第二十二章 フォッサマグナ
「この超巨大地震の影響で日本の太平洋側の岩盤はアスペリティー(固着)が弱くなって、日本は太平洋側へ大きくシフトするの」
「えっ、日本の本土が太平洋側に移動するのかい?」
「そうよ、日本の本土全体よ、その移動量は年間で約一メートル。日本の本土はもの凄く歪むわよ。内陸部の活断層が動いて直下型地震も頻発に発生するし、日本はこれから超地震大国になるの」
「リズ、それじゃあ、日本の未来は最悪の状態じゃないか、アジアナンバーワンの経済大国になるなんて不可能だよ。それに現時点で、十年後の経済大国はアメリカと中国になると予想されているんだから、どう考えてもアジアナンバーワンの経済大国は中国だと思うけどな?」
「確かに、十年後、中国は日本を追い越してアジアナンバーワンの経済大国になるわ。でもね、その先の未来は意外な事が起こるのよ」
「意外な事って?」
裕二が首を捻ってリズに尋ねる。
「奉生君、日本のフォッサマグナを検索して頂だい」
「フォッサマグナ? リズ、それ、何?」
リズが振り向いて奉生に指示を出すと、奉生はリズの顔を見上げた。
奉生は五歳なので、フォッサマグナの意味が分からない様だ。
「奉生君、検索ソフトにカタカナで『フォッサマグナ』って入力すればいいのよ」
リズは机の引き出しを開けてボールペンを取り出すと、プリンター用紙にカタカナで《フォッサマグナ》と書いて奉生に見せた。
「フォッサマグナの『ォ』と『ッ』は小さいカタカナだね」
奉生がカタカナで『フォッサマグナ』とキーボード入力して改行キーを叩くと、ノートPCの画面に『フォッサマグナ』を含む文字列の検索項目が表示された。
「このサイトがいいわ。奉生君、これを表示して頂だい」
「Yes,ma’am」
リズがノートPCの画面を指差して指示を出すと、奉生はその検索項目にカーソルを合わせてキーボードの改行キーを叩いた。
しばらくすると、ノートPCの画面にリズの選んだサイトが表示された。
そのサイトには日本周辺の海溝地図と海洋プレートの境界線が表示されている。
「Mr,YUJI」
「Yes」
「その椅子を持って私の横に来なさい」
リズがノートPCの画面を見ながら裕二に手招きをする。
「Yes」
裕二が椅子を持ってリズの右隣りに座ると、リズはノートPCの画面を指差して彼に説明を始めた。
「これが太平洋プレートで、これがフィリピン海プレートよ、そしてこれが南海トラフね」
「Yes」
裕二がリズに顔を近づけてノートPCの画面を覗き込む。
――甘い香水の香り。
(いい匂い……)
裕二はリズの金髪から漂う甘い香水の香りに一瞬気を取られた。
「それでね、これがユーラシアプレートで、これが北米プレート……んっ?」
リズが気配を感じて不意に振り向く。すると、偶然、リズと裕二の唇が重なってしまった。
「…………?」
二人が唇を重ねたまま見つめ合う。
「Sorry」
「No problem」
裕二が顔を少し後ろに反らして謝ると、リズは彼の唇に自分の唇をもう一度軽く押し当てた。
「Service」
※サービス
リズが唇をきゅっと結んで微笑む。
間近で見ると、リズはとても愛らしい顔をしている。
リズの微笑みは裕二の胸にグサリと突き刺さって、裕二は彼女に心を奪われた。
「それでね、この赤い線の部分がフォッサマグナなのよ」
リズは裕二の瞳から視線を離して振り戻ると、ノートPCの画面を指差して説明の続きを始めた。




