第五十八話
「惜しかった。……自分に向けてあんなサディスティックな仕打ちは出来ないわ。格が違ったのね。」
「この服。重いんだけど。」
バロック様式の服に勝者のはずの薔薇は苦しさを感じていた。
「他には十二単か宇宙服しかないのよ。」
「どっちも重いわね。」
「まだ終わりじゃないわ!」
ホログラムの女王はムチを振り上げた。
「勝者には記念撮影が必要よ。」
「キャア!」
空から鈿音が!
「ハァイ!カメラマンね。」
「何よこのいかがわしいアスレチックは?」
鈿音にムチが当たる。
「写真を撮りなさぁい。」
「痛!え?この!」
ホログラムの女王に向かって鈿音は殴りかかった。
ホログラムは水面のように乱れたと思えば、鈿音の拳が抜けた時、拳にはいつもの商売道具が握られていた。
「写真を撮りなさぁい。バズる奴をね。」
「あんたじゃ無理よ。あら!すごい格好ね薔薇ちゃん。」
「鈿音さん。涙が出そう!ここに閉じ込められたんじゃないかって……。」
「この子の写真ならバズるでしょう?」
「この格好的に、『客を虐める女王』じゃなくて、『奴隷階級を虐める女王』みたいよ。革命が起きそう。」
「女王の格好てこれじゃないの?」
ホログラムは真剣に驚いていた。
「あれよ……何だっけ?なんて言うの?」
鈿音は薔薇にひっそり尋ねる。
「ああ。エナメルボンテージ?」
「よ!撮るならあなたとおんなじ格好にしなきゃ!」
「それってオソロって奴?恥ずかしいわね。没個性の正当化よ!女王とは真逆で……」
ホログラムは怒りの表情が用意されていないのか、ずっとニコニコと毒を吐いていた。
「じゃ、じゃあ、私とあなたの着ている物の交換なら出来ますか?」
「勝者の特権なのに?」
「いや!義務的に着させられてたんですけど!」
「ふぅ。人間の相手って疲れる。」
似合わない弱音を吐きながら指をパチンと鳴らした。
「もう何でもいいわ撮ってね。」
顔がずっと笑っているのがマスコットのようだ。
「薔薇ちゃん。じゃあいくわね。ハイ!」
薔薇はカメラのシャッターの光に目が眩むと視界が戻ったときには店の前の路地にいた。
「ああ!戻れた!」
薔薇との接触で生まれたホログラムは消えていた。
「『終了』押さなきゃ。鈿音さんのも押しとこ。」
薔薇が意識のない鈿音の手を動かして『終了』を押した。
同時に、オオカミが自身のぷるウォを咥えて鈿音のぷるウォに触れ合わせた。
薔薇が驚く間もなく、再び店の前の路地から移動していた。
「またぁ!もうヤダ。」
移動した先は洋館だった。
ドアが勝手に開いた。金属部が錆びた証明の不気味な音が響く。
豪華に飾られた円卓には老いた店主、引きずられていた男、鈿音、知らない男が3人いた。
1人がこんなことをブツブツと繰り返していた。
「ふざけるな。こんなところにいられるか。俺は出ていくぞ。…………」
「お入りください。」
キツネの声が聞こえてきた。見渡したが、どこにもいない。
「こちらにどうぞ。」
席がひとりでに動き、すぐ座れるような位置で止まる。
薔薇は腰掛けた。
「お集まりいただいた皆様。悲しいことにこの中に人狼がいます。皆様は人狼を見つけ出して処刑することで勝利となります。皆様の中には特別な役割を持つ方がいらっしゃいます。この後そちらの説明を個別に行います。」
薔薇は周りを見渡す。
鈿音は輝く目でこの状況を存分に楽しんでいた。前の場での名残か、首には立派なカメラをぶら下げていた。
店主はこくりこくりとして、もうすぐで完全に眠りそうだった。
薔薇は、この反応から2人が『人狼ゲーム』をやったことがないことを予測した。
他の3人のうち、ブツブツ言わない2人は円卓で怪訝な表情をしていた。
最初の犠牲者が出る前にこのアナウンスが流れたことに違和感があるようだ。反応を見た薔薇はこの2人が経験者であることを把握する。
「本日の夜が訪れました。ゆっくりとお休みください。」
キツネの声は残酷なまでに冷たさを感じた。
部屋に入ると同時にニワトリの鳴き声が聞こえてきた。
「円卓にお集まりください。」
円卓に来ると、昨日ブツブツと取り憑かれたように繰り返していた1人が喉元を噛まれて殺されていた。
「昨日のうちにこのお方で能力の説明をさせていただきました。それでは議論を開始してください。」
「ハイ!私ね、“占い師”って奴なのよぉ!この死体を見たの。そしたらね、“市民”って出てきたの。」
眠そうな老人は朝の雰囲気で目を開いていたが、唇は固く閉じていて、話し出す気配はない。
「えと…俺も“占い師”。結果は同じ。お試し期間ぽいからね。」
知らない1人が話し出した。
「私の他にもいるのね。効率が良くて助かるわぁ。」
鈿音は握手した。
「アンタは、穀潰しの人間版じゃないわね。誰?」
「あなたのぷるウォから出てきたしがないホログラムです。よろしく。」
「俺は騎士なんで。とりあえず、この2人とも俺は守らなくて良いっすよねw」
オオカミじゃなくなったユーチューバーはこの光景を面白がって見ていた。
薔薇は我慢できなくなった。
「あの!この人数だと、特別な役割は1人までしかいないと思います!鈿音さん、どちらか嘘をついていますよ!」
薔薇はホログラムの自称占い師を睨んだ。
鈿音は手を離す。少し考えて話し出す。
「いやいや!あなたが嘘をついている可能性もあるでしょ。騙されないわよ。」
「時間です。処刑する人を選んでください。」
キツネは無感情な声で業務をこなしていた。
「ハア」
薔薇は溜め息をつく。
「それでは処刑されるのは……しがないホログラムさんです。」
鈿音はガックリしていた。
と思えば夜になり、薔薇にはまた何もないまま朝になった。
アナウンスが聞こえる前に円卓に行くと、鈿音の死体が円卓の上にあった。何故か昨日の被害者よりもズタボロになっていた。
「ざまあーのバァ!」
スリが箱根駅伝です優勝したようなガッツポーズをしていた。
カメラには人狼の写真があった。
薔薇はふと自分のぷるウォを見ると、そのアイコンは鈿音が撮ったであろう写真になっていた。




