何しテルか。つまり何をしているのか話せば良いのね。クエスチョンマークなんかあったのね。」
鈿音は教えるつもりがない。
さすがに罠だと感じた。
「あなたはどこの誰でどこにいるの。どことなく教えなさい。」
『????????』
「あっそ。秘密なの。いいわよ。」
「その女はわしの店の前のマンホールを開けようとしている。分かったらnとeを返せ。」
店主はこの状況を飲み込んだようだ。
「あなた!おバカね。これは夢よ。」
「いんや。これが夢じゃないとすればさっきのも夢じゃない。つまりわしは寝てないことになる。」
「夢から覚めてまだ夢なのよ。」
「だとして、気持ちよく寝られるのなら、わしは夢の中の心持ちをよくするわ。」
『n to e kaesu』
「今度はoを取られた。」
「敵なら容赦しないわ。」
鈿音は銃を構える。
アルファベットはたくさん飛んできて
『kyoryoku』
の形になった。
「協力?何で。知らない人でしょ。」
『yoryoku』
kだけ元の看板に戻っていった。
「なるほど余力ね。いいわ。そういえば地下に行くとき明かり欲しいし。今の私はダメージを受けないものね。」
『yoyo』
「ナニソレ。まぁいいわ。どう協力するの?」
rとkとuがお互いに割りあってマンホールの中にガスが入っていった。
「何してるの?」
『ute』
「撃て?このスキマを?」
鈿音は銃口をその穴に突っ込んで発砲した。
ガスで爆発してマンホールは吹っ飛び、覗き込んでいた鈿音も一緒に吹っ飛ぶ。
「なるほどね。超のつくお手柄でした。」
ネオンサインのBARの看板のグラスが近づいてくる。
「お酒ない?」
「あの娘の残したビールなら。」
老人とは思えない手捌きでグラスに注がれたものが出てきた。
「このタイプのグラスでこんなちょっとのビールいれる?」
ネオンサインと同じ形のグラスに黄色い炭酸が入っている。
『oppai』
「なるほどね。」
鈿音はグラスの形のネオンサインを銃で撃ち抜いた。そしてビールをあおる。
『yoparai』
「さっきから文字を工夫してやりくりしているのがムカつくわ。」
そう言ってウォッカの瓶を手に持ち、『yoparai』に鈿音をさす矢印までついたネオンサインと共に下水道へと降りていった。




