第三十三章 人間細胞結合有機半導体
「瀬川主任、……瀬川主任!」
島崎が瀬川の目の前で右手を振る。
「えっ?」
「何を考えているんですか?」
「いや、ちょっと、真藤先輩の娘さんの事を思い出してね」
「瀬川主任は、彼女のことを知っているんですか?」
「ああ、知っているよ。俺は真藤先輩の家によく遊びに行ったからね」
「あっ、分かった。真藤さんのお嬢さんは美人なんでしょう?」
「そうだな、美姫ちゃんは美人だったな……って、こら、島崎、俺はロリコンじゃないぞ」
「うふふ、本当に?」
(ちょっと妬けるわね、その娘)
島崎が流し目で瀬川の顔を見る。
「何だよ、その顔、気持ち悪いな」
「気にしない、気にしない」
島崎は瀬川の肩をポンポンと叩いて微笑んだ。
瀬川が開発企画書のページを更に捲って、検討事項の内容を確認する。
《一・統合防衛システムの開発について》
《衛星・航空機・特車・艦艇・水中武器等の幅広い防衛システムを統括するメインフレームコンピューターの開発とネットワーク技術を駆使した統合運用システムの検討を行う。――etc――》
《二・瞬時攻撃システムの開発について》
《敵の先制攻撃を予測する為に、新型Xバンドレーダーを開発し、衛星・航空機・特車・艦艇・水中武器等に装備する。――etc――》
《三・システム搭載兵器の詳細について》
《a・衛星 b・大気衛星 c・偵察機 d・戦闘機 e・艦艇 f・潜水艦 g・戦車 h・特殊装甲車両 i・機動歩兵 ――etc――》
《特記事項》
《先守防衛システムに関わる無人兵器には、全て人間細胞結合有機半導体(HCBOS)が搭載される》
※HCBOSは、Human cellular binding Organic semiconductorの略。
「人間細胞結合有機半導体……まさか、あれを兵器に利用しようとしているのか」
瀬川は《特記事項》の項目に着目すると、眉間にしわを寄せて目を細めた。
「瀬川主任、どうしたんですか?」
「島崎、これだよ、たぶんこれが、ホロスコープと関係があるんだ」
「人間細胞結合有機半導体? 何ですか、それ?」
「これは、人間の細胞と有機半導体を結合したLSIなんだよ」
※LSIは、Large scale integrated circuitの略。大規模集積回路。
「えっ、それ、マジですか!? そんなの有りですか!!」
「ああ、有りだ」
瀬川が真顔で島崎に答える。
「元々、この半導体は医療用で、神経と電子回路を繋ぐインターフェイスとして日本で独自開発されたものなんだよ」
「医療用?」
「そう、義体を制御する為に考案されたんだ」
「義体ですって?」
「事故や病気で体の一部を失った人達に義体を装着して、この人間細胞結合有機半導体で義体を制御するんだよ」
「瀬川主任、それって本当に可能なんですか?」
「可能だよ、俺はその半導体の開発に携わっていたからね」
「ええっ!!」
島崎が瀬川の話を聞いて目を丸くする。
「それって、あの、あれですか、アニメのなんとか機動隊に出てくる擬体の事ですか?」
「まあ、そんなもんだな」
瀬川は島崎に返答すると、右手の人差し指で開発企画書をなぞり始めた。
「スターゲイザープロジェクト……あれは冗談じゃなかったんだ……」
「んんっ?」
瀬川が独り事を言うと、島崎は瀬川の顔を覗き込んだ。
(関連事項はC8ハイフンAAA823ハイフン1996N……)
「あった、これだ。島崎、管理番号が『C8ハイフンAAA823ハイフン1996N』と表示された資料フォルダーを探してくれ」
「はい、了解です」
二人がデスクから立ち上がって、別の資料ホルダーを探す。
――しばらくして、その資料ホルダーは見つかった。
二人がデスクの椅子に座り直して、また資料の閲覧を始める。
「瀬川主任、この資料に何が書いてあるんですか?」
「スターゲイザープロジェクトの詳細だ。この資料にホロスコープの謎が隠れているんだよ」
「スターゲイザープロジェクト? 何ですか、それ?」
「エリス・フェラーが予言した近未来防衛システムのことさ」
「エリス・フェラー?」
島崎が首を傾げて、瀬川の顔をまた覗き込む。
「エリス・フェラーは、知る人ぞ知る二十世紀の偉大な超能力者なんだ。その能力はアメリカでもっとも称賛されている“眠れる預言者”エドガー・ケイシーを遥かに凌ぐとさえ言われているんだよ」
「超、超能力者?」
「本人曰く、私は『火星人の末裔』だとか」
「はっ?」
瀬川が資料ホルダーのページを捲りながらそう言うと、島崎はポカンと口を開いて固まった。




