第四十八話
オッチョチョと照珊は美琴を見つけた。
鈿音たちの1つ上のフロアにいた。
「戦っているということは、あなたは、今傷ついてしまうということです。ただでさえ、たたかわなかったペナルティを受けているのですから、ここは傷つかずに切り抜けましょう。」
オッチョチョは、キノ婆に警戒しながらひっそりと声をかけた。
「私は、この世界に残りたいんです。キツネの言っていたことは本当なんです。」
「だとして、キツネは次のステージ?のためにあなたを逃すつもりはないんだから、ここで無理に傷つかなくていいじゃない。」
照珊は美琴の脳が万が一にも破損してしまうことを阻止したかった。
「ここから、1番離れられる場所はどこでしょう。」
「まず、このターミナルからは出られないわよ。あれを…」
照珊は空港まで運行しているバスの電子時刻表を指差した。
不気味なことに、表には何も書かれていない。
渋谷のバスは問題なく運行していたが、こちらのバスは運行中止しているらしい。
「この中で、どこかに隠れさせるしかないわ。」
「人ひとり隠すなんて、難しくありません?」
「ちょっと見てまわりましょう。」
照珊は、変装や団体の観光客に紛れる、店の中で待機など考えたが、どれも行動の自由が効かないので難色を示す。
「あれ?何でしょう。」
オッチョチョは盆踊りの列を見つけた。
「あれ!盆踊りですね!あそこに合流すれば良いのでは?」
オッチョチョは決まりだと言わんばかりに列に向かって歩いていこうとした。
「だーかーらー、なんかあった時の行動が制限されるって言ってんじゃない!」
「言われてないですぅ。」
オッチョチョは涙目になった。と思えば怪訝に目を細めて何かを追った。
照珊も振り向く。
美琴は勝手にケルト文化のイベントブースに歩いていった。
「これ?本当に盆踊り?夢だったんです。縁日、お祭りに参加するのが。」
照珊とオッチョチョはブースの中を追いかける。
「……未来がどんなかは知らないけど、あなたが1番勝手に動いたら危な……」
美琴はブースに入り込む。
美琴は、着物を着たアイルランド人とすれ違った。
「もう……」
そう言いながら、照珊は辺りを見渡した。
ステージの上の和楽器の演奏者たちが、イベント参加者に支えられて、神輿になったステージから動いていった。
ステージが移動して、ステージ裏にあったものが置いてかれていた。
その中に、ハープ用の楽器ケースがあった。
「これだわ。」
オッチョチョと照珊の2人で、美琴の入ったハープ用の楽器ケースを押した。
「あれ?あれは照珊じゃねぇか。」
やぐらの上から、ミニ四駆男は照珊を見つけて、斧の現状を話そうと降りていった。
「あんた何やってんの?」
「俺は斧の作戦に乗ってだな……それより、俺と一緒に斧を追いかけよう。」
空港スタッフと盆踊りの列のせめぎ合いの横を3人にしか見えない4人は抜けていった。
「いい?ここからは私も連れて行きなさい。」
関係者以外立ち入り禁止のドアの前で鈿音は持っていた銃を玖波氏に突きつける。
「ばかな!ここには厳重に手荷物検査をした後の入場が義務とされているはずだ!こんなことは……」
空港の責任者は大きなショックを受けたようだ。
「おい!狙いは何だ。会社の情報か。この計画の中止か。このタイミングは事情を知っている者の手口だろう。」
玖波jrは冷静になって空港スタッフが来る時間を稼ごうとした。
「まず!どうやって来たんだ!それを教えてもらおう!」
空港責任者がヒステリック気味に騒ぎ立てた。
鈿音もテレポートしてきましたなんて正直に伝える訳もなく、その場で固まる3人を急かす。
鞠雄に捕まることを恐れて急いでいるこの態度が、空港スタッフを呼ぶ時間を許さず、鈿音が確保されないように噛み合ったのだ。
「いいから!早く私も連れて行くの!」
鈿音は玖波jrに見えるように引き金を引いて見せた。
「……おい!行け。ここが別れ道なのだ。私の期待通り、やっとお前1人で大丈夫なように成長したようだ。」
玖波氏は笑顔1つ見せずにそう言った。
全体重をかけて後ろに倒れ込み、鈿音を体を張って抑えた。
「はぁ?まさか、自分の命を天秤にかけたんじゃないでしょうね?乱世ぶっちゃって。カッコ悪いわ。」
抑えられながら玖波氏の耳元で大声をあげる。
抜け出そうと頭を傾けると、逆さまの斧とカツ丼男が走ってくる光景が目に入る。
「あいつらは!父の言っている……進むぞ。」
「分かりました。」
責任者は玖波jrと共にドアに入る。
「よし。こいつを離すなよ。鈿音。」
斧がカツ丼男に目配せする。
「電子コードの送信方法を教えろ!」
カツ丼男はアイコンを押した。
鈿音の上で仰向けになりながら、玖波氏の口が勝手に開く。
「耳だ。右耳を相手の持ってきた機械に、左耳を自分の機械に押し付けることで認証する。」
「電子コードを取り出すパスワードは?」
「そんな物はない。DNAだ。わしとjrのDNAを積んだUSBを差し込むことで、こちらの持ってきた機械に入っている会社の合併情報を取り出せる。」
「特別なUSBだな。どこにある。」
「胸ポケットの底を破いたところに、わが子のDNA分が入ったUSBがある。」
斧は自身が持っていたナイフで玖波氏のスーツの胸ポケットを破り、USBを取り出した。
斧はナイフを持ったまま、玖波氏の首を切り裂こうとした。
しかし、震える手は玖波氏こ髪の毛をナイフで切り取ると、USBの特殊な液体の入ったガラス部分に玖波氏の髪の毛をつめた。
あとは、玖波jrよりも先に、jrが持っていった電子情報と玖波氏の持っている紙の情報2つを揃えて、照珊の能力で現実世界に帰還するだけだ。
「このドアは開かないぞ!くそ!」
カツ丼男は2段階認証のドアのノブを引きちぎらんと滅茶苦茶に引っ張る。
「くそ。このドアを和風に出来ないか?ふすまとか障子にすればぶち破れる。」
「元々、日本で作ったものだな。和風にしても、セキュリティが緩くなる訳じゃない。関所のようにかえって厄介になるかも。空港自体を変化させてもな。」
「いつまで、私に銃を突きつけとる!人質の意味はないぞ!」
「くぅ〜あいつらに安全な場所に案内して欲しかったのに!」
鈿音は玖波氏を押しのけて、銃を尚、玖波氏が逃げたら撃てるように向けながら、悔しそうにぼやいた。
「安全な場所って?」
「それはだな、何でも特別なプライベート用の隠し滑走路が空港に用意されているらしい。」
「さて、どこに用意するかな。」
斧は考え込んだ。最早、その滑走路に先回りするのが1番だ。
「こら〜!鈿音ぇえ!」
キャプテンは観光客から盗んだテニスラケットでサーブをした。
相変わらず下手なフォームに重りが見えそうなジャンプだったが、キャプテンの放つテニスボールは正確に鈿音の頭にヒットした。
「逃げるな!ダメなことしたら!ダメなことした相手に怒られるなり!軽蔑されるなり!それを正面から受け止めるんだ!」
「嫌よ!ダメージが入らなくても、あんたのテニスボール受け止めるのすら不快なのよ。」
「とにかく、私たちでなく、素良さんと類さんに真実を話してください。あなたの処遇をみんなで相談しますから。」
「滑走路を隠せるはずがない……飛行機を隠すことの方が楽なはずだ。そうだろう?」
斧は1人で考えこむ。目のクマはうなだれるとより濃く、藍色に染めたように見える。
「おい!斧!照珊を連れてきたぜ。」
ミニ四駆男は汗ばんでいた。よほど運動不足なのだろう。
「美琴は?一緒じゃないの?」
「キノ婆も、あんたも、さすがにこの子を傷つけないでしょう。このケースの中よ。」
照珊とオッチョチョはキャスターのついたハープ用の楽器ケースを指差す。
「そうか!滑走路の終着点だけ隠せば、そのままプライベートジェットも隠せる。途中までは普通の滑走路を使えばいい。裸の滑走路の中で、プライベートジェットを隠せる入れ物がある。通常の旅客機だ。正確には、その形をした箱だな。」
斧はガラスに張り付くような勢いで旅客機を観察して、不自然な動きのものを探す。
「キツネの世界だ。どの飛行機も動こうともしないでしょうよ。」
照珊が斧の隣に立って冷静さを求めた。
「ここが勝負の時だ。もう少しで決着がつくんだぞ。俺たちのチャンスだ。」
「この世界はループしているが、段々と変化している。キツネが学習しているんだ。このチャンスは1度きりだ。いや、単にそう信じて突き進んで行きたい俺のわがままかな……」
「……あの飛行機ね、機体とか翼の、形の癖とかが他と違うの。製造ラインが違うのかもね。」
照珊が指差したのは、空港に限りなく近く止まっている一機。
空港の灯台は当分光らないだろう。太陽で全てが明るいのだから。




