第五十三話
自分の人生が真実であると証明できる者はいない。
でも、普通はあまりに残酷すぎることは"ずっと考えない"ようにして対処するのだ。
今、その普通はどれだけ役に立つのか。
鈿音は、このままキツネのために行動することに嫌悪感を抱いた。渋谷駅前のハチ公にもたれる。
外国人観光客にどくように言われるも、鈿音はピクリとも動こうとしない。ハチ公と一体になったようだ。
(このまま固まってしまいたい。あの辛さ、あの悲しみ、あの苦しみ、全てが真実だと思っていた。でも、ここに来る前の人生は空っぽだ。つまり、今の私は空っぽだ。ほら、証拠に周りには誰がいる?誰もいない。動かなかった犬がもっと動かないように像にされたもの……それだけしかない。)
交番の警察が鈿音に駆けつけた。
今の鈿音に1番会いたくない存在だ。
「立ち入り禁止です。出てもらいますよ。」
鈿音は青い顔をオレンジ色の空に向けながら交番まで連れてこられた。
「身分証など持っていませんか?もしくは連絡のつく人とかは?」
エンジンの轟音が駅前に響く。
ハチ公に群がっていた観光客もエンジン音のする先にある、高級車に周り奪われた。
「迎えに来たぜ。」
ミニ四駆男だった。
「この人は、俺のツレですよ。」
「そうなんですか?」
警察官は鈿音に尋ねる。
鈿音は力なく頷いた。
「じゃ、そういうことで。」
ミニ四駆男は何気なく、自分のゴーグルを鈿音の首にかけた。
「あのな、今な、斧さんが居なくて、照珊がいなくて、花の野郎がいなくて、和院の婆さんが他の奴らと一緒に行動して、気づいた。俺は一人ぼっちになったんだって。」
「……儲けるんじゃないの。未来の株の情報を使って。」
「消えた。照珊がいなくなった後に。」
「……そう。」
「お前も一人なんだろ。いいぜ。裏切ったことについても、俺はあの計画の中心てわけじゃない。チンピラ集めたり、能力を指示されたタイミングで使ったりするだけだったからさ。」
「まぁ、乗れよ。どこか行くか。ハロウィンでもうすぐ道が使えないからな。」
車の中でもミニ四駆男は話し続ける。
「俺の名前は、伊藤 寿限無 {いとう じゅげむ}能力は、大体分かるだろ。これでも警察官だぜ。地方にいたんだ。花の野郎に金を稼ぐ話を持ちかけられた。んで、斧さんのところで働いてた。お前は?」
「亀螺鈿音よ。………。……亀螺鈿音よ……」
「そうか。まぁいいや。俺はな、夢があってよ。それは、カーセックスすることだ!と言っても、車の中でヤルんじゃなくてな、車とヤルんだ。」
「でも、気づいた。体格差が大き過ぎる。ネコとライオンじゃ交尾出来ないだろ。そこで、考えた。女の子に車になってもらうんだ。簡単に言えば、俺のミニ四駆と女の子に一体になってもらってからセックスするんだ。」
「……。」
「人間大の大きさの車になってもらうんだよ。
車女ってやつ?それでさ……」
寿限無はモジモジし始めた。
「俺の夢、叶えてくれ。安心しな、終わった後に元には戻るから。現実の頃からの夢だったんだよ。」
「……あなたの現実って、どこまで事実?あなたの夢が他の誰かに作られてないって証拠は?あなたの人生は本物?何故、あなたまで警察官なのよ。」
鈿音は窓を開けた。車窓からはいる都会の風は不純物が多いのか目に沁みた。そのまま涙が出るくらい。
「お願い。答えて。何でもいいから。何でもいい……」
寿限無の顔を見ないようにしながら鈿音は鼻声を絞る。
「自分のことか。そうだな。高校の時、俺は伝統的な不良組織のボスになった。お前も会ったあのチンピラたちは、その組織の後輩な。このマーク見せたら絶対服従するルールがあるんだ。笑えるよな。不良のくせに、ルールやら伝統があるんだぜ。」
「高校の時の、俺たちのやってることは社会から見ても、偽物だと思う。ルールや伝統なんてのは、真っ当な人間が受け継いでいくから意味がある。でも、俺たちはやめない。偽物だからやめるなんて選択肢はない。」
「私は、何をやめようとしてるの?」
「知るか!……だけど、やめるやつは偽物以下だぜ。」
「分かった。とりあえずこの話、やめてやるわ。」
鈿音は窓を閉めた。通行人の仮装からサングラスを奪って、それを寿限無にあげた。正面には夕焼けが輝いていた。
鈿音の考え方は違った。やめることは最低などではない。やめることは、先祖代々が、より良い生き方を探すために余計な行動を消去していった名残だと思っているからだ。
鈿音は、キツネについて考えることをやめた。より良い結果を願って。
どうせ、キツネに確認を取れるのはだいぶ後なんだから。
少しだが、気分が良くなった。
「そうか。じゃあよ、他に気になったのはそれだ。ぷるウォじゃないのかそれは?」
寿限無は目は前を向いたまま、右手で鈿音のぷるウォを指差す。
今、電子板の周りにミニサイズの鳥居がついたぷるウォは拘束時間のカウントが完全に停止していた。
「私はこの世界で歴史を修正するの。」
「この世界で?」
「ええ。」
「でも、この世界に歴史なんかあるかよ。ずっとハロウィンをループしてるんだぜ。」
「そうね。」
鈿音はしばらく無言で助手席に寄りかかった後に、寿限無の横顔を写真に撮った。
「何だ?」
「私はカメラマンなの。」
「カメラウーマンじゃないのか?」
「あんた、そういうので騒ぐタイプ?」
「ただの女好きさ。」
車は、渋谷から離れたところのラブホテル前に停まると、定食屋で見たミニ四駆に戻っていった。
そのまま一斉にラブホテルの窓に侵入していった。
「はぁ?何でこんなところに?」
「話、聞いてなかったのか?……まぁでも、恩返しと思ってよ。あのジェットのところのよ。」
「普通に嫌よ。」
「何を今更!逃げても無駄だぜ。」
まだホテルに入りきってないミニ四駆がコチラを向いている。
「そう。」
寿限無に連れられて、ミニ四駆が入っていった部屋を目指した。
鈿音はギリギリまでタイミングを考えて行動を決めた。
「じゃあさ。服を脱いでくれ。下だけでいいからさ。」
鈿音の周りをミニ四駆がぶきみに走り床一面に整列していた。
「あなたも脱いでそしたら私も。」
「まぁいいぜ。」
寿限無は服を脱いでいった。パンツ一丁にぷるウォを腕につける状態だ。
服はクローゼットにかけた。
鈿音はズボンを脱いでクローゼットにかける。その時に、寿限無の服から警察手帳と銃を抜き取った。
「さぁ。パンツも。」
寿限無はクローゼットの方を見ないようにして興奮した様子でベッドに座っていた。
「上は良いのよね。」
「……あん。そう。そのな、車女になってもらうから関係ないっていうか、」
「突然だけど、私ね処女なの。この意味分かる?今のあなたとセックスしようとしてもね、処女膜を破ったってことでね、傷つけたっていう判定になるわ。」
「えと、つまり?」
「戦う状態にしてからじゃないと出来ないってことよ。」
「そっか。」
寿限無は鈿音に近寄ってぷるウォを触れ合わせた。
鈿音のぷるウォから車の形をした、人間大のサイズの見たこともない生き物が出て来た。
「わぁお!車女だ!」




