第三十四話
斧への質問コーナーは続く。
「あなたは、鞠雄がキツネのために行動してるっていいたいのよね。そして、私は証拠があるわ。」
「"ドッペルゲンガー作戦"というものよ。怪しいわ。実行することはキツネを増やすことになるのよ。もしかしたら、対になって消滅するのではなく、今のキツネを強化することになるかもしれないわ。」
鈿音は心の底から"ドッペルゲンガー作戦"は無謀だと考えていた。
「ドッペルゲンガー作戦?」
斧は白々しく尋ねる。
「ええ。キツネと全く同じAIを作って、そのAIにはキツネを倒すプログラムを搭載するのよ。」
「ふぅん。」
(美琴とかいう少女は何を考えているんだ?)
「まぁとにかく、次の質問よ。3部屋のうち、用途のわかってない1部屋はどう使っているの?」
「それが知りたいなら、今後こちらの指示に全部従ってもらうことになるが構わないか?」
鈿音は考える。鞠雄の周りにいること自体が危険だと、鈿音より遥かにこの事態に適応している斧が忠告している。
気がかりなのは美琴だ。美琴を助けるにはここの人間を利用するのが1番だ。
だとするならここの人間の情報は少しでも多く取得すべきだろう。
「いいわ。」
「では紹介しよう。」
斧と鈿音は階段を登ってすぐの部屋に入る。
「入れてくれ。お前を紹介しなければならなくなった。」
しばらく沈黙が続いていた。斧は溜め息をつきながら、素良のピッキング道具を使う。
「人付き合いを知らないんだぜ。同い年なのにな。」
ドアが開くと、ヘッドホンをつけた全身白色コーデの女性が猫背で座っていた。パソコンの機械が連なっている。外国映画のハッカーのような雰囲気を醸していた。
「ちょ。誰?」
ヘッドホンを取ってこちらに向き直る。廊下の明かりが眩しいのか限りなく糸目だ。
「ここを見学したいお客さんってとこかしら。」
「あ〜。新しい仲間の亀螺鈿音さんだ。君のことを知りたいらしい。」
「知りたいの?そう。勝手にあなたが説明しなさい。」
猫背の女性はヘッドホンを付け直した。
「名前は照珊 不恩 {てれさ ふおん}。」
「こちらの主戦力だ。情報収集を担当している。
アイコンはスマートフォンで、能力が
〈現実世界と繋がるスマートフォン〉だ。」
「えっ?じゃあこのパソコンは?」
「照珊は雰囲気にうるさいんだ。このパソコン達は電気屋で、照珊や他の仲間と戦闘して『終了』した後のこの世界の人間特有の"無関心"状態を利用して揃えた。」
「そんなこときいてないわよ。」
「さて、もういいかな。最後の質問を俺の部屋に戻って……」
「あんた!猫背は体に悪いわよ。」
斧は鈿音の肩を掴んで自分の部屋に引っ張っていった。
「わかってないのか。こちらは企業秘密を伝えているんだぜ。」
「緊張感が足りないっての?」
「……緊張してほしいわけじゃない。最後の質問は?」
「どうやって情報を集めているかよ。」
「よし。これで俺たちのことをだいぶ知れたんじゃないか。」
「照珊の能力は本体設定時間をいじることで、監禁された時点より後の現実世界の情報を知ることができる。各SNSから監禁されている人間の情報を収集する。当然だ。世間では拉致被害者は大量の行方不明の扱いだ。行方不明者の親族や友人の投稿、警察のネットワークの行方不明者欄には欲しい情報が必ず掲載されている。」
「へ〜」
鈿音は分かっていなかった。見事な空返事だ。
「こっちは大分お前のことが分かってきたよ。」
鈿音は手を差し出した。斧は部屋の冷蔵庫の中のアイスコーヒーを取って差し出した。
やりたい事が2人とも丁度噛み合わない。
「下へ行くぞ。準備は整った。最後のピースも局面も目の前に迫った。」
照珊がひと足先に下に降りる音か聞こえた。某国民的アニメの廊下を走る時の音のようだった。
斧はふにゃふにゃと体を揺らしながら力なく階段を降りた。鈿音はおもむろに観葉植物を撫でてから下に降りた。
下には斧の仲間が全員揃っていた。前科を元に脅して雇ったと後に説明を受けたチンピラ達を除いて。
全員が慣れたように座っていた。まだ数日しかこの世界にいないのにすごい組織力を感じた。
オッチョチョだけは不安そうな顔で立っていたので、鈿音は心から安堵した。
斧が簡易スクリーンを広げて、カウンターのテーブルに腰掛けた。
「いよいよ本日、儲けるぞ。手順を説明しよう。」
「俺たちが手に入れるのは、キャッスル社の機密情報の載ったコンピュータハードだ。ハロウィンのこの日に本社ビルから羽田空港に向かう。」
外のハロウィンは解散のムードだった。しかし今夜も狂ったように騒ぐのだろう。
照珊がスクリーンにキャッスル社の内部構造を映す。斧が照珊に軽く礼を言う。
「警察のホワイトハッカーに協力を得て揃えた資料だ。盗み取る班はブラフで、車の襲撃班が本命だ。」
「やる事はシンプルだ。彼らが渋谷内を少し走っているところを車で隣にツける。寿限無のミニ四駆でまずはこの車を再現してもらう。」
日本製の広々乗れそうなワゴン車がスクリーンに映る。
「ハードはこの車で移動していた。昨日時点で確認済みだ。キャッスル社の社長車。」
「ハードを奪った後はわざと通報させて、車種を警察に覚えさせる。寿限無の能力で今度はキャッスル社の社長車を再現してもらう。」
今度は高級外車の姿がスクリーンに映る。モダンなモデルで、財を感じる作り込まれた装飾だった。
「俺の能力でこの外車を変化させてこのワゴン車にする。キャッスル社の運転手を車内に固定して猛スピードで走らせる。キャッスル社の運転手が乗っている車を警察は追い、俺たちは車ごとここに戻る。」
「ハード内部の情報やパスワードはカツ丼で、攫ったキャッスル社の社長に自白させる。」
「この情報を照珊のスマートフォンに入れて、現実の照珊の家のパソコンに移せば作戦完了だ。」
「亀螺の能力で得た弾丸とここにある銃で戦い、現実に帰還する。」
定食屋の厨房には人数分の銃が用意されていた。
泡立て器の横に雑にぶら下がっていた。
「以上だ。」
(え?スクリーンまで用意して見せられたの写真3枚じゃないの!)
カツ丼男が手をあげる。
「人手さ。足りないっての。」
「いや。足りるさ。利用できる奴を総動員するんだ。お前はここで待機しながら連絡係を頼む。あとオッチョチョのお目付け役もな。」
「わしはキャッスル社とやらで暴れるのが役目かな?」
「おねえさまにはもっと良い役目があるな。」
「照珊もここで待機、亀螺は……」
ほとんど同時刻、鞠雄達は大型ショッピングモールの入り口前で、ドッペルゲンガー作戦の手順を確認していた。
鞠雄が無事に、そして腕にぷるウォをつけて戻ってきたことに一同は喜んだ。
「揃っているのは設計図と作成者。あとは設備だね。」
類が笑顔を鞠雄に向けた。
「設備の方も何とかなりそうです。」
「何を!話してきたんだ!」
「素直に返してもらえたんですか?」
出来立てのカップルが揃って鞠雄に向かって問いただした。息も合ってきたようだ。
「ああ。素直に返してもらったんだよ。何一つ心配はいらない。」
美琴もスッキリとした笑顔を全員に浴びせた。
鞠雄たちの士気は絶頂に達していた。
素良は勇気を出してこの空気感に水を差した。
「済まない。ピッキング道具は使えない。いやできれば使わない方がいい。作戦中に戦闘が起こってしまう危険性があるんだ。」
「俺が解放されるときに、ピッキング道具を貸し出す約束をしてしまったんだよ。だから……」
鞠雄は素良の手を握った。
「いいんです。無理に侵入しなくても。僕たちは戦いを避けることが優先です。それは相手が未知の能力を持っているからです。でも、侵入先にいるのは一般人だ。遥かに御しやすいでしょう。」
「というわけで、僕たちは侵入先が解放されると同時に侵入する。で、どこなんだい?類くん」
「高性能かつ、最新鋭のスーパーコンピュータが研究されている場所です。ここですよ。」
類はノートパソコンのロゴを指差す。
「ここは渋谷に本社を構えています。変わっているというか、面白いというか本社内でコンピュータに関する商品開発をしているんです。本当に偶然サーチしていたら広告サイトを見つけて……」
「何てとこなんだよ!」
キャプテンが急かす。
「この城のマークを知らないんですか?巨大コンピュータ会社。キャッスル社です。」




