表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイ コンタクト  作者: チャウチャウ坂
52/61

第五十二話

「あなた。何で私があなたを変えたのよ。」


「あなたと出会った時から、何だか特別な力を感じたの。権力とは全く違う力を。私は気になるものは全て解明するわ。」


「あらそうなの?」


照珊の言葉が分からなすぎて、とりあえず肯定する鈿音だった。


「さぁーいよいよ、シナリオが進む時が来ました。別れに次ぐ別れ。そしてこれから訪れるのは……別れだ。」


そう言うと、鈿音はいつのまにかプライベートジェットの内部に立っていた。しかし、何処かに席をつこうにも、満席になっている。


「鈿音さん。何で座らないんですか?」


「空席が無いのよ。」


「何言ってるの。沢山あるじゃない。」


鈿音は目を擦る。それでも乗客は消えない。

よく見れば、狐のヒゲのようなものが乗客に付いているのが見える。鈿音はこれが"キツネのハネムーン"だと理解した。


「快適な空の旅をご提供致します。」


キツネは、いつのまにか美琴と照珊、オッチョチョのシートベルトを締めて飛行機の離陸準備をしていた。


「何でこんなことになってるのよ。」


「あなたはここでお別れなんです。」


「どうして?」


「………。」


鈿音はキツネの指鳴らしで機体の外に出ていた。


機内で質問が起こる。


「この飛行機に何で乗せたの?」


「それはね、あなた達がニューヨークに行くからです。」

キツネはパーティーハットを被り、クラッカーを一気に5個も破裂させた。


「はいシートベルト、はい機内食、はい雑誌。」

キツネは雑に、そして高速で機内を往復すると、3人しかいない乗客に、必要不要に関わらずアメニティを渡していった。


確かに、あのプライベートジェットだ。窓は治っているし、CEOはいない。


「どうしてニューヨークに行くの?何故この3人なの?」

オッチョチョが当然の質問をした。


「それはニューヨークに着いてからね、説明します。」

キツネはまた手をパンと合わせると、飛行機ごと3人は消えた。


鈿音は置いてかれたショックで呆然としていた。あまりにも意味不明すぎる。


と思えば、キツネが後ろに立っていた。


「私、置いてかれたわよ。」


「おっしゃる通りで。」


「どうして?」


「あなたには使命があるからです。あなたは美琴さんと会うためなら、私の言うことを実行してくれるでしょう?」

キツネはヒゲをいじりながら、鈿音に詰め寄る。


「使命?」


「あなたの使命、それは『警察制度を崩壊させること』です。つまり、警察官かつ拉致された人を1人残らずこの世界から追い出すのです。」


「何故?」


「それが人間の辿る正しい歴史だからです。彼女たちは、国連世界会議の日本代表として飛び立ってもらった。それも、未来の歴史にある事件と関係があります。」


「私は、この世界を歴史通りに動かすために、あなたの言うことを聞くの?」


「じゃなきゃね、美琴さんには2度と逢えないでしょうね。彼女たちがいるのは要は"次のステージ"ですから。」


「……何なの。あんまりよ。絶対やらないわよ!」

鈿音はキツネの首に掴みかかろうとした。


キツネは"神経縛り"を使って鈿音の動きを止めた。


「いいえ。やるんです。やらなくてはいけない。あなただけにしか頼めない。歴史を正しい方向に修正する。その大役をあなたに託します。」

そう言い残すと、キツネは消えた。


正直、キツネの提案は魅力的だ。歴史を紡いできただけのカメラ。修正はその先の仕事だ。鈿音の現実での人生以上の冒険が待っている。しかし……。


鈿音たちは定食屋に戻っていた。脱出した人、消えた人はもう居なかった。


鈿音は今の話を自分なりにまとめようとしたが、無駄だった。この決断で全てが決まる。


鈿音のぷるウォが怪しく光る。

ぷるウォの名の通り、ぷるぷると振動し始めた。


『大切なものを探す旅へ進みますか。』

『はい』     『いいえ』


揺れる鈿音の心を体現するようにぷるウォも光る。

鈿音は自分の信条を思い返した。

"非現実なことが起こったときは、マンガや映画のキャラクターのように際どい行動をする。"


鈿音は、自分の信条に従えば、答えは出ている。出ていて尚、迷うのだ。


「キノちゃん。どうすればいいの。私は何をすればいいのか分からなくなった。」


「お主がやるべきは、面白くなりそうな方向に、オールベットしてオールを漕ぎ出すことじゃ。」

キノ婆は笑いながら鈿音の背中をさすった。


ぷるウォの『はい』の選択肢を押した。


ぷるウォは柔らかいゲル状の部分が変化していく。

そのまま、ぷるウォの画面を囲うように鳥居の形になって固まった。



「あなたも、そう思うのね。」


「おーい!花くん!」


「今、俺を名前で呼んでくれたのか!斧しか名前を覚えていないと思ってたぜ。」

カツ丼男が鈿音に寄る。


「脱出したいんでしょ。いいわよ。」

鈿音はカツ丼男とぷるウォを触れ合わせた。


「撃ちなさい。」


「嫌だ。斧の作戦も上手くいったのに、仲間同士で撃ち合いなんて。」


「いいえ。私は的よ。あんたを騙すつもりもない。」

実際、鞠雄が脱出した時に、拳銃も消えるので、鈿音は今の丸腰だった。


「チャンスじゃ。お前さんは戦える能力じゃなかろうて。」

キノ婆が協力してくれた。


「何だ。お前らおかしいぜ。」

そう言いながらも、躊躇なくカツ丼男は鈿音を撃った。


カツ丼男はこの世界を光に包まれて脱出した。


「じゃ俺も!」

ミニ四駆男が近寄ってきた。


「あんたはダメよ。野垂れ死になさい!」

ミニ四駆男は呆気に取られた表情で固まった。


「お主、何を始めるつもりじゃ?何に賭けた?」


「私は、私自身に賭けたわ。」

そう言って鈿音は定食屋を後にした。


「そうか。やっと、歩くのか。」

キノ婆は定食屋の入り口で笑顔で鈿音を見送った。


先刻、キノ婆が鞠雄と握手している写真を鈿音は撮った。


キャプテンと楢紅は手を繋いで、鈿音にお別れの挨拶をしに来た。


「僕たちを裏切った事実は消えません。でも、僕はあなたから学んだことは大事にしようと思います。」


「またな!鈿音は友達!」


2人はいい雰囲気で別れよとしていたので、鈿音はこの雰囲気をぶち壊してみたくなった。


楢紅とキャプテンのカップル写真をぷるウォで撮影する。

そして一言。

「言ってなかったけどね、楢紅"くん"は僕っ娘ではなくて、単純に男だから。じゃあね。」


キャプテンの顔がショックで点3つのようになった。


鈿音はその顔を写真で撮った。


笑いながら走った鈿音は2人が完全に見えなくなった後、スクランブル交差点の真ん中まで来ていた。


(私のこれからしようとしている事。私は私がやってみたいことを初めて見つけた。歴史の修正。なんて素敵な仕事。この世界で、戦いに怯えるだけだった私がようやく変わっていける。運命的だわ。)


鈿音は交差点をスキップで渡った。

渡りきったとき、鈿音の顔から笑顔が消える。


(そうよ。出来過ぎてるわ。私の関わるチーム全てに、警察官がいた。私は、引き寄せられたの?ハメられているの?単なる偶然なの?)


斧の言葉が答えるように脳内でこだましてきた。


『キツネの信奉者は怖い相手だ。関わり合いにならない方がいいだろう。だが、もっと怖いのはキツネの使者だ。コイツは情報が全くなく、何をするのか不明。不気味だ。』


キツネのために働く存在。


鈿音は、ふと自分の今の立場を思い返してみた。


明確な役割をキツネから言い渡されたこと。


無意識のうちに、キツネが倒されるチャンスを妨害したこと。


そして、もしかすれば、もしかすると、鈿音だけが、美琴と脳で繋がれたのも怪しい。

自分は美琴と通信を始めたキツネと敵対するAIを牽制する手段なのでは?

そして、この先では美琴自体も牽制しなくてはいけないのでは?


鈿音が美琴に尽くしたのは母性や恋慕ではなかった。


波乗 美琴が未来のAIからの(みことのり)を伝える役割を与えられたように、鈿音もまた、キツネの意思を世に伝える役割を与えられたのだ。


鈿音は立っていられない。


「ォォォウッ!ォォォエェェエ〜〜」

吐いてしまった。



ついさっき、確固として抱き始めたアイデンティティはもう崩壊した。


いや、最早自分の過去すらも怪しくなってきた。

自分のこれまでの人生は本当にあったのだろうか。

心臓の辺りにスーーッと冷たいものが走った。


(私こそが、キツネの使者なんだ。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ