第三十一章 資料コード8823
――翌日。
立川重工業専属の施工業者が資料倉庫の倒れた棚を立て直して、床に地震対策用のL字アンカーを次々と打ち込んだ。そして、資料棚は綺麗に整頓されて元の状態に戻った。ただし、床に散乱して山積みになっている資料ホルダーはそのままの状態だ。施工業者は床に散乱している資料が機密資料であることを知っているので、資料ホルダーにはいっさい手を触れなかった。
「瀬川さん、こんなもんでいいんですかね?」
施工業者の班長は作業が終わると瀬川に声を掛けた。
「ええ、それで、じゅうぶんですよ」
「そうですか、じゃあ、これで作業を終了しますので、工事票にサインをお願いします」
瀬川は班長から工事票を受け取ると、腕時計で時間を確認して、承認印の欄にサインを記入した。
「それじゃあ失礼します」
「お疲れ様でした」
瀬川が技術事務所で班長に礼を言うと、作業員達は礼儀正しく瀬川に頭を下げてから、キーボックスにセキュリティカードをかざして技術事務所から出て行った。
瀬川は施工業者を見送ると、技術事務所で島崎に修繕工事の請求書を渡した。
「島崎、これ、『勘定項目一一四〇』で経費処理してくれ」
「はい、分かりました。施設修繕費ですね」
「ああ、そうだ」
瀬川は島崎に返事をすると、自分のデスクに座ってPCのキーボードを叩いた。
スクリーンロックが解除されてPCのモニターにデスクトップ画面が表示されると、瀬川はGDMSと書かれたアイコンをクリックしてファイルサーバー統合管理システムを立ち上げた。
※GDMS(Green document Management system) ファイルサーバーの肥大化を防止する為にファイルをアーカイブ(圧縮)フォルダに移動して、本当に必要なファイルだけを管理するシステム。
(C6ハイフンAAA001ハイフン1996N)
瀬川がファイル名を入力すると、PCのモニター画面に検索候補のファイルリストが表示された。
《ファイル管理情報:NTFS1024¥1996¥AAA¥C6―AAA001―1996N・PDF》
瀬川は続けてファイル管理情報の右横に添付されたPDFファイルをクリックした。すると、PDFファイルが開いてファイル情報が表示された。
※PDFファイルは、Portable document formatの略。Adobe Systems社によって開発された電子文書フォーマット。コンピューターの機種や環境によらず、オリジナルの文章イメージを正確に再生することが出来る。
《立川重工業ファイル管理システム》
《ファイル情報》
《管理ナンバー:C6―AAA001―1996N》
《情報ランク:AAA》
《開示情報:Confidential》※厳秘、機密。
《開示期間:Permanently non―disclosure》※永久非開示。
《資料コード:8823》
《関連資料:C1―C127》
《作成日:1996―11―21》
《作成者:真藤裕一》
(こりゃ驚いたな、これは真藤先輩の作成ファイルだ。資料コードはハヤブサか……これは極秘ファイルを意味する暗号コードだ)
瀬川がネットワークサーバーにアクセスすると、PCのモニターにアクセスコードの入力画面が表示された。瀬川はアクセスコードを入力してネットワークドライブの資料ホルダーを開いた。
《NTFS1024¥1996¥AAA》
(あった、これだ、C1からC127のファイルだ)
瀬川は画面に表示されたファイルリストの中から『C1―AAA001―1996N・PDF』のファイルを選択してクリックした。すると、画面中央にパスワードの入力画面が開いた。
(やっぱり無理か……このファイルは開示パスワードで保護されているから閲覧は出来ないな)
瀬川はデスクで腕を組むと、左手の爪を噛みながらモニターを見つめた。
「瀬川主任、悪いクセですよ」
「えっ?」
瀬川が振り返ると、島崎が両手を後ろに組んで立っていた。
「これ、例のファイルですか?」
島崎が瀬川に顔を近づけて、モニターを覗き込む。
「そうなんだよ、ちょっと気になってね」
「あっ、これ、資料コード『8823』じゃないですか、極秘ファイルですね」
「島崎、よく知ってるな」
「当然ですよ。私は瀬川主任の一番弟子ですからね」
島崎は瀬川にそう答えると、振り向いてニコッと笑った。
「君には勝てないな」
瀬川が島崎の顔を見つめて頭を掻く。
「で、倉庫の資料、もう一度、調べてみますか?」
島崎は興味津々な顔つきで瀬川に尋ねた。
「島崎、我々の業務は技術資料の管理であって、閲覧じゃないからね。そこのところはしっかりと肝に命じておいてくれよ」
「はい、了解です」
島崎は右手を額に当てて敬礼をすると、キリッとした表情で瀬川に答えた。
――資料倉庫。
二人は昨日と同様に、倉庫の床に散乱して山積みになっている資料ホルダーを、一冊づつ手にとって整理し始めた。
「島崎、管理番号が『C1ハイフンAAA001ハイフン1996N』と表示された資料フォルダーを探してくれ。昨日は棚が倒れていたから確認出来なかったんだが、このエリアの近傍にあるはずなんだ」
「はい、了解です」
島崎は資料ホルダーを床の上に並べて、管理ナンバーを確認しながら前に進んだ。
《C1―AAA010―1996N》
「Cの1、AAA010……」
(近傍番号だわ)
《C1―AAA005―1996N》
「Cの1、AAA005……」
(近いわね、この辺りかしら)
《C1―AAA001―1996N》
(Cの1、AAA001……あった! これだ! この資料ホルダーだわ!)
「瀬川主任! ありました! 『C1ハイフンAAA001ハイフン1996N』です!」
「あったか!」
瀬川は床に散乱している資料ホルダーを跨ぎながら島崎に近づいて、彼女から資料ホルダーを受け取った。
「島崎、デスクで資料を確認しよう」
「はい、瀬川主任」
二人は資料倉庫の作業デスクに移動すると、デスクの上で管理番号『C1―AAA001―1996N』の資料ホルダーを開いた。
資料コード8823(ハヤブサ)この資料はもちろん先守防衛システムの技術開発資料です。先守防衛システムの開発コードネームは『スターゲイザー』にしようと思っています。( ^^)/それではまたぁ!




