第三十五章 太古の記憶
――市民美術展覧会第一会場。
展覧会は各会場ごとに展示ジャンルがあって、洋画と日本画は第一会場、彫刻は第二会場、第三会場は陶芸の展示会場になっている。第一会場は一番大きな会場で、会場の中には大きなパーティーションが幾つも設置されていて、壁には地域の日曜画家や地元出身の専業画家による創作品が展示してある。
四人が壁に展示された作品を見ながらゆっくりと会場の中を歩く。
(繊細な筆使い、見事な質感、それに絶妙な彩色と配色……この作品は素晴らしいわ……)
「これ、誰の作品かしら?」
優海は日本画のコーナーで足を止めると、少し後ろに下がって作品を眺めた。
「ああ、それは大林古径だよ」
「えっ、本当?」
「ああ、本当さ、その作品は大林古径記念美術館から特別に借りて展示してあるんだ」
「大林古径って日本画の大家でしょう?」
「そうだね、大林古径は新潟出身の日本画家で、生まれ故郷は上越なんだよ」
「そうだったんだ、私、知らなかったわ」
「大林古径の作品に目をつけるなんて、優海ちゃんは、絵心があるね」
「ええ、ちょっとね」
優海が作品のタイトルに《髪》と書かれた日本画をもう一度眺める。
「ところで、龍ちゃん、占い師の奉ちゃんは、何処かな、何処かな?」
小雪は龍星の背中にもたれ掛かると、彼の肩に顎を乗せて背中をポンポンと軽く叩いた。
――市民美術展覧会第三会場。
奉生は会場の片隅に設置されたガラスケースの前に立つと、屈みこんでケースの中を覗き込んだ。
《特別展示品》
《縄文土偶》
《通称:上越ビーナス》
《制作時期:縄文時代草創期(一万一千年~一万二千年前)》
《発掘場所:上越沖海底》
ガラスケースの下には、展示品のガイダンスが表示されている。
(これは本物じゃない、でも、よく出来ているな……)
奉生はガラスケースの中に展示された縄文土偶を眺めると、姿勢を低く保ったままの格好で、ガラスケースの後ろに回って、縄文土偶の背中を見つめた。
「広い肩、くびれた腰、異様に大きい尻、短すぎる足、背中にある直線はジッパーってところか……これは完全に強化服だな。それに、このホックの様な金具のデザインは紛れも無くソロモンの印章だ。この印章は彼女が高貴な存在であることを示している」
奉生は縄文土偶の背面を見つめて小さな声で呟くと、人差し指でガラスケースをコンコンと軽く叩いた。
――しばらくして、みんなが第三会場に入って来た。
「あっ、奉ちゃん発見! さすが美姫ちゃん!」
小雪は奉生の姿を見つけると、左手で彼を指差して、右手で美姫の背中をバシバシと叩いた。
「痛っ!」
(この人サドかしら……)
美姫が思わず肩をそらして小雪から少し離れる。
「奉ちゃん、お・は・よ!」
「んっ?」
奉生が顔を上げると、ガラスケースの前に小雪が立っていた。
「ああ、小雪ちゃん、おはよう」
「これ、何?」
「縄文土偶さ」
「へっ、縄文土偶? これ、宇宙人じゃないの?」
小雪がガラスケースを覗き込んで、不思議そうに縄文土偶を眺める。
「奉生君、私達に見せたい物があるって、これのことだったのね」
「そうなんだよ、ただし、これはレプリカだけどね」
「レプリカ?」
「そう、これは三次元加工装置を使用して模造された精巧なレプリカだ」
奉生は優海にそう答えると、腰を上げて姿勢を正した。
「そっちにも、色々と展示してあるよ」
みんなが振り向いて別のガラスケースに視線を向ける。
土器。土偶。銅鐸。青銅鏡。
別のガラスケースの中にも、上越の海底遺跡から発見された古代遺産が色々と展示してある。
「うわっ! 凄っ! 何これ、UFOじゃないの?」
「小雪ちゃん、大正解、それはUFOだよ」
「ええっ!?」
小雪は胸の前で小さく両手を上げると、ゆっくりと振り返って奉生の顔を見上げた。
「ここに置いてある古代遺産は、上越の海底遺跡から発見された遺産で、みんなエイリアン達の遺品なんだ。ただし、これは全部レプリカだけどね」
「エイリアンの遺品? それマジですか……」
「マジマジ、この遺品には太古の記憶が眠っているんだよ」
小雪がガラスケースの前で固まると、奉生は彼女の瞳を見つめて微笑んだ。
しばらく更新していませんが、気まぐれですので、ご心配なく。(*^_^*)




