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第二十五章 時計台

「えっ? リズ・グリーンは死んだの?」

 優海が振り向いて奉生の横顔を見つめる。

「ああ、リズ先生は一九九九年のクリスマスイブの日に亡くなったんだ。享年二十四歳でね」

 奉生は前を向いて優海にそう答えると、アジの刺身を一口食べてジョッキのビールをグイっと飲み干した。

「そうか、だから奉生君は『二十世紀最後の偉大なる預言者』って言ったのか……」

 優海はカウンター席で小さく頷くと、奉生の横顔から視線を離して祐二の方に顔を向けた。

「で、祐二さんの未来はどうなるのかしら?」

「俺かい?」

「そう、祐二さん」

「それは、内緒だな」

「え~教えてよ」

「駄目、駄目、内緒さ」

「あっ、分かった! やっぱり映画監督でしょ!」

「えっ?」

「ははーん、やっぱりそうね」

 祐二が刺身を切る手を止めてゆっくりと顔を上げると、優海は得意げに右手の人差し指を立てて祐二の顔を覗き込んだ。

「参ったな、優海ちゃんは未来が見えるのかい?」

「未来なんて見えないわよ」

「そうか、じゃあ、過去だけだな」

「そうよ……えっ?」

(あっ、まずい!)

 優海が思わず自分の口に両手を押し当てる。

「ふふっ、冗談さ、そんなわけないよな……」

 裕二は少し微笑んで、また刺身を切り始めた。


 ――しばらくして、龍星がフロアー席からカウンター席に戻って来た。

「いやいや、お待たせ、取りあえず乾杯するか! てか、あれっ? 空?」

 龍星はカウンター席に座ると、生ビールのジョッキを持ち上げたが、二人のビールジョッキを見て肩を落とした。

「マスター、ビールお替わり!」

「私も、お替わり!」

「あいよ! 輝月君、生二丁! よろしく!」

 奉生と優海が空のジョッキを差し出すと、裕二はそれを受け取って輝月に声を掛けた。

「はーい」

 輝月がキッチンの奥で返事をする。

「この店のビールは凄く美味しいわね」

「そうだろう、この店のビールは越後ビールだからね」

「越後ビール?」

「新潟の地ビールさ、日本第一号の地ビールでモンドセレクション金賞なんだぜ」

「へぇー、そうなんだ。龍星君、よく知ってるわね」

「俺はビール通だからね」

 龍星は優海にそう答えると、お絞りで顔を拭きながら「奉生君、例の件なんだけどさ」と、奉生に話し掛けた。

「えっ」

「分かったぜ」

「マジかよ」

「マジマジ、これだよ、これ」

 龍星はカウンターにお絞りを置いて、胸のポケットから四つ折りの用紙を取り出した。

 奉生が龍星から四つ折りの用紙を受け取って両手でその用紙を広げる。

 その用紙はA4サイズのプリンター用紙だった。

 奉生が用紙を見つめて目を細めると、優海は奉生に顔を近づけてプリンター用紙を覗き込んだ。

「何なの、それ? 新聞の記事かしら? 写真が載っているわね」

「これは、XX日報社の古い新聞記事のコピーだよ」

 奉生が新聞記事に掲載された写真を見ながら優海に答える。

「XXXX年XX月XX日午後XX時前、新潟県XX市XX地区XX館から出火、木造二階建ての建物約三九〇平方メートルを全焼し、同日XX時XX分に鎮火した。XX警察署によると、この火事によるけが人はいない……出火原因は屋根裏で発生した漏電によるものと断定……この建物は明治四十年に軍関係者を客層として建築された洋風建築物で、当時の陸軍将校や皇族などの宿泊にも利用され、第二次世界大戦以降は自衛隊の管理下にあった。建物の設計者はアメリカのウィリアム・スミス……」

 奉生は記事の内容をぶつぶつと小さな声で読み上げた。

 その新聞記事には建物が焼失した現場と焼失する前の写真が比較掲載されている。

「あれっ? 私、この建物に見覚えがあるわよ、確か……建屋の上に小さな時計台があったはずだわ」

 優海は新聞の記事に掲載された写真を指差して呟いた。

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