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第三十章 研究所

 ――微振動。

 震える倉庫の資料棚。

 左右に小さく揺れる吊り下げ式の照明器具。

 デスクから落下して床の上を転がるボールペン。

「余震だ」

 瀬川孝博はPCのモニターから目を離して、資料倉庫の天井を見上げた。

(まずい、これは、でかいぞ!)

 次の行動を考える間もなく、本震の衝撃はグワッと地響きを立てて直ぐにやって来た。

 瀬川が慌ててデスクの下に潜り込むと、強力な縦揺れの後に大きな横揺れが長い間続いた。


 ――しばらくして、瀬川はデスクの下から這い出すと、立ち上がって辺りを見回した。

「なんだこりゃ。マジかよ、明日、棚に地震対策用のアンカーを打ち込む予定だったのに……」

 瀬川が頭を抱えて倉庫の資料棚を眺める。

 倉庫の中にずらりと並んだ資料棚は大半が将棋倒しになっていて、棚から落下した無数の資料ホルダーが床に散乱して山積みになっている。

「瀬川主任! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ、島崎、何とか生きてるよ」

 部下の島崎智美が隣の技術事務所から倉庫のドアを開いて瀬川に尋ねると、瀬川は右手を上げて彼女に答えた。

「倉庫を移設したばかりなのに、随分とひどくやられましたね」

「ああ、この状態じゃあ、資料を片付けるのに、また三日程かかるな」

 島崎が瀬川の横に立って倒れた資料棚を一緒に眺めると、瀬川は作業ズボンのポケットから滑り止め付きの手袋を取り出した。


 立川重工業株式会社

 宇宙・防衛ドメイン

 防衛事業戦略推進グループ

 防衛システム研究所

 統合防衛システム技術開発チーム

 技術管理ユニット

 ユニットリーダー

 瀬川孝博


 これが、瀬川の肩書だ。

 瀬川孝博、三十五歳。彼は技術管理ユニットのリーダーである。

 島崎智美、二十四歳。彼女は瀬川の部下で入社二年目の大卒技術社員である。

 二人の仕事は技術管理で、防衛システムの開発企画資料や技術書類の管理が主な業務だ。


 電子ファイルは情報システム部の管理下にあるコンピューター室の技術サーバーに保管されていて、紙ファイルは防衛システム研究所の敷地内にある資料倉庫で厳重に保管されている。


「瀬川主任、私も手伝います」

「ああ、いいよ、いいよ、島崎、明日、棚に地震対策用のアンカーを打ち込んでもらうんだ。だから片付けはその後でいいんだよ」

 島崎が瀬川に声を掛けてユニフォームの袖を捲り上げると、瀬川は胸の前で小さく手を振って彼女に答えた。

「いえ、手伝います。私、今日は暇ですから」

「そうかい、じゃあ手伝ってもらおうか。でも、地震が続けて来るかも知れないから気を付けてな」

「はい、了解です」

(若いな……この娘はやる気満々だ)

 島崎が掃除用のロッカーを開けて軍手を取り出すと、瀬川は彼女の背中を見つめて微笑んだ。


 二人が倉庫の床に散乱して山積みになっている資料ホルダーの整理を始める。

《C5―A215―1996D》

「Cの5、Aの215、1996D」

 二人は資料ホルダーのナンバーと棚のナンバーを確認しながら、資料ホルダーを一冊づつ丁寧に元の位置に戻した。

《C6―AAA001―1996N》

「Cの6、AAA……」

(まずい、この資料ホルダーは壊れているわ)

「わちゃ、あっ、やっちゃった」

 島崎が資料ホルダーを持ち上げようとした時、ホルダーの中身がバサバサと抜け落ちて紙のファイルが床に散らばった。

「あーあー、こりゃ大変だな」

 瀬川が振り返って、島崎と一緒に紙のファイルを拾い集める。

「島崎、そこのデスクに新しい資料フォルダーがあるから、それに資料を入れ替えてくれ」

「はい」

「全てのファイルにページ番号が打ってあるから、番号を間違わない様に頼むよ。この資料は無期限開示禁止の機密資料だから抜けは絶対に許されないからね」

「分かりました」

 島崎はファイルを拾い集めると、倉庫のデスクに座って、新しい資料フォルダーにファイルを入れ替え始めた。

 瀬川はファイルの拾い忘れが無いか、周辺を慎重に見回した。

(あっ、棚の下にファイルが一枚落ちているな)

 瀬川が棚の下からファイルを拾い上げてページ番号を確認する。

「島崎、これ、ファイルの拾い忘れ。五十五ページだ」

「あっ、済みません、瀬川主任」

 島崎はデスクから立ち上がって、瀬川から拾い忘れのファイルを受け取った。

「何ですかこれ?」

「えっ」

 島崎がファイルを裏返して五十六ページを瀬川に見せると、瀬川はファイルの五十六ページを見て首を捻った。

「これ、西洋占星術のホロスコープですよね」

「みたいだな」

「防衛システム開発の機密資料にホロスコープの記載なんておかしくないですか?」

「それはそうだが……でも、このファイルはその資料の一部だと思うよ。関係の無いファイルなら、その資料の五十五ページに別のファイルがあるはずだからね」

「そうですね、ページを確認してみます」

 島崎は落下したファイルをデスクの上で一旦束ねて、五十五ページの近傍番号を探した。

(四十七、四十九、五十一、五十三、五十七、五十九、やっぱり、五十五ページが無いわ)

「瀬川主任、この資料には五十五ページがありません」

「そうだろう、だから、このファイルはその資料の一部なんだよ」

「六十、六十二、六十四、えっ、百二十八、二百八十四、三百六十六、何これ?」

「どうした?」

「この資料の偶数ページには、全てホロスコープが記載されています」

「何だって?」

 瀬川は島崎に顔を近づけて横から資料を覗き込んだ。

( ^^)/イエーイ 千葉文琴の超ショートショート

千葉文琴君「執筆の神様ぁ~」

執筆の神様「何じゃ?」

千葉文琴君「伏線を下さい」

執筆の神様「あかん、やらへん!」

千葉文琴君「なんでや、ケチ!」

執筆の神様「お前に伏線は必要ない」

千葉文琴君「なんでやねん」

執筆の神様「あらすじも無いのに伏線が必要なわけないやろ」

千葉文琴君「ごもっともです」(^_^;)

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