第二十一話
樽に今までの材料を全て混ぜたものを刃物を刺せる穴に詰め込み、鈿音は重大なミスに気づく。爆発させる方法を聞いてない。
「起きなさいよ!なんでこんな時に気絶してんの。」
「樽がこの部屋に飛んできた時に失神していた!ここにヒントがあるぞ!」
「なんだろう?レバーを引いて爆発するイメージしかないわ。火をつけるにしてもこれが吸い込まれるときに消えそうじゃない?」
「蛭を倒すのにこの樽爆弾を使うのかい?もっと別のものを使うとか!」
鈿音もキャプテンも俯いていたが、建物の崩れる轟音に会話どころではなくなった。
「…こうなったら捨て身の特攻ね。私が蛭の中で樽に火をつけるのよ。」
ピル蛭はとうとう小学校の使うグラウンドに来た。相当な大きさに膨れ上がっている。2階建ての建物くらいだ。鈿音はその口の中を見た。鋸のような歯がゆっくりと飛び出たり引っ込んだりを繰り返し、その口の中は棘のあるイボが吸い込んだものを捻り潰すようにできていた。
「ダメだ……無理だわ。」
鈿音は足すら動かない。キャプテンに引っ張ってもらいようやく動く。中々動かない犬を散歩に無理矢理連れて行こうとする姿にそっくりだった。
「なら!逃げよう!逃げながら考えればいい!」
鈿音は考える。
(鍵盤ミサイルは?ここには鉄琴や、木琴があるわ。でも、あの巨体に効果あるの?そもそも発射するタイミングは?そのときにはもう、私も吸い込まれている。)
とは思いつつ鈿音は鉄琴をキャプテンに抱えさせていた。
キャプテンもまた、自分のためにバスケットボールを手に取って走る。
2階の階段を降りて、昇降口に近い別の階段を目指して移動中、その窓から人影が見えた。鈿音は楢紅を見つけたのだった。
「彼は、刃物なら全て引き寄せるのよね。しかも結構な勢いで。」
「俺も見たよ!それが?」
「巨大な刃物を作るわよ。そうよ!ここは常連じゃないの!」
昇降口を出て、迎えに来ていた車の中で1番高そうな車を選ぶ。
「君たち!あまり近づかないでください!どなたの車を触ろうとしているか分かっているんですか?」
キャプテンがちゃっかり持って来ていたバスケットボールを運転手に向かって投げる。
鈿音はピッキング道具を使ってそのドアをそして車のエンジンを解除した。助手席にキャプテンが座る。
「こんな車初めてだわ。複雑すぎよ。これだから!」
「鈿音!学校に突っ込んでいる!」
「近道しなきゃね!」
高級車で昇降口に突っ込み、そのままグラウンドから横にそれていく。ピル蛭の進行方向にいなかった建物の中で、それらしい倉庫を見つける。
「これなら、金属で出来ているし、蛭を空から攻撃できる!研いで刃物にするわよ!」
鈿音は、車にくくりつけていた、万が一使うかもしれない鉄琴を取り外して高級車に向かって放つ。鉄琴の持つ鍵盤は、ピアノの鍵盤よりも威力が強く高級車はひっくり返った。
鈿音は、近くにあった工具で車のタイヤをホイールだけの状態にしてホイールも、砥石のようにざらざらとした質感になるように傷つけた。
「なんちゃって研磨機よ!これでこの翼を研ぐの!」
そう!鈿音は若人が空を鳥のように飛ぼうとするだけで、狂気の2時間も放送する特番を思い出していた。この大学はよくその番組に出ている。その翼なら、金属で出来ているし、ピル蛭を倒せると思ったのだった。
翼をタイヤのホイールで刃状にして、キャプテンに機体に乗り込ませる。
「あんたなら無事で済むでしょ?頼むわよ。」
「まかせろい!」
鈿音は機体の後ろに鉄琴をくくりつけた。ロケットエンジンの原理をナメてるとしか思えない。鈿音は倉庫の扉を思い切り開けて、アイコンに触れた。
一方その頃、女子高生の格好をしたシスコンは、ピル蛭の背中の上にいた。持参して来た刃物を両手に待ちその背中を、刺して刺して刺しまくった。
動きを止めるどころではなく、小学校の家庭科室を吸い込んでいた。見れば理科室に自分の樽が置かれていた。しかも、不自然に紐で結ばれていた。鈿音たちが何かあの樽に仕込んだことを察知した楢紅は、家庭科室の包丁を頭に被る樽に吸い寄せて、またもピル蛭の背中の上で倒立した。樽がカチカチと音を立てて頭を放出した。
ピル蛭は理科室の壁を吸い込み、その樽も口に運ぼうとした。楢紅はその樽に向かって跳ぶ。刃物同士を素早く擦り合わせて作った火花を樽に浴びせて壁の壊れた部分から、理科室に転がり込んだ。見れば男が失神していたがすぐに起き上がった。かと思えば巨大なピル蛭の口を見てまた失神した。
ピル蛭の口の中で爆発が起こり、その歯は砕け散っていたが煙をあげた口の中は吸引しようとまだ渦巻いていた。明らかに吸引能力は下がっていたが、楢紅は引き寄せられて理科室から落下した。
楢紅が涙ぐむ目で空を見上げると、キャプテンが翼と共にピル蛭の少し上で飛んでいた。
「今だ!能力を使って!」
楢紅がアイコンに触れると、その翼がピル蛭の焦げて脆くなった首に落とされた。ピル蛭の首が跳ね飛ばされた。
落下する楢紅をキャプテンが翼のない機体に乗って向かってきた。空気抵抗を受けないように作られている分キャプテンの方が早かった。
キャプテンは、地面スレスレで機体から身を投げ出し、楢紅のクッションになるように受け止めた。
「ありがとう……ございます。」
「彼氏が!彼女を!守るのは当然しょっ!」
楢紅は自分の頬がより熱く紅くなっていたことに驚く。そして『終了』を押した。
鈿音が駆け寄る。
「どうよ!私の"ギロちんちん"作戦は!」
ピル蛭は今や肉塊となっていた。切られた首の断面、あの男がその中にうずくまってへその緒に繋がれた赤子のような体制で震えている。
「降りてきなさいよ!傷つかなくてもいいから殴ってやるわ!」
鈿音が聞こえるように声をはる。
切り落とされた首の方から声がする。
「……俺ば何をじだ?だぐざん…のびとを…ひぎにぐにじだ。」
「まぁ現実でもおんなじ様なことをしたわよね。あんた、たくさんの赤ちゃんの命を消したのよ。」
「もゔ…びやだ。」
鈿音はつまらなそうにピル蛭の首を蹴飛ばす。
火電が起き上がったのか鈿音たちの元へ来た。
「すごいことになりましたね!私の研究設備はめちゃくちゃ!文句のひとつでも……」
「なぜ人に戻らないんですか。」
「人には戻っているわ。ただ、見た通り股間がなさそうよ。」
楢紅は座り込んでその様を睨む。
「この蛭は奴の陰部が変異したものなんだろう。姉にはこんな酷い光景は見せられない。だから俺は覚えようと思う。この景色を。絶対に忘れない。」
「つまり、この蛭は元々は拉致されたあの男の体の一部ということですね?」
「これ!いきますよ!切りますよ!ほら!切れるんです!傷がつく!肉として我々の体を取得できる!」
火電は蛭の体をそこらに落ちていた包丁で少し切る。
「遂に!大きな一歩を踏み出しました!希望の実験材料ですよ!蛭について詳しく勉強しないといけないな。」
火電を除く一行は粉々になった大学を後にした。




