第二十二話
「とりあえず、素良さんとの合流を優先しましょう。お名前は…?」
「亀螺鈿音よ。あなたは、酒井楢紅"さん"ね。口上してたわよね。」
「?僕はその……」
「いーのいーの。楢紅さん。一人称が『俺』とか『僕』とかの方が迫力あるもんね。復讐してますって感じ。」
そう言いつつ、鈿音は楢紅の口を塞いだ。
「ところで!何で急に鈿音の味方として駆けつけて来たんだ?というより、どうして復讐相手もその居場所も特定できたの?」
楢紅は鈿音の手を口からはがした。
「僕はこの状況下で、情報屋をしている人と接触したんです。丁度そこに素良さんもいると思います。お名前は?」
「うーん。いや!キャプテンと呼んでくれ!彼女にキャプテンと呼ばれるのもいい!他のことはそこに行ってから話そう!」
「……?分かりました。」
一行はそのまま駅を越えて歩く。何人かのぷるウォ持ちとすれ違った。鈿音はズタボロのコートが目立つので、未練があるものの大学を去る時にコートを置いて来たのだった。鈿音は肌寒さを感じたが、幸運なことに無事に目的地に着いた。
「げ。」
鈿音は嬉しさと気まずさが混じる不思議な気分になった。そこはかつて鈿音が万引きした大型ショッピングモールだ。
「ここの映画館です。ここなら建物の営業時間後のギリギリまでいれますし、何度も違う映画を見ることで一般的にもあまり違和感がないらしいです。」
「そうか!あまり目立つことをしたら、SNSから他のぷるウォ持ちにバレるからね!」
「小学校で……、あんたがまさにそうよ。」
「そうか!」
「ブランドを考えると、ここでコートを購入したんですよね。僕らは3人で固まれば安全だと思うので、時間もありますし、もう一度購入されます?」
「うーん、いいかなぁ。」
鈿音はこれまでこの世界で何度も焦る場面に立ち会ったが、この時初めて冷や汗をかいた。
「あんなに執着してたのにか!寒くないのか?」
「いいわよ。もう!」
「では行きますか。」
鈿音は見つからないように、一応顔を手で覆いながらショッピングモールに入る。
「なんだそれ!目立つよ!」
「あんまりハロウィンで浮かれている人を直視したくないの。」
「そのままでもさ、のっぺら坊が人を驚かす前みたいでハロウィンぽいな!」
鈿音はすぐにやめたくなった。スムーズにエレベーターに乗れたので望みが叶う。
映画館のあるフロアについて館内に入ると、素良がチケット売り場のロビーでソファに腰掛けているのを見た。
3人はまっすぐ向かう。素良が立ち上がり、特にキャプテンのことをマジマジと見つめていた。やがて素良は口を開く。
「で?『勝負服を取りに行きたい』って言っていたきりだったが。まさか…それがそうなのか?」
「はい!ありがとうございました。僕の気持ちを理解して協力していただき、感謝の極みです。」
「でも…男なのにその格好か。想像とは違かったかな。」
鈿音はキャプテンの耳を塞いでいた。
「何だい!耳を急に触ってきて?」
「私の楽しみが減ったら嫌じゃない。」
素良は鈿音の方に向き直る。
「あなたも、あの後カフェの奴とはどうだった?」
「見なさいよ!もう半年も拘束時間が減ったわよ!勝ち続きだわ。」
「ということは、あの後も複数回は戦っているんだな?悪運が強いんだな。別れた後の情報を共有しよう。」
「鈿音!この人が情報屋?」
「違うわよ。」
「そう。まずは君だ。あなたはこちらの彼とどのように知り合った?」
鈿音はキャプテンに関わる経緯を、ところどころをキャプテンに説明を変わってもらいながら素良に伝えた。物忘れくらいこの世界では起こらないで欲しいと鈿音は強く思った。
「ね?信用できるわよ。」
「そうだぞ!彼氏は彼女を裏切らない!ボールに誓える。」
鈿音は必死に頼み込むような目を用意して、素良に浴びせた。素良は楢紅の方を向いたが、あまり気に病んでいない様子を見て顔を伏せた。
「そうか。とりあえず、ぷるウォを渡せるか?」
「ぷるウォを渡させるのって!この人が考えたんだろ!鈿音が自分で思いつくわけないしね!」
キャプテンが素良にノースリーブの肩の膨らみに隠していたぷるウォを渡す。
「やかましいわよ!」
鈿音がキャプテンを小突くのを見て、素良は少し警戒を緩めた。素良は丁寧にキャプテンのぷるウォを上着のポケットに入れた。
「そうよ。情報屋ってのは一応気になるわ。私としてはそっちの方が信用できるか不安よ。」
「とりあえず、会おう。いいタイミングだ。もうすぐに予定の映画の上映時間だ。」
「あまり人気のない映画のチケットを買うんだ。情報屋はこの世界が、10月31日をループしていることを上映時間から察知している。客が、ゼロやほとんどいない作品を調べていた。今度はアレだ。」
素良がポスターを指差す。
『なんくるなくもないさー THE MOVIE』
『なんくるなくもないさー』とは、沖縄発のカートゥーンアニメである。ハブとマングースの喧嘩をする日常を描いた作品だ。鈿音もグッズを持っている。コラボラベルのハブ酒だ。考えた奴はサイコパスなんだろう。
「普通に観たいわ。」
ないです。」
「普通に観たく
ない!」
3人の声がこだまする。素良は頭を掻いた。
「うん。観なくていい。酒井…さんも、たまたまさっきの映画は興味ありそうだったな。上映中はそのまま情報共有の時間だ。」
鈿音はハブの皮柄のシャツを映画館内の販売店で購入した。
「似合う!」
一行はチケットを買い、すぐに誘導のアナウンスを聞いてスクリーンに向かう。
スクリーンに入ってすぐに、鈿音は思い切り突き飛ばされた。鈿音が見ると突き飛ばした相手は首に手をかけられて持ち上げられる。
鈿音はタップしたがそれでもなお首にかかる力は強くなっていく。と思えば、いきなり手が離れて相手の腕が電流が走ったかのように痙攣していた。
「どういうことよ?何よコイツ!」
「あの…この人が情報屋さんです。」
「おい、起きるんだ。また能力を使ったのか。」
「うう…うーん。素良か、新しい人が来る可能性が高いと思ってさ。一応警戒したのさ。ほら、鈿音さん?だっけ。電話が来たんでしょ?」
「その鈿音さんに逆に警戒されてるわよ。」
「まったくだ!酷いぞ!」
スクリーンでは上映時のマナー、とりわけ劇場内でのおしゃべりについての忠告が流れていた。このあともしばらくおしゃべりは続く。
「いいわよ!別に気になったから会っただけで、思い入れなんかもないわ。このまま他の場所に行くわ!」
珍しくキャプテンがうろたえていたが、心を決めたらしく楢紅のそばに立ち尽くしていた。
鈿音が扉を開けようとしたときに優しく腕を掴まれた。振り返るとそこには美琴の姿があった。
「その…落ち着いてください。お願いです。…鈿音さんに早く謝ってください。」
その言葉が終わらない内に、鈿音をいきなり襲った男は頭を深く下げた。
「本当に申し訳ないです。今、僕たちは信頼できる人と情報を集めています。それは打倒キツネのためです。協力をお願いします。」
鈿音は、その男の態度が気に入ったフリをしてその場に留まることにした。美琴との再会に胸踊っていた。




