第五十九話
「この勝負、私たちの負け?」
「諦めたほうがいいね!」
スリにとっては勝敗など関係ない。何故かこの洋館に送られてきた被害者だ。
「まだまだ。これから。しかしな、誰が昨日誰に投票したのか知らねば。」
店主はタバコに火をつけて円卓の上の花瓶を灰皿に使った。
「私は昨日、ホログラムに投票しました。」
「わしはそこの男に」
「俺はホログラムにw何で?俺怪しいの?w」
「俺もホログラムに」
「それでは議論を開始してください。」
薔薇は鈿音の写真の人狼の姿を見ながらヒントを探した。そのとき、円卓のロビーのドアが開き、朝食をシェフ自ら運んできた。
「どうぞ。」
シェフが皿に盛っている肉は臭みが強かった。
しかし、マンガ肉にそっくりに加工されていた。
「あなた方の口が大きいのは、肉を思い切りかぶりつくためです!」
そう言ってシェフはワゴンを引いて風のように去っていった。
「このお肉って?」
店主は目を見開く。
「オオカミのじゃ。」
「オオカミ?」
「この勝負、私たちの勝ち?」
「そうだよねw。これさ、人狼だよねw。」
スリはリアルなマンガ肉に感動していた。
「これはヤバァイ。写メ撮ったし、即自慢しょう!」
スリは鼻息が荒くなっていたので、薔薇はその鼻にフックを入れてやりたくてウズウズしていた。
「だとして、ここからどうやって終わらせるの?」
「うん。わしにはまだ人狼が倒されていないという気がしておる。」
「この中にいる?だとして、誰?」
「じいさんは何で俺疑ってんのw?」
「オオカミの匂いがする。」
「そwれwはwww」
「この際お教えしますが、これは特殊な能力なんです。この腕時計を押すと、私の場合はこのように特別な力のあるムチが。この人のは……」
「はい!今やるすw」
ユーチューバーはオオカミになった。
「お前!このヤロめ!俺を、俺をォォォ!」
スリはオオカミに掴みかかるも、オオカミに生身の人間が、しかも不摂生な東京人が敵うはずもない。
オオカミはそのまま男の足を引っかくとスリは床に悶えた。
「じゃあ、この男の匂いは人狼とは関係ないのか。」
「どうしましょう。」
薔薇は鈿音のカメラに写る人狼をよくよく見たが、やはりヒントは無かった。
「議論は終了です。投票して、誰を処刑するかを決定してください。」
「今回は、私たちは投票をしません!」
「このまま誰か死んでもゲームオーバーだもんなw」
「それアリだっけ?」
スリがアリか聞いた。
「実はね、私もこのゲームが原始的すぎて分からんのです。」
キツネはどうでも良さそうにアナウンスした。
こうして第ニ夜が終わり、薔薇は生き延びたようで円卓に戻ると、スリが部屋に来なかった。
円卓の上には片付けられていない鈿音の死体が置かれている。
「続くわね。……」
「今夜で終わる。わしの勘がそう言っておる。」
「いやさ、人数的に当たり前ねw」
「正直ね、彼が本当に騎士だとしたらね、私たちのうちどちらかの部屋に来ないといけないわよね。」
「わしはこの小僧を見とらんぞ。」
「私も。それで、このスリのところにいたのなら、スリは死んでいないはず。決まりね。」
「じゃな。」
「オワタ\(^o^)/」
「何とかなったわね。」
「議論はもう終わり?ハイハイ、投票をね、行くべきですよ!清き一票を箱に入れる!これは尊い!」
「いやwだったらコーラにメントス入れるわw」
ユーチューバーは他の2人の絞首刑と違い、火炙りの刑にされていた。
次の瞬間、夜になり、円卓の上のズタボロの鈿音が起き上がる。
「あの子はね、“狂人”よ。で、私が“人狼”。さて、今夜、私がいただくのは、人肉カーニバルです!」
薔薇は逃げようとしたが、恐怖で動けない。
オオカミ男の牙が目の前に来たとき、今度はオオカミ男が動きを止める。
店主がオオカミ男の尻尾をしっかりと踏んで諸刃の剣を掲げてオオカミ男に切りかかる。
「わしは騎士じゃ。」
「ちなみにね、ずっと黙っておく情報じゃないわよそれは!」
薔薇は涙ぐみながら見守る。
爪と剣がスピードに乗ってぶつかり合い、軽い音を響かせる。
老人はどんどんとオオカミ男を追い詰めて、そのまま首を刎ねる一歩手前というところまで攻めた。
「ハア。ごめんなさいね。」
オオカミ男と化した鈿音は館にあった拳銃を老人に撃った。
「ゲーム終了。人狼陣営の勝利です。」
円卓に皆が集まる。ホログラムは手を振っていた。
気がつくと、全員は元の渋谷に戻り路上に座っていた。
「説明して!今のはどういう?」
薔薇は鈿音の肩を掴んで振るう。
「まずね、あのユーチューバーが、館でも能力を使ってみようと思ったのが始まりね。殺され役を殺す初めての夜に、何故かユーチューバーが私にオオカミの状態で襲いかかってきたの。」
お分かりの通り、今までの恨みを晴しに来ていた。
「私はダメージを負ったわ。全身にね。死体と間違われるくらい。でもね、人狼だから、死ななかった。使える!と思ってね、私が死んだことにすれば疑われないと思ったの。幸い、ユーチューバーも“狂人”で、私が“人狼”と把握したから協力したのよ。あとは、殺したあとに人間の状態に戻ってあのユーチューバーに噛まれてを繰り返したの。」
「やぁ!勝てたねw」
「ええ。」
「そうだ!俺のアイコンが!」
ユーチューバーはアイコンを押すと、オオカミ男になった。
アイコンには鈿音がユーチューバーに撮らせた写真が使われている。
「良いわね。ハロウィンて感じ。」
裏路地には月の光が爛々と届いていた。




