第二十九章 クリアボヤンス
美姫が心のカーテンを全開にして、二人の意識にコンタクトする。
(何をする気なの?)(もしかして)(もしかして)(見えるのかしら……)(霊媒師)(霊媒師だ)(そうだ、霊媒師だ)(この女が見つけてくれる)(真珠のピアス)(真珠のピアス)(私の真珠のピアス)
小雪の心を覗いてみると、彼女は驚いたことに優海の能力を近似的に理解していた。
(龍星さん、聞こえる?)
美姫が龍星にテレパシーを送る。
「えっ?」
龍星は突然の出来事に驚いて周りをキョロキョロと見回した。
(龍星君、これは、美姫ちゃんのテレパシーだよ)
「えっ、マジかよ、なぜ、奉生君の声まで聞こえるんだい?」
(しっ、龍星君、声は出さないでくれ)
(龍星さん、これから、優海さんと小雪さんの精神情報を転送するわよ)
(了解! 驚いたな、これが美姫ちゃんのテレパシー能力なのか……)
(龍星君、美姫ちゃんはテレパシストだから、精神情報の転送と拡散が出来るんだよ)
(そりゃ凄い、まるでツイッターだね)
龍星が唇を尖らせて小さく口笛を鳴らすと、小雪がキョロリと目を動かして龍星に視線を向けた。
――突然、美姫の頭の中に映像が浮かんだ。
派手なドレスを着ている若いホステスの女達。
和服姿の小綺麗な壮年の女。
筋肉質な壮年の男。
テーブルに並べられたビールジョッキと海鮮料理。
フロアー席で大げさに腰を振る壮年の男。
楽しそうに男の肩をバシバシと叩くホステスの女。
両手を叩いてゲラゲラと笑うホステスの女達。
ホステスの肩に手を回して、冗談で首を締める壮年の男。
笑いながら壮年の男から逃れるホステスの女。
フロアーに落下する金色の真珠のピアス。
壊れたジュエリーパーツ。
勢いよく床を転がる金色の真珠。
床を転がる金色の真珠。
金色の真珠。
優海の回想映像はフラッシュバックを繰り返しながら、美姫を介して、奉生と龍星の頭の中に次々と転送された。
(これが優海ちゃんの回想能力なのか……なんてリアルな映像なんだろう……まるで映画を見ている様だ)
龍星が初めて見る回想映像のリアルさに感動する。
優海はしばらくすると、ふぅっと小さく息を吐いて目を閉じた。すると、フラッシュバックを繰り返していた回想映像はフェードアウトしてゆっくりと消えた。
「分かった。ピアスのジュエリーパーツはフロアー席の足元にあるわ。金色の真珠はジュエリーパーツから外れてあっちの方向に転がったみたい」
優海はパチリと目を見開いて、金色の真珠が転がっていった方向を指差した。そして、フロアー席の足元から壊れたジュエリーパーツを拾い上げた。
「はい、小雪さん、まずはジュエリーパーツ」
優海がジュエリーパーツを小雪に渡すと、小雪はジュエリーパーツを見つめて「ありがとう、霊媒師さん」と優海に礼を言った。
「霊媒師?」
「あなた、霊媒師でしょう?」
「あはは、まあ、そんなところね」
小雪がジュエリーパーツから目を離して優海の顔を見ると、優海はゲラゲラと笑って小雪の顔を眺めた。
(この方向に転がったのなら、真珠の在り処は……)
龍星はフロアーに屈み込むと、優海が指差した方向に向いて、金色の真珠の軌跡を追いかけた。
「ジュークボックスの下だな」
龍星がジュークボックスを指差すと、みんなはジュークボックスの方に振り向いた。
ジュークボックスはフロアー席から十メートル程離れた場所に置いてある。
(ジュークボックスの下にある)(私の真珠)(私の真珠)(私の真珠)
小雪はフロアー席からジュークボックスを眺めた。
――突然、美姫の頭の中に映像が浮かんだ。
アナログレコード式の赤いジュークボックス。
レコード盤のオートチェンジャー。
移動式の縦型ターンテーブル。
回転するアナログレコード。
トーンアームとMM式ダイヤモンドカートリッジ。
ベルトドライブ装置のハウジング。
ベルトを回すモーター。
真空管式のアンプ。
電気制御回路。
配電盤とブレーカー。
床を這う電気配線ケーブル。
電気配線ケーブルの横に転がっている金色の真珠。
その映像は美姫を介して奉生と龍星の頭の中に次々と転送された。
(あった! 私の真珠! アキモトのゴールデンパール!)
小雪が胸の前で小さく手を叩く。
「小雪ちゃん、見つかったかい、真珠のピアス」
「あった、あった、マスター、あの赤いジュークボックスの下よ。でも、ピアスのジュエリーパーツは壊れたみたい」
裕二が手を上げて小雪に声を掛けると、彼女はジュエリーパーツを右手に持って、それを裕二に振って見せた。
「どれ、見せてみな」
裕二がカウンター越しに手を差し出すと、小雪はフロアー席を立って、裕二にジュエリーパーツを渡した。
「ああ、これは、壊れていないよ」
「本当? このピアス、直るの?」
「大丈夫、クラスプ(留め金)が外れているだけだからね」
裕二はジュエリーパーツを掌に乗せてクラスプの部分を指差した。
「わぁ、よかった」
小雪が嬉しそうに、また胸の前で小さく手を叩く。
「さっきの映像は一体何だったんだ……」
「ジュークボックスが透けて見えたわ……」
龍星と美姫は小雪の後ろ姿を見つめて、小声でぼそっと呟いた。
「えっ、何? どうしたの?」
「クリアボヤンスだよ」
優海が二人の顔を交互に見ると、奉生はジュークボックスを眺めながら彼女に話し掛けた。
「クリアボヤンス? 奉生君、それって透視とか千里眼のこと?」
「そうだよ、さすが優海ちゃん、よく知ってるね」
「まさか? 彼女は透視能力者なの?」
「ああ、確実にね」
「へぇー、そうなんだ」
優海は腕を組んで小雪の背中を見つめた。
龍星はフロアーから立ち上がると、ジュークボックスの前で床に寝そべって、ボックスの下を覗き込んだ。
(あった! 金色の真珠だ! 電気配線ケーブルの横に転がっているぞ!)
金色の真珠は小雪の透視通り、電気配線ケーブルの横に転がっていた。
龍星は真珠に手をかざして、頭の中で真珠が転がるイメージを描いた。すると、真珠はジュークボックスの下をコロコロと転がって龍星の掌の中に入った。
「はい、小雪ちゃん、金色の真珠」
「あっ、龍星君、ありがとね」
小雪は龍星に礼を言うと、嬉しそうに真珠を握りしめてカウンター席に向かった。
「マスター、これ、直してくれる?」
「OK、まかせな」
裕二はキッチンの流しで手を洗って、小雪からゴールデンパールを受け取った。
「クラスプが少し曲がっているな」
裕二はキッチンの引き出しから割箸を取り出すと、割箸でクラスプを挟んで真っ直ぐに修正してから、ゴールデンパールにピンをはめ込んだ。
「よし、これでピアスは元通りだ」
「マスターありがとう!」
裕二がカウンターから身を乗り出して小雪にピアスを差し出すと、小雪は裕二の頬にキスをしてから、ピアスを受け取った。
「わぁ、マスター、いいな」
龍星が裕二を見て悔しがると、小雪は振り向いて龍星に抱きついた。
「龍星君も、あ・り・が・と」
小雪が色っぽく龍生の頬にキスをする。
「おっ、小雪ちゃん、今日は大サービスだね」
「マスター、小雪ちゃんは、ご機嫌よ」
小雪は龍星に抱きつきながら、ちょっとおどけて、裕二にピースサインを出して見せた。




