第二十四章 先守防衛システム
「日本はロシアや近隣のアジア諸国と戦争するのかい?」
「そうね、戦争に近い紛争が発生するわ。特に近隣のアジア諸国は日本の排他的経済水域(EEZ)の圧縮を狙って、離島を実効支配したり、防空識別圏を設定して日本海と東シナ海の領有権を主張するの」
「それはまずいな……」
「それでも、日本は国防軍が陸海空の防衛能力を高めてがっちりと守るわよ」
リズが右手の親指を立てて裕二に見せる。
「えっ、国防軍だって? 自衛隊じゃないのかい?」
「自衛隊じゃないわ、国防軍よ。日本はXXXX年から集団的自衛権を行使出来る様に自衛隊を国防軍に変えるのよ」
「マジかよ」
「ええ、マジよ。日本は近隣のアジア諸国からバッシングを受けながらも、日本国憲法を改正して軍備の増強を図る事になるわ。でもそれは仕方がないことなの、日本に嫉妬している近隣のアジア諸国の無謀な策略から自国を防衛する為には憲法の改正と軍備の拡張を図るしかないのよ。それに国防情報の漏洩を防止する為の秘密情報保護法も制定されるわ」
「そうなのか、でも紛争は良くないな……それに秘密情報保護法なんて時代に逆行しているんじゃないのかな」
「Mr,YUJI」
「Yes」
「大丈夫、日本の国防軍は専守防衛の精神を貫くわ、相手が攻撃を仕掛けて来ない限り、その軍事力は行使しない。だから表向きは戦争にならないのよ」
「表向きは戦争にならない?」
裕二がリズの言葉を聞いて顔をしかめると、リズはプリンター用紙に漢字を書いて裕二に見せた。
プリンター用紙には《専守防衛》と書いてある。
「Mr,YUJI」
「Yes」
「これは、“専守防衛”よね?」
「んっ、そうだね」
「じゃあ、これは?」
リズは再度プリンター用紙に漢字を書いて裕二に見せた。
プリンター用紙には《先守防衛》と書いてある。
「リズ、その漢字は発音が同じだよ」
「そうね、でも意味は違うでしょう」
「ああ、意味は違うと思うな。専守防衛は敵の攻撃を受けてから反撃する方法だけれど、先守防衛は敵が攻撃して来る前にそれを予知して反撃する方法じゃないのかい?」
「その通り、大正解よ」
「…………?」
「XXXX年に、日本は『先守防衛システム』を極秘に開発するの。そして、その研究はもう既に始まっているわ」
「何だって? そんな事が実際に可能なのかい?」
「可能よ、二十一世紀の科学に不可能という文字は無いわ」
「まさか、幾ら何でもそれは無理だろう……」
裕二が腕を組んでうつむく。
「子供達……」
リズが小さな声で呟く。
「んっ、子供達がどうしたって?」
「今、日本のある企業が『先守防衛システム』を開発する為に、全国から六歳未満の子供達を集めているの。その子供達はホロスコープに特異なパターンを持っているわ」
「もしかして、その子供達の中に『六人の子供達』がいるのかい?」
「いるわよ。ホロスコープに特異なパターンを持っている子供達は、多かれ少なかれサイキック能力を持っているの。中でも『六人の子供達』は強力なサイキック能力を持っているのよ」
「サイキック能力だって? 彼等は超能力者なのかい?」
「そう、彼等は超能力者よ、それも世界最強のね。そして、彼等が『先守防衛システム』の鍵を握っているのよ」
「まさか」
「Mr,YUJI」
「Yes」
「未来を言葉で説明するのはこの辺が限界だわ。後はパワーストーンを使って、日本の未来とあなたの未来を教えてあげる」
リズは裕二にそう言うと、机上のパワーストーンを手元に引き寄せた。
――一九九九年十二月二十四日。
クリスマスイブの夜、チャイナタウンは聖夜を祝う大勢の人で賑わった。街角のあちらこちらにライトアップされた大きなクリスマスツリーが飾られ、色鮮やかな電装がチャイナタウンを華やかに縁っている。
リズは二階の部屋で、ベットに横たわりながら窓の外の風景をぼんやりと眺めた。
「奉生……何処にいるの?」
「僕はここにいるよ。リズの目の前にいるよ」
リズが弱々しく右手を上げると、奉生は彼女の手を優しく握った。
「ああ、良かった。間に合ったわ」
「リズ、何が間に合ったの?」
「奉生、今から私が言うことを、よく聞きなさいね」
「うん、僕、よく聞くよ」
「日本に新しい時代がやって来るわ。あなたは大きくなったら、五人の仲間を探すのよ」
「五人の仲間?」
「そう、あなたの仲間よ、みんな凄い力を持っているの。奉生……私はもう逝かなければ……」
「リズ、逝っちゃだめだ……」
奉生がリズの手をぎゅっと握りしめる。
「My duty was over」
※私の役目は終わった。
「Singaporean town is beautiful」
※シンガポールの街は綺麗ね。
「Town which I loved」
※私の愛した街。
「Good Bye……」
※さようなら……。
リズは小さな声でそう呟くと、ベットの上で静かに息を引き取った。




