■一〇月一一日 糖菓ちゃんとデート……いや、これ、違うよね
ボク――儚内薄荷――は、金平糖菓ちゃんと、デート中……のはず……だよね。
あれっ、なんかヘンだな。
糖菓ちゃんとの、デートは、昨日のことだったような。
いや、いや、いまだって、糖菓ちゃんと、手を繋いでいる。
喇叭拉太オニイチャンと新水泳部の十三人に護衛されている。
ヤジウマの大集団まで、引き連れている。
そして、文化祭ではしゃぎ回った記憶と、心地良い疲労感が、ちゃんとある。
気がついたら、魔法少女育成科棟の傍まで来ていた。
そして、魔法少女育成科棟のハズレに立っている建物に違和感を感じた。
――この場所に、こんな建物、あったかな。
違和感を感じた。
普段隠されているものが、露呈してしまっているような、そんな感じ。
建物を囲む低い塀の門柱に、『白鼯小學校』と書かれた古い木板が、かかっている。
――この國の最高学府である鹿鳴館學園の敷地内に、
どうして小學校が――。
校門の中央には、これだけ真新しい、立て看板がひとつ。
『カード占いの館』とだけ、書かれていた。
――思い出した。
これって、グリーンさんが誘ってくれた、
文化祭の出し物だよ。
グリーンさんによれば、『占い』だけでなく、『縁結び』までやってるという。
ボクとしては、グリーンさんなんかじゃなく、糖菓ちゃんとの縁を、ぜひ、いま以上に強く結んで欲しい。
「入ってみようよ」と、糖菓ちゃんの手を引いた。
面白いことが起きた。
ボクと、糖菓ちゃんと、拉太オニイチャンと、新水泳部の十三人は、普通に校門を潜れた。
ところが、その後ろに続いていてヤジウマたちは、校門の中に入って来れなかった。
その理由は明白だ。
學生でない訪問客は、文化祭の開催区画には入れても、各学科棟の敷地内には入れないというだけのことだ。
ボクたちは、これなら安心と話しながら、敷地内に入った。
校庭の左手と、奥に建物。
左手の建物には『白鼯小學校寮』と掲げられている。
看板のない、奥の建物が、小學校なのだろう。
小學校に寮があるということ自体が、奇異なことだ。
小學校は、カストリ皇國の各地にあり、生徒は皆、家から直接通うものなのだ。
それにしても、人気がない。
小學校に入ると、居並ぶ下駄箱の向こうに、小さな体育館。
そこにも、『カード占いの館』書かれた立て看板。
入ると『カード占い』に関する説明が、貼り出されていた。
超感覚的知覚を用いた、スピリチュアルなカード占いです。
次の五種類のカードを各五枚、計二十五枚のカードにより占います。
図形 象徴 エレメント
○ 完成・統合・魂 水・月
+ 分岐・選択・信仰 火・太陽
~ 感情・変化・流れ 風・水星
□ 安定・制限・現実 土・金星
☆ 希望・直感・導き 火・木星
カードが置かれた机を挟んで、二脚のイスが置かれている。
小學生用の、小さな机とイスだ。
「向こうの一脚には占い師さんが座るんだろうから、イスの数が足りないね。ボクと糖菓ちゃんの未来線を結んで欲しいんだから、もう一脚ないと……」
そう話しかけたながら振り向いたら、糖菓ちゃんが居ない。
確り繋いでいたはずの、糖菓ちゃんの手の感触も消えている。
拉太オニイチャンと、新水泳部十三人の姿も見えない。
ああ、これって、やっぱり現実じゃなかったのかと、ストンと納得できた。
不思議と恐怖感もない。
そうしなきゃいけない気がして、イスのひとつに腰掛けた。
そしたら、向かいの、誰も座っていないイスから、声が聞こえた。
☆
薄荷様、こんにちは。
うち、漣伝子っていうの。
待って、お願い、覚醒しようとしないで。
もうちょっとだけ、この微睡みに身を委ねて……うちの話しを聞いて。
お願い。
いきなり話しかけておいて、警戒しないでって言っても、ムリだよね。
分かってるの。
でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、耳を傾けて欲しいの。
うちら、本当は、薄荷様のもとに、馳せ参じたいの。
でも、それが許されないの。
念動で創り出した、この時空の隙間で、念話を用いて、接触するしか、手だてがなかったの。
これでも、仲間の犠牲を前提にした、ギリギリの行為なの。
良かった。
話しを聞く気になってくれたみたいね。
ありがとう。
まず、うちらの仲間のことを知って欲しい。
この先も、決して逢えないと思うけど、覚えてて欲しい。
うちら、『カードパーシヴァーさいこ』っていうの。
パーシヴァーは、全員魔法少女育成科二年なの。
三年生の魔法少女代表が『六色のオーブ』であり、一年生の代表が『服飾に呪われた魔法少女』であるように、うちらが二年生の代表なの。
ただし、うちらは、歴代魔法少女最弱の失敗作だって言われてる。
うちらは、最初五百人いた。
最近になって、やっと分かってきたんだけど、天津神が、『あの世界』の色んな時代から、魔法の才能がある一族の幼女を神隠しにして、『この世界』のこの時代に召喚したの。
その目的は、皇都トリスの結界を強化するための人柱にすること。
皇都トリスには、百年前に、当時の魔女たちを人柱にして造った結界があるの。
だけど、その結界は老朽化して力が弱まってきた。
そのうえ、皇都トリスの規模が大きくなって、結界の外にまで、街が拡張されてるの。
だから、うちら五百人を人柱にして、結界を一新しようとしたの。
でも、巧くいかなかった。
魔力や聖力って、六歳になって、ロールを与えられた者だけ強く覚醒するの。
うちら五百人は、五歳のうちに連れて来られて、六歳で全員に『魔法少女』のロールが与えられた。
なのに、うちらの魔力は、人柱になんてなれないほど、弱いままだったの。
天津神は、『こんなのいらない』とばかりに、うちらのことを放り出した。
厄介者を押しつけられた神殿と皇族は、困って、うちらを処分しようとした。
これに反対してくれたのが、薄荷様の義父様である儚内薄命先生なの。
薄命先生は、薄荷様にかかわることで、皇族の弱みを握っていた。
それを盾に、うちら五百人を救ってくれたの。
かくして、全寮制の『白鼯小學校』が建てられ、うちらはそこに収容された。
でも、そこで、一件落着とはならなかった。
うちらという粗大ゴミをリサイクルする、新たな計画が持ち上がったの。
その首謀者が、皇國軍参謀の闇烏暗部と、生命科學研究塔――生科研――だった。
その計画に邪魔だと判断された薄命先生は、皇国軍を追放され、暗殺された。
一応言っとくと、生科研は、人間兵器計画により、自分たちが、うちらを産み出したって、喧伝してるけど、これはウソ。
五百人もの幼女を神隠しにして、『あの世界』から拉致してきた天津神の暴挙を隠蔽するための、でっちあげ。
うちらは、生科研による『カードパーシヴァーさいこ』計画に投入された。
パーシヴァーと呼ばれるカードゲームで、うちらを互いに殺し合わせて、絞り出した力を集め、生き残った者の能力を高めて、兵器化する計画だったの。
でもこの非道な計画ですら、所定の効果をあげられず、うちらはまたしても見捨てられた。
うちらは、パーシヴァーカードゲームでの殺し合いの末に、自然消滅する運命だった。
そんな絶望のなか、うちらの仲間のひとりが、僅かな光明を見いだした。
極光智子って子が、己の命を削って、限界を超える予知を繰り返し、本当は起こり得ないほどの、ごく僅かな可能性しかなかった未来を、手繰り寄せたの。
智子は断言したわ。
「あたしたちの未来は、儚内薄荷様の元にしかないわ」って――
「それを成さねば、あたしたちは、無価値なゴミとして消えていく。逆に、それを成したとしても、あたしたちのうちで、未来を得る者は一握り。それでも、それを成す過程で死んでいくのであれば、その者の生は、決して無駄ではなかったことになる」
うちらは、全員、迷うことなく、薄荷様とともにある未来を選んだわ。
ほんとうなら、この段階で、薄荷様の元に駆けつけ、その足下に跪きたかった。
「それは、許されないことなの」って、智子は言ったわ。
「薄荷様と、あたしたちは、因果律が、絡まり過ぎているの。どちらが欠けても、双方が消失してしまう。そして、間違って接触してしまったら、雁字搦めに絡まり合って、『この世界』と『あの世界』の両方に、甚大な被害を及ぼしかねない。あたしたちにできるのは、薄荷様を、蔭ながらお護りすることだけなの」
『あの世界』から『この世界』に連れて来られた当初の、『カードパーシヴァーさいこ』メンバーは、五百人。
そして、智子の見いだした未来に賭けようと全員が決断し、カードを巡って互いに殺し合うの止めた時点で、生き残りは五十人になっていた。
それから、『この世界』で殺される運命にある薄荷様を救うため、手を尽してきたわ。
色んなことをやったわ。
薄荷様に覚えがありそうなところを、いくつか挙げてみるね。
『聖女親衛隊』に拉致されて、汚れたパンツでグルグル巻きにされて、窒息死されられるはずだった薄荷様の救出に協力した。
あれが、最初の一歩だった。
ジャングル風呂地帯では、地底人たちに殺されるはずだった薄荷様を救うために、『科學戦隊レオタン』メンバーを集結させた。
前期末舞踏会で、三皇子を取り巻く勢力のいずれにも惨殺されることがないよう、薄荷様を『逆ハーレムルート』に導きもした。
武闘体育祭では、開始直後に殺されそうになっていた薄荷様を救うために、闘球部を焚きつけた。
こういったことを行う過程で、貴重なパーシヴァーカードが消耗され、いま生き残っているメンバーは、二十数人だけとなった。
智子も、死んじゃった。
うちら、どうしても、このタイミングで薄荷様に知っておいて欲しいことがあって、最初で最後の接触をしようと、この場を用意したの。
実はね、因果律に影響しない、この時空の隙間を創り出すためにも、丸山宰子って子が、自ら進んで命を差し出してるの。
うんう、薄荷様が、気に病む必要なんてないの。
ぜんぶ、うちらが、自分たちのために、勝手にやってることだから。
ただ、うちの話しに、耳を傾けて欲しいの。
☆
でね、ここからが、肝心な話しなの。
最初に自己紹介したけど、うちの名前は、漣伝子。
六歳のときに、『神隠し』によって、『あの世界』から『この世界』に連れて来られたの。
『神隠し』ってね、一言でいうと、『誘拐』みたいなものよ。
本人の承諾もないまま連れてきた事実を隠蔽し、『転生』を装うために、記憶を操作され、名前まで変えられた。
『あの世界』でのうちの名前は、漣稲妻っていう名前らしいんだけど、まるで記憶はないの。
知り合いの草薙くんが教えてくれた話しでは、稲妻の名は、『あの世界』の龍神の妻となる者に与えられる名前なんだって。
だから、ホントは、供物として龍神様に喰われるはずの子だったみたい。
知ってる?
龍神様って、子供のハラワタが好物なんだって――。
あっ、『あの世界』での、薄荷様のお名前について話そうとしたのに、話しが逸れちゃった。
転生者である薄荷様の、『あの世界』での名前は、漣水面ちゃん。
もう、気がついてるかもしれないけど、うちと血縁があるわ。
でもね、時代が、ぜんぜん違うの。
うちは、水面ちゃんの、二千年前の祖先なの。
そして、『カードパーシヴァーさいこ』の残るメンバー四百九十九人は、みんな、『あの世界』の、いずれかの時代において、漣家と血縁のある子たちなの。
天津神は、最初は、うちら五百人の幼女を神隠しにすることで、うちの二千年後に、水面ちゃんが生まれることを、阻止したかったみたいなの。
でも、天津神の力を持ってしても、強い物語力を持つ水面ちゃんが生まれ出ることは、阻止できなかった。
ただ、辛うじて、水面ちゃんを欠陥品にすることはできた。
生まれ出た水面ちゃんは、自意識の薄弱な子になってしまった。
注目して欲しいのは、天津神の妨害があり、欠陥品となりながら、それでも、水面ちゃんが生まれ出ることができたって、こと。
それはね、『この世界』の薄荷様が、これからの戦いに勝ち残り、うちと、生き残っているパーシヴァーメンバーを、『あの世界』へ戻してくれるはずだからなの。
そして、戻ったうちらが、漣家を存続させていくからなの。
これは確定した未来ではないわ。
薄荷様が負ければ、薄荷様もうちらも、二つの世界から消えて、どこにも居なかったことになってしまう。
うちは、これから、薄荷様が、水面ちゃんのために為すべきことを伝えるわ。
何度も言うけど、こんなことできるのは、これっきりだからね。
心して聞いて。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■一〇月一二日 逮捕しちゃうぞ
『写真部裏展示室』の所在が判明!
それも、ホント、意外なところから、判明に至った。
ボクたち、『服飾に呪われた魔法少女』は、現場に乗り込んだ。




