■一〇月一二日 逮捕しちゃうぞ
ボクね、怒ってるんだよ。
えっ、ボクが誰かって?
儚内薄荷だよ。
ボクが何を怒ってるのかっていうと、一昨日、文化祭で見つけた封筒が原因。
その封筒の表には、こう手書きされていた。
服飾に呪われた魔法少女 裏ブロマイド
薄荷/平服/Rバージョン
追加購入のお問い合わせは、写真部裏展示室まで
封筒の中は、空だった。
でも、そこに、『裏ブロマイド』なる写真が入っていたことは間違いない。
しかも、『裏』なんだから、当然、表に出せない写真だ。
ボクがたまらなくイヤだったのは、その封筒が、男子トイレの個室の床に落ちていたこと。
状況からみて、何らかの目的で、その場所で、封筒から写真が取り出されたってことになる。
それって、あれだよね。
そういうことだよね。
事もあろうに、その見知らぬ男の欲情相手が、ボクってことだよね。
ボクね、セーラー服なんか着させられてるけど、オトコなんだよ。
全身を、悪寒が駆け抜ける。
気色悪い。
吐き気がする。
何をいまさらって、呆れられちゃうよね。
だけど、この事実が、『真の最終決戦』第一ラウンドで再発してしまった、ボクのトラウマに、グサグサ突き刺さってくるの。
ボクは、この封筒のことを、『服飾に呪われた魔法少女』仲間全員に通報した。
だって、封筒に書かれた文言からすれば、ボクだけじゃなく、『服飾に呪われた魔法少女』全員の『平服』『体育服』『道衣』について、複数バージョンの写真が用意されているってことだもん。
仲間全員の意見が、『由々しき事態であり、断固許せない』ってことで一致した。
昨日は、手分けして、封筒に書かれていた写真部の『裏』展示室を捜していた。
もちろん、写真部の『表』の展示室は、真っ先に見にいった。
そこに展示してあるのは、美しい風景写真ばかりだった。
朝日に照らし出される、東の珊瑚礁。
夜闇に浮かび上がる、南の温泉郷。
陽光に光り輝く、北の麦畑。
夕日が沈みゆく、西の砂丘。
どれも、心洗われるような、『この世界』の生きる者たちに郷愁を惹き起こす原風景だ。
白黒写真でありながら、鮮やかな色彩が感じられた。
こんなにも、人々の心を揺さぶる感動的な写真を撮れる人たちが、表にだせないようなイケナイ写真を撮るものかなと、不思議に感じた。
『表』展示室では、風景写真の『絵はがき』を、販売していた。
法に触れるようなものを取り扱っている様子はなかった。
金平糖菓ちゃんは親水連合員を、菖蒲綾女ちゃんは格闘部連合員を、それぞれ動員して、写真部裏展示室を捜している。
宝生明星様と、スイレンレンゲさんは、文化祭実行委員会側から、探ってくれている。
あの二人は、祓衣玉枝學園長の指示で、文化祭の実行委員になっているんだ。
ここまで大がかりに捜せば、写真部の『裏』展示室ぐらい、難なく見つけられるものと思ってた。
ところが、ぜんぜん見つからない。
糸口となりそうな情報すら、出て来ない。
ボクはというと、昨日は朝から、当たりをつけた、怪盗義賊育成科の空き教室を、歩き回ってみた。
そして、午後には、疲れ果てて、園芸部の菜園カフェで、へたり込んでいた。
青汁ソーダと、明日葉プリンで一休みだ。
いつものように、喇叭拉太オニイチャンと、新水泳部の男性部員十三人が、警護してくれている。
拉太オニイチャンが、ボクの顔を覗き込んできた。
「薄荷、顔色が青汁なみに青いぞ。まだ、最終決戦第一ラウンドのショックから回復できてないんだろ」
「う~ん、どうしても眠りが浅くてさ……今朝も、へんな夢見ちゃった。夢のなかでカード占いやってもらったんだけと、ボクと糖菓ちゃんは、一時的に巧くいっても、結局は破綻する運命だって言われて、ショックでさ~」
「なんだよ、それ。たとえ薄荷でも、糖菓姫様を不幸にしたら、許さないからな。姫様は、今や、オレら海賊だけじゃなく、平民や、魔族の希望の星なんだからな」
「うわっ、一途というか、愛が重いな~」
「恋愛感情じゃないぞ。忠誠を捧げて、お慕い申し上げているだけだ。」
「そんなこと言ってぇ~、実は、糖菓ちゃんの『裏ブロマイド』を、學生服の内ポケットにしのばせたりして……」
「バッ、バカなこと、言ってんじゃない」
ボクは、もちろん冗談で言ったのに、拉太オニイチャンの反応がオカシイ。
「ハ、薄荷、オマエ、やっぱり、顔色良くないぞ。命がけの第二ラウンドが間近に迫ってるんだから、体調は万全にしけ。写真部の件は、俺たちや、他の魔法少女に任せて、部屋で休んでろよ」
あからさまに、話題を戻してきた。
ボクは、強引に、写真部の話を続行する。
「そんなことより、『裏ブロマイド』の件だけどさ、こんなに捜してるのに、糸口すら見つからないって、ヘンだよね。なんというか、まるで、學生のみんなが共謀してて、ボクたち魔法少女五人にだけ、『裏』展示室を隠匿しているような……」
「い、いや、さすがに考え過ぎだろ」
拉太オニイチャンの顔を見つめていたら、額に汗が浮かんできた。
「ボクね、學園のショッピングモールで、自分のブロマイド写真を買ったことがあるんだ。普通の写真なんだけど、値段が高くてビックリしたよ。『裏ブロマイド』となると、きっと、トンデモない価格だね。金貨数枚とか取るのかな。暴利だよねぇ~」
「いや、軍事技術を転用したカラー写真なんだから、仕方な……」
拉太オニイチャンの表情が、凍り付いた。
あれは、自分の失言に、気づいた顔だ。
「ふ~ん、『裏ブロマイド』って、カラー写真なんだ。初めて知ったよ。ボク、見てみたいな」
ボクは、ニッコリ笑って、拉太オニイチャンの胸元、學生服の内ポケットがある位置を指さした。
拉太オニイチャンが、観念したように、そこから一葉の写真を取り出した。
糖菓ちゃん、つまり『スクール水着魔女っ子』のカラー写真だった。
『道衣』の白いスクール水着姿で、しかも全身ずぶ濡れで、此処彼処から水滴が滴っている。
濡れているせいか、僅かに透けていて、スク水の白い布地が、わずかにピンクかがっている。
――こっ、この写真は、ボクも欲しい。
一瞬、そう思ってしまった。
だけど、それを認めたら、ボクは、『セーラー服魔法少女』の『裏ブロマイド』を買い求める人々を糾弾できなくなってしまう。
ぷるぷると首を横に振って、疚しい気持ちを、振り払った。
拉太オニイチャンが、観念した表情になっている。
これは、もう、新水泳部副部長の座や、『見習い魔女』のロールを失うことを観念した顔だ。
だけど、ボクには、これ以上、拉太オニイチャンを追求することなんてできない。
ボクは、拉太オニイチャンの肩を優しく叩き、その後ろの新水泳部員十三人に向って笑いかける。
「本来なら、ここにいるオニイチャン全員を身体検査し、更には學生寮のベッドの下をガサ入れするところだよ。でも、それはしないであげる。だから、よく聞いて。きょう、ボクたちは、挙動のオカシイ男子学生が、人気のない学習準備室に入って行くのを見つけた、そこに踏み込んで、この、濡れスク水写真を押収した。そして、その男子學生を問い詰めて、写真部裏展示室の場所を聞きだした。
ボクは、新水泳部員十三人のうちで、いちばん気の弱そうな一人に指を突きつける。
「そっちのオニイチャン、男子学生がゲロった、写真部裏展示室の所在は、どこだっけ?」
「學園物資流通センターの地下倉庫です」
なるほどね。
どうりで、文化祭会場内をどんなに捜しても、写真部裏展示室が見つからないわけだよ。
學園物資流通センターは、學園に隣接する商業区画の一角にある。
ショッピングモールの隣で、學生ではない一般人の立ち入りが、普段から認められている。
それに、あそこって、八月一日に開催される『薄い本頒布会』の会場となる。
つまり、趣味を同じくする者たちが参集しやすい場所でもある。
☆
でもって、今日――一〇月一二日――、ボクたち『服飾に呪われた魔法少女』五人は、學園物資流通センターの地下倉庫にある、写真部施設を急襲した。
ここは、買取室、展示室、販売室の三部屋に分かれている。
買取室では、物語、事件、事故に関するあらゆる写真を買い取っている。
それを、写真部は、普段から、そういった写真を、新聞社や雑誌社に提供することで、暴利を得ているらしい。
展示室では、元々は芸術的価値の高い写真を展示していた。
それが、この夏の『薄い本頒布会』以降、『服飾に呪われた魔法少女』専用の展示スペース化してしまったらしい。
この部屋に入場するだけで、金貨一枚が必要だという。
販売室には、売り手の顔も、買い手の顔も判別できない、小窓がひとつあるだけだ。
そこで、買い手は、展示室の写真記載されていた記号を伝える。
例えば、H=薄荷、H=平服、R=Rバージョン、って要領。
すると、金貨と引き換えに、当該写真が入った封筒が差し出される。
ボクたち五人は、容赦無くそこを破壊し、その場に居た売り手も、買い手も、全員を拘束した。
ボクたちは、写真部の幹部を一室に集めて問い質した。
問題は、ここで展示販売されていた『服飾に呪われた魔法少女』の写真が、カラーだったという事実だ。
だってカラー写真技術は、皇國軍の軍事機密なのだ。
写真部の幹部たちは、頑なに、口を割ろうとしなかった。
「だったら、水責めなん。うち、水責めについては、プロフェッショナルなん。身をもって体験してるからね。人間がどのくらいで窒息死するか詳しいんよ」
糖菓ちゃんが、自分の指先に、ビーチボールサイズの水球を出現させた。
それがフワリと飛んで、写真部幹部の頭を包み込む。
☆
全員を何度か溺れる寸前まで責めたてたら、やっと口を割った。
今年六月初旬、皇都トリスにある皇國軍本部M’SE●の使いだと名乗る者から接触があったらしい。
そして、次のような契約が結ばれた。
・M’SE●は、写真部に、カラー写真フィルムを提供する。
・このフィルムを、普通の白黒写真機にセットするだけで、カラー写真を撮影できる。
・ただし、撮影済みフィルムの現像や印画紙への焼き付けに、白黒写真用の機材は使えない。
・なので撮影済みフィルムをM’SE●に送り、M’SE●側でこの工程を行う。
・写真部がカラー写真フィルムで撮影して良いのは、『服飾に呪われた魔法少女』だけである。
・撮影されたカラー写真フィルムはM’SE●が管理し、権利を持つ。
・写真部は、写真の焼き増しをM’SE●に要求し、一般向けに販売する権利を有する。
・写真部は、M’SE●から焼き増し写真を受け取る際、一般向け販売価格の半額を支払う。
写真部は、契約内容以上のことは、知らないとのことだった。
これは、ホントのことだと思う。
写真部は、M’SE●の使いを名乗った者について、名前すら確認できていない。
ただ、片眼鏡の撮影魔具らしきものを身につけた女だったという。
ボクには、M’SE●という言葉や、女の容貌に覚えがない。
だけど、綾女ちゃんと糖菓ちゃんが、小声で話していた。
「おい、片眼鏡の撮影魔具ってさぁ――」
「うん、きっと、魔王様の御茶会にいた、あの女なん」
レンゲさんと明星様も、小声で話していた。
「皇國軍本部で、M’SE●? 『●』って、ナンデスか……。趣味の悪い略号デス。ナンか、こう、『あの世界』の略号みたいデ……」
「隠匿を意図しての略称なんだろうけど、薄荷ちゃん専用特殊兵装のPAN2式と同じネーミングセンスを感じるね。そういえば、皇都の足首に出入りしていた、元帥直轄特務長官は、転生者だったね」
「心当たりがあるの? そのM’SE●が、ネガを押えてるんなら、ボクたちの恥ずかしい写真を焼き増しし放題だよね。ボク、ゼッタイ、放置なんてできないよ。なんかさ……まるで……自分自身が売買いされてるみたいで……。ボク、きっとまた、世界中の欲望に突き動かされた男達に……取り囲まれて……襲われて……メチャクチャにされて…………××××××」
…………!
「薄荷ちゃん、落ち着いて!」
気がついたら、糖菓ちゃんに、ギュッと抱きしめられていた。
その身体の暖かさと柔らかさに、どぎまぎして、自制心が戻って、気がついた。
ボク、いつの間にか、頭を抱え、涙を流し、全身を痙攣させながら、絶叫していたみたい。
ハアハアと息を整えながら、「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」と、みんなに謝る。
「……とっくに、トラウマから立ち直れてたはずなのに、どうしてこんなタイミングで……きっと、拳斗なんかに、キスされたせいだ……」
綾女ちゃんが、自分のハンケチを出して、ボクの涙を拭ってくれている。
明星様が、代表して、ボクを諭すように、語りかけてきた。
「薄荷ちゃん、この件は、僕ら四人で調べてみよう。全容解明まで数日、時間をくれないか。ほら、明後日はもう『真の最終決戦 第二ラウンド』だからね。だから、僕らとしては、薄荷ちゃんには、残る一日で少しでも体調を整えてもらって、『真の最終決戦』に万全を期して欲しいな」
ボクは、コクンと素直に頷いて、みんなに甘えることにした。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■一〇月一四日 真の最終決戦 第二ラウンド
『真の最終決戦』の第二ラウンドは、第二ラウンドの終了時点から、当たり前のように再開された。
『真の最終決戦』というだけあって、なんか、とんでもない規模で、あらぬ方向へ、どんどん展開していくんですけど……。
この物語、ちゃんと終われるのかな。
破綻なんて、しないよね。




