第五十四話
人間大の車は女性カーナビの声で寿限無に走り寄った。
「私はあなたのことを知りたいです。」
「うんうん。いいよぉ。すぐにおいで!」
寿限無は布団にくるまり、その布団をめくって鈿音のぷるウォから出て来た車を迎えようとしていた。
鈿音はあまりの予想外に自分のぷるウォをいじっていた。
「では幾つかの質問をさせて頂きます。」
寿限無はニコニコで聞いていた。が、目を開いた。
「質問?」
「ええ。あなたの能力をよりあなたに適性のある物にするために、私は存在しています。」
「あ〜。分かった。一回セックスさせて!」
「それでは、あなたにとって車とは?」
「セックスマシーンかな。」
「車に対する知識を教えてください。」
寿限無は好きな車のフォルムやエロい部品について語った。
「ありがとうございます。次に、車に求めるものは?」
「エロス!」
「最後です。このアイコンの思い出を教えてください。」
「ああ。真夏の夜。車が人の形になる映画を観た。面白かった。でさ、人の形から車に戻るシーンもあった。そこのシーンがさ、女を無理矢理四つん這いにさせる感じに似てるなってそう思った。そしたら、興奮してたぎっていた。すぐ、家の外に出て、隣の駐車場の中から1番良さげな車を撮った。」
「ありがとうございました。」
「じゃ!セックスを」
寿限無は立ち上がって、質問してきた車を押し倒そうとしたが、スカッた。
「私はホログラムです。」
そう言うと車は消えて、車の足下にあった精密機器が寿限無のぷるウォにくっついた。
「あなたの能力が変更されました。〈車のオモチャを操る〉から〈車に愛してもらえる〉。」
寿限無のぷるウォからキツネのアナウンスが聞こえた。
「ああ。やった。鈿音さん。やったよ。恩人は俺じゃなくて、あんただったよ。」
寿限無はぷるウォのアイコンを押した。
床一面や壁を覆っていた周りのミニ四駆が一斉に寿限無に飛びついた。
「あら。ハーレムね。」
鈿音はそう言うと。銃を使って、自分の足を撃ち抜いた。
ぷるウォは選択肢を提示すると、2人とも『終了』をタップした。
「どうだった?」
「うん。ノーカンだな。」
そう言うと寿限無は光と共に鈿音の前から消えた。ミニ四駆も一緒に消えていった。
「ちょっと!うるさいわよ。」
隣の部屋からエナメルボンテージの格好に羽織をして、帯を巻いた格好の女性がSMのムチを持って入ってきた。
すでに、鈿音の傷は塞がり、銃も寿限無の物なので一緒に消えていた。
鈿音は、ズボンも履いて立ち去ろうとしたところだったので、焦って入ってきた女王様の吐息が顔にかかった。
「銃声がしたのに?心配できたのに?私の聞き間違い?」
「そうよ。強く叩きすぎたんじゃない。ムチでもそれっぽい音鳴るでしょ。」
「腕のそれ!はぷるウォじゃないわ。もう!とにかく、変な気を起こすんじゃないわよ。生きるのが辛いなら私のブタになればいいんだから。」
「そーね。」
鈿音はそのまま出て行こうとした。この女性は警察官なわけがない。
「あなた。もう一つ聞かせて。私は絶対に忘れない声があるのよ。その声がしたわ。信じてもらえないかも知れないけど。私は客の鳴き声は全部覚えられるわ。そして、その声は他の雑音に関係なく、私の耳に届くの。」
「聞き間違いよ。夢うつつだったのよ。」
「夢だとしたら、私はとんでもない悪夢を見てるわ。……もう行っていいわ。今日はこの客で終わりね。ちょっと休みたいわ。」
2つ隣の部屋の中へ女性が帰っていった。
(すごいわ。ラブホテルの防音を貫通するなんて。羊飼いは視力がとんでもなく良いらしいけど、ブタ飼いは聴力が良いのね。)
鈿音は声の正体がキツネのことなんだろうなと思いつつ、ラブホテルを出た。
「ここどこ。」
鈿音はトボトボと歩く。警察官の拉致被害者を5人。この世界から追い出した。
だが、この行為が何故歴史の修正と関わってくるのか全く分からなかった。
「シナリオって言ってたわね。何て雑なシナリオなの。」
鈿音は歩いて夕焼けが沈んだあとの赤と紫の層になっている空を全く気にせずに歩いた。
まず自分の過去。覚えている。幼少期からカメラマンになってからまで。
自分の所属。人間だ。そのはず。実際、AIはキツネとかぷるウォから出て来たあの車の化け物とかだろうし。
もし、自分が作られた存在であっても、そのことを意識しなければ実質作られていないのと同じ。
そうに決まっている。はず?
俯いたまま車道に侵入した鈿音は、車に撥ねられても無傷なまま、一直線に歩き続けた。
散歩しながらアインシュタインのようにずっと考えていると、段々と腹の立つ光景が目に入ってくる。駅の方に戻ってきていたらしい。
「残り何人なの?ポリスは?」
「あと、7人です。」
狐のお面をつけた2人のうち1人が道を譲りながら言った。
「私はどういう存在なの?教えて!」
「あと7人です。」
2人のうち、さっきは黙っていた1人が言った。
「キツネね。騙してるんでしょ。私を。周りの皆がこの世界が嘘だと思って脱出しようとしてる。でも、私は、ここも、現実も嘘かもしれないのよ。そんなんで、どうやってあなたの言う事を聞くの?信じるの?」
2人は狐のお面を外した。中にはキツネの顔があった。かと思えば2人は存在ごと消えた。
「ばーか!サポートも出来ない役立たず!悔しかったらね、役に立つもんでも出さないよ!青い狸にできて、キツネに出来ないの?」
「はいw!今回はね、街中で叫ぶヤバい人たちに話かけてみようと思いますw!ハロウィンでね、街の平和をおびやかす奴らをね、成敗してやりますよw!」
「お話いいですかw?」
「あんた誰?今、毛皮を剥ぎたい気分なんだけど。あんたの肌でもいい?」
「今、撮ってるすよw」
「そうなの。じゃあね。」
「何で叫んだンスかw」
「何が放送禁止だったかしら?特定の?宗教に関わることとか?」
「やめて!分かった分かったから。放送事故じゃんか。」
「あんたに会った時点で私にとっては大事故よ。恥を知りなさい。」
「じゃあさ、せめて家に泊めて。俺、昨日くらいでハロウィンにいるヤバい奴のストック切れたんだよね。スマホの充電したいしさ。」
「あんたの方がよっぽどヤバいわ。でも、いいでしょう。連れてくわ。可哀想だし。」
「あんがちょw」
鈿音は目の前の若者のクビをギロチンにかける妄想をした後で、人ごみをかき分けて若者を警察署に連れていった。




