第四十五話
キャッスル社の前。鞠雄とキノ婆はカンフー映画の撮影会のような体捌きを見せた。
楢紅は、キャッスル社の社員を縛るロープの余りを、自身の顔を覆う樽に括って樽の穴という穴を刺しまくった。
「キャプテン!手繋いで。」
「うおう!」
キャプテンは手を差し出す。
「おばあさん!移動するよ!」
「こやつを何か足止めさせる方法ないかの?」
「ボールは友達!おばあさんも友達!」
キャプテンはシャボン玉を鞠雄に向かって吹きかける。
シャボン玉は鞠雄の目の前で弾けた。シャボン液が鞠雄の目に入る。
無意識の鞠雄も、割れたシャボン玉が全部自分の目に入ることを予測出来なかったらしい。
目を慣らすために繰り返ししばたいている。
「よし当たった。キャプテン。飛ぶよ。」
楢紅は樽のカチカチという音を聞きながら、樽に括り付けたロープを握り込んだ。
「うん?ああああああ」
楢紅とキャプテンは樽に引っ張られた。樽は宙を舞い、そのまま走る消防車のサイレンに直撃した。
割れたサイレンから風を受けて樽は飛んでいった。
カツ丼男は運転席から上を見上げる。
「何だ?」
サイドミラーにさっきの2人組が映っているではないか。
「止まってください!」
カツ丼男は目立つデメリットを避けるために渋々止まった。
楢紅とキャプテンが助手席に座り込んだ。
「バカ…バカ!1人は後ろに乗れよ!」
「何だ狭いな!お前ら何のつもりだ。」
「何のつもり…。乗せてもらうつもりです。」
「そうじゃなくて。俺たちのことを詮索するつもりか?」
「まさか!出前のおっさんのことなんか気にならんよ!」
カツ丼男はキョトンとした。
〔何だコイツら俺たちのことを裏切り者のフリした鈿音から聞いてないのか〕
キノ婆がもの凄い勢いで走ってくる。
最短距離で済むように、キャッスル社を囲む林のその木を蹴りながら進んで来たようだ。
「おいおい!戦ってるのに定食屋に連れてくんのか。」
「しょうがないでしょ!おばあさんにも協力してもらいたいんですから。多分、鈿音さんと美琴さんを探す手がかりになる人なんです。」
「定食屋か!何か食べたいな!」
「……カツ丼がオススメだ。」
カツ丼男は運転に集中した。
キャプテンはドアを開けて、消防車に固定されたハシゴを移動し、ハシゴの操縦席に座った。
キャプテンがハシゴを伸ばして人の乗る台の部分を回転させた。少し後ろの、木の頂点部分から跳躍したキノ婆を台にキャッチする。
「婆さん!」
キャプテンがハシゴを畳んでいく。操縦席からキノ婆の作るグッドサインが見えた。
キノ婆が台の中で立ち上がると、キャプテンに前方確認をさせるジェスチャーを送った。
「あれは!まきびしじゃないか!」
キャプテンがカツ丼男に聞こえる大声を上げた。
斧たちが撒いていったものだ。
警察車両は安全のために、道路から林の方へ移動させていた。
まきびしを回収する前にカツ丼男の消防車が来てしまった。
警察官が必死に制止させようと手を振る。
「まきびしぃぃ?避けられるか?タイヤがパンクしちまうぜ。」
「ここで止まったら、警察官に消防隊以外の一般人が運転してるのがバレますよ。」
カツ丼男と楢紅は顔を見合わせた。
「まきびしって、その、刃物ですか?どんなものか知らなくて。」
「うん。まぁそうともいえるような?刺さるものではあるかな。」
「ハァーよかった。」
楢紅はアイコンを押した。樽に、まきびしが殺到した。一気に全ての穴が埋まる。
「あ。まずい。この樽、どこに放てば?」
「うん?おい!アイツやっぱり来てるぞ俺らより早い!」
キノ婆を逃したくない鞠雄は、駆けつけていた残りの消防車を分解、改造してカートを作りあげた。
カートは風の抵抗や重量などから、消防車よりも圧倒的に速い。
鞠雄は、もうカツ丼男の消防車のサイドミラーに映り込んだ。
「よし!これを食らえ!」
楢紅はドアを開いて、身を乗り出し鞠雄のカートに向かって樽を発射した。
鞠雄は道に落ちていたバナナの皮を自分のカートに踏ませてわざと滑らせて、樽からカートを守った。
「このままじゃ追いつかれるな!」
「アイツを定食屋に来させたらヤバいどころじゃないぞ!」
カツ丼男が頼むようにキャプテンとキノ婆に声をかけた。
「もう一度シャボン玉で!」
シャボンセットを使おうとしたが、鞠雄はキャッスル社のオフィスから持ってきたインク壺をキャプテンに投げた。
「うわ!ナイスコントロール!」
キャプテンの顔は真っ黒になった。
顔のインクを取ろうと焦って、シャボンセットを落としてしまった。
警察官はカートを不審に思ったのか、追いかけようとしたが、無駄だった。
鞠雄はカートに近づいた警察官から警棒をふんだくると、運転しながら警棒を丁度良い角度に曲げて投げた。
キノ婆に当たりそうになったが、射程距離ギリギリのところで鞠雄の手に戻っていった。
もう一度鞠雄が投げる。
キノ婆は近くにフラついてきたキャプテンを盾にした。
「目が……ンゴっ!」
キャプテンの口に警棒のブーメランが入る。
キノ婆がキャプテンを放す。
「真っ暗だな!真っ暗だな!」
そう言いながら、キャプテンが助手席に戻っていった。
鞠雄が目的としているのはキノ婆を傷つけることだ。
追い越してこない不気味さに、消防車はプレッシャーを受けていた。
そのまま公道に出る。
「ついて来ましたね。」
「ああ。嫌な距離感だ。チッ。このままじゃまずいな。キノ婆に降りてもらうか。」
楢紅とキャプテンがぷるウォをチラつかせて脅す。
「あなたの能力は戦い向きじゃなかった。今、そこそこ戦える能力の2人とここで戦いますか?」
「……くそっ。」
「信号!赤だぞ!」
消防車は無視したが、鞠雄のカートはしっかりと遵守した。
「キャプテン。おばあさんに頭上に気をつけてって。」
「おい!頭に気をつけろ!」
「わしの頭にお漬け物が?酔い覚ましに食べたいの。」
キノ婆が髪の毛をいじる。
「髪の毛をいじってるぞ!」
「何で今洒落っ気を出そうと?」
キャプテンがまた助手席から顔を出す。
「何でお洒落したの?」
「聞かなくていいって!」
「お洒落しろって?しょうがないの。」
キノ婆は服の中から顔パックを取り出した。
金色だった。
「おい!また追いつかれるぞ。」
「電線に寄ってください。」
カツ丼男は歩道のガードレールすれすれに寄った。
楢紅が思い切りナイフを投げる。
ナイフは電線を飛び越えた。
楢紅がアイコンを押す楢紅の顔を樽が覆う。樽に向かってナイフが戻っていく。投げた時よりも勢いついていた。
電線が切れる。鞠雄は電線を避けようとしたが、時々確認しているキノ婆が付けた金色の顔パック、日光を反射して鞠雄の目に太陽光が入った。
鞠雄のカートに切れた電線が激突した。
カートのエンジン部がショートして煙を出すのを消防車のサイドミラーから確認できた。
「ナイスだ婆さん!」
「呼んだかの?」
キノ婆はキャプテンに手を振る。
が、酔っ払っているので、どちらにキャプテンが居るか分かっておらず、実際には鞠雄に手を振っていた。
鞠雄を煽っているように見えた。
一行は定食屋の側の路地に来た。
「俺らのアジトに来る前に、ぷるウォを預らせろ」
「分かりました。」
「ありがとうくらい言え!」
カツ丼男は消防車を適当なところに捨てて、定食屋に歩いていく。
「キノ婆さん!どこに行くんだ!」
「しじみの味噌汁を飲む!」
キノ婆は千鳥足であらぬ方向に歩いていった。
「はあ?おいおい。ん!あの車は。」
定食屋に、斧たちも合流したのだった。




