第三十五話
朝日が昇る。都内の社ビル特有の全面ガラスはとても映える。あるガラスには光以外の何物も映らない、あるガラスには光によって灰色の濃くなった雲が映る。
会社が解放されるのは警備員の交代時間。早朝4時30分である。鞠雄たちは張り込みをしてその時間ピッタリにキャッスル社に侵入。
「内部のマッピングは済んでいません。コンピュータシステムを利用するので電気系統を落とすのはまずいです。一瞬で警備員や会社に来る人間を制圧する必要があります。」
類の事前説明を聞いてキャプテンはその自信を伝える。
「こんなにボールがあるんだ!大丈夫!」
スーパーマーケットで買い揃えたピンポン球やパチンコとその弾をリュックにパンパンにつめできたのだ。
「僕もです。」
スーパーマーケットで買い揃えた包丁をババ抜きの手札のように両手でつまんでいる楢紅。
「この2人と美琴さんの3人で社内を制圧。素良さん、類くん、僕の3人でコンピュータを……」
「いいえ4人で制圧しましょう。」
6人全員が振り返る。キャプテンは朝日に負けない笑顔だった。
「すごい!良いタイミングだね!」
「無事か?奴らに何か能力を使用されてないか?」
素良が近づいてきたので鈿音はピッキング道具を手渡した。
「これ?いるんでしょ。」
「…ああ。全くすごいな。奴らから無事に逃げるのは中々大変だったと思うぞ。」
鈿音がピッキング道具を奪ってきた事実から、素良は少し安心していた。
「ずっと心配してました。」
美琴が目尻に軽く涙を溜めている。
「鞠雄さん!作戦を説明してあげてください。」
楢紅の声も弾んでいた。
鞠雄は鈿音に握手した。
「本当に頼りにしています。作戦はこれから始まります。」
「知っての通り、設計図を確認できる素良さん、キツネのドッペルゲンガーを作成する僕、この中でコンピュータに1番強い類くんの3人と、その他の4人で社ビルの制圧をお願いします。動きの打ち合わせはチームごとで。」
美琴が会話の中心をになってフォーメーションの確認を始めた。
「鈿音は!鍵盤の楽器を持っていないのか?」
「いいえ。でももっと便利なものがあるわよ。」
鈿音はコートのポケットから携帯拳銃を取り出す。
「脅し、攻撃手段、人を黙らせるのにも使えるわ。」
「なるほど。銃があるのなら、私達は建物の中にいる人全員の気絶を狙うのではなく、全員を一ヶ所に集めることを目標にすべきですね。」
美琴が鈿音の持つ銃を見ながらこめかみの辺りを2本の指でグリグリと押した。
「ちなみに僕が思うのは弾切れとかは考えた方がよくないですか?ほら…最悪の場合に社内全員の人たちが抵抗したら、弾数が足りないかなって。」
「大丈夫よ。ほら。」
鈿音は自身のぷるウォのアイコンをタップした。
アイコンから弾が筍のように生えてきた。
「鈿音!それって〈鍵盤ミサイル〉なのか?」
「いいえ。別の能力よ。」
「え?アイコンを変えられるんですか?どうやって?」
「違うのよ。これが私の本来の能力なの。」
「?みなさん何の話をしているんですか。」
「そうね。美琴ちゃんは私の〈鍵盤ミサイル〉の能力も知らないものね。うーん、まぁとりあえずね、今日この日だけ私は能力で、無限に弾丸を入手できるのよ。こう覚えてもらえばいいわよ。」
鈿音は説明することを放棄した。
「そうだな!作戦会議に戻ろう!」
「私、考えたんですけどやっぱり、火事を起こすのが人を一ヶ所に集めるのには効果的だと思います。」
「うーん、逃げ遅れても一酸化炭素中毒で気絶するのか。僕も賛成です。」
「楢紅が賛成なら俺も!」
「良いわよ。でも3人で誘導できるかしら?出口も一ヶ所以外は閉鎖する必要があるし…」
「3人じゃない!3人と100球だ!」
「そんなピンポンボールでどうやって……また床にばら撒くの?」
「このピンポン球は会社の中のスイッチを押しまくるんだよ!いろんな設備の電源をオンにしたりオフにしたりして混乱させる。防犯カメラも覆ってもらう!」
「あんたなら出来そうだからねぇ……」
「会社にいる人間が1人も残らず集まったら、1人は監視カメラのある部屋に、1人は鞠雄さんたちのところに応援に、2人で場にいる全員を包囲という形になります。」
「監視カメラは私が。異常を見つけた時に1番機動力がありますから。」
「鞠雄さんの応援は僕が…」
「いいえ私が行くわ。あなたにそのタイミングで銃と充分な量の弾丸を渡すわよ。」
「俺は楢紅と残る!攻撃手段を持つ者が残った方がいいからな!」
「そういうことよ。鞠雄たちの応援は見張り役ぐらいしかやることないでしょ。」
「そうですね。」
「火事を起こすポイントは?」
「鞠雄さん達の合図を受けてから、電気配線や、鞠雄さん達に影響のないポイントを燃やします。」
「そこで入り口を1つ潰すのはありですかね?」
楢紅の発言にキャプテンが口を開けて頷く。
「はい。いいと思います。警備員の待機場所の近くにも放火すべきです。」
「煙を建物になるべく蔓延させるために下の階層に1つ火をつけるポイントを作るべきね。」
「残り1つは今の条件とポイントに被らない場所に消去法で決めましょう。」
会社の制圧チームは作戦を作り終わった。
一方、キツネのドッペルゲンガー作成チームは、
「…キツネの素数の10進法の設計図を2進法のプログラム言語に変換して、現代のコンピュータでロードするのに……20年か、かかります。」
思わず類はノートパソコンを閉じた
素良が類のノートパソコンをピッキング道具で開ける。
「いや、俺は鞠雄を信じる。2進法にするのが正解じゃないんだ。憶測だがな。」
「ぅう。胃が痛くなってきた。この体で初めて痛みを感じましたよ。」
「大丈夫だ。上手くいくさ。僕たちが終わらせるんだ。これ以上、誰も傷つけ合わないで欲しい。」
作業がハードで複雑なはずの鞠雄チームの作戦会議の方が一瞬で終わった。
「私たちの思いは1つです。誰も傷つかないで欲しい。」
鞠雄と美琴の言葉がシンクロした。
社員らしい人間が早朝にも関わらず出勤し始めた。
「ボールは友達!えい!」
キャプテンのパチンコで第一陣の出勤してきた人が気絶した。いずれも頭の後方にパチンコ玉が直撃していた。
鞠雄たちは人数分のIDカードを入手した。
いよいよ突入だ。




