第三十六章 オリジナル
――優海が青銅鏡のガイダンスを読んで首を捻る。
「美姫ちゃん、これって、変よね……」
「変って? 優海さん、何が変なの?」
美姫は優海の顔をチラッと見て、ガラスケースを覗き込んだ。
《特別展示品》
《青銅鏡》
《通称:太古の鏡》
《制作時期:縄文時代草創期(一万一千年~一万二千年前)》
《発掘場所:上越沖海底》
「一万二千年前に青銅鏡があるわけないじゃん。日本で青銅鏡が発見されたのは弥生時代だから、いくら古くても紀元前三世紀位じゃないの?」
「つまり、二千三百年位前ってことですか?」
「そうそう、中国の青銅鏡ならもっと古いかもしれないけれど、これは幾ら何でも古過ぎよ、だから、このガイダンスは、きっとミスプリントね」
「ですよね、一万二千年前に、こんな精巧な物があるなんて考えられないわ」
美姫が青銅鏡から目を離して隣のガラスケースを覗き込む。
《特別展示品》
《銅鐸》
《通称:太古の釣鐘》
《制作時期:縄文時代草創期(約一万一千年~一万二千年前)》
《発掘場所:上越沖海底》
「あれっ、これも制作時期が一万二千年前って書いてあるわ、優海さん、やっぱり、このガイダンスはミスプリントみたいよ」
「でしょう」
美姫が右手を小さく振って手招きをすると、優海も青銅鏡から目を離して隣のガラスケースに移動した。
「いや、そのガイダンスはミスプリントじゃない」
「えっ!?」
二人が振り向いて龍星の顔を見る。
「これは、XXXX年に上越沖の海底で発見された実物のレプリカなんだよ」
「それ冗談でしょう?」
「本当だよ。これを海底から掘り出したのは自衛隊なんだ。ただし、それは機密事項のはずだったんだが……誰がこれを公開したんだろうな」
龍星は優海に返答すると、振り返って奉生の顔を眺めた。
「それは僕にも分からないな、自衛隊の事は君の方が詳しいんじゃない? それに過去の事を調べたいのなら優海ちゃんの方が適任だね」
奉生はガラスケースの上に肘をつくと、肩を竦めて両手を広げた。
「そりゃそうだな。と、言うことで、優海ちゃん、調べてよ」
「えっ? 何の事?」
「この骨董品を展示した人物が誰なのか調べて欲しいんだ」
「なぜ展示者を調べて欲しいの?」
優海は展示者を調べる理由が分からないので、龍星の顔を見て首を捻った。
「展示者はオリジナルの在処を知っている可能性があるからだよ」
横から奉生が優海に声を掛ける。
「オリジナル?」
「そのレプリカにはオリジナルがあるんだ。オリジナルはエイリアン達が直接作ったものなんだよ」
「えっ、それって、マジなの!?」
「大マジだね。オリジナルにはエイリアン達の記憶が眠っているんだ」
奉生は銅鐸の展示ケースに移動すると、美姫の横に並んでガラスケースを眺めた。
「小雪ちゃんも、ここにおいでよ、面白い話をしてあげるから」
奉生が小雪を手招きして呼ぶ。
「えっ、奉ちゃん、何、何、何の話?」
小雪は古代遺産の品々に興味津々の様だ。
「美姫ちゃん、銅鐸って何の為に作られたか知っているかい」
「奉生さん、銅鐸は釣鐘でしょう。音を出すものよね、だから楽器とかじゃないの? 教科書には『宗教的な儀式』に使用されたと書いてあった様な気もするけど……」
「いや、全く違うね。……と言うのは言い過ぎかな」
「じゃあ、何の為に作られたの?」
「銅鐸は時計なんだ、そして青銅鏡は天体観測装置なんだよ」
「えっ、そうなの! 奉ちゃん!」
小雪が奉生の腕に手を回して彼の顔を覗き込む。
「そうだよ、考古学者達は銅鐸と青銅鏡の解釈を誤っているんだ」
「うわっ、それってエキサイティングな見解よね。面白いじゃん!」
小雪は奉生の右腕をギュッと掴んで胸を押し付けると、右手で奉生の肩をバシバシと叩いた。
「痛っ!」
(この娘サドかな……胸は気持ちいいんだけれど)
「奉生君、銅鐸と青銅鏡ってどうやって使うの?」
優海が奉生に銅鐸と青銅鏡の使用方法を尋ねる。
「それはね……銅鐸から説明しようか」
奉生が上着のポケットからペンと手帳を取り出して、銅鐸の使用方法を説明する。
「まず初めに、銅鐸を水平にして地面の上に置く。次に、この部分を東西南北に合わせる。そして、この上部にある穴に銅矛をセットするんだ。そうするとね、鈕と呼ばれる部分に銅矛の影が映るんだよ。鈕には細かい目盛が刻んであって、この影の位置は、年、日、月、時の四柱を正確に示すんだ。一年は三六五・二四二日だから、閏年で暦の調整をしないと誤差が出て暦がズレるんだけれど、この銅鐸は目盛の読み位置を変える事で四年に一度の閏年調整まで出来る仕組みになっているのさ」
「えっ! それは凄いわ!」
優海は奉生の説明に感動すると、両手を上げて天を仰いだ。
「で、青銅鏡はどうやって使うの」
「青銅鏡は、まだ研究中なんだけれど、僕の理論はこうだ」
奉生が青銅鏡の展示ケースに移動すると、みんなも奉生の後に続いて移動した。
奉生は手帳のページを捲ると、青銅鏡の使用方法の説明を始めた。




